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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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ルーベンス神王国からの密使9


 ルーベンス王暗殺の一件も片付き、俺は日常に戻った。

 ギルド職員として、業務を行う中で、仕事を時短していた理由を同僚たちから尋ねられた。


「ルーベンス神王国に、少々」


 これを言うと、一瞬驚いたように目を丸くしたがが、


「まあ、アルガン君なら、不可能じゃないのか……」


 と、なぜか納得する人が多かった。


「ロランさん、今話題のルーベンス神王国はどうでしたか?」


 旅行に行ったとでも思っているらしいミリアが、何気なく尋ねてきた。


「どう、とは……?」

「王様がご病気で亡くなられたんですよ。現地にいたのに知らなかったんですかー? 葬儀が盛大に執り行われたーみたいなことを、冒険者さんが言っていて……」


「ああ……そのことですか」


 エルヴィの手紙によると、俺たちが去ったその日に表向きの発表をしたという。

 ミリアの言う通り、混乱を避けるため急な病死としていた。


「僕がいたころは、まだそれが発表されていなくて、王都のウイガルはとくに変わった様子はありませんでしたよ」

「そうでしたか~。ちょっとしたお祭り騒ぎだったのかなぁ、と思って」


 国によっては、厳かな葬式もあるが、お祭り騒ぎ……とまでは言わないが、派手な催事として葬儀を行う国もあった。


 俺の偽物……右腕については、これといった情報は得られていないようだった。

 いずれにしても連絡は続けると手紙にはあったが、処刑は近日中に密かに執行されるともしたためられていた。


 時間がないというこちらの焦りを見抜かれれば、精神的に優位に立たれることになる。

 どうか慎重にやってほしいものだ。


 尽力して情報を得ることが叶わないのであれば、処刑は致し方ないだろう。


 あの謎の技術……どうにかして情報を得たいものだが、ランドルフ王なら何かわかるだろうか。


「ロランさーん? 冒険者さんが呼んでますよー?」

「はい。すぐに」


 席を立った俺は、カウンターの席に着いた。

 ランドルフ王の前に、ワワークのところへついでに寄ろう。

 腕輪を使ったら報告してほしいと別れ際に何度か言っていたことを思い出した。






 俺が時期を見て工房を訪れようとしたら、ワワークが地力で俺の家を見つけてやってきた。


「で、で、でっ! どうだった、どうだった?」


 リビングの向かいのソファに座っていたワワークが、グイグイと青白い顔を寄せてくる。

 それを俺は左手でぐいっと押し戻した。

 俺の左右にはライラとディーがいる。


「がっつくな」

「とは言うけどね、ロラン君。気になるものなんだ。試作段階で大した性能試験もしてないわけだし」

「結論から言う」


 ごくり、とワワークが喉を鳴らした。


「使える」

「ひゃほぉーい!」


 子供のように両手を上げて快哉を叫んだ。


「おかしな腕輪をしておると思ったら、こやつが開発した道具であったか」


 合点がいったように、ライラは何度かうなずく。


「でもぉ。何だか不愉快だわぁ~」


 少女のように唇を尖らせているディーが、興奮気味のワワークに目をやった。


「ロラン様に頼られるなんてぇ。わたくしがいれば十分だと思うのだけれど」

「首輪のない妾もおるぞ」

「俺対俺の戦闘で足手まといにならない自信があるのなら、今後は頼りたいと思う」


 すっとライラもディーも俺から目をそらした。


「ダメよう。ロラン様対ロラン様だなんて……わたくし、ひりつく殺気で濡れてしまうかも……」

「色ボケ吸血鬼め……年中盛っておるな、そなたは……」


 膝をすり合わせるディーに、ライラは呆れたような顔していた。


「ロラン君がアイディアを出してくれたあの戦術は――」

「効果てきめん」

「ヒュゥ」


 口笛を吹くワワークの機嫌は最高潮のようだった。


「こんな陰険な男が、ロラン様のお役に立つだなんて……わたくし、妬いてしまうわぁ」


「何を言っている。おまえは十分役に立っているぞ、ディー」


「んもぉ……ロラン様ったら……。――好き♡」


 何も反応しないライラをちらりと見ると、無表情のまま一点を見つめ、こめかみに何本もの青筋を浮かべていた。


「い、今なら、この色ボケアンデッド吸血女を、塵にできるというのに」


 怒りで声を震わせていた。


「だが……塵にすれば妾は嫉妬心に蝕まれた器の小さな女ということに――」

「ダメよう、ライリーラ様? 魔王パゥワーを発揮しちゃうと、色んな面倒なお方が魔界からやってくるわよぉ?」

「わかっておるわ!」


 フシャァ! と今にも噛みつきそうなライラだった。


 このやりとりを、ワワークは不思議そうに眺めていた。


「何だ? 何か言いたげだな」

「ああ、不思議な人だね、君は」


 俺を挟んで無言で睨み合うライラとディーに目をやって、ワワークは苦笑する。


「あの魔王様が、こんなふうになるなんて。それに、張り合おうとしているのは元部下で、軍団内での序列もずいぶん離れていたと聞く」


「もう魔王はやめたらしい。肩肘張らずに暮らしているようだから、それで違って見えるんだろう」

「そうさせているのは君だろうに」

「たまたまここに居着いてしまっただけだろう」


 そうかな、とワワークは肩をすくめる。


「腕輪の概要を聞いて、すぐさま有効な戦術を考案する……恐ろしいほどの戦闘センスだ。魔王を撃破するのも、うなずける。……もっとも、今では違う意味で撃破してしまったようだけれど」


 ディーはウフフと微笑を崩していないが、やる気ならやる、という姿勢を隠そうともしていない。

 それが癇に障るらしく、ライラの気性を逆なでする結果となっていた。


 以前ワワークが右腕がほしくないか、と言ってきた。そのときに感じた気持ちを、俺はまだ失ってはいない。


 あの『右腕』を使いこなせるようになれば、俺は……。


 願っても願っても手にすることができなかった中距離からの攻撃を可能にした。

『影が薄い』を付与しての攻撃は、『俺』が反応もできない代物だった。


 この『右腕』をもっと知れば、俺はもっと――。


「ワワークよ。とある新技術のことで訊きたい」

「何でしょう」


 ディーと張り合うのをやめたライラは、ワワークに『俺』のことを話した。


「それは、ボクもわからないですね。術式言語についても、ボク個人が研究し開発したものだ。吸血族がどうというわけではなくて。その可能性も考えておいたほうがいいのかもしれないです」


「そなたでもわからぬか」


 ライラが小さくため息をついた。


 ちょうどいいタイミングだと思ったのか、ワワークが辞去した。


「また改良していくから、要望があったら教えてほしい」と言い残して。


 突き詰めて、これ以上はないというところまで、俺は自分を高めたつもりだった。

 スキルを深化させてきたつもりだった。


 だが、腕輪の装着で、俺は知ってしまった。


 己の伸びしろと、可能性を――。


 俺はまだ強くなれるのだと。



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[一言] 4行目の最後が 「これを言うと、一瞬驚いたように目を丸くしたがが」 と「が」が一つ多いです。
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