表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/230

ルーベンス神王国からの密使5



 黄昏時の町を『シャドウ』の案内に従って走る。


 曲がり角に差し掛かると、金属が擦れるような声を上げて指を差した。


「……」


 ライラに危害を加える気はないらしいが、一体何が目的なのだろう。


 誘拐犯が『俺』だとすると、やはりルーベンス王を暗殺したものおそらく――。


『シャドウ』が指差したのは二階建ての廃墟だった。王城やエルヴィの屋敷からずいぶん離れた郊外にあった。


 仕事を終えたと言わんとする『シャドウ』は、ふっと姿を消した。


 少し前エイミーと戦ったとき、ずいぶんな強敵だと思ったが、早速同等の力を持つ誰かと戦うことになるとは、わからないものだな。


『俺』なのか、俺を模した何かなのか――手合わせすればすぐにわかるだろう。


 到着を察したような雰囲気が廃墟から漂っている。気配を消したところで大した意味はないだろう。


 ライラが丁寧なもてなし、と言っていたが、あれはどうやら皮肉だったらしい。


 軋む扉を開けて中に入ると、二〇人ほどが集まっても窮屈でないほどの広間らしき場所に出た。

 階段は腐って落ちており、下から見上げると二階の様子がわかった。


「来たか」


 すっと、奥の物陰から男が姿を現した。


 黒髪黒目に、切れ長の瞳。細身の体型ではあるが、能力を最大限に活かすであろう筋肉があるのがわかる。

 鏡でよく見る『俺』そのままだった。


 違いがあるなら、右腕の有無だろう。


「ライラをさらってどうする気だ?」

「あいつは、奥の部屋で寝ている。二日酔いらしいからな。危害は加えていない。安心してくれ」

「おまえは何者だ」

「見てわかるだろう。俺はおまえだ」

「チッ」


 そんなこと――。


「見ればわかる、とでも言いたげだな」


 フン、と皮肉げに笑った。


「次は、そういう意味ではない、か?」

「察しがいいクセに頭は悪いらしい。わかるならさっさと答えろ。右腕から体が生えたなんてことはないだろう、さすがに」


 半分冗談で言うと、『俺』は目を丸くした。


「……これは少し驚いた。さすがと言うべきか」

「冗談だろ?」


 今度は俺が意表を突かれる番だった。


「どこまでやれるのか――本人オリジナルと相対するのが一番だと思ってな」


 便宜上、右腕うわんとしておこう。

 右腕はガラクタの中から錆びたナイフを手に取り、空中に放って掴む。それを二度繰り返した。


「おまえの腕試しに付き合わされる身にもなってもらいたいものだ。劣化コピー」

「負けたほうがそう呼ばれることになる。どちらがその名を背負うか、すぐにわかるだろう。ギルド職員としても、勇者パーティとしても、暗殺者としても、上手くやるから安心すればいい」


 誰がどうして俺の腕を持ち去ったのかはわからない。

 だが、右腕は俺になり代わるつもりでいるようだ。


「代わりにライラを可愛がるのも俺だ」

「生まれて間もない赤子にしてはよくしゃべる」


 無言になると、空気が張り詰めた。

 エイミー並みの重圧だ。

 気を抜けば尻もちをついてしまうかもしれない。


 さすがは『俺』とでも言っておこう。


 スキル発動――。

 だが、タイミングが被った。


 見失った。

 同じように右腕も見失っていた。


 初手はお互いに立ち位置を入れ替えるだけの結果となった。


 だが……俺にあって右腕にないものがあるとわかる。


 おまえはそれに気づけたか? 


「……」


 無言のまま錆びたナイフを構える右腕。


 俺が左手を差し向け、中指を自分のほうへクイクイと二度折る。


 すると、鼻で笑われた。


 さすがに挑発には乗らないか。


 挑発、視線の向き、左右の足にかけた体重の比率――フェイントをかけ出方を窺う。それは右腕も同じだった。

 虚々実々の応酬に、今のところ動かないことが最大の攻撃となっていた。


 戦闘スタイルが噛み合い過ぎているせいだろうか。

 ここまでついてこられる敵にはじめて出会ったことが、なぜか嬉しく感じられた。


 改めて廃墟内部を観察し、フロアのおおよそを把握した。


「腕から元の体が生えるというのは、新しい技術か何かか?」

「おしゃべりでもしたくなったか? 俺なら質問に答えないことくらいわかるだろう」

「そうだな」


 吸血族のワワークが術式言語で魔力を制御、増幅させたりしているのだ。

 人間や魔族が知らない技術というのは、まだたくさんあるのだろう。


 問題は、そんな技術がどこにあり、誰が何のために運用しているかだ。


 どれくらいこうして対峙しているのだろう。

 一分ほどのような気もするし、一時間近くそうしていたような気もする。


「これは提案なんだが」


 右腕が改まったように言った。


「スキルを使うのはやめないか? いつまで経ってもケリがつかない」


 ……そうくるか。


「いいだろう。乗った。俺もおまえも『影が薄い』は使わない」


 俺が了承した瞬間だった。


 お互いに動き出す。


 俺は何かが半ほどで折れていた棒を拾い、右腕が鋭く刺突したナイフを棒で軌道を変えた。


 左右から繰り出される攻撃に、俺は防戦一方となった。

 腕一本と二本。子供でもわかる理屈――。やはり手数で押すか。


 致命傷を避ける防御と切れ味の悪いナイフのおかげで、大したダメージはない。


 もし使うなら、ここ一番の瞬間――!


 ナイフで棒が弾かれた。


 ふっと眼前から右腕が消えた。

『影が薄い』スキルを使われたことはすぐにわかった。


 スキルを使わない約束など、反故にして当然。

 俺はそんなお行儀のいい戦いをしてきたわけではない。


 卑劣こそ正攻法――。


 確実に殺せる瞬間を狙って使用するだろう、と踏んでいたが正解だった。


 音も気配も何もないが、全身の力を込めた回し蹴りを背後に見舞う。まだ誰もいないが、ここに来てくれる――そんな信用だけはあった。


 直撃する寸前にかすかに姿を視認した。


 やはりな。


 ドゴンッ、と思い手応えとともに、数メートル右腕が吹き飛び、受け身を取った。


 先に仕掛けたおまえの負けだ。


 弾かれた棒を掴み、一直線に右腕との距離を詰める。


 俺がスキル使用禁止を反故にすることくらい、右腕にもわかっていた。そして、自分から破った今、俺が使用をためらう必要はどこにもない。


 だからこそ、迷う――。


 眼前にいる俺がいつ消えるのか。そうすれば自分の攻撃プランとまったく同じで、使用後は背後から攻撃するのか――。


 ほんの少しスキルに気を取られたコンマ一秒以下の時間を、俺は見逃さなかった。


 右腕の眼前からは消えない。スキルは使わない。

 正面から仕掛ける。

 まだ半信半疑の右腕は、わずかに反応が遅れた。




 だが、『俺』たちの技術経験能力なら、正面からの攻撃なんて余裕で防げる。

 ――とでも思っているだろう。


 おまえは知らないだろうが、腕一本というのは、意外と重い。やつに比べその分俺は身軽だった。


 敵が防御に入るまでのごくわずかな時間に、ただの棒きれを胸に突き立てた。


「っ……!?」


 その数百グラムの差で、想定外の十数センチを生んだ。


 気づかなかっただろうが、初手のスキルを使って不発に終わった攻撃では、かすかに俺のほうが静止するのが早かった。


 もし両腕があったのなら、正面攻撃は簡単に防がれていただろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
― 新着の感想 ―
[一言] まさか失った右腕からコピーが生まれるとは... 戦闘も、隻腕になったことが必ずしもデメリットだけではないという好例ですね。
[気になる点] 更新お疲れ様です。 「右腕」が劣化コピーの存在のことではなく、普通の右腕の意味に見えて少しわかりにくいような。自分だけかもしれませんが、「」とか付いていると区別しやすいかも? 話は面白…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ