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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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完成品


「相変わらず陰気な場所だのう」

「吸血族なんだから仕方ないだろう」


 俺とライラは休日を利用し、ワワークの工房(本人が手紙でそう言っていた)に向かっているところだった。


 先日もらったワワークからの手紙には、首輪が完成したことが認められていた。


 ライラはまったく気にしていないが、俺は再び封印するべきか迷っていた。


「おまえの力を頼ってくる輩がいるかもしれない」

「構わぬ。どうせ妾の魔王という看板目当てであろう。強大な力は、争いの種である。封じられるのであればそうしたほうがよい」


 もっともな意見だった。


 ディーとロジェが使った通路……俺たちは湖からのルートを通ったが、どうやら陸路があるらしく、今日はそれを辿っていた。


「それとも、そなたが妾の『首輪』として付き従うか? 妾は、そなたには敵わぬからな。何かあれば、そこでズバっと……」

「俺はそこまで暇ではないし、魔界がどうなろうとも知ったことではない」


 だが、ライラは、そういうわけにはいかない。

 父や、他のライラを慕う魔族が魔界には残っている。


「それでよい。そなたが心配することでも、力を再び失くすであろう妾が心配することでもない」


 上手くやるであろう、とライラは楽観的だった。


 通路を進んでいくと、ワワークの工房に到着した。


「やあ。ロラン君。っと……それに魔王様もか」

「ワワーク、この姿で会うのはいつぶりであろう。ともかく久しいな」


 ばさぁ、と景気よく長いスカートを払い、さらぁ、と長い赤髪を手でなびかせてみせた。

 他の誰かがやれば笑ってしまうような芝居じみた仕草も、品と自信にあふれるライラには自然とよく似合った。


「平伏はしないよ。君の部下ではないからね」

「わかっておる。妾の首輪をよくぞ作り直してくれた。感謝しておる」

「……」


 ワワークは納得いかなさそうな曇った表情をする。


「ロラン君。ボクの知る魔王とは少し印象が違うんだが……。もっと怜悧冷徹冷血の絶対王者という雰囲気だったのに……」

「自分から首輪をつけたがるようなただのドM女だと思っていればいい」

「なるほど……」

「なるほどではないわっ!」


 ライラが地団駄を踏んだ。


「そなたが余計なことを言うから、妾の威厳が損なわれておる」

「事実だろう」

「うぐう」


 くすくすとワワークが笑った。


「あの絶対的な魔王様も、愛した男の前では乙女になるわけか」

「うぐう」


 頬を染めながら、ライラは何も言い返さない。

「もう知らん!」とスカートを翻し、工房をうろうろしはじめた。

 元々興味があったんだろう。


 くくく、と笑いを忍ばせながら、ワワークは言った。


「まさか、魔王を殺すのは憎しみや正義ではなく、愛だったなんてね。皮肉が利いていていい」

「ライラの件は、他言無用だ」

「わかっている。ボクも、君に嫌われたくはないからね」

「どういう意味だ」

「その腕。魔王を倒すほどの能力を持ちながら、片腕だなんて、もったいなさすぎる」

「言ったはずだ。今の仕事では事足りていると」


 おほん、とライラが独り言をつぶやいた。


「妾は、アクセサリーの一種としてあの首輪を気に入っておる」


 そのアピールは、ワワークにはおかしく映ったらしい。


「可愛い人だね。いつもああなのかい」

「この件に関して言うと、いつもああだ。封じる理由も一応あるし、装飾品として気に入っている、と」

「あの魔王様が、いつの間にか恋する乙女に……。恐ろしい人だね、君は」

「魔王よりも強いからな。だが、力を行使することはあまりない」

「そういう意味じゃないよ。力だけでは、ああはならないだろう?」


 まあいい、とワワークは話を変えた。


「ボクが魔物の力を増幅させ、変化……いや、進化といえるほど形態を変える研究をしているのは、本来持っているはずの力を知らないまま個体としての生を終えるのがもったいないと思ったのがきっかけだ」


 それがあの術式言語らしい。

 魔力の増幅や抑制、制御等のメカニズムを研究した長年の成果が、先日の鎧亀や棘トカゲだという。


「それは君にも言えるんだ。ロラン君」

「俺が本来の力を失ったままなのは、惜しい、と」

「そう」

「ギルド職員には、過ぎた力だった。片腕くらいでちょうどいい」

「――という建前だろう?」


 なぜか心の奥底を見透かされたような気がして、ドキリとした。


「魔王様を倒すためだったのか、まったく違うのかはわからないけど、力を求め鍛練をし続けた者が、もう力に興味がないなんて嘘だ」


「どうしてそうだと思う?」


「ボクも一端の男だからだよ。強くなりたい――そんな願望を持つのが性というものだろう」

「強すぎる力は、争いの種となる」


 ライラのセリフを使わせてもらった。


「まあね……」


 ライラが自らの力を封じるというのであれば、俺も片腕などなくてもいい。

 もう俺たちに、力は不要なのだ。


 けど考えておいてくれよ、とワワークは言って、仕上がった首輪を渡してくれた。


「使い勝手は前回の物と同じだ。どうして壊れたのか調べたら、首輪が物理的に劣化していたのが大きな原因だったみたいだ。まあ、二〇〇年前だからね、作ったのは。習作でもあったし。けれど、今回はそうならないように、経年劣化防止と魔法や物理の外的要因による損傷を防ぐ術式の二つも追加で組み込んだ」


 新しい首輪を観察するが、前回との違いはわからなかった。

 革製品として新しくなった……という部分はわかるが。


「外れないし、劣化しないし、壊れない、ということか」

「そういうこと」


 首輪を懐に入れて、俺はワワークと握手をした。


「礼を言う」

「あの魔王を倒し、魔族に一杯食わせた英雄の君からお礼だなんてとんでもない。君がそばにいてくれるから、また首輪をしたいと言っているわけだし。――ああ、それでもお礼をしたいというのなら、体を調べさせてほしい」

「体? 構わないが」

「いいのかい?」


 さっきから、工房を見学していたはずのライラが待ち遠しそうにこちらを見つめている。


「すまない。今度でいいか? 工房見学は飽きたらしい」

「残念。それじゃあ、またいつか来てくれ」


 別れの言葉をそれぞれ口にして、俺とライラは工房をあとにした。


「これが新しい首輪だ」

「ほう。これが」


 渡すと、色々と触ったり観察したりしはじめた。

 違いを説明すると、あまり興味はなさそうだった。


「要は、前回よりパワーアップしたのだな」

「ああ。……ライラ、首輪をつけるタイミングは、今でなくてもいい。おまえが必要だと思ったときにそうしてくれ」

「ふむ」

「魔王の力を察知した面倒な輩が、訪ねてくることも今のところない。もしそんなやつがいれば、今のおまえなら事前にわかりそうなものだが」

「それもそうであるが」

「あとは、よっぽど猫になりたいときくらいか」

「猫は便利である。どこかへ行くにしても、そなたの鞄の中に潜っておればそれでよい。そなたも連れていきやすかろう?」

「そういった利点はあるな」


 いつの間にかライラに手を繋がれていたが、されるがままにしておいた。


「妾は、嬉しい」

「何がだ」

「妾のことを思って、首輪の件でそなたが色々と進言してくれることが、だ」

「それが嬉しいのか」


 ライラは無言で二度うなずいた。


 通路に誰もいないことを確認すると、つま先立ちになり顔を寄せてきた。


 ほんの少し尖らせた唇を唇で迎えてやる。

 小さな音が通路によく響いた。


 くるん、と何事もなかったかのように、手は繋いだままのライラは前をむく。だが横顔は、にへらぁ、とゆるみっぱなしだった。



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