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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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道端の少女3


 仕事帰り、名前がわからない彼女のために、ライラが名前をつけた。


「メイリ。――古い魔族の言葉で、青空の意味だ」

「ん。ではそうしよう。メイリ。それがおまえの名前だ」

「メイリ? わたし、メイリ?」

「ああ、そうだ」


 青空のような青い目で俺を見てくるメイリを撫でる。


「メイリ!」

「気に入ったらしいぞ」

「ふふん。当然である。妾のネーミングセンスは、海よりも深く空よりも高いのだ」


 よくわからないが、自画自賛の名前だったらしい。


「メイリを、一人で生きていけるように育てる」

「というと?」

「冒険者にする」

「ふむ。悪くはない」


 最近わかったが、ライラはあまり素直に誰かを褒めることができないようだ。

 なので、彼女の「悪くない」は誉め言葉として受け取っていた。


「隷属紋を解除した貴様殿が責任をもって育てるがよい」

「……だが、その一方で、『普通』も教えていく」

「そこで……妾の出番、というわけだな?」


 黒猫の顔で、ライラは決め顔をしていた。


「いや違う」

「………………」

「それはミリアにお願いしようと思う」


 と言うと、飛びかかってきて俺を引っかかこうとする。

 ライラを捕まえ、首輪に魔力を流し元の姿に戻した。


「妾には普通はわからぬからな」


 ぷい、と機嫌悪そうにそっぽをむいた。




 その翌日から、日の出前にメイリを起こし、鍛錬。仕事から帰ってきては鍛錬。

 鍛錬、鍛錬、鍛錬を繰り返す。


「奴隷だったんだろう?」

「ドレイ? メイリは、メイリ!」

「いや、そういう意味じゃなく」


 早朝の山を走りながらそんな会話をする。

 平坦な道などなく、でこぼこな道や獣道を駆け回った。


 はじめた一週間ほどはひ弱だった足腰は、みるみるうちに強くなった。

 子供の成長というのは、早いものだ。

 走るのが楽しいと言わんばかりのメイリは、終始元気だった。


「妾はな、家政婦ではないのだぞ」

「メイド服、買ってやろうか?」

「要らぬわ」


 朝の鍛錬が終わる頃には、スープを温めて、テーブルにパンを用意したライラが言った。


「家政婦として扱っているつもりはない」

「ならよいのだ。……最近、メイリばかり構って……その、妾を可愛がることが減った……」


 小声でそう言うと、たたたたた、と奥の部屋に逃げた。


「おまえも鍛錬したいのか?」

「たわけっ、違うわっ! どうして妾がそのようなことをっ」


 扉から顔を出してそう言うと、すぐに引っ込めた。

 違ったらしい。


 メイリは、俺の言うことをよく聞いてよく吸収した。

 俺が同じ年のころは、すでに仕事をはじめていたので、明日から実戦的なことを教えよう。

 ベッドの中でそう考えていると、不自然な気配を感じた。


「……」


 ……『鼠』か。

 首輪を触り、眠っているライラを猫の姿にする。

 俺とライラの間で眠っているメイリを起こさないように、ベッドから抜ける。


 家の外に出ると、男が一人、月影を使い歩いてきていた。


 中性的な顔立ちで、これといった特徴のない顔だ。

 雰囲気からして、おそらくそうだろう――。


 男が俺に気づいた。


「一人の予定だったが、運が悪かったな、お兄さん」

「それはおまえのほうだ」

「気配を消していたはずなんだが……」


「三流だな。……そんなことも知らないのか」

「何?」

「気配を消すとき、周囲の気配を巻き込んで消している。だから、おまえのいる場所だけ、不自然に草も風も木も気配を感じない。……気配を消すのではなく、周囲に同化させないから気取られる」


「気配がないことがわかるやつなんて誰もいねえよ」

「おまえレベルでの常識はそうなんだろう」


「たまたま家から出てきたくせに、偉そうだな、あんた」

「たまたまかどうかもわからないのか?」

「だいいち、そんなことできるはずないだろ。周囲に気配を同化させるなんて」

「……と、思うだろ?」


 見本を見せてやろう。


 草の気配、土の気配、風の気配、流れる川の気配――。

 それを理解し、自分を同化させる。


 そうすれば風景になれる。


 動いた俺を、一瞬遅れて目で追いはじめた男。

 だが、その一瞬ですべてが決している。


 男が懐に入れていたナイフを抜き、背後から切っ先を眼球に突きつけた。


「こういう世界だ。わかるだろ?」

「――な……オレが……身動きできない……だと――」


「運が悪かったな」

「……殺せ」


 この場でできる尋問をしていくが、標的と依頼主のことはしゃべらなかった。


「オレの『絶対奇襲』スキルすら使わせてくれない化物がいるとはな……最悪だ。あんたの言う通りだよ。ツイてねえよ……」


「スキルはモノによるが、基本は任意に発動させるものだ。そのナントカというスキルを発動させるまで、どれくらい時間がかかる?」


「あんた相手に、スキルを使うなんて絶対無理だな……」


 くっくっく、と男は観念したように笑った。


「だって、まばたき二回だ。たったそれだけの時間であんたは、オレの背後に回ってた。隠してたナイフを見つけて、それを目ん玉に突きつけて……どうなってんだよ……同業者?」


「いや、冒険者ギルドの職員だ。普段は主に書類整理をしている」


「あははは、嘘つけよ。これだけ圧倒的な力量差があれば、もう笑うしかねえ。どっかで野垂れ死にするとは思ってたけど……まあ、最後の相手が化物みたいなあんたでよかったよ……」


「いいナイフだな」

「だろ?」


 それが男の最期の言葉となった。

 情報を漏らさなかったプロ意識に敬意を表し、即死させてやった。


 ……ライラが生きていると知られたか?

 力を反比例させている首輪に異変はなかった。

『魔王』である部分は封じてある。


 もし魔王ライラが標的だったとして、暗殺者を単独で寄越すとは思えない。

 その戦力では魔王に失礼というもの。


 となると……。

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