閑話
――仕事に対してストイックですよね。
「ストイックというほどでは……。『普通』かと」
――アルガン職員は、いまだに新人ながらにして、冒険者試験官やプラントマスターの資格も持っていらっしゃいます。
「自分にできることを、ただ精一杯しているだけです」
――その結果が、この現状です。
「いい結果になってよかったです」
――アルガン職員に見いだされた冒険者は多く、どなたもご活躍されています。
「たまたま僕が最初に出会った試験官だったというだけでしょう。努力を惜しまない彼らなら、いずれ活躍していたかと。早いか遅いかだけの違いです」
――支部長からの信頼も篤い。
「僕だけではないと思いますよ」
――ご謙遜を。
「……あの、ミリアさん、これ何なんですか? いきなりメモを持って質問をはじめましたけど」
「あー。今いい感じに進めてたのにー!」
もおー、とミリアは唇を尖らせて、不満げな顔をした。
「この前言ったじゃないですかー。冒険者さんにお配りするギルド会報誌ですよ。今回はこのラハティ支部が担当なんです。それで職員紹介のコーナーがあって、支部長が『ロランに決まってるじゃない!』なんて激推しするから――」
そんなことを言っていたような気もする。
「ロランさん、どうして質問責めされてるんですか?」
カウンターで様子を見ていた女性冒険者が尋ねてきた。
「ギルド会報誌というやつに、僕のインタビューが載るようで」
「えぇ~! あのどうでもいい職員情報や紹介しかないアレですか!? 私、それいっぱいほしいです!」
……同じ物をどうしてたくさん欲しがるんだ?
「ロランさんっ」
飼い犬をしかりつけるように、機嫌悪そうにミリアが言った。
「続けますよ。今は、これがお仕事なんですから」
「はい。どうぞ」
こうして、俺はいくつかの質問をミリアにされ、答えていった。
仕事に対する考え方や職場での人間関係に終始した。
何度かその会報誌とやらは目にしたことがあるが、さっき女性冒険者が言ったように、特筆した情報はこれといって載っていない。
その支部に興味があれば別だが。
しばらくして。
王都の本部から会報誌が届いた。
興味がなかったのでこれまで気にも留めなかったが、手に取った冒険者たちはひと目見て会報誌を持ち帰っていく。
その日のうちに、会報誌はなくなった。
「す、すごいわ……。ロランパワー……あ、あり得ない……」
アイリス支部長が会報誌があったはずの場所を見て驚いていた。
「いつもメモ用紙に早変わりするだけの会報誌が、な、なくなっているわ……!?」
そんな会報誌なんて、作らなければいいのに。
「女性冒険者や町のお嬢さんたちが、何部も取っていくんです。わたしも、一部だけ先に取っておけばよかったですぅ」
ぶーぶー、とミリアが不満を口にしていた。
「やっぱり世の女の子たちは、ロランがどんな考えをしているのとか興味があったのよ」
真理を得たと言わんばかりの表情でアイリス支部長はうなずく。
「インタビュアーをミリアに指名して正解だったわ。質問が、ツボを押さえているもの。痒い所に手が届く、みたいな。この『朝、起きてからはどういうルーティンで出勤してますか?』なんて、もう、バッチリ」
「えへん。でしょでしょ」
あとでギルドマスターのタウロから聞いたが、ラハティ支部回は、伝説回となったらしい。
何がそんなにいいんだか。
「お、置いてあったのでな。妾も一部もらってきたのだ……。た、他意はない。他意はないのだ!」
家に帰り会報誌が置いてあることに気づくと、ライラが慌てて言いわけのようなことを言った。
「別に何も言ってないだろ」
「きょ、興味はないが、メモ用紙にちょうどいいと思ってな」
なるほど。結局、そういう用途になるらしい。
うむうむ、と何度もうなずくライラだったが、後生大事に会報誌を保存していた。
こっそりとやっていたようだが、ちょうど見つけてしまった。
そんなに会報誌がほしいなら、次の支部のものを持って帰ってきてやろうと俺は思った。




