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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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新種の魔物と地下空間3


 ギルドをあとにした俺は、件の森へとやってきた。

 ライラが出した伝令役の『シャドウ』は俺の腰あたりにくっついている。


『見かけたトカゲの魔物は、貴様殿が言っていた鎧亀のようなサイズではなく、犬ほどの大きさであった。鎧亀がああなってしまった原因を探りに来たのかもしれぬ』


 あり得る。

 もし飼い主が同じだったとして、魔物たちをあの森に放って何をしているのだろう。


 キ、キ、と『シャドウ』が方角を指差す。そちらへ歩を進めてみると、監視役の『シャドウ』が木のうろの中でじっとしていた。


 キー、キー、と監視役が別の方角を指差した。


 がさり、と物音がすると、ライラの情報通りのトカゲ型の魔物が物陰から現れた。


 全身が棘で覆われていてハリネズミにも似ている。

 尻尾や仕草はトカゲと言ってもいい。

 棘トカゲとでもしておくか。


 様子を窺っていると、腐葉土をさくさくと音を鳴らして歩く棘トカゲは、時折地面に鼻をつけて何かを探っている。


 ちょうど、俺が鎧亀を倒したあたりだった。

 ライラの予想通り、調査に来たのかもしれない。


 棘トカゲは、木に登って周囲を見渡す。

 棘は背面だけらしい。腹側にあっては移動がしにくいからだろう。

 木の枝から飛んで着地し、また別のほうへと尻尾を揺らして歩いていく。


 腹のあたりに……。


「ライラ、見えたか」


 静かな声で『シャドウ』に話しかける。


『うむ。一瞬ではあるが、腹のあたりに首輪と同じ術式言語のようなものが見えた』

「鎧亀のそれとおそらく同じものだ」

『であれば、あれはペットで、その飼い主は同一人物らしいな』


 それからしばらく棘トカゲはあちこちをうろついた。

 俺は気配を周囲に同化させながら、棘トカゲのあとを追う。ライラの伝令用『シャドウ』も俺に再びくっつき、様子を見守った。


 調査は十分だったのか、棘トカゲは森を出ていった。


『主の下へ戻るのかのう』

「おそらくそうだろう」


 鎧亀もそうだが、俺もライラもわからない魔物というのが引っかかる。

 それを同一人物が使役しているというのも気になる。


 予定通り棘トカゲを尾行していくと、森から離れた小さな湖へとやってきた。森を流れる川の下流にある湖で、俺たちが暮らすラハティの町からもそう離れてはいない。


 きょろきょろ、と周囲を見渡し、棘トカゲは湖の中に入った。


『水中か。尾行はここまでかのう……』

「あの魔物は水中で生活できる体をしていない。潜ってどこか別の場所に行くんだろう」

『だが、準備をせねば』

「無用だ」


 一度深呼吸をして、音を出さないように静かに湖の中に入る。


『大丈夫か? 水中であるぞ?』


 答えないまま、俺は棘トカゲを探す。

 ライラが泳ぐところを見たことがない。

 そもそも自然の水に入るということが魔族にはないのかもしれない。


 見つけた棘トカゲは、四本の足を忙しなくバタつかせながら、洞窟らしき暗い穴のほうへ泳いでいく。


 くいくい、と『シャドウ』が服を引っ張る。


『い、息ができぬのではないか?』


 さすがに俺でもここでは呼吸はできない。エラがないからな。


『し、死んでしまうぞっ。早う陸へ上がらぬかっ!』


 話せるはずのない俺に、ライラはあれこれ話しかけてくる。

 もしかすると、水中ではしゃべれないと知らないんだろうか。


 スキル『影が薄い』を発動させる。


 水中はどうしたって物音や空気の音が出てしまい、対象に気づかれやすくなる。それを防ぐためだった。


 気づく様子はまるでない棘トカゲは、洞窟の中へ入っていく。追いかけた俺も洞窟内をしばらく泳ぐと、棘トカゲが水中から出ていく。どうやらこの洞窟が出入口になっているようだ。


 俺も静かに頭を出し、何の気配も感じないことを確かめ、縁へと体を持ち上げた。


『そ、そなたは、不死身なのか……!?』


 驚くライラには構わず、棘トカゲを追う。


 少しだけ上がった息を整え、洞窟を奥へと向かう。


 飼い主がこの奥にいるのなら、ずいぶんな場所で暮らしているものだ。


 鎧亀を飼っていたとして……どうやって出入りさせるのだろう。

 洞窟は、あんな巨体が通れるような幅はない。


 進んでいくにつれ、魔物の気配が強くなってきた。


 ようやく開けた場所に出ると、そこは巨大な地下空間となっていた。


 薄暗くはあるが、何があるのかはわかった。


 魔物の唸り声や魔獣の咆哮が断続的に聞こえている。どれも檻に入れられていた。


『何だ……ここは……』

「魔物や魔獣で何かをしているらしいな」


 首輪にあった術式言語には、魔力を反比例させる効果があった。

 そのようなことができるのなら、魔物や魔獣を制御したり、魔力を増幅させたりするのはたやすいのかもしれない。


 背後に人らしき気配を感じた。


 ――スキル発動。


 スキルを使った俺を視認することは至難だろう。おまけに薄暗い。姿をくらますくらい造作もなかった。


 ここの関係者か誰かか――?

 ちょうどいい。訊きたいことがある。


「ぐうっ……!?」


 一瞬にしてそいつの背後を取り、いつでも喉を潰せるように親指を突きつけた。


「な、何だ……!? て、敵かっ」


 ん? この声は……。


「ワタシは、み、道に迷っただけで……」

「あらあらぁ。そんな安い嘘が通じるかしらぁ」


 ディーの声もする。


 振り返るとディーがいて、よく見ると、俺が喉を潰そうとしているのはロジェだった。


 はぁ、と肩透かしを食らった俺がロジェを離すと、へなへなと座り込んだ。


「ここで何をしている」

「き、貴様か……! い、いきなり喉をぐいっとしてきたのは! ぐいっとするな!」

「静かにしろ、バカエルフ」


 代わりにディーが説明してくれた。


「わたくしたちは、ワワークの所在を突き止めようと情報を集めていたら、この地下空間の話を聞いたの。それでちょぉーっとお邪魔させてもらいにやってきたというわけ」


 ここがワワークと関係のある場所で間違いないらしい。


「ねー、ロジェ隊長」


 ロジェは、ぷるぷる、と震えていた。


「こ、こ、殺されるかと、お、お、思った……ちょっとだけ、出た、殺気……怖かった……」

「いきなり俺の背後に現れるやつが悪い」

「やだぁ~ロラン様ったら、理・不・尽♡」


 ディーが人差し指で俺の体をなぞる。


『二人とも無事で何よりである』


『シャドウ』が発するライラの声に、ロジェがシャキッと背を正した。


「ライリーラ様、首尾は上々です。この『シャドウ』を見るのもずいぶん懐かしく……」

『思い出に浸るのはあとにせよ』

「はッ」


 ライラの分身だとでも思っているのか、ロジェが『シャドウ』を大事そうに抱きかかえた。


「ディー、何かわかったんだな?」

「ええ。はっきりとワワークだと聞いたわけではないけれどぉ、陽の当たらない地下空間で、何か研究めいたことをしている人物がいるという話を耳にしたのよ」


 術式言語と開発、陽の当たらない地下空間……それらからワワークを連想するのは、そう難しいことではないな。


 おほん、と咳払いするロジェが説明を継いだ。


「話は、冒険者がよく集まる酒場で聞いたのだ。魔物を研究し、開発や改良などをしている者がいる、と」

「魔物を使役するスキル持ちの者からすれば、ありがたい研究だろうな」

『妾たちがわからないわけだ。既存種を改良したり新種を開発しているのであればな』


 俺個人の見解とすれば、魔物使いの使役する魔物が強くなるのであれば、それはいいことだ。

 今後その研究が何かに応用されるのであれば、技術進歩としてこの地下空間は見逃してもいい。


 だが、ギルド職員としては、改良や開発をされた魔物が制御できなくなった場合の危険を考えると、看過できない。

 現に改良種らしき魔物があの森をうろつき、人々を不安にさせている。

 今後、被害が増えれば、余計な仕事も増えてしまう。


「潰すか。早急に」



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