表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

161/230

帰還と日常とこれから3


「だーかーら! おまえのランクはいくつだよ?」

「Eだけど、それが何?」


 カウンターの向こうでニール冒険者とラビが睨み合っていた。


「ロジャーさんは、どう思います?」


 俺が話題を振ると、「そッスねぇ」と腕を組んだ。


「オレはどっちでもいいんスよ。クエストのランクがDだろうがCだろうが」

「おぃぃぃぃ、ロジャー、てめえはオレの味方だろう!」

「そうッスけど……」


 二人のやりとりを眺めている俺の前に、ラビが割って入ってきた。


「ロランは、Cでも大丈夫って思ったんだよね?」

「ああ。でなければ斡旋などしない」


 先日、俺がラビの実戦経験を積ませるためにニール、ロジャーの二人組に面倒を見るようにと頼み、そして日を改めた今日、三人での初クエストをいくつか選んで斡旋しているのだが――。


「兄貴、まだオレらは組んで今日が初日で、だからできれば簡単なDランクで……」

「ロランができるって言ってるんだから、Cでも大丈夫だってば!」

「そういうとこだぞ、イキった新人が失敗しがちな理由は!」


 ニール冒険者の言にも一理ある。だが、ラビに言ったように、無茶なクエストを斡旋しているわけではないので、俺からすると正直どちらでもよかった。


「やはり、二人のほうがいいですか? 新人を預かるのは荷が重いですか?」

「いやいやいや、兄貴、ちょっと待ってください」

「そうッスよ。ただちょっと上手くいってないだけで……」


 口を開けばケンカをしていても、戦闘中は上手くいくパーティは多い。

 これからパーティになっていこうとする最中なのだから、多少の摩擦は目をつぶろう。


 ニールとロジャーの両冒険者は、派手さはないが、腕も確かで経験も豊富。

 それをラビが理解してくれれば、ニール冒険者の言うことも聞いてくれるだろうが、今のところ、ただのがさつな冒険者にしか映らないんだろう。


「ラビ。クエスト中は俺が指示を出すことはない。そばにいるのはこの二人で、話し合って連携を取る必要がある。わかるな?」

「うぅぅ……そうだけど……」


 Dランククエストなら、この二人なら防御スキルはきっと必要ない。

 だが、それを口には出さず、ラビを連れて行こうとしてくれている。文句を言う筋合いはどこにもないのだ。


 まだまだラビは能力以前に人間として足りない部分が多い。

 同行してやってもいいが、それではラビは結局俺の顔を窺いながらのクエストになる。

 それでは意味がない。


 プライドが高いのは、バルバトスの下で魔法使いとして扱われていたせいだろう。


「……」


 絶対安全であろうクエストを斡旋している俺は、やはりラビをどこかで甘やかしているのかもしれない。


 信用、信頼関係というのは、年月をかけて培う場合もあるが、酷い経験を共有したり、死線を乗り越えたりすることでも得られる。


 俺はカウンターの上に並んだクエスト票を一旦回収した。

 ロジャー冒険者が不安そうな顔をする。


「え、兄貴――」


 こんな状況ではクエストを出せない――そう俺が判断したと思ったらしいが、逆だ。


「クエストを変えます」


 三人の能力をそのまま評価すれば、これくらいのクエストは問題ないはずだ。


「Bランククエストです。こちらをお願いします」


 クエスト票を一枚カウンターに乗せると、先輩後輩コンビがぎょっとした。


「B……オレらでもたまにしかしないし……いつもボロボロで……」

「そ、そうッスよ、兄貴。連携がまだ上手くできないちゃんラビは連れていけないッスよ……」


 さっきまで自信過剰気味だったラビも、Bランクには少し腰が引けているようだった。


「ろ、ロラン……。Bランクは、ちょっと……。危ないかもだし……」

「危ない? 危なくないクエストはFだけだ。Eランククエストだって、場合によっては命を落とす可能性はあるし、事実そういった者も多くいる」


 緊張したかのように、三人が押し黙った。


「Bランクは、できませんか?」

「い、いや、やる……やらせてください、兄貴」

「自分は、先輩の判断に従うッス」

「決まりですね」


 手続きに入るため、ペンを持った。


「ね、ねえ。わたしの意見は……?」

「いつまで魔法使い気分でいる。おまえは現状、ただの足手まといなEランク冒険者だ。自分は特別だといつまで勘違いすれば気が済む」


 ひぐっ、とラビが半泣きになった。


「あ、兄貴、ガキみたいな女の子にそんな言い方しなくっても」


 ニール冒険者が見かねて口を挟んだが、俺は彼を手で制して続けた。


「嫌なら、好きな町で好きなように生きろ。おまえが生きるための選択肢は、そう多くはないぞ」


 かつてないほど厳しい口調で言ったせいか、堪えていた涙をぽろぽろとこぼしはじめた。


「やる……このクエスト……」


 さすがに気の毒に思ったのか、ロジャー冒険者が、慰めの言葉を何度か口にした。


「兄貴、言い過ぎッスよ」

「ああ。あんなキツい言い方しなくても」

「事実です」


 詳細の説明をして手続きを済ませ、冒険証を返す。


 俺は背をむけた三人に、「よろしくお願いします」と業務上の挨拶をして送り出した。


 隣の受付カウンターにいたミリアが、じい、とこちらに視線を送っていたのには、気づいていた。

 一部始終を見ていたのだろう。


「ロランさん」

「はい?」


 目をやった俺に、ミリアは笑顔をむけた。


「相変わらず、優しいですね」

「……」


 この少し抜けているところがある先輩は、些細な俺の気配りをよく見抜く。


「優しくないですよ。かなりキツい言い方で……言い過ぎだったかもしれません」


 ふふふ、とミリアは微笑を崩さない。


「そうですね~。かつてないほどの厳しさがありました」


 この様子……俺の狙いを、わかってて言っているな?


「以後、気をつけます」

「気をつけなくてもいいんじゃないかなーと思います。刺激強めの、優しさです」


 いや、気をつけるべきだろう。

 同じ師に戦闘のいろはを学んだ妹弟子でもある。あの子の境遇や環境に、俺は無意識に甘く接してしまっていた。


 あ、でも! とミリアは何か思いついたように手をパチンと合わせた。


「ロランさん目当てにやってきた女子冒険者には、ああしたほうがいいと思います! もっと厳しく! 泣かせるくらいに!」

「隻腕になってからは減りましたよ」

「ううん……もっと減ってほしいです……。違う意味で泣かせる数は全然減ってないですし……」


 小難しい顔で、ミリアは唸った。





 人間が三人いれば政治がはじまる――。

 その中で諍いが起きた場合、どうなるとその揉め事は早く集束するのか。

 それは外敵が現れることだ。


 俺が態度を一変させ、キツい言葉をラビに投げかけることで、三人は共通の気持ちを抱いたはずだ。実際、先輩後輩コンビは、来たときにはなかった優しい態度でラビに接し、ギルドから出ていった。


 俺という『外敵』が現れ、そのあとは、Bランクの魔物という外敵を討伐する。

 難易度の高いクエストをただ行うよりも団結しやすかっただろう。


 送り出したのは朝だったが、三人が戻ってきたのは、昼過ぎだった。


「お疲れ様でした。早かったですね」


 甲殻獣と呼称される個体の討伐は、思いのほか上手くいったらしい。

 身なりをみればわかる。


「兄貴……ラビのスキルのおかげで、オレたちゃこうして無傷だ」


 その後ろでラビが照れくさそうにしている。


「連発性の高さや範囲を小さくしたり拡大できたり……めっちゃ便利だったッス。自分らが預かってていいのかってくらいのスキルで……」


「ま、まあね。そ、それがわたしのスキルだから。守るのがお仕事ですから」


 みるみるうちにラビの鼻が伸びているのが見えるようだった。


「さすがに自分も無茶だと思ったッスけど、いつも以上に早く終わったし、苦戦もまるでしなかったッスよ」


「それは、お二人の技量と経験によるものでしょう」


 今度は、ニール、ロジャーの二人が照れくさそうに笑った。


「二人だったら、また漏らしてたかもしんねえ」


 ガハハ、とニール冒険者が笑い声をあげた。

 討伐の証である殻をいくつか受け取り、鑑定部署に回す。ペンを持って手続きをしていると、


「おい、ラビ」「ラビちゃん、今言わないと」


 という二人の急かす声が聞こえた。


「わ、わかってるよぉ……」


 前にいた二人と入れ替わるように、ラビがやってきた。


「ロラン、怒ってくれてありがとう」

「何の話だ」


 顔は見ないまま、手を動かした。


「ロランなんて嫌い! って思ったけど、わたしのことを考えた上で言ってくれたことなんでしょ?」


「俺はただ、甘えたことしか言わないガキが嫌いなだけだ」


 鑑定部署から書類が一枚回され、確認する。

 討伐の証は問題なかったようだ。


「ベテラン冒険者は、どうだった?」

「二人とも、頼りになったよ。スキルを発動させるタイミングとかも、きちんと打ち合わせして、戦って……おじさんたち、強かった!」

「「おじ……さん?」」


 後ろの二人が納得いかなさそうに首をかしげている。


 互いに認め合うことも、信用や信頼を築く上で重要なことだ。


「しばらくおじさんたちのお世話になるね」

「ああ。そうしてくれ」


 報酬を渡し、ニール冒険者がそれを分配していく。


「え。わたし、少なくない?」

「少なくねえよ。Eランク冒険者ならこんくれぇが妥当だ。文句言うな」


 えー? と不満げに声を上げたラビだったが、本気で言っているわけではなさそうだった。


「ロラン、また明日来るね!」


 そう言って、ラビは笑顔でギルドをあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
― 新着の感想 ―
[良い点] 厳しさとは優しさ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ