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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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帰還と日常とこれから2


 仕事から家に帰ると、中が騒々しかった。


 主に聞こえる声はロジェとディー。ときどきライラ。


 あの二人は何を言い合っているんだ?


 俺が入ると、小走りでライラが駆けてきた。

 ずいぶんと所帯じみた仕草が板についてきたものだ。


「おかえり」


 付近に誰もいないことを確認して、素早くちゅっと俺の頬にキスをした。


「ああ、ただいま」


 奥に視線をやると、察したライラが「ああ、あれか」と説明してくれた。


「ディーが、首輪の出どころがわかったらしくてな。なぜかロジェがそれで噛みついておるのだ」

「どうせ、ライラに無能扱いされるのが嫌なだけだろう」


 かもしれぬな、とくすくすとライラは笑う。


 首輪がなくなっても、ライラに変化はどこにもない。魔王の魔力は感じるが、以前対峙したときのような刺々しさや禍々しさはこれっぽっちもない。


 俺と暮らすことで、毒気が抜かれたのだろうか。

 出会ったときはまだ『魔王』だった。

 これが、ライリーラ・ディアキテプ本来の気配なのかもしれない。


 リビングのほうへ行くと、二人の話し声は大きくなりはじめた。


「ロラン様、おかえりなさぁい」

「もう帰ってきたのか、ニンゲン」


 ほわんとした微笑を浮かべるディーとちらっとだけ視線を寄こしたロジェ。

 対照的な二人の態度だった。


 テーブルの上には、壊れた首輪が置いてある。


 元々これを持っていたのは勇者パーティのセラフィンで、効果を知って俺が預かることになった。

 もっともその当時は、本当にそうなのか試すこともできなかったので、効力については半信半疑だった。

 どこで手に入れたのかは、今となっては曖昧だ。

 古い遺跡だったと言っていたような気もするし、露天商がそうだと知らず叩き売っていたと口にしていたような気もする。出所をそこまで真剣に考えたことがなかった。


 勇者パーティの一員だった彼女は、あれからまだ顔を合わせていない。

 王城の酒蔵を自分の部屋のようにしているとランドルフ王から聞かされたが、なんとも『らしい』話だ。居場所は知っていたので、用がない限り顔を見ようとは思わなかった。

 俺が健在だという話もセラフィンは耳にしているだろう。


「ディー、首輪が何なのかわかったのか?」

「ええ。これなんだけれど……」


 説明をしようとすると、ロジェが首輪を取った。


「直す必要はない。ライリーラ様は、今や完全体……。力を抑止するようなものを、キャンディス、おまえはどうして直そうとする」

「だってぇ……本人がほしいって言うんだもの。気に入っていたみたいだしぃ。ねえ、ライリーラ様ぁ?」


「う、うむ……」


 いつの間にかリビングの入口にいたライラが歯切れの悪い返事をする。


 ディーの目が笑っていた。


「ご本人たっての希望だとしても……ワタシは、ライリーラ様の身の安全を第一に考えている。どうか、ライリーラ様、ご再考を……」

「ロジェ隊長は真面目ねぇ」

「うるさい」

「安全だなんて、ロラン様がそばにいればそこが世界で一番安全じゃなぁい。それにぃ」


 ちらっとディーが満面の笑みでライラに目をやった。


「ロラン様のおそばにいたいと思うライリーラ様の乙女心を踏みにじるわけにはいかないわぁ~」


 演劇か何かの歌うようなセリフに、ライラが顔を真っ赤にした。


「~~~っ!」

「き、貴様! ライリーラ様がまた赤面されてしまったではないか!」

「だってぇ、本当のことなんですものぅ」

「ライラ、そうなのか?」

「おい、貴様もだ! 直球で本人に尋ねるな! 唐変木!」

「ち、違う……。猫の姿は、慣れるとあれはあれで便利でな……」


 顔を背けながら、小声でもにょもにょとライラは言う。


「あらあら、まあまあ。ライリーラ様ったら、素直になれないなんて、乙女ねぇ」

「ぐ……。我が主の可憐さは青天井か……!?」


「エイミーのスキルを封じる魔法を考案したように、首輪を直す魔法は作れないのか?」

「うむ。それなのだ。首輪の内側にある術式は、どうやら魔族由来の技術ではないことがわかった」

「となると、人間の技術ということか?」


 ライラは首を振った。


「いや、ニンゲンの技術であれば、妾が術式を理解できぬ道理はない。それで、ディーに見てもらったのだ」

「何か心当たりがあるふうだったな」


「今日ギルドで明言しなかったけれど、確認してわかったわ。おそらく吸血族の古いまじないに近い術式みたいなのよぅ」

「ライリーラ様、吸血族などという陰険な種族より、エルフ族のほうがよっぽど技術は――」

「ロジェ、そなたは黙っておれ。そなたは妾が首輪を直すのに反対なのであろう?」

「うっ……」


 主に冷たい目をされたロジェは首をすくめた。


「わたくしも、その手の技術に詳しいわけではないけれど」

「吸血族というのは……魔族の亜人種のような扱いでよかったか?」

「その通りである」


 人族の亜人種にエルフやドワーフ、獣人がいるのと同じように、魔族にも細かに種族が派生している。

 ロジェが変化させていたダークエルフ族を筆頭に、吸血族、妖精族、鳥獣族、死霊族などがいた。


「ディー、これを直せる者は吸血族にいそうか?」

「ううん……さすがに探してみないとわからないわぁ。首輪自体古いものだし……」


 吸血族は、ライラのような魔族とはその特異性から一線を画していると聞く。


「妾がついて行くのはよくないであろうな」

「それがいいかもしれないわぁ」

「なぜだ?」

「あくまでも亜種族であるからな。これでも妾は元魔王。魔族の王が付近をウロついていれば、変に警戒させてしまう」


 ちらりとロジェに目をやる。

 魔族と吸血族の関係は、人間とエルフ族の関係に近いのかもしれない。

 全面的に友好関係と言えないあたりがとくに。


「古くから生きている吸血族は、まだ魔族に対してわだかまりがあるみたいだから、そのほうが賢明だと思うわぁ」

「ディーの嗜虐性も、吸血族ゆえのものであろう。おそらく首輪もそのために作られたのではないか?」

「わたくしもそう思うわぁ。純血種である魔族と亜種である吸血族の歴史よねぇ~」


 人間の俺が知らない根深い何かがあるのだろう。


「魔力を反比例させるという効力は、人間ではなく魔族に使うのを想定したものであろう」


 さっきから静かだな、と思って見やると、ロジェが膝を抱えて丸くなっていた。


「ワタシは、ライリーラ様を思って……」


 ぶつぶつと文句を言っている。


「どうしましょう。このままだと、ロジェ隊長みたいな魔王様信奉派が連れ戻しに来るでしょうし……」


 いずれにせよ、ライラが今の生活を続けるためには首輪が必要ということらしい。


「ディー、一人で問題ないか?」

「問題はないけれど、わたくし『ゲート』が使えないのぉ」


 ライラは難しい。俺がついていってもいいが……。


「ロジェよ。頼めるか? そなたしかおらぬのだ」


 ピクピク、と長い耳が反応した。


「妾は行けぬし、ロランもギルド職員の仕事がある。でなくても、激戦のあとである。妾のために負担はかけたくはない」


 ちょっとだけ顔を上げたロジェ。


「本意ではないであろうが、そなたしかおらぬのだ」


 これが決定打となった。


「――――わっかりましたッ! このロジェ・サンドソング、命に従いキャンディスと手がかりを探して参ります!」

「うむ! それでこそロジェだ!」

「はッ! 吉報をお待ちください!」


 善は急げと言わんばかりに立ち上がったロジェは、勢い勇んでリビングを出ていった。


「ロジェ隊長、どこへ行くの~?」

「吸血族がいそうなところだ! はっはっはっは! キャンディス、ワタシについてこい!」

「それはこちらのセリフよぅ」


 ディーも席を立ってロジェのあとを追った。


 二人きりになったところで、ライラがソファの隣にやってきた。


「本当にいいのか、首輪」

「うむ。妾に『魔王』は荷が勝ち過ぎていたのだ。……い、今のほうが、よほど幸せである……」


 照れながら膝をすり合わせるライラ。

 今のところ、まだ家事のほうが荷が勝っていそうだが……。


「おまえがそう思ってくれるのなら、それでいい」

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