表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

155/230

世界最高のスキル8


 ◆ロラン◆


 完全に虚を突いた。


 閉店間際の道具屋で買ったナイフで背中から心臓を一突き――。


 殺った。


 確信したとき、ガキイイン、と半透明の防御壁が三六〇度に展開された。


 ガッ、とナイフの切っ先はわずか数センチのところで防がれ、体を貫くには至らなかった。


 これは――ラビの――。


「『ディスペル』」


 バリン、と防御壁を破壊はしたが、そのときには、彼女は数メートル距離を取っていた。


「……」


 千載一遇の好機を逃がした。痛恨だった。


「ロラン」


 アルメリアが、余るほどの安堵したような表情を浮かべた。

 緊張の糸が切れてしまったらしく、ふっと脱力し、膝から崩れる。

 それを支えてやり、離れた場所まで連れていった。


「よく頑張ったな」


 気を失っている弟子の頭を撫でて、労いの言葉をかけた。


 アルメリアが、どれだけピンチでも、ただただ、一撃で仕留めるために様子を窺い続けたのだが……不発に終わった。


「やっぱり、『スレイド』はあんただったんだね」


「……久しいな。エイミー」

「ちゃんとモイーズの家に行ったか?」

「いや」

「悪い子だ」


 色気のある笑みをエイミーは覗かせた。


 あの頃から、その美貌はまったく変わっていない。


「モイーズと知り合いだったってことを知って、罠を張ってみたんだが、かかったフリで勇者の戦闘を見守っていた、ってところか? アタシを確実に殺せる瞬間まで息を潜めて」

「その通りだ」


 アルメリアを守るだけなら、罠だろうと予想がついた時点でそばで護衛すればよかった。

 だが、それではいつまで経ってもエイミーの影からは逃れられない。


 懸念した唯一は、アルメリアがどれほどエイミーとの戦闘を続けられるかだったが、稽古を繰り返しただけあって、スキルを使われない限りはエイミーの動きについていけていた。


「ラビ……ラビシアにスキルの使い方を教えたのも、あんたか」

「そんな子いたっけ」

「さっき、俺の攻撃を防いだスキルを持っていた少女だ」

「あぁ、バルバトスの魔法使いの」


 ようやく誰か思い出したようだった。


「いい子だったよ、真面目で」

「だろうな。俺のスキルが何なのか教えてくれたのもあんただった」

「別に、ロランだけが特別じゃない。みんなにしてることさ」


 ああ、そうだろうな。そうやってあんたは――。




『一回盗られてるね、アンタの技能』




 スキルを以前見てくれた占い屋はそう言った。


 きっと一時的に借りるのだろう。

 一定時間後にそれは返却される。


 そのあとは――。


「見ていたが、何度か使ったな、俺のスキルを。『影が薄い』の使い心地はどうだ?」

「外れも外れ、大外れのスキルだよ」


 覚えている。あのときとまったく同じセリフだ。

 きっとそのときだろう。俺のスキルを写したのは。


 三度目の任務のとき、回復スキルのようなものを使ってくれたから、その類いなのだろうと勝手に思い込んでいたが、そうじゃないらしい。


「『複写コピー』のスキルからすれば、俺のスキルの評価はそんなものだろう」


 そういうスキルがあるらしい、というのは耳に挟んだことがあるが、実際お目にかかるのははじめてだ。しかもその相手が顔なじみだったなんてな。


「世界最高のスキルだよ」

「俺を……孤児を引き取って育てていたのも」

「そうさ。スキルが発現するまでの期間だけ預かって、写した『スキル看破』で何を持っているのか視て、使えそうなら写すし、そうでないなら、さようなら」

「……外れだ何だというが、その割に、俺のスキルはずいぶん気に入っているらしいな?」

「言っただろう。使い方次第じゃ十分に化けるって」


 そうだったな。


 改めて対峙すると、正面から受ける重圧に思わず眉が動く。

 同時に、懐かしさが胸に去来する。


 山奥の家。訓練の度に、跳ね返され、足蹴にされ、投げ飛ばされ、昏倒させられた。

 何度も何度も。春も、夏も、秋も、冬も。


 巨大な壁のような人……今でも体以上に大きく見えてしまう。

 俺の原点で、俺を作った人。


 アルメリアを守りさえすれば俺の勝利……だが、ここで逃がすわけにはいかない。


「ギルド職員なんてやって……今さら何のつもりだい。アタシらは、永遠に裏の世界の底に居続けるんだ。居場所なんてないんだ」


「……」


「ロラン……アタシをがっかりさせないでくれよ」


 動いたと同時に、俺も一歩を踏み出す。


 スキル『影が薄い』発動。


 初手から全力で殺しにいく。


「手の内はわかってんだよ――!」


 何かのスキルを発動させた。

 背後と見せかけ、正面から迫った俺の顔を見て、エイミーは楽しそうに笑った。


 切っ先どころか、手を伸ばしてもエイミーに届かない距離で、何かにぶつかった。山のように重くて大きな何か――。


 それが何なのか、すぐにわかった。俺がぶつかった箇所は、虹色の波紋が広がっている。

 これは、ベクターの『絶対防御(インベンシブル)』――!


 やつを殺したのは、エイミーだったんだろう。


「どうだい? 最高の自動発動型の防御スキルは」


 俺がそれを破ったことがあるとは、知らないらしいな。


 スキル『影が薄い』を発動。


 正面、背後、左右と駆けまわり、スキルを連発。


 認識阻害と至近距離での高速移動。視認は容易ではないはずだ。それを知っているからこそ、自動発動型の防御スキルを展開したのだろう。


 ……自分を殺せ。エイミーへの感情も、すべて。


 ただの、無機質な刃であれ。



 無に。


 なれ。



 左側から仕掛けた。

 やはり『絶対防御』は発動しない。


 切っ先。届く――!


 エイミーのかすかな焦りを目の端で捉えた。


「ッ」


 相変わらずの反応速度だった。

 ナイフを握る手が蹴り上げられる。

 衝撃で思わずナイフを離してしまった。鈍色の刃が宙で一度月夜を反射した。


 俺の手の内は知られているが、エイミーの手の内は……考えるだけ無駄だろう。


 アルメリアに投げたナイフを回収していてよかった。


 背中から取り出したそれを一文字に切り上げる。


 銀閃がエイミーを左右に両断するが、触れたのは前髪だけだった。


「ロラン、あんたはもっとギラついていた。けど、くすんじまったらしい。別れる間際のあんたなら、今のは仕留められた。弱くなったね」


 ああ、そうかもしれない。


『影が薄い』を再び発動。


 同時に、目の前にいるエイミーも消えた。


 舌打ちを禁じえない。


 眼前でやられるのが、これほど厄介だとは。

 自分のスキルながら恨めしくなる。


 バヂ、と離れたところから物音。

 エイミーは手の平を俺へとかざしていた。


 紫電が手の平を中心に爆ぜる。


 あれは――。


「『インディグネイション』」


 俺がいるであろう一帯に放つ気だ。

 爆裂音とともに放たれた勇者の最強攻撃スキル。


 一足飛びで家屋の柱を伝い、屋根に上がる。何度も見たスキルでなければ、直撃だったかもしれない。

 それと同時に、俺は当時にない違和感を覚えた。


「……エイミー。あんたは、弱さを捨てることを強さとした。暗殺者の教育としてはきっと間違いではなかったんだろう」

「今さら感謝したくなったか?」

「だが、おまえが信じた『強さ』は俺にはもう必要ない」


 居場所も、帰る場所も……俺たちにはなかった。

 あったのは、山奥のほんの少し羽を休める小屋。標的と報酬。血と鉄のにおい。背中合わせに眠った体温の温かさ。


「俺が暗殺者をやめて望んだこと――『普通それ』を弱いと言うのなら……俺は、弱さを手に入れようとしている。これはおまえのモノサシでは測れない『強さ』だ」


 最高品質の殺しでないと、俺の刃は届かない。

 体力的にも精神的にも消耗が激しい。



 ――であれば次の一撃。



 それが最後になるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
― 新着の感想 ―
[一言] とっても面白いです!続きが気になりすぎる! 文章もストーリーもしっかり作られていて、どんどん引き込まれました。 読ませてもらえて感謝してます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ