閑話 ここがヘンだよ『普通』の仕事
職員になりたての頃の、ちょっとしたショートエピソードです。
「ロランさんは、来週は火曜日と金曜日がお休みですよー。ゆっくり休んで下さいね」
俺の指導係であるミリアが言った。
火曜日と金曜日が休み?
「……ということは、僕は不要ということなんでしょうか」
「え? え? お、お休みですよ? みんなが待ちに待っている」
待ちに待っている?
休みということは、自分は必要とされていないということだ。
「やはり、新人では戦力にならない、と……。初めての業種なので戸惑うことは多いのですが、自分なりに懸命に励んだつもりです」
「な、なんか内容が重いですっ!? ロランさんの頑張りは、わたしがよく存じてますから、安心してください。楽しい楽しいお休みですよー」
楽しい? 楽しいのか?
…………『楽しい』って、何だ????
「仕事を休むのは、『楽しい』んですか?」
「はい……わたしはそうですけど。朝はベッドでだらだらしたり、二度寝をしたり、その前日は夜更かしができたり!」
「……」
「あ、あれ……? ぴ、ピンと来てないって顔をしてます!? 二度寝ですよ! お仕事がある日には許されない、二度寝!」
何をそんなに力説しているんだ……? そして、『楽しい』……。
ニドネというのは、そんなにスゴイのか。
――ま、まさか、薬物の類いか……!?
「??」
こんな町娘の代表みたいな顔をして。
だが、人は見かけによらない、というのは前職で嫌というほど経験した。説得力に欠けていたとしても納得するしかあるまい。
たしかに仕事がある日には、ニドネはキメられないからな。危険だ。
どのルートでそれを手にしているのか、調査しておく必要があるな。
せっかく居着いた『普通』の町を薬漬けの町にするわけにはいかない。
「しかし、休めば給料が減ってしまうのでは?」
「いえいえ。このギルド職員は月給制ですから、週二日のお休みも折り込み済みなんです」
「休んでも給料が下がらない……!?」
「……あれ、何か衝撃を受けているような」
ミリアの目が点になっている。
「週二日、仕事をしないでもいい……」
「はい。クリーンなお仕事は『普通』そうだと思いますよ?」
「!」
なるほど。それが、ここでの常識……。
仕事をしなくても給料が発生する……不可思議なシステムだな。
「なので、ロランさんは、安心して休んでください。休むのも仕事のうちですから」
「承知しました。職員のプロとして、しっかり休みます」
「はぁーい。そうしてください」
「ときにミリアさん、薬物は己が体を蝕みます。早急にニドネとは手を切ることをお勧めします」
「え? 何の話ですか?? 二回寝ることを、二度寝というんですよ?」
誤解は一瞬にして解けた。
――その日、俺は家に帰ってライラに休日について伝えた。
「ふうむ。まったくもって不思議であるな。休んでよい、と……しかも待遇は変わらない」
「ああ。だが、それがここでの常識らしい」
真面目に顔を突き合わせて、俺たちは『普通』をまたひとつ学習した。




