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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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潜入7


 バルバトスが率いてきたのは、魔法使いと思しき男たち三〇人。


「バルバトス様……っ」


 彼が元上司にあたるラビは、そっと俺の背中に隠れた。


「この物資は、領民たちのために集めた物! それを貴様ら、どうする気だ!」


 下馬し、眉を吊り上げたバルバトスが喚きながらこっちへと向かってくる。


「ん? この魔法は……」


 ラビのスキルに気づいた。やはり、魔法だと思っていたらしい。


 バルバトスが、顎をしゃくると、魔法使いの男が一人前に出てきて、辞書のような分厚い書物を手に、何かを唱える。


 魔法陣が足下に浮かぶと、ラビのスキルはぱっと消えてなくなってしまった。


「誰だ! 誰がこのようなことをさせている!」


 主の声に答えようとした兵士を、俺は手で制した。


「この倉庫に眠っているだけではもったいないので、有効に使える場所へ運ぼうとしているところですが」

「誰だ、貴様! 私の前では、膝をつけ。顔を伏せろ」


 その要望は無視した。


「この町で、特別小隊長として、兵士たちに武芸を教えている者です」

「……下等な脳筋男が」


 吐き捨てるようにバルバトスは言う。相変わらず後ろにいるラビは委縮しっぱなしだった。


 荷運びの作業をしていた兵士たちが、騒ぎを聞きつけて外にぞろぞろと出てきた。


 みんな、領主の顔は知っていたようで、敵意のある視線をバルバトスへ投げかけた。


「……ッ! 何だ、その目は! 戦うしか能のないサルどもが!」


 殺気立ちはじめた兵士たちを宥めるように、俺はバルバトスと兵士たちの間に入った。


「ここは大丈夫ですから、みなさん作業に戻ってください」


 剣呑な雰囲気が和らぎ、兵士たちが背を向けて倉庫へと戻りはじめる。


「貴様らの主人は誰だ!? 持ち場へ戻れ、無能どもがッ!」


 その言葉に、兵士たちが足を止める。


「持ち場? 今戻ってるところだけど」

「反乱を起こすつもりの大罪人が、よく言う」

「少なくともあんたは主人じゃねえよ」

「拾ってくれたことは感謝してるが、オレたちゃ、戦争するつもりで集まったわけじゃねえ」


 バルバトスが眉をひそめた。


「もうみんな知ってます。これをご存じですか?」


 俺は、バルバトスがウェルガー商会のマスターへ送った封筒を取り出す。

 内乱を企図する文章が書かれている例の便箋が中には入っている。


「……知らないな。なんだ、それは」

「これは、あなたがウェルガー商会のマスターへ送った密書です。その内容を、この兵士たちは知っているんです」

「知っている? 何を? 確かに、確かに。私は、かのマスターとは知己の間柄。手紙の一通を送ることに何かおかしなことでも? 否、ないであろう。――そんなもの、どこで手に入れた!」


 なるほど。こうして話をそらす気か。


「――おい、荷運びをやめさせろ!」


 バルバトスが鋭く叫ぶと、部下が返事をして倉庫のほうへと向かう。


 俺は首をすくめているラビの頭を撫でた。


「大丈夫だ。何かあっても俺がおまえを守る。だから、存分にやれ」

「……うんっ」


 大きくうなずいたラビが、再びスキルを発動させる。


「『フォースフィールド』」


 ガキィィン、と倉庫と魔法陣を守るように、半透明の防御壁が現れた。

 じろり、とバルバトスがラビを見る。


「やはりおまえか――! 任務を失敗し逃げ出したと思えば、今度は私の邪魔をする。ロクに使えない雑魚がッ! 私に歯向かうなどッ、言語道断であるッ!」


「わたしは……任務も失敗して逃げちゃったけど……悪いことは、悪いと思うから……!」


 声は小さくとも、はっきりと反抗の意思を示した。

 睥睨するようなバルバトスの視線に、またラビが小さくなっていく。


「ここで生活の面倒をみてやった私に言う言葉がそれか!? 身の程を知れ! 恥を知れ!」


 怒髪天を衝くといった様子のバルバトス。

 かなりプライドが高い男のようだ。

 自分が下に見ている者から搾取するのは当然という価値観なんだろう。


「何を言われても、構わない……わたしは、今、力になりたい人がいるから……」


「膜みたいに薄い防御壁を出すだけの魔法しか使えないおまえが? 力になる? 笑わせるな!」


 怒声を張り上げるバルバトスの圧力に耐えかねて、ラビが肩を震わせて泣き出した。

 俺はラビから視線をバルバトスに戻した。


「……防御しかできない――確かに、使う機会は限定的で……だからこそ、使いどころがあるんです。現にこうして、あなたたちの邪魔ができている」


「黙れ! この膜をまた破壊して、おまえから処刑してやる」

「ご自由にどうぞ」


 ギリッとバルバトスが奥歯を噛んだ。


 俺はほんの少し殺気を滲ませながら言った。


「おまえこそ、ラビの何を見ていた。生活の面倒を見た? 衣食住を与えることを面倒を見るとは言わない。その程度で主人面か? ――笑わせるなッ!」


 見えない強風が吹きつけたかのように、バルバトスとその部下たちが後ずさりして、尻もちをついた。

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