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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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潜入6


◆Another Side◆



 古城の一室にいたゲレーラ伯爵の下に、部下が一人駆け込んできた。


「バルバトス様!」

「何だ、騒々しい」


 執務用の机から顔を上げたゲレーラ伯爵は、煩わしそうに部下を見た。


「倉庫の物資は――どこかへ移送するのですか?」

「倉庫の物資?」


 物資といえば、大量の食糧と武器。

 いずれもフェリンド崩しに備えて、様々な場所から密かにかき集めている物だった。


「移送などしない。まだ使い時ではないからな」


 羽根ペンにインクを付け、書類にサインをしようとしたときだった。


「兵たちが、倉庫からその物資を持ち出そうとしております」

「何?」

「この町だけではなく、他の町でも同様のことが起きていて――バルバトス様の指示なのかと」

「そんなわけないだろ! やめさせろ!」

「は!」


 そう言って、部下は大慌てで部屋から出ていった。


「兵が勝手に……?」


 そうだとして、それをどうする。

 倉庫に貯めに貯めた物だ。一朝一夕で移送することは難しい。


 ゲレーラ伯爵は、窓の外を見る。ちょうどいくつかある倉庫のひとつを目にしたときだった。


 倉庫の中から、淡い緑色をした魔力の粒子が微かに出ていた。


「な、何が起きてる――――?」


 部下に止めに行かせたが、勝手なことをしているのは、一人や二人ではないだろう。


 手元にある鐘を鳴らすと、男が一人、背後にすっと現れた。


「部下を率いて様子を見に行く。私自ら粛清してやる……! 護衛を頼む」


 小さくうなずいた男は、音もなく消えた。



◆ライラ◆



「ライリーラ様、ここです、ここ。ここが最後の一か所です」

「さっさと陣を描くぞ、ロジェ」

「はい! お願いします」


 ロランからもらった地図に記された倉庫に、ライラとロジェはやってきた。


「まったく、あの男も人使いが荒い」

「だが、あまり頼み事をしないあやつに頼られるというのは、悪い気はせぬ」

「ライリーラ様が甘やかすから、やつが調子に乗るのです」

「まあそう言うな。妾たちが密かにやろうとしていることと被る部分もある」


 それはそうですが、と窘められたロジェは不満そうに言う。


『「ゲート」を使って大規模な移動をさせられるのは、おまえだけだったな』


 先日、帰ってきたと思ったら、いきなりロランにそう訊かれた。


『うむ。妾だけであるぞ。陣の中に入る物であれば、何でも移動させられる』

『おい、ニンゲン。貴様、ライリーラ様に何をさせるつもりだ?』


 不審そうにロジェが訊いた。


『一万人が半年近くは食っていけるほどの、大量の食料を奪う』


 何をするのかと思えば、食料や武器を一斉にバーデンハーク公国に送るのだと言った。


『指定した倉庫のそばに、巨大な「ゲート」の陣を描いてくれ。それだけでいい。ロジェ・サンドソング、おまえはその間ライラの護衛だ』


 それを聞かされ、はりきったライラは、魔法陣を描くには最適と言われる魔法塗料を魔界から取り寄せ、今日この日に備えていた。


「しかし……誰も止めに来ませんね……」

「よいことである」


 倉庫近くに人けはなく、誰も来そうにない。

 その間、ライラは着々と巨大魔法陣を描いていく。


「物資を奪われる、ということは継続して戦うことができない、ということである。物資の重要性をよく理解した、戦わずに勝つ作戦であるな」


「ひと悶着なければ、ワタシの活躍の場が……!」

「戦いなど、起こらぬほうがよい。起こさぬほうがよいのだ」


 作業の様子をロジェが見ると感嘆の声を上げた。


「さっすがライリーラ様です! 美しい魔法陣です」

「うむ! 陣が乱れればそれだけ、魔法の失敗率が上がる。せっかくの物資を、亜空間に放り出してしまうのはもったいないからな!」


 はははは! と高笑いを響かせたとき、ぞろぞろ、と兵士がやってきた。

 その数は、一〇〇人ほどだった。


「もうできてる。先生の話じゃ、この魔法陣の中に物資を置けばいいんだとよ」

「よぉーし、領主サマの部下たちが来ねえうちに運んじまおう!」


 おぉ! と兵士たちが声を上げた。


 最初に描いた魔法陣がある方角から、魔力の粒子が立ち上っているのが見える。


「はじまったらしいな」

「ライリーラ様、長居は無用です。ささ、ワタシの『ゲート』でバーデンの城へ戻りましょう」


 ロジェに案内されるライラは、うむ、とうなずいた。



◆ロラン◆



 ライラが描いた『ゲート』……と呼ぶにはあまりにも大きな魔法陣の端に手を触れる。


 その陣内には、先ほど運び込まれた山のような物資の木箱が置いてあった。


 俺が魔力を流すと、淡い魔力の粒子が立ち上る。

 魔法陣に魔力が満ちると、シュゥウン、と静かな音を立てて物資は消えた。


 ライラが失敗していなければ、バーデンハーク公国の王都へ移送されることになる。

 魔法に関してはライラを信頼しているので、まず間違いはないだろう。


 俺と一緒に行動する小隊の兵士たちが、口を半開きにしていた。


「き、消えた……」

「巨大な転移魔法みたいなものか……」

「こんな大きな魔法陣だと、軍団単位で転移させられるぞ……」


 ゲレーラ領の兵士の大半が、俺の反乱阻止に賛成してくれており、待ったをかける者も邪魔をする者も、今のところ誰もいなかった。


 その兵士たちは、今ごろライラが描いた魔法陣に物資を運び込んでいるところだろう。


 さっきまであった魔法陣がどんどん薄くなり消えていった。

 誰かに使わせないように、ライラは魔法の発動を一回きりに設定したらしい。


 消す手間や万が一の悪用を防ぐためか。相変わらずよく気の回る女だ。


「次の場所へ行こう」


 魔法陣が消えると、周囲を警戒させていた兵士たちに呼びかける。

 彼らが素早く集まり、全員で移動を開始した。


 準備が整いさえすれば、魔力を流すだけで物資が転移するので、誰でも魔法を発動させられた。


 このあたりの汎用性の高さが魔族らしい魔法の特徴だった。

 人間の魔法は、それぞれ独自の魔法陣の解釈があったり、考えがそれぞれ違ったり、手順があったりと、難解なものが多く、魔力を流しても発動しないことが多い。


「おーい! ロラーン!」


 二か所目の倉庫が見えてくると、遠くからラビが手を振っているのが見える。


 ライラに言って、連れてくるように頼んでおいたのだ。


 この『反乱』で重要なのは、バルバトスが蓄えた物資を持ち出すこと。

 ラビのような、防御や時間稼ぎができる人材は、今回の作戦にはうってつけだった。


「首尾はどうだ」


 そばまで近づき、ラビに尋ねた。


「うんと……ちょっと量が多いみたいで、まだ全部が持ち出せたわけじゃないみたい」


 すでに山のように積まれているが、これでまだ半分程度なのだという。


 俺は小隊の部下たちに手伝うように指示を出した。

 物資の量は、報告では聞いていたが、実際目の当たりにすると相当な量だった。


 場所によっては、夜中から作業をさせているんだが。


「『フォースフィールド』」


 ラビがスキルを発動させる。

 倉庫と魔法陣が描かれた一帯を防御壁で覆った。


「これなら、みんな安心して作業できるでしょ」


 一仕事終えたような、デキる女みたいな顔でラビは言った。


「そうだな」


 倉庫は全部で八か所。

 ライラには、そのそばにそれぞれ魔法陣を描くよう指示を出しておいた。


 ここを入れてあと七か所。


 俺は領主がいるとされる古城に目をやった。


 長時間の作業。命令無視の兵士。領主サマにバレないわけがない。


 量が多すぎるため、密かに物資を転送することは諦めていた。


 それならいっそ堂々とやって見つかればいい。


 直系の部下が来たとしても、こちらは頭数が多い。言うことを聞かないとなれば、バルバトスは古城から必ず出てくるはずだ。


 馬蹄の響く音が聞こえてきた。


「……早速のお出ましだ」


 先頭を馬で走る貴族らしき風体の男が、バルバトスだろう。


 物資を持ち出されることで、バルバトスの企みは潰える。

 その物資は、不足しがちなバーデンハーク公国へのプレゼントだ。


「貴様ら――――ッ! そこで何をしている――――ッ!」


 身を守るため、罠や魔法で古城を要塞化していても、そこから出てきてしまっては何の意味もない。

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