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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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賞金首6


 俺が名乗ると、青髪の少女はラビと名乗った。

 人質の居場所を尋ねると、完全に心が折れていたこともあり、素直に教えてくれた。


 元々は普通の民家。

 地下室があるわけでもなく、ただの部屋に、お得意の防御魔法を張って閉じ込めていた。


 部屋には、幼い女の子がそこに一人いたが、乱暴をされたわけではないようで、むしろラビによく懐いていた。


「おねーちゃん、どこかいくの?」

「うん。シルちゃんのお父さんのところ。帰れるんだよ」

「はーい」


 アムステルの娘の名前はシルフィンだったな、と俺は今にして思い出していた。


 年の離れた姉妹のように、手を繋いで二人は部屋から出てくる。


 あらかじめアムステルの町に『ゲート』を設置していたので、現場から二人を連れて一気にジャンプした。




 先日来た屋敷までやってくると、俺たちに気づいたアムステルが外に飛び出してきた。


「シルフィン」

「あ、パパ!」


 てててて、と走ってきた娘をアムステルは抱き上げた。


「よかった……何ともないかい?」

「うん。だいじょうぶ」


 よかった、よかった、と何度も言うアムステルの目には涙があった。

 いよいよバツが悪くなったラビが、こそっと俺の後ろに隠れる。


「ありがとう……頼んでからこんなに早く娘を取り戻してくれるなんて」


 差し出された手を俺は握り返した。


「いえ。無事でよかったです」

「そちらの子は?」


 ラビが首をすくめる。


「ああ……。今回の人質救出を手伝ってくれた子です」

「え? でも、あの、私……」


 シルフィンが無邪気に手を振っていた。


「おねーちゃん、ありがとう」

「ええっと……あはは……」


 困ったような笑顔でラビも手を振り返す。


「そうでしたか。娘の件、ありがとうございました。お二人にはどうお礼をしていいのやら」


 ペコペコ、と何度も頭を下げてお礼を言うアムステル。

 せめてものお礼に、とお茶と菓子をご馳走してもらうことになった。


 俺もラビも不要だと断ったのだが、是非に、と言って譲らなかったので、仕方なく屋敷に招かれることにした。


「わ、私はいいよ。帰るから」

「おまえも来い。……そして罪悪感に押し潰されればいい」

「うぅぅ……」


 ここから逃げたくて仕方ないラビを捕まえ、一緒に客間に入った。

 運ばれてきた紅茶とお菓子を食べながら、世間話や救出時の話をすることになった。


「調べたところによると、誘拐犯たちはウェルガー商会の人間だったようです」

「ウェルガー商会の……!?」


 アムステルが目を剥いた。


 俺はソファの隣に座るラビを肘でつつく。

 俺も知らない部分がある。ラビの口から説明させたほうが早い。


「あ、ええっと……はい。ウェルガー商会は、犯罪組織のような一面があって……さらったのは商会の人たちなんですけど、今回、商会とは別に指示をした人がいたんです」


「指示をした人……?」


 これはベイルも言っていた。あくまでも商会は実行部隊で、別に黒幕がいる、と。


「はい。フェリンド王国の貴族で……」


 フェリンド王国の貴族?

 思わずラビを見ると、「えぇぇ……どうしよぅ……コレ言っちゃっていいのかなぁ……」と涙目になっていた。


 俺はまた肘でラビをつつく。こっちを見た彼女に顎をしゃくった。


「言え」

「うぅぅぅ……絶対大変なことになるよぅ……」

「いいから言え」


「そんな怖い顔しないでよぉ、言うよ、言うってばぁ……。その指示した人は、バルバトス・ゲレーラ伯爵……って人でぇ……。――これ、内緒、絶対に内緒のやつだから!」


 しー、しー、とラビは唇の前で人差し指を立てる。


「バルバトス……ゲレーラ……伯爵……」


 名前くらい聞いたことはあるが、人物像等はわからない。


「アムステルさん、そのバルバトスとは何か関係が?」

「いやぁ……私は何も。今はじめてその名を耳にしたよ」


 その伯爵と無関係なら、アムステル親子は完全に巻き込まれただけということになる。

 アムステル名義でクエストを依頼させることで、自分の情報を遮断しているあたり、かなり慎重な性格らしい。


 それに、俺とも無関係だ。

 俺のことを知っている誰かが名前を変えているだけなら、話は別だが。


「こ――これってば、本当にヤバイ情報なんだからね! 内緒、内緒だよ! 絶対!」

「ああ、わかったわかった」

「わかってない人の返事じゃんそれ! 約束して! 誰にも言わないって。指切りしよ、指切り」


 真剣な顔でこっちをじぃぃぃぃっと見てくる。

 ずっと小指を立てて待っているので、仕方なく俺は指切りをしてやった。


「嘘ついたら針千本、呑ーます!」

「それくらいでいいなら、いつでも呑んでやろう」


 絡めた小指を上下に振りながら、ラビが目を点にした。


「え? の、呑めるの?」

「いや……何でもない」

「?  と、ともかく。――ゆーび切った。……ふう、ピンチ凌いだ……」


 ラビは爽やかな笑顔をしながら、手の甲で額をぬぐっている。


 指切りをどれだけ信用してるんだ、こいつ。

 自分の仕事は終わったとばかりに、クッキーを頬張りバリバリと食べ、それを紅茶で流し込んでいた。


「アムステルさん、これで、クエストの取り下げができますね」

「ああ、そうだね。懸賞金なんて支払うハメにならなくてよかったよ」


 その賞金首が今目の前にいる俺なんだがな。


「しかし、いつからウェルガー商会は、おかしな組織になってしまったんだろうな……。さすがに犯罪組織の一面がある、というのは初耳だったが」

「……以前は、違ったんですか?」


「ああ。もちろん。私がいたころは、みんな懸命に働く健全な商業ギルドだったんだけどね」


 アムステルは懐かしむような目をして、小さく笑った。


「ウェルガー商会に、いた……というのは……?」

「ねえ! 聞いて! このチョコチップ入ってるクッキー、超ぉ~美味しくってぇ――」

「一生食ってろ」


 そのチョコチップ入りのクッキーを数枚、ラビの口に詰め込んだ。


「いたというより、私が以前は商会長……ギルドマスターだったんだ」


「ちなみにそれは、いつごろまで?」

「バーデンハーク公国が滅びる前の話だよ。以前は、王都イザリアに大きな屋敷があって、主要各地にはウェルガー商会の商館があったんだ」


 アムステルは、カップに口をつけて、ゆっくりとソーサーに置いた。


「詳しく教えてください」

「つまらない話だよ?」


 苦笑しながら言うアムステルに、俺は「構いません」と告げた。


「元々、私は貧乏な家の農夫で、貴族なんかじゃなかった」


 農夫として日々を過ごしていた少年は、一念発起して行商をはじめたそうだ。

 運がよかった、とアムステルは言うが、商才があったんだろう。


 陳腐なまとめ方をするなら、貧乏農夫だった少年の成り上がり物語。


 儲かっていた行商をやめ、店を持ち、それが儲かり大きくなっていった。そして、ただの一商店は巨大な組織になり、名を『ウェルガー商会』に変えたという。


 各地で商売の細かいルールがそれぞれあったので、アムステルはそれを統一するため、爵位を買い貴族になった――。


「だけどそのころ、私を補佐してきたサブマスターの男にトップの座を奪われ、自分で作ったはずの商会を追われることになった。そして、この通りだ」


「今のマスターになってから、ウェルガー商会は裏の商売に手を出しはじめたのか……」


 話が一段落したところで、俺とラビはアムステル家を辞去することにした。

 見送りに出てきてくれた親子二人に手を振って、背をむけて歩き出す。


「ねえねえ、どこ行くの?」

「家に帰る」

「つ、ついていっちゃ、ダメ……?」

「ダメだ」

「うっ、即答……。わ、私、もう帰るところがなくて……任務に失敗しちゃったから……」


「商会の人間なんだろ、おまえ」

「違いまーす。ゲレーラ伯爵お抱えの魔法使いだもーん」


「ゲレーラも見る目がないな。こんなポンコツ魔法使いを抱えるなんて」

「ひど! 失敗して帰ったら殺されちゃう……。責任取ってよぅ!」

「自業自得だろ」

「そんな言い方しなくたっていいじゃん! え、えっちなこと、してもいいよ……?」


「ガキに興味はない」

「が、ガキじゃないもん……」


 ついてこないことに気づいて後ろを振り返ると、ラビがその場で服を脱ぎ、下着姿になっていた。


「み……見てよ……ちゃんと大人だから……」


 唇を少し噛んで、うつむきがちに頬を染めている。

 俺はため息をひとつついて、ラビに近寄り上着をかけた。


「覚えておけ。自分を大人だと言い張るやつほど、子供なんだ」


「うぅぅ……オトナの男って感じで……かっこいい……」


 こいつはこいつで、必死なんだろう。その根性と覚悟だけは認めてやろうと思った。


「ついて来るなり何なりと、好きにしろ」

「ほ、ほんと!? ありがとう! ロランっ」


 ラビと一緒に、俺は自分の部屋がある王城へと帰る。


 あれが家だと言ったとき、ラビが驚いてひっくり返ったのは言うまでもないだろう。



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