表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/230

賞金首2


 殺した男は全員暗殺者のようだった。


 いつか俺が、ランドルフ王に護衛のことで提案したことがあった。

 蛇の道は蛇に訊く。

 暗殺を防止するために、暗殺者を護衛に置く――これが一番理に適っている、と。


 俺は見当をつけていた主の部屋の前まで行き、扉を開けた。


「だ、誰だ……!?」


 隠れているらしく、机の下から声がする。


「僕の質問にお答えいただければ、手荒な真似はしません。約束します」


 そおーっと机の上から顔が出てきた。

 目が合うと、俺は敵意がないことを示すため、両手を上げた。


 怯えたような表情で脂汗をかく男は、ようやく机の下から出てきて椅子に座った。

 俺はソファを指差した。


「掛けても? アムステル元伯爵でよろしいですか?」

「あ、ああ。私だ……」


 何から話していいか迷ったが、単刀直入に尋ねることにした。


「裏ギルドの職員から、あなたの名前を聞きました。賞金首の件です。地下闘技場が破壊され、何か不利益を被ったんですか?」

「そ、そっちか……」


 そっち?


 ふう、と大きく息をついたアムステルは、ハンカチで汗をぬぐった。


「君は、裏ギルドとやらの斡旋でここまで来たのかい?」

「そんなところです。それで、標的のことをどこで知ったのか教えてほしくて」


 そういうことか、とアムステル。


「質問に答えよう。私は、何の不利益も被っていない。それどころか、そんな地下施設があるなんてそもそも知らなかった」

「待ってください。じゃあ、どうしてあんな依頼を」


「私はただの代理だ。標的のことや詳細はまったく知らない。名を貸してほしいと頼まれて……」

「誰に?」

「何も知らないようだね。私は、最初、君はそっち側の人間だと思ったんだが」


 そっち側? 話がまったく見えない。

 それを察してか、アムステルは一から俺に事情を説明してくれた。


「二か月前のことだ。私の娘が誘拐され、行方不明になったのは」

「娘を?」

「うむ。さらった者は素性を明かさなかった。あちらの要求は、裏ギルドの依頼を私の名前ですることだった。……もちろん承諾した、するしかなかった。その依頼が達成されたとき、報酬の支払いをする。そうしたら娘は返してやる、と……」


 俺を知っているやつは別にいる、ということか。

 どこかで見られたとしたら、地下闘技場だろう。

 観衆の前で俺は一度スキルを使っている。

 その中に、俺のことを知っている存在がいた……?


「あの護衛たちは?」

「ああ……彼らは、護衛でもあるが、監視役でもあった。私におかしな真似をさせないための」

「その護衛は、どこから送られてきたんですか?」


 アムステルは首を振った。


「わからない。いつの間にかこの屋敷の中にいて……。ここに君がいるということは……監視のやつらはもういないのかい?」

「はい。全員殺しました」

「もしかして……君、強い?」

「自分でそう思ったことはありません」


 どこか納得したような顔でアムステルは何度かうなずいた。


「どうか、頼む。娘を助けてほしい」


 本来の依頼主と繋がりがあるのは、その誘拐犯たちか……?


「お礼はできる限りする……! 頼む……! まだ四つなんだ」


 アムステルは立ち上がって、机にぶつかりそうな勢いで頭を下げた。


 俺を知る誰かがいる――。

 たったそれだけで、言いようのない気持ち悪さを感じる。

 そんな人間がいることを知ってしまった以上、排除しておきたい。


「情報が足りません。まずは、どこにいるのか。そこから調べていきます」

「……い、いいのか?」

「僕にとっても、まったく無駄というわけではないので。ああ、ただ、ひとつお願いがあるのですが」

「何だ? 何でも言ってくれ」

「三人の死体処理をお願いします」




「安請け合いをするからだ。たわけめ」


 王都イザリアの城に帰って早々、ライラに毒づかれた。

 部屋に戻ると、黒猫ライラが待っていたので、今日あったことを話した。


「安請け合いをしているつもりはない」

「今度は人質救出か。最近何かと忙しそうだな、貴様殿は」


 つん、と黒猫ライラは顔を背けた。


「忙しいうちには入らない。昼間はギルド職員。他の時間は裏ギルドの裏冒険者だ」

「それでは、眠る時間がないではないか……」


 たしたし、と後ろ足で首輪を引っかく。元の姿に戻せと言いたいらしい。

 首輪を触ると、淡く体が光りライラが魔王の姿に戻った。


「何だ、心配してくれているのか」

「そなたに心配などしても、無駄ではあろうが……そう思うことは止められぬからな」


 ベッドに座ったライラが、自分の膝を叩く。


「妾の膝を貸してやろう」

「体を休めるなら枕のほうが」

「妾の気遣いを何と心得る」


 なぜかプリプリとライラが怒るので、膝を借りることにしてベッドに横になる。


「妾には、そなたが焦っているように感じる」

「焦っている? そんなつもりはないが」

「杞憂ならよいのだ」


 ぎゅっと耳を引っ張られた。


「何をする」

「……他の女に呆けて、妾を構わぬ罰だ」


 しおらしいことを言って、ライラは俺にキスをした。


「ゆ、許しているからと言っても、気分がいいというわけではないからな……」


 ライラはまたちゅ、とキスをしてくる。


「そなたは、何をしようとしておるのだ?」

「俺が感じるこの嫌な予感を放置していると、後々害をなすかもしれない。不安の芽は摘んでおきたい。それだけだ」

「『普通』を脅かす何か、ということか」

「かもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「……貴様殿が描く『普通』とやらの中に、妾はいるのか?」

「今さら何を。そのつもりだ」


 しかつめらしい表情を崩したライラは、膝枕をやめて隣に寝ころんだ。

 くるん、とこっちを向くと、俺の鼻をつまんだ。


「何をする」

「ディーはずいぶん可愛がっているらしいな」

「何が言いたい」

「言ったであろう。どこで何をしようが構わぬ。だが、それ以上に妾を可愛がるように、と」


 じいっと見つめると、頬や目元が赤くなるのがわかった。ライラは、くるんと転がって背をむけてしまった。


 思っていることを口にしたはいいが、恥ずかしくなったらしい。

 俺は後ろから抱きしめて、服の下に手を入れた。


「あ……っ」

「脱がすぞ」

「あ、愛をささやいてからだ……手順を守れ、この大たわけめ……」


 ライラの声が尻すぼみになっていった。

 強引にこちらを向かせ、華奢な肩を抱いたままキスをする。

 服の下に入れていた手を抜いて、顔を離した。


 ライラは物欲しそうな上目遣いでぽつりとこぼした。


「な、なぜやめる……」

「すぐわかる」


 ドンドン、と扉が何度も強くノックされた。


「ライリーラ様ぁぁぁぁあ? お戻りが遅いようなので、このロジェ・サンドソング、お迎えに参りました!」

「そういうことか。……ぐう、ロジェめ……! 空気というものを……むう……」


 おほん、とライラは咳払いした。


「よ、よい、今日は。こ、ここで朝を迎える……だから部屋には戻らぬ」


「ほえ。どうしてですか?」

「ど、どうしてもだっ!」

「は、はぁ……?」


 全然わかってなさそうだったが「そう仰るのであれば……」と言って、ロジェの気配が遠ざかっていった。


「まったく。まったくである。フンス」


 そうこうしているうちに、今度はディーの気配がした。


「あらあら、まあまあ、今日はライリーラ様と……」


 外からディーが中を覗いていた。


「――――!」


 ライラがずんずんと窓に近寄って、シャッとカーテンを閉めた。


「まったく。まったくである。ムードも何もあったものじゃ」


「――ライリーラ様ぁ? どうせなら二人同時に可愛がってもらうというのは」

「一人でよいっっっっ!」


 色ボケ吸血アンデッドが、とライラが目を吊り上げながらボヤいた。


「そういうことでしたら、わたくし、音だけを楽しませていただきますので、どうぞお楽しみくださぁい」

「帰れぇぇぇぇぇえ!」


 ディーを追い払うと、ふしー。ふしー、と肩で息をしてライラが戻ってきた。


「俺は三人でも構わ――」


 スパーン、とスリッパで頭を叩かれた。


「何をする」

「他の者の倍、妾を可愛がれという話をさっきしたと思うが」

「倍とは言わなかったぞ」

「やかましい。そなたは、部屋にいても忙しいのだな……」


 切なそうに言うライラの頭を撫でると、すり寄ってきて俺の胸の中に収まった。


「これでよい。これだけで、妾は嬉しいのだ……」


 朝まで二、三時間程度だが、その間、一緒に眠ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
― 新着の感想 ―
[一言] 場馴れしてないって事は素人に毛が生えたレベルだろうし逃げた先がビンゴって事もあるのにね
2021/08/14 19:23 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ