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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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賞金首1


 先日、俺とビックスの裏クエストを斡旋した職員は、モイーズと名乗った。


「よぉ、スレイド」

「どうも」


 昔の仲間を殺したビックスを俺が始末したせいか、どうやら気に入ったらしい。あれから、何度か仕事を斡旋してもらっていた。

 信頼とまで言わずとも、俺のことを信用しているのだな、とこのごろ感じている。


 裏稼業をやっている人間全員が悪人かというと、そうでない場合のほうが多い。

 このモイーズもその類いの人間だった。

 仕事とそいつの人柄とはまた別の話なのだ。

 生きるため、金のため、みんな仕方なくその仕事をしている。


「今日はそれほど美味い仕事はねえんだ」

「そうでしたか」


 斡旋してくれた仕事は、俺の基準では安いほうだったが、ここだと割高の仕事が多かった。


 そして、どの仕事も、やはりウェルガー商会が関係していた。


 モイーズが、あれこれと簡単に説明しながら、クエスト票をカウンターに置いていく。


「――で、これが賞金首の捕獲だろ。……で、こっちのが――」

「賞金首?」

「ああ。言ってなかったな。特定の人間に賞金を懸けて、捕まえたり殺したりすれば賞金ゲットっていう、まあ、そのままの仕事だ。暗殺の仕事とはまた少し違って、誰が殺してもいいんだ」

「ふうん」


 またクエストの説明をはじめたモイーズには構わず、俺は『賞金首の捕縛』クエストの詳細を読む。


――――――――――――――――

・懸賞額:四〇〇〇万 年齢:二〇代 性別:男 瞳:黒

・地下闘技場の破壊工作

・その他情報

 名前複数有。ハーメル、ロラン、ビョルン、レオン、クルーガなど使用率高

 認識阻害系のスキルを所持

――――――――――――――――


 ……俺のことだな。

 人相書きもあるが……絵が下手で、これでは俺が素顔を晒しても気づかないだろう。


 依頼人は、おそらくあの地下闘技場の関係者だったんだろう。

 あそこで甘い蜜をすすっていた人間から、逆恨みを買ったらしい。


 だが……どうして俺のスキルを知っている。

 どうして、俺に複数偽名があることを知っている。当てずっぽうじゃない。全部当たりだし、使ったこともあるし、書いてある通り使用率も高い。


「……」

「どうした、スレイド。それが気に入ったのか?」


 俺は不自然でない程度に、事実確認をモイーズにしていく。

 まず、地下闘技場というのは、リーナが世話になったあれらしく、そこでイベントをめちゃくちゃにし、闘技場を破壊した男を探しているとのことだった。


 破壊したのは俺ではないが、いずれそのつもりだったから誤差の範囲内だろう。


「デッドオアアライブ――生死不問……生きたまま連れて来てもいいし、殺して証拠を見せてくれてもいい」

「なるほど。地下闘技場……。依頼人の方に言えば、僕も連れて行ってもらえるんでしょうか」


 俺は白々しくモイーズに尋ねた。


「残念だが、今はもうやってねえよ」


 だろうな。


「嗜虐的な趣味がないと楽しめないって話だが……興味津々って感じだな。珍しい」


 モイーズが俺を一瞥して、手元に書類を集めてとんとん、と揃えた。


「もしかしたら、と思って確認をしていました。正直に言います。実は、僕の仲間がそこで酷い目に遭って……」


 俺は沈痛な面持ちをしてみせ、目を伏せた。


 あそこでリーナが酷い目に遭いそうだったのは確かだ。俺と再会しなければそうなっていたかもしれない。だから、それに嘘はない。

 明言しなかったので、死んだのだと勘違いはするだろう。


「そうか……」と、モイーズは声の調子を落とした。


「こんな形でそのことを耳にすると思わなかったもので、つい。依頼人は闘技場の運営側みたいですし……できれば、仇を討ってやりたい」


 発言の信憑性を上げるため、声音、表情、視線の動きで演技をした。

 モイーズが困ったように長いため息をつく。


「騙しも殺しも上等の世界だからなぁ……」


 ぽつりとつぶやいて、指の腹でとんとんとカウンターをノックする。


「……これは、オレの独り言だが……」

「聞かないことにします」


 モイーズは、強面のくせに情に篤いらしい。


「依頼人は、バーデンの元貴族だ。ベン・アムステル元伯爵」


 あの地下闘技場は、上流階級の人間ばかりだったので不思議ではないか。

 今バーデンハーク公国は、議会制を採るため、戦前の貴族はすべて解体していると聞く。


 そいつがどうして俺のことを――?


 俺が席を立つと、背中から声をかけられた。


「スレイド。このクエストは、やばい。そんな気がする。あんまり深く首を突っ込むんじゃねえぞ」


 振り返ることなく、俺は裏ギルドをあとにした。




 フェリンド王国にほど近い、バーデンハーク公国北西部の田舎町へ俺はやってきていた。


 バーデンハーク公国の女王、レイテに訊いたところによると、ベン・アムステル元伯爵は、バーデンハーク公国でもフェリンド王国に近い地域を領地とする貴族だったという。


「真面目で温厚な方よ」


 と、レイテは言った。


 裏と表があるので一概にそうだと断言できないが、女王からするとそんな人物に映ったそうだ。


 話を訊けば訊くほど、俺との関係がないことがわかっていった。

 昔の依頼人とも思ったが、そうじゃないらしかった。


 現在、その元伯爵は、領地としていたこの町で暮らしているという。


 地下闘技場の入口があった都市イーミルまでは、馬車で二時間といったところか。


 田舎町だからよそ者が珍しいのか、領民の男が気さくに話しかけてきた。

 その世間話ついでに、俺は元伯爵の居場所を訊いた。


「アムステル様なら、通りの一番奥にある屋敷に住んでるよ」


 少しチップを渡すと、領民の男はあれこれ領主様のことについて教えてくれた。

 レイテが言っていたように、温厚で真面目な人らしい。


 俺は礼を言って、教えてもらった屋敷を目指す。


 町自体小さいので、他の民家より二回りほど大きいその家はすぐにわかった。

 外観や建物の作りからして、侵入することに骨を折ることはなさそうだ。


 主の居室の見当がついたとき、異質な気配を三つ感じ取った。

 おそらく護衛だろう。


「……」


 気配を隠そうとしている痕とでも言えばいいか。

 それだけで、だいたいの力量は把握できた。


 スキル発動。


 その瞬間地面を蹴り、一足飛びで外壁を駆け上がる。


 まばたき一度の時間で、気取られることなく屋敷の中へ侵入した。


 廊下を歩く護衛らしき男を一人見つける。

 完全に油断している背中にぴたりと忍び寄り、男が隠し持っていたナイフを抜いた。

 後ろから手で口と鼻を覆い――ようやく(オレ)に気づいたが遅い――くるりと逆手に握ったナイフで心臓を貫いた。


 事切れたことを確認し、死体を部屋に運び入れる。

 死体を漁ると、持ち物からして暗殺を生業にしていることがわかった。


「気配は隠すな。周囲に同化させるんだ」


 死体につぶやいて廊下に出ると、両端から二人の男が迫ってきた。

 俺に気づけなくても、さすがに仲間が死んだことには気づいたか。


 二人とも暗い瞳をしている。その目をどこか懐かしく思った。


 左右でスキルを使う気配がする。

 右側の男の手がこちらに伸びてくると、天井の照明を掴んだ。伸びた腕が縮み、構えたナイフごと上から落ちてくる。


 左側の男は壁や天井を走って迫ってきた。


「いいスキルだ」


 再び『影が薄い』スキルを発動させる。


 上から落ちてくる男の落下地点から移動すると、男の眼球が左右に動くのが見える。俺を見失ったらしい。

 マズイと察したのか、片手を伸ばし窓枠を掴んで強引に移動しようとした。


 だが、もう遅い。

 その側頭部めがけ、正確にナイフを刺す。切っ先が骨を貫き脳に達する手応えがあった。


 絶命した男が、物のようにドサッと廊下に転がる。


「動いている目標の側頭部をピンポイントに刺すなんて――しかも初見のスキルと攻撃なのに――!?」


 思わず声に出したもう一人の男が、攻撃続行するか逃げるかで一瞬迷うのがわかった。

 どれだけ訓練していても、圧倒的力量差を目の当たりにすれば、たいていこうなる。


 そのコンマ一秒未満の逡巡を俺が見逃すはずがなかった。


 間髪入れずナイフを投げる。

 ドスン、と壁に立っていた男の胸に吸い込まれるように突き立った。


「まるで大人と子供……」


 それがその男の最期の言葉だった。


「お互い初見のスキルだったな。想定外が起きたとき、本当の実力が問われるものだ」


 場数と冷静さ。今回は、俺に一日の長があった。それだけだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ギルド職員として活躍する物語が色恋を挟みながら丁寧に描かれてきたのをベースに、バーデンハーク公国編から主人公を中心にキャラが躍動していて、何度も面白さを感じています。 これからの展開も楽し…
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