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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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誘拐事件4


 仲間が二階で全員死んでいるなんて思いもよらないのだろう。


 一階のリビングで男はソファで横になり、足を投げ出している。


 侵入する前、魔法使いに近い気配を感じ取ったが、こいつの気配だったらしい。


「おや。お客さんかな?」


 俺を視認すると、のん気にそう言った。


「ああ。きちんともてなしてくれ」

「その様子じゃ……僕の仲間は全員君が殺しちゃったのかな」

「ウェルガー商会の関係者か」

「どうだろう」


 ずいぶん余裕のある態度だった。

 侵入者の俺を前にして、いまだにソファに寝そべっている。


「簡単にしゃべるとは俺も思ってない。力づくは嫌いだが、仕方ない」


 挑発している様子も罠を仕掛けている様子もない。


 俺は男に接近し、逆手に握った短剣で攻撃をする。


 そのとき、切っ先を受け止める何かがあった。

 一瞬、虹色の波紋が切っ先を中心に広がり、俺の攻撃は防がれた。


「わかったかい。僕に触れることはできないんだ」

「……ふん。面白い」

「『絶対防御(インベンシブル)』と、僕は呼んでいる」


 さっき、俺の動きを目で追うどころか、視界にすら入れていなかった。


「……となると、自動で防御するのか」

「その通り。一回見ただけでよくわかったね。その分析能力に敬意を表して、名乗っておこう」


 男はようやく立ち上がった。若いし身なりもいい。さっきの男たちとは大違いだ。


「ビクター・オルギンス。『鉄壁のビクター』って聞いたことくらいあるだろ? それが僕さ」


 ビクターは、役者か何かのように大仰に両手を広げる。


「そんな名前、初耳だな」


 余裕そうに構えていた男の雰囲気が一瞬揺らいだ。


「物理、魔法を問わず、何物も通すことはない。最高のスキルだよ」


 それが本当なら、当たりも当たり、大当たりのスキルだ。

 任意に発動させる防御系スキルはいくつか類型を知っているし、対処の仕方もわかる。

 だが、それらをはるかに凌ぐ上位互換スキルだ。


「だから悠長に構えていたわけか」

「そうだね。どんな存在のどんな攻撃でも、貫くことは不可能だ。あの魔王も、きっと無理だったと思うよ」


 誰も触れられない、か……。


「その様子じゃ、きっと童貞なんだろ」


 俺の言葉に、柔和な表情が固くなった。


「……なんだ、正解か?」

「違う。何を言い出すのかと意表を突かれただけだ」


「いいわけを聞きたいわけじゃない。一人でいつも寂しく自分を慰めているんだろう」

「違うって言ってるだろ!」


 会話をしたところ、自信家……。まあ、あんな当たりスキルを与えられれば、誰でもそうなるだろう、プライドも高そうだ。


「そんな童貞君が、今度は幼女の誘拐とは、泣けてくるな」

「これが今の仕事だからね。あいつらは能力さえあれば、色んな物を与えてくれる――!」


 ビクターは剣を抜き、斬撃を放つ。

 それをかわして、再度攻撃をしてみるが、やはり虹色の膜がそこにでき、ビクターに短剣は届かない。


「何回も言ってるだろ。僕にあらゆる攻撃は効かない!」

「だいたいわかった」

「何が――――わかったって――――!?」


 ヒュン――ヒョン――、と剣を室内で振り回すビクター。


「色々とな。あとは、おまえが童貞でないことを祈るだけだ」

「安い挑発だね。どうせ君は何もできないまま、こうして斬られる――、斬ら――斬られ――! く、当たらない……!」


「いい剣筋をしている。だが、その程度で俺に触れられるはずもない」

「ふふふ、面白い! 君の見切りによる防御と僕の『絶対防御』――どちらが上だろうな!?」


 思考を停止させ、何も考えない状態にする。


 ぬるっと接近をし、短剣の刃をむけた。


 切っ先は、ビクターの目と鼻の先、ギリギリの位置で止まった。


「な――――!? こ、この距離……!?」


 驚愕の表情を浮かべたビクターが後ずさった。


「ずいぶん縮まった。やはりな。『絶対防御』も高が知れている」

「知ったふうな口を!」

「今の俺の攻撃で、おまえが童貞ではないことがわかった」

「またくだらないことを言って――!」

「と、思うだろ?」


 同じように気持ちを静め、何も考えない凪の状態にする。

 ビクターの斬撃を見切り懐に入り、今度は手を伸ばした。


「ふぐ――っ!?」


 首を掴み、ビクターの体を持ち上げた。

 苦しそうな顔をしながら、俺の手を叩き、足をバタつかせている。


「どうして、と訊きたそうな顔をしているな。……おまえまさか、これが穴のないスキルだと思っていたんじゃないだろうな?」


 赤黒い顔をしているが、一瞬目を丸くした。


「誰も触れられない? そんなわけないだろ。おまえは童貞じゃないんだから。おまえのスキルが反応するのは、害意や悪意を持った対象にだけだ。でないと、『絶対防御』が邪魔でセックスできないだろ」

「…………っ!」


 本気で首を握っているわけではないので、なんとか話すことはできた。


「わ、わがっだ。話す……僕の、知っている、ごどを、ばなずから……」


 ずっとスキルに守られてきたのだから、打たれ強いはずもなかった。


 俺はビクターをソファに放り投げた。

 ゲホゲホ、と咳き込み、何度も大きく呼吸をして、ようやく落ち着いた。


「僕への攻撃を成功させたのは、君がはじめてだよ……すごいね……」


 俺は小さく肩をすくめた。


「おまえに危害を加える、という気持ちを消した。それだけのことだ」

「けど、実際、危害を加えている。戦闘中にそんな気持ちを消したりなんて……」


「暗殺を生業にしていたことがあった」

「暗殺を……?」


「暗殺者は、最初に誰を殺すと思う?」

「……それは、親とか……? 友達とか?」


「物語の読みすぎだ」


 俺は苦笑すると、続けた。


「自分だ。最初にまず自分を殺す。それができていれば、感情を制御する必要もない。無風の湖面のように、いかなるときも揺るがない」


「無私の心……ということか……」

「それに近いかもしれない」


 ほうほう、と尊敬すらしているような眼差しでビクターは俺を見つめてきた。


『絶対防御』を破られ、ビクターは完全に戦意を失っているようだ。

 俺に攻撃が当たるとも思えなかったんだろう。


「詳しいことはあとだ。まずは人質を出してくれ」

「わかった」


 鍵を探したビクターが、「こっちだよ」と廊下を奥のほうへと案内する。


 もう偽メイリは不要だろう、と俺は『シャドウ』を消した。


 ビクターが大きな錠前を外すと、扉を開けた。


「あ、あれ――? いない……? どこに――!? さっきまでいたんだ」


 部屋には、鼻をひくひくさせているツノラビしかいなかった。

 慌てるビクターに俺は言った。


「いるだろ。俺はこいつを助けに来たんだ」


 俺は中に入って、そっとツノラビを抱き上げた。

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[良い点] 確かに頼まれたから間違ってないとは言え、最後の文に笑い声が出ました。
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