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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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誘拐事件3


 ライラが息を切らしながらギルドへ飛び込んでくると、ちょうどミリアに見つかってしまった。


「あ~! ロランさんのところの猫ちゃんですぅ。ご主人しゃまが気になって、ここまで来てしまったんでちゅか~?」


 ミリアを無視してライラが俺のところまでやってきた。

 このときに、もう何が起きたのかだいたい察しはついた。


 あのアホエルフ、侮るな、と自信満々だったくせに未然に防げなかったらしい。

 本物のメイリはというと、今日は社会見学でギルドの職員さんたちの仕事ぶりを見守っていた。


「案内を頼めるか」


 ライラがこくん、とうなずいた。

 俺は席を立ち、アイリス支部長に言って一時的に抜けさせてもらった。


 ギルドを出ると、ライラが俺の頭に前足を乗せ、方向を指示していく。


「敵のねぐらは、王都郊外にあるぽつんと建っている民家だ。急がねば、場所を変えるかもしれぬぞ」

「わかっている」

「貴様殿、ロジェを知らぬか?」

「護衛としておまえたちについているはずだが」

「それが見当たらぬ」

「……こうなっている以上は、見失ったんだろうな」

「城内からその家まであっという間に移動をしてしまった。そのときであろう」


 城内から郊外の家まで?


 俺が今こうして全力で走っても、ギルドからそこまであっという間と言えるほど、すぐにはたどり着けない。


「誘拐犯は、かなりの手練れだな」

「うむ。魔法を使って移動した様子はなかったが……」

「魔法を使ったことを他者に気づかせないスキルもある。それかもしれない」

「むむ……そうであるか。それに、妾がただの猫ではないと気づかれた……魔物の一種だと思ったようだったが」

「そいつがまだ家にいる可能性は」

「なくはないであろう。だが、攫うのが仕事だと言っておった。監視や警備は別の者がしているのかもしれぬ」


 やはり、偽メイリにライラを貼りつかせたのは正解だったな。

 猫の姿のおかげで、他人を欺きやすいしどこにでも出入りできる。

 おまけに冷静で状況判断も的確だ。


「それだけわかれば十分だ」


 その実行犯がいないのであれば、手こずることもはないだろう。


 ライラが頭の上で「あれだ」と言った。

 正面に、夕日に染まった古びた一軒家が見え、どんどんその姿を大きくしていった。


「悪人退治はそなたに任せるとして、妾は帰るぞ」

「ああ」


 偽メイリがいる部屋の窓から外に出たため、内部の構造はわからないそうだ。


 家のすぐそばまでやってくると、木陰に隠れ、家の様子を観察する。


「……偽メイリはいいとして、メイリが大切にしているウサ公があそこにいる。取り戻してやってくれぬか」

「ペットの座を争うライバルじゃないのか」

「もうよいのだ。寡黙だが、きちんと話のわかる御仁であった」


 囚われたときに何かあったらしい。

 身軽に俺から下りたライラが、一度足を止めて振り返った。


「必要なら内部構造を探ってくるが」

「魔王城並みなら、頼みたいところだ」

「なら要らぬな」


 クク、と笑って、ライラはとことこと歩き去った。


 観察した限り、一般的な民家といえる。ここから見える人間はいないが、中に複数の気配がある。


 一人だけ、魔法使いに似た気配を持つ存在がいた。


 ギルドマスターのタウロが、裏ギルドの存在をほのめかしていたが、ウェルガー商会とはまた別にあるんだろうか。それとも、ウェルガー商会の裏側をそう呼んでいるんだろうか。


「……考えても詮無いことだな」


 木陰を飛び出した俺は、一気にトップスピードで家に接近。


 死角になる場所から目星をつけていた柱と壁を使い、瞬時に二階へ上がった。

 人差し指に魔力を纏わせ、窓ガラスを四か所突いた。

 ピシ、とかすかな音がして、破片を手前に音が出ないように俺の靴の上へ落とす。


 手を入れ、内側の鍵を開けて侵入すると、そこは寝室だった。


 中では、俺の侵入など一切気がついていない誘拐犯グループの一人らしき中年男と、隷属紋をつけた若い女がベッドで性行為の真っ最中だった。


 危機感の無さに、俺はため息を禁じえなかった。

 偽物ではあったが、一国の姫を攫った誘拐犯にしては、あまりにお粗末。


 それとも、こんなに早く助けが来るとは思わなかったか?


「作戦中、想定外は常に起きる――悪党なら知っておくべき常識だ」


 懸命に動く男に近寄り、首を一八〇度回し、背中が見えるようにしてやった。


「行為の最中も、想定外は起こるぞ?」


 女をどうしようか迷ったが、すでに自我はなさそうだった。荒く息を吐きながら、うわ言のように何かをつぶやいている。性欲処理のためだけに連れて来られたようだ。


 女は放っておいて、俺は立てかけてあった剣を掴み鞘を払う。


 静かに一人ずつ消すこのやり方は、侵入者の存在を気取られないため、敵を逃がす心配がない。

 何より、俺が一番慣れている方法だ。


「おぉーい? まだかよー? 待ってんだよ、こっちはよぉー! 何発もヤってんじゃねえ!」


 ドンドンと急かすように扉が叩かれた。ドアノブを握りそっと引いて、俺は扉の陰に隠れる。


「うお、開いた。……んだよ、返事くらいしやがれってんだ――」


 一歩、二歩と外にいた男が中へ入ってくる。そして、裸で横たわる男の異変に気づいた。


「お、おい……? だ、大丈夫か……?」


 ゆっくりと扉を閉める。動揺する男の背に言ってやった。


「待たせたな。次はおまえの番だ」


 俺の声に反応した瞬間。

 背後から男の口元を押さえ、背中から剣で心臓を貫く。


「――――」


 声にならない悲鳴を全身で叫んだ男は、三つ数を数える間に絶命した。


 串刺しの死体をベッドに転がし、所持品を確認すると短剣を見つけた。


 屋内はこちらのほうが使い回しが利く。


 床に耳を当てて、下の音を探る。


「声はふたつ……どちらも男だな」


 偽メイリを攫った手練れは、どう考えてもプロ。

 ロジェは、あれで元は魔王軍の近衛連隊長――魔王を守るための部隊筆頭の隊長だ。

 そのロジェを出し抜く腕があるのなら、警戒する必要はある。


「……」


 内容まではっきり聞き取れないが、ずいぶんリラックスしているように思えた。


 作戦中独特の緊張は感じられない。

 ライラが言ったように、その手練れはもうこの家にはいないのではないか。


 一人の声が遠ざかると、階段を上がってくる音がする。

 誰も帰って来ないから様子を見に来たのだろう。


 廊下を足音を鳴らしながら男が進んでくる。こいつを消せば下にいるのは一人。


 スキル発動――正面から堂々と奇襲する。


「何で誰も帰って来ねえんだ? ……三人でお楽しみってか?」


 胸に短剣が突き立っていることも知らず、ケケケと男は笑っているが、ようやく自分の異変に気づいた。


「あ、れ……? なんで……剣……血……?」


 膝から崩れる男を支えて、音が出ないようにそっと廊下に横たえる。


 絶命を確認し、短剣を抜く。赤黒い血が廊下に散った。



「……あと、一人」

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[一言] ロジェがモーリー並に無能・・・
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