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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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バーデンハーク公国の冒険者ギルド2


 仕事にありつけないやつは、このバーデンハーク公国にはたくさんいた。

 役人に提案した職員募集の件は、彼らがすぐに動いてくれたこともあり、一週間後には、募集の定員二人に対して二〇人近くの応募があった。


 一度に大勢を採用しては、収集がつかなくなる。

 最初に入れた人がひと通り仕事ができるようになったら、次の募集をするということに決まった。


「ロランがやってもいいけど、あなた、何でもできるでしょ? だから新人教育より普段の仕事を担当してちょうだい」


 アイリス支部長の采配で、採用した新人の教育は、ミリアが担当することになった。


 ギルドの運営は、忙しいながらもより順調に進みはじめた。


「今日はどのようなご用件ですか?」


 見慣れない冒険者風の男がやってきたので対応すると、冒険証を見せてくれた。

 ランクはA。ロラン組に、ディー以外でそんなやつはいただろうか、と俺が首をかしげていると、Aランク冒険者の男は言った。


「僕、バーデン出身なんです。それで、こっちにもギルドができるからって聞いて」

「なるほど。そういうことでしたか」

「魔王軍に滅ぼされて、もうこの地は踏めないだろうって思ってて……。でも今復興してるって聞いて、それで何か役に立てないかと思ったんです」


「祖国のためですか。あなたのような高ランク冒険者がいなくて困っていたところなんです。よろしくお願いします」

「はい!」


 彼の後ろには、仲間と思しき男が三人いた。

 いずれも、出身はバーデンハーク公国で、今回Aランクの彼と一緒にやってきたという。


「フェリンドの冒険者ギルドのような報酬が出せず、大変心苦しいのですが……」


 討伐系のクエスト票を三件並べて彼らに見せる。

 難敵の魔物、曲者の魔獣、群れで動く魔物――いずれもAランククエストだ。

 報酬額は、あちらの冒険者ギルドの三分の一程度。


 これは、俺が現地調査をしてきたクエストだったので、注意点を教えていった。


 Aランク冒険者は、顔色ひとつ変えなかった。


「問題ありません。なあ、みんな、いいだろ?」

「ああ。報酬は多いくらいだ」

「バカかよ。安いわ。けどまあ、カネのためにここに来たんじゃない」

「オレもそれには同意だ。カネが目当てなら、一週間もかけてこんなところに来ねえ」


 みんなが口々に言った。


「……というわけです。職員さん、僕たちに任せてください」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「王都にはいらっしゃらないですよね、職員さん」

「ええ。普段はラハティ支部です」


 道理で、と得心がいったように四人がうなずく。


「めちゃくちゃ丁寧なんだな、職員の兄さん」

「普段からこうですよ」

「シクったらやべえ。こんなにあれこれ教えてもらってるのに。俺らのランクを疑われるわ」

「ハハハ。そうだな」


 俺が反応に困っていると、Aランク冒険者が笑った。


「少なくとも僕は何度か討伐したことある敵でもありますから、きっと大丈夫です。職員さんがフィンランにいたら、凄まじく人気の職員になるでしょうね」

「さあ、どうでしょう」

「あっちの王都に配属されたら、贔屓にさせてもらいますよ」


 爽やかに笑ったAランク冒険者は、会釈をして仲間とともに去っていった。


 俺は冒険者とは、クエストの内容と金の多寡で判断する生き物だとずっと思っていた。

 命をかけるのだから、当たり前といえばそうなのだが。


 だから、ああいう男たちがいるとは思いもよらなかった。


 尽忠報国の士、と言ったところか。


「皮肉だな。誰にでもなれる冒険者のほうが、騎士よりも騎士らしいとは」


 願わくば、無事帰ってきてほしいものだ。


 彼らのクエスト受領の処理をしていると、ダミ声が聞こえた。


「兄貴ぃぃぃぃいいい!」


 どたばた、と足音を立てて向かいにニール冒険者が座った。

 俺は手元の書類から目を離さずに訊いた。


「あの件ですか?」

「はい。『千里眼』を持っているとかいう占い師がいて、もしかしてこいつがそうなんじゃないかと」

「ふむ。『千里眼』……」


 同じ名前のスキルを持ったバカが、俺を脅迫してきたことがあったが、同じスキルだろうか。


「ここ一週間、王都のイザリアを中心にあれこれ捜してみましたが、一番有力なのがこれでさぁ。他に、『鑑定』か『スキル看破』に繋がりそうなスキルを持っているやつの話は聞かなくて」


 特殊スキルで、他人のスキルを視ることができる人材を捜しており、それをニール冒険者に聞き込み調査を頼んでいたのだ。


「そうでしたか。ありがとうございます」

「必須ですからね……いちいちフェリンドにいる『鑑定』持ちに会いに行かせてちゃ、時間がかかって仕方ない」

「ええ。冒険者試験をするにしても、スキルがわからないのであれば、判断に困りますし」


 困ったことに、この国には『スキルを知る』という風習がない。

 本人がそうだと自覚しないまま使っているパターンが半分。スキルを知らないまま使うこともないパターンがもう半分だった。


 そのせいで『鑑定』や『スキル看破』といった特殊スキル持ちの人間の話が、まったく聞こえてこなかった。


 スキルを活かすために鍛練したり、それを活かせる武器を持ったり、知っていると知らないでは戦闘能力が大きく変わる。


 一〇歳前後でスキルは開花するのが一般的と言われている。

 フェリンド王国とバーデンハーク公国で、人種が大きく違うわけではないから、こちらでも同じと考えていいだろう。


「その占い師の所在を教えてください。確かめに行きます」

「では、僭越ながらこのニール、兄貴のお供を……」

「いえ、クエストをやってください。低ランククエスト、いっぱいあるんで」

「…………はい」


 走り書きをしていたニールのメモをそのままもらう。

 ちょうど受付待ちの冒険者もおらず、冒険者志望の者もおらず、事務所が空いてきたのでアイリス支部長にひと言言って、ギルドをあとにした。




 メモにあった場所はそれほど遠くなく、王都の城内にあった。


 スラム化しはじめた区画で、物盗りが入ったあとの誰も住んでいない家がたくさんあったり、焼け落ちた家屋がそのままだったりと戦禍の爪痕がまだ残っている。


 古い平屋建ての家の前で足を止め、俺は扉を三度ノックした。

 メモには、ベティなる人物が占い師だと書かれている。


「こんにちは。ベティさん、いらっしゃいますか?」


 足音がして、扉が乱暴に開けられた。


「んだよぉ、もぉ、こんな朝っぱらにぃ……」


 下着姿の女が出てきた。

 呂律が怪しく、酒のにおいがする。

 年は三〇に満たないくらいだろう。


「もう昼過ぎですよ。あなたがベティさんですか?」

「んぁ? そうだけど……。――!?」


 俺を見るなり目を見開いたベティは、ピシャンと扉を閉めた。


「あのー? 大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、じゃない……っ。オトコ……!? アタシ、ほぼハダカ……」

「大丈夫ですよ。全然気にしませんし、気にならなかったですから」

「いや、それはそれでなんか傷つく……てかビミョーにシツレーじゃね?」

「占いをお願いしたいんです」

「……な、なんだ、客か……」


 ボソボソ、と小声が聞こえてくると、ドタバタとしばらく物音が続いて、それが止んだ。


「いいよ。入ってきなよ」


 許可をもらったので中へ入る。

 ひと部屋ほどしかない古くて狭い部屋だった。隅に寄せられているのは、酒瓶ばかり。


 ベティは、きちんと服を着て突っ立っている。


「す、座るとこないから、ベッド、掛けていいから……」

「失礼します」


 ギシ、と腰かけるとベッドが軋んだ。


 髪の毛をイジイジとねじるようにイジるベティ。

 俺とは目を合わそうともしない。


「占いができる、とお伺いしたんですが」

「あぁ……。そ、それね……できるよ。に、二万。二万ハークで、視てあげる」

「すみません。リンしかないのですが」

「じゃそれでいいよ」


 占いと言っても、占いは種類がたくさんある。

 スキルとまったく関係ない占いである可能性だってあった。


 俺は財布から出した二枚の紙幣をテーブルに置くと、すぐに口を開いた。


「アタシの、不思議な、チカラ……技能(アビリティ)って呼んでるんだけど、さっき使ったよ。わかったよ。アンタの、こと……」


 素性がバレたのなら、猫を被る必要はないな。


「俺のスキルが何かわかったか? おまえが言う、技能とかいうやつだ」

「悲しい、技能だな……」


 そう言うと、ベティが鼻をすすった。手の平で目じりを拭いた。


「泣くほどか」


 こくん、とうなずいた。


「大して使いどころがないからな」

「ううん。そうじゃねえ。そういうことを言ってるんじゃねえ。凄まじい努力とその年月……アタシさ、技能の記憶も視えるんだ。だから密かにやった『偉業』もわかったよ」


「……それは、内密に頼む」

「もちろん。客の情報を他言したりしない。それに、言っちゃヤバいやつだろ、これ」

「ああ」


 無言の時間が続くと、ぽつりとベティが言った。



「一回盗られてるね、アンタの技能」



「――は? スキルを?」

「あれ、違った?」


「いや、そんなことはないと思うが……」

「そっか。じゃあ聞き流してくれ。ともかく、アンタが持っている技能は、相手に気づかれにくくなる技能だってことはわかったよ」

「……」


 盗られた? 何かの間違いだろう。


 俺に関して引っかかることはあるが、それだけわかれば十分だ。


「たまに、ここへ冒険者志望の人間が来る。そのとき、その技能を使って、そいつがどんな技能を持っているかを視て、教えてやってくれないか?」

「カネ、払ってくれるんならいいけど……」

「もちろん支払う」

「じゃあ、いいよ」


「もう暗殺者はやめている。怖がらせたならすまない」

「どれだけ殺して、どれだけ助けたのかも、わかったから気にしてないよ」


「手土産もなく頼み事をしてしまった。次は、酒でも持って来る」

「そんなんいいのに。まあ、持ってくるってんなら、飛び切りいいやつ、頼むよ。アンタなら、いつでも歓迎だからさ」


 ベティがシシシと笑う。

 ライラと気が合うかもしれないな。

 俺は彼女に「任せておけ」と言って、家をあとにした。

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