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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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バーデンハーク公国の冒険者ギルド1



「ロジェちゃん、今日は、敵をやっつけるクエストをするの」

「いや、だが、メイリ。おまえはまだ未熟も未熟。そのようなクエストをこの男が斡旋するとは思えないが……」


 ちら、とロジェがカウンターの向かい側にいる俺に目をやった。


「メイリ、冒険をナメるな」


 ククク、とメイリの頭に乗るライラが笑った。


 ライラに話を聞くと、ロジェはきちんとサポートに回っており、少し口を出すことはあるが、クエストはほとんどメイリがやっているそうだ。


「討伐系のクエスト、何かあったか……?」


「「意外と甘いな」」


 レイテからメイリのことは頼まれている。

 ロジェとライラがついているとはいえ、無茶をさせるわけにはいかなかった。


「王都の郊外に、小さな牧場がある。そこにいる羊や馬を襲う者がいるという。そこの警備クエストだ」


 要は、ただの見張りだ。


「悪いやつをやっつけるのー?」

「ああ。そうだ。来たらやっつけるんだ」


 期間は二日。その間に襲撃があれば、だがな。


「任せて、ロランっ」

「ああ。頼んだぞ」

「うん!」


 いい返事をしたメイリとロジェとライラが去っていく。


 メイリがクエストを頑張れば頑張るほど、口こみで冒険者や冒険者ギルドのことが知られるいい機会でもあった。


 振り返ると、ラハティ支部の職員がいて、奥を親指で指さしていた。


「交代だ」

「ああ、時間か」


 今日は、アイリス支部長と王城で役人たちを交えて打ち合わせだ。

 それと、レイテに進捗報告も兼ねていた。


「ロラン、行きましょう」

「行ってらっしゃーい」


 ミリアののほほんとした声に送り出され、王城までのゆるい坂道をのぼっていく。


 もう顔見知りになった衛兵に通してもらい、王城へ入る。


「レイテ様も、朝のうちに言ってくれれば、わざわざ往復しなくてもよかったのに」


 アイリス支部長がこそっと愚痴をこぼした。


「女王様ですから、色々とお忙しいようですよ」

「お飾りってわけじゃないのよねぇ。大変そう……」


 今回派遣されてきた職員たちはみんな、王城暮らしにも慣れたのか、高価そうな食べ物が出てきても驚くこともはしゃぐこともなくなった。


 あらかじめ知らされていた会議室に入り、席に着く。

 すぐに、これまで何度か打ち合わせをした役人が二人が入ってくる。

 細面の男と小太りの男だ。


 レイテは遅れるようで、先に報告をすることにした。

 昨日作った資料を渡し、俺が説明をする。


 いつもやっていることを説明するが、理解しているのかしていないのか、向かいの役人二人はうんともすんとも言わない。


「今はまだ件数はこの程度ですが、相談件数は、現在も増加傾向にあるため、早急に職員を増やして対応するのがよろしいかと存じます」


 これが、俺とアイリス支部長の共通見解だ。

 ぱさ、と小太りの役人が資料を放り出すように置いた。


「人員を増やして、給料はどうする? 我々が出すのか?」

「もちろんそうです」


 これにはアイリス支部長が答えた。


「我々は、君たちが整えてくれるという話だから、こうやって口を出さずに管理を任せていたんだ」


 うんうん、と細面の役人がうなずいた。


「人を増やして、その上身銭を切らせるとは、聞いていない」


「ですから……私共は、ずっと留まるわけではありません。現地で管理運営する者を育成する必要があります。これは、冒険者も同じくそうです」


 最初、この二人は聞き分けがよく、ずいぶんやりやすいと思ってが、どうしてそう思ったのかわかった。

 きっと、俺たちのお守りは意に沿わない仕事だったんだろう。

 だから、こっちが仕事の確認をすると右から左で、ほとんど何も口を挟まなかった。


 要は、大してやる気がないのだ。

 この二人を観察していたが、俺が作った資料も、最初の二、三ページをめくったっきりだ。


「フェリンド王国からの国賓だとしても、通ることと通らないことがあるからねぇ」


 二人の目が、「どうして自分がこんなことを」と語っている。

 実に気だるそうだ。


 その態度のせいだろう、アイリス支部長が熱弁を振るいはじめた。


「早い段階で現地の職員を育成しておかないと、ギルドはいつまで経ってもフェリンド(わたしたち)頼みのままです!」


 俺とアイリス支部長は、ギルドが回りはじめてからというもの、ロクに休んでいない。

 気遣ったミリアあたりも、休まず仕事を手伝ってくれている。


 だが、役人二人の反応は薄い。

 暖簾に腕押し、といったところか。


「職員を育成するにしても時間がかかりますし――」


 しゃべりながら、アイリス支部長がイライラしはじめたのがわかった。


 国外のシステムを使った『何でも屋』の責任者など、やりたいとは思わない、か……。

 閑職だとでも思っているんだろう。

 席には着いているが、交渉のテーブルには着いてない状況だった。


「人員を増やすと言っても……そもそも、この国にそんな予算、組めっこないんだ」

「君たちは知らないだろうが、女王が議会を作ると言い出して……国が傾いている真っ最中なんだ」


 至極迷惑そうで、定期的な報告会だからここにいる、とでも言いたげだった。


「女王様になんと報告する?」

「また金がかかる。イイ顔をするわけがない。ご自身すら節制されて国費に充てておられるんだ」

「だから、資料を――」


 ほとんど怒っているアイリス支部長が立ち上がったので、俺は無理やり座らせた。


「きゃ。ちょっと、いきなり何よ」

「目が吊り上がってますよ。美人が台無しです」

「う……っ」


 苛立つのも無理はないが、そんな口調で相手と交渉できるはずがない。

 ぐにぐに、と隣で目じりを揉むアイリス支部長に代わって、説明をした。


「お金はかかりません。ギルド独自で収益を出せますから」

「何を適当なことを」

「そうだ。現に何人働いていると思っている。同じ数だけ職員を揃えるとなると、どれだけ費用がかかるか……」


 俺は手元の資料をめくって突きつけた。


「現在ギルドが上げている収益の一か月予想、四半期予想、半年予想が……お二人が放り出した資料に記載してあります」


「「……っ」」


 二人が視線を閉じられた資料に向けた。


「これは、諸経費を差し引いた額です。今いる派遣された職員は七人。それからまだ四人増やしても、相談件数は右肩上がりの傾向にあるため十分利益を上げられます」


 金がないからどうのこうの、というのは、建前だろう。

 本当に重要な役人なら、議会作りのため奔走している。


「こちらはフェリンド王国から派遣されただけで、実際この国での冒険者ギルドの責任者はお二人です。おわかりですか?」


 とは言ったものの、まったくわかってなさそうだった。


「よろしいですか? ……この冒険者ギルドが成功すれば、手柄はお二人のものです。フェリンド王国側の手助けを得たとはいえ、後々名を残すような創設者になれるんです」


 ぴく、と二人が反応をした。

 現金なやつらだ。


「残念です。レイテ女王に担当者を変えていただくようご進言しないといけませんね」


「ちょっ――ちょっと待て」

「あ、ああ。そんなことをする必要はない。うん……」


 呆れたようにアイリス支部長が肩をすくめた。


「じゃあ、私たちにご協力いただけますね?」

「「もちろんだ」」


 キリリとした顔で役人二人は言った。

 さっきとは雲泥の差がある表情に、俺とアイリス支部長は顔を見合わせて苦笑する。


「ナイス資料」

「いえ。客観的な数字を示しただけですから」

「デキる部下がいると、助かるわ、ホント」

「これで少しは休めるようになるでしょう」

「そうね」


 俺とアイリス支部長は、机の下でパチンと手を合わせた。

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