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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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バーデンハーク公国へ4


 初日は、食事会がありそこで、歓待の宴が催された。

 レイテが言った通り、国賓扱いということもあり、少々堅苦しかったが、不便な思いをすることはなかった。

 それから数日は、ギルド本部予定地の視察をし、それを見た上で職員たちと下級、中級の役人と打合せを重ねていった。


 一番問題なのは『クエスト』や『冒険者』が何なのか、まったく認知されていないところだった。


「う~! ロラン、全然遊んでくれない!」


 侍女と一緒に俺の部屋へやってきたメイリが、機嫌悪そうに頬を膨らませていた。


 こっちに来てからというもの、メイリをほとんどほったらかしだった。

 遊ぶ時間がないのが正直なところだが。


 ライラたちも到着しているが、王城には職員ではないためいない。

 今は付近でロジェとディーの三人で宿をとっている。


 魔王軍が占領した地でもあるため、魔族の姿でないほうがいいだろう、ということでライラは黒猫の姿にしておいた。


「今日は、一日お休みなんでしょ?」

「ああ。メイリも来るか? ライラと町を見て回ることにしている」

「……それって、あれでしょ、デートって言うんでしょ?」

「デートとは少し違うと思うが。ライラも会いたがっている」

「お邪魔になっちゃうもん。ライラちゃんの」


 プン、と唇を尖らせたままメイリがそっぽを向く。


「邪魔にはならない」

「じゃあ、いいけど……」


 知らない間に、ずいぶんおませさんになったらしい。


 俺は侍女にメイリを連れ出すことと、護衛は不要であることを告げた。


 アイリス支部長とミリアも、城下町を見て回るそうなので、どこかで見かけるかもしれないな。


「わたしが、町を案内したげるね」

「頼もしいな。鍛練はあれから続けているか?」

「やってるよ! 『バックスラッシュ』、すっごく速くなったんだから」


 メイリと繋いでいる手を離し距離を取る。

 ちょいちょい、と手招きをしてやると、察したメイリがナイフを構えた。


 ズダダダダ、と迫ってくるメイリ。


 確かに、速度自体は速くなっている。


「『バックスラ――』」


 俺の背後へ回ったらしいメイリを振り返り、ガシッと顔を掴んだ。


「シュやあん!?」

「足音がうるさい。まだまだだな。速くなることと、気配を消すことは相反する。それでは、背後を取る意味がなくなってしまう」

「うううううううう! ロランのバカっ!」


 ぺち、と俺の腕を叩いて、ズンズンと足音を鳴らしながらメイリが廊下を歩いていってしまう。


「まだまだ子供だな」


 肩をすくめて、またご機嫌ナナメになった王女様のあとを追いかけた。




「あははは。相変わらずであるな、メイリは」


 城下で合流したライラにさっきのことを話すと、けらけらと笑った。

 それが面白くないのか、メイリはムスっとしている。


「ライラちゃんにやったら、絶対成功するもん」

「ほお? 妾もナメられたものだ。いつでもかかってくるがよい」


 まだ閑散としいている食堂で、俺たちは注文したジュースを飲んでいた。

 赤色だったのでトマトジュースかと思ったら、味は濃いオレンジの味がした。


「ライラちゃんは、わたしが考えた『スラッシュ』で十分」

「うむ? 新技か」

「そぉ。正面から、ズバって斬っちゃうんだから」

「メイリ、それはただの攻撃であるぞ?」

「いいの!」


 メイリが足をブラブラさせながら、赤いオレンジジュースをストローでちゅーと吸う


「ロジェとディーはどうした?」


 尋ねると、ライラが声を潜めた。


「……ここは、かつての魔王軍が占領した地でもある。『忘れ物』がないか、少し確認をするそうだ」

「なるほどな。フェリンドに比べれば、多いだろう。退却中にはぐれた魔物はとくに」


 無言で何度かライラはうなずいた。

 ここでクエストを集めれば、討伐系のそれは、大半は元魔王軍の魔物なのかもしれない。


 俺も仕事の話を少しした。


「目途は三か月にしているが、何度か往復しながらここに滞在することになるだろう。もしかすると三か月じゃ足りないかもしれない」

「ロラン、三か月しかいないの……?」

「それより少し延びるかもしれない」

「ずーっといればいいのに。ロランが、ここのギルドの偉い人になればいいのに」

「それはそれで、角が立つんだ」


 メイリの頭を撫でながら苦笑した。

 大人の世界は面倒だからな。


「しかし、クエストだ冒険者だ何だと言っても、すぐに理解はされぬであろうな。妾も最初はよく意味がわからんかった」


 よくよく考えてみれば、クエストも冒険者も、当たり前のように俺たちは使っているが、初耳の人からすれば、それらは専門用語に近い言葉だ。


 打合せ中、下級役人が小難しい顔で、


『冒険者……はあ……冒険をする、というのはわかりましたが……そういった方が、どうして市井の民の困り事を解決するので……? 冒険をしているのでは……?』


 と言っていた。

 アイリス支部長や他の職員が言葉を砕きながら説明し、理解を得られたが、大半の人間が同じ感覚なんだろう。


 冒険者という存在を浸透させるには、まだ少し時間がかかりそうだ。


 メイリがジュースを飲み干したところで、席を立つ。


 会計をしようとすると、


「合計で、三〇〇〇リンね」

「なかなかいい料金だな」


 髭面の主人は申し訳なさそうに頬をかいている。


「すみませんねえ、お客さん。『王女様からお代はいただけねえ』って、言いてえところなんですが」

「いつもは、一杯、五〇〇リンくらい」


 メイリが指摘すると、主人は弱ったように頭を下げた。


「ええ、その通りで。材料のブラッドオレンジが値上がりしてるんでさぁ……。どうも、王都までの道中、魔物に襲われることが増えたみたいで、その護衛料や何やらを支払うと一個あたりの値段が上がっちまうみたいでして……」


 これだ。

 俺はさっと職員顔になり、丁寧な態度を取ることにした。


「その困りごと、よければご相談に乗らせて下さい」

「え? いいのかい?」

「ええ。エイリアス王女様が、ご主人のお悩みを解決します」


 ライラもメイリもそれで気づいた。


「や、やるっ! わたし、お悩み解決しちゃう!」


 あの日できなかった、初クエストだ。

 困っている人間がいて、職員がいて、冒険者がいれば、冒険のはじまりだ。


「いやあ、王女様にそんな……」

「僕たちも一緒について行くので、安心してください」


 うううん、と唸っていた主人だったが、背に腹は代えられないこともあり、俺の申し出を了承してくれた。


「では、中で詳しいお話を聞かせてください」


 出かかったところを席に戻り、俺たちは主人から詳しい話を聞くことにした。


「ジュースの材料であるブラッドオレンジが値上がりしているのは、道中襲ってくる魔物がいるせい、ということでしたね」

「ああ。遠くから仕入れる物は、ウチはそれだけだが、他の店はもっとその煽りを食らっているかもしれない」


 典型的な、討伐クエストだな。


「この悩みが解決したら、このお店に、その困りごとを書く紙と受付用の箱を置かせてもらえませんか?」

「? 別に構わないが……お兄さん、何者だ?」

「ギルド職員という、困っている人と困りごとを解決する人の間を取り持つ仕事をしています」

「あぁ、よその国には、そういうサービス? があるんだったな」


 その商人は定期的にやってくるそうだが、先日来たばかりなので、しばらくは来ないという。

 通常ならここで現地調査に入り、どんな魔物がいるのか、どういう状況なのかを確認しランクと報酬の設定をするところだが、今回は俺が同行するクエストだ。


 現地がどうでも魔物が何でも問題は起きない。


 地図でその商人が使うルートを確認する。

 いくつかの町を経由するそうだが、頻繁に襲われるのは、最後の町と王都までの間だという。


「食い物を狙っているとなれば、知恵をつけた魔物かもしれぬな」


 ぼそりとライラがつぶやく。


「メイリ、初陣だ。ビビってないだろうな?」


 むふーっ、とメイリは荒く鼻息を吐き出した。


「ビビってないよ! 『バックスラッシュ』で、ズババババ! ってやっつけるんだから」


 その意気だ。


 メイリは、どうやら城下の住人には慕われているらしい。

 店を出ると、心配そうな主人が見送りに出てきた。


「王女様、お気をつけて下さいね」

「うん。ありがとう、おじさん」


 メイリは大きく手を振って、意気揚々と歩き出した。


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