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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【風紀委員会の日常編】
6/68

打合せ

 翌日、会議室には準委員の朝日達を除いた、風紀委員会メンバーが全員揃い、星野の話を聞いていた。

 傍らには見慣れない女子生徒が一人座っている。


「――としきさん? 聞いてますかー? としきさーん??」

「ああ、聞こえている……すまない、少し疲れている様だ」


 眉間に寄った皺を指でほぐしながら答える俊樹。

 前世ではその場所に有った眼鏡(モノ)が無い事に、少し物足りなさを感じながら考えを纏めていた。


 【川村(かわむら) 琴子(ことこ)】、星野と同じ二年三組の生徒だった。

 相談内容は、ほぼ星野が纏めてくれていたので、川村は緋ノ宮の質問などを受けて補足する程度だ。

 それほど時間もかかっていない。


「すると、次の日曜日に川村さんとお付き合いしている…【佐々木(ささき) 優斗(ゆうと)】君、でしたわね?

 彼が、三年生の女子生徒と二人でデートなさる、と言う話になっていらっしゃると」

「はい、そう聞きました……」


 ちなみに、今回は緋ノ宮が話を聴いている。相手が女子なのと、俊樹が何を言い出すか信用出来ないので。

 俊樹としては、相手は選んで話しているつもりなのだが。


「ていうかよ、その佐々木ってヤツに直接聞きゃあいいんじゃねぇか?」

「今回はそうはいかん、龍成」


 実は最初、俊樹もそうしようと思ったのだが。

 たしなめてはいるが、人の事は棚に上げている。


「川村さんとしては、どうなさりたいの?」

「それは…やっぱり、信じたい、です。

 彼、浮気なんて考える様な人じゃないと思うんです……」


 交際相手である佐々木とは、付き合い始めて半年ほどらしいが、一学年の時から同じ文芸部に所属しているという。

 誠実で優しい人柄だという佐々木は、周囲の評判を聞いても、とても浮気などする人間ではないと言う。

 だが、同じ文芸部の友人が、たまたま佐々木と三年の女子生徒が、約束事をしているのを聞いてしまったらしい。

 色々と調べると、次の日曜日に二人が会うらしい、と言う事までは判ったが、その内容までは詳しく分からなかったのだった。



 静かな風紀委員会議室内に、俊樹が分厚いファイルをめくる音だけが響いている。


 話し合いの結果、当日実際に佐々木の後を付けて、真相を確かめるという方向で決まった。

 いわゆる、尾行というヤツだった。


 目的地は、近くの大型商業施設らしい、という所までは判っているので、見失う事も無いだろう。

 尾行と聞いて星野と、何故か緋ノ宮が張り切っている様子なのが心配だが。


「とりあえず帽子にサングラスで変装ですね!」

「帽子はチューリップハットかしら? あとアンパンと牛乳ね」

「かりんさん、それ張り込みのヤツじゃないですか!?」


 刑事物と探偵物が、ごっちゃになったような事を言い合う二人に、頭を抱える俊樹。


「あ、でもでも! ここのパンケーキ屋さんの『三段ふわふわパンケーキ』がすごいんですよ!」

「あら、美味しそうですわね」

「でしょーカワイイですよねー!」

「カワイイですわね、()えますわ」


 何が「でも」で「カワイイ」のか、俊樹にはサッパリ分からないが、何時の間にか彼女達の話は、尾行予定場所付近のスイーツ店談義に話が移っていた。


 スマホの画面には、これ又流行りのSNS【アイスタ】のページが映っている。

 クラスの女子達もよく、スマホを開いて『バエル! バエル!』と悪魔の名前のような物を連呼していたが、どうも『写真が映える』という事を言っているらしいと、最近になり緋ノ宮に教わった俊樹にも分かった。


「お前たち、今回は遊びじゃないんだぞ」

「わーかってますよっ!」

「ちょっとしたジョークと息抜きですわ」

「「ねーー!!」」


 言いながら互いに両手を合わせる、ご令嬢とちびっ子。

 理論的に言いくるめようとしても、不利な状況下での女子達は、途端に結束が固くなる。

 息の合わせ方は、まるで十年来の友人だ。

 こいつらは、裏でテレパシーでも使っているのでは、と俊樹は思うのだった。


 そこに、日野が首をかしげながら疑問を投げかけてきた。


「それで俊樹さん、日曜日に風紀委員全員で佐々木優斗を尾行してどうするんですか?

 浮気を阻止するとか、それとも川村さんと仲良くするよう説得するとか?」

「いや、そんな事はせんぞ」

「え? あれ?」


 何時の間にか星野との無駄話を切り上げた緋ノ宮から、熱いお茶を受け取る俊樹。

 音を立ててすすりながら、分厚いファイルを手癖でトントンと軽く指で叩く。


「そもそも川村と佐々木の件はな、別に放っておいても問題ない」

「はい? え、俊樹さん?」


 お茶請けの、えびみりん焼きをリスの様にかじっていた星野が、言葉を続ける。


「あの二人、2年ではラブラブな仲で有名なので、浮気とかは無いでしょうねー」

「川村さんのお誕生日は来月だという話ですから、そういう事ですわね」


 ことり、と円谷の前に、湯気の立つ湯呑を置きながら話す緋ノ宮。


「つまりよ翔太、好きなオンナにな? こっそり初めてプレゼントするのに、何やったらいいかワカンねーて思ったら、お前どうするよ」


「それは、同じ女子でセンスのありそうな人に聞くとか? ああ、そういう事ですか」


 そこまで言われれば翔太も分かった。

 つまり、佐々木は川村の誕生日に、サプライズ的なプレゼントを贈ろうとしているのだろう。

 しかし、恋愛経験の浅い男子では、女子の喜びそうな物が分からない。

 そこで、誰か女子の好みが分かる人に相談し、結果買い物に付き合ってもらう事になったのだろう、と。


「じゃあ、今度の日曜日は何をしに行くんですか?

 わざわざフルメンバーで、由香や麻莉奈たちまで連れて」

「そういえば日野には、風紀委員会設立の詳しい経緯は話していなかったか」


 形骸化していた【生活委員会】を解散した後、それに代わり新たに設立された【風紀委員会】

 そのこと自体は日野も知っている。

 それ以上の事になると、風紀委員会についても、そのメンバーについても、一般の生徒と同じ程度しか知らない。


 それでも、俊樹達四人のプロフィールは、生徒たちの知っている範囲でも少々特殊だ。


 【高橋俊樹(たかはし としき)

 学業で優秀な成績を修め、首席の特待生として入学した秀才。


 【円谷龍成(つむやら たつなり)

 元ボクシング部で特待生だったエース。

 本来二年生だが、ある事件により停学・留年し、現在一年生。


 【緋ノ宮ひのみや華凛(かりん)

 文武両道を地で行く、ハイスペックな謎多き財閥の令嬢。


 【星野芽々(ほしの めめ)

 放送委員会委員長。昼の校内放送の顔としてアイドル的な人気を誇り、校内一の情報通でもある。


 一般的な生徒の認識は大体こうだろう、そう思う日野の推測は間違いではない。

 逆にいえば、彼らの起こした事(・・・・・・・)件が大事過ぎた(・・・・・・・)為に、全生徒その程度は知っている、と言う事でもあるが。


「そうだな、日野には次の日曜日の仕事ぶりを見て、【合格】と判断出来るなら、全て話そう」

「はい! 俺がんばります!!」


 それらしい事を言っている俊樹だが、風紀委員会の下校予定時間が近いので、『お前には期待している』ぽい事を言って先延ばしにしただけだ。今から話せば夜になってしまう。

 俊樹は、部下の扱い方を心得ていた。


「今回は時間がない、事前情報も少ないので、現場で判断する事になるな」

「やむを得ませんわね」

「オレの出番は無さそうだなぁ」

「終わったらスイーツ食べに行きましょう!」


 広げたままのファイルを、指で軽く叩く俊樹。

 本来生徒が閲覧出来る様な物ではない為、普段は厳重に保管されている。

 開いたページには、三学年女子の名前とデータが書かれている。

 その女子が今回の問題の相手であり、風紀委員会が対応する案件でもあった。


「【宮内(みやうち) 涼子(りょうこ)】の置き土産、か…」


 あまり厄介な事にならなければいいと、俊樹は願うのだった。





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