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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【渦巻く愛の嵐編】
54/68

終業式

本日、2話掲載します。


こちらは、1話目です。

 一学期最後のテストも無事に終わり、その後も何事も無く終業式を迎えた今日。

 授業も無い為、既に一般生徒は下校を始めている。

 部外者である咲良(さら)や、放送委員である芽々(めめ)を除いて、【風紀委員会】の面々は委員会室に集まっていた。

 真夏日が続き、すっかり暑くなってしまったが、委員会の会議室はエアコンが効いて涼しい。


「――という訳で、全員がテストで平均以上の結果を出し、風紀委員としての模範を行動で示してくれた事、大変嬉しく思う。

 テスト後も、公募していた学校名決定に関する雑務や、先送りになっていた新生徒会の選挙等、急な業務にも対応してくれた事に感謝する」


 公募の件は、結局【緋ノ宮(ひのみや)学園】という名前に決定した。

 多数の候補があったのだが、学校での華凛(かりん)の存在感が強すぎたのだろう。結局緋ノ宮(ひのみや)の名をそのまま使う事になったのだった。


(わたくし)としては、緋桜学園とかも良かったのですが」

「…まあ、生徒たちが華凛(かりん)に配慮した結果だろう」


 学校中の不良と単独でやり合ったとまで噂された龍成(たつなり)を、校内でノックアウトしてしまったのがいけない。

 一時期、【深窓の令嬢】【高嶺の花】などと呼ばれていたのが、今はすっかり【龍殺しの女帝】になっている。

 まあ、入学当時から陰では【女帝】と言われていたらしいが。


 そして、生徒会の入れ替えは本来夏休み明けに行う予定だったが、体育祭等のイベントの兼ね合いを考え、急遽前倒しで行う事になった。

 候補者自体は決まっていた為、それほど混乱はしなかったが、急な事で生徒会だけでは手が回らずに、風紀委員も駆り出される事になったのだった。


「やはり、教師と生徒の連携が思う様にいきませんわね」

「教員の皆さんもギリギリでやっているのだ、仕方あるまい」

「それを考えると、夏休みの部活を全面休止にしたのは正解でしたね」


 翔太(しょうた)の言葉に頷く一同。

 部活組の麻莉奈(まりな)由香(ゆか)にとっては、やや複雑な思いがあるかもしれないが。


「あたしもだけど、正直バレー部のみんなは、休みになって喜んでるけどね。

 ここ数日かなり暑くなったし…はー、この会議室涼しくて気持ちいい」

「ちょっと、伸びながら机に胸乗せて休むの止めなさいよ…くっ……」

「旅行の件があったから、俺たちには丁度良かったね。

 ああ、その件では本当すいません、折角誘ってもらったのに」


 申し訳なさそうに華凛(かりん)に謝る翔太(しょうた)

 テスト前に話していた夏休み中の旅行の件で、最初は翔太(しょうた)たち3人も同行する予定だった。

 だが、翔太(しょうた)が近所の商店街の福引きで、特賞の【温泉宿泊券】を当てたらしく、彼ら3人はそちらに行く事になり同行出来なくなった。

 今時、商店街で福引きなどあまり聞かないが、当ててしまったのは事実だ。


「それは仕方ないですわ、でも夏場に温泉ですのね」

「山の方にある温泉旅館だから、案外涼しいらしいですよ」

「街中よりは大分過ごしやすいだろうな、そう考えると温泉というのも悪くない」


 近くには綺麗な川もあり、釣りや渓流下りも楽しめるらしい。

 ラフティングは遠慮したいが、釣り糸を垂らし静かに過ごすのも悪くないな、と思う俊樹。


「まあ、我々は”海”で、翔太(しょうた)達は”山”に行く事になる訳か」

俊樹(としき)さんの妹さんに会えないのは、残念ですけどね」

「うん、妹さんもだけど…ようやく、トシ君の家、メイドに会える」


 絢歌(あやか)の言葉に、一瞬身を固くする俊樹(としき)

 謎の中学生メイドを見極める目的で、俊樹(としき)の住むマンションに来る話は、テスト後思ったより忙しかった為に、先送りになっていた。

 流石にこの後真っ直ぐ俊樹(としき)の住居に来る、とまでは行かないものの、日々射貫く様な視線で急かされて、気が気では無かったのだ。

 結局、俊樹(としき)の妹がやって来る日に合わせて、絢歌(あやか)咲良(さら)も遊びに来るという話になり、メイドの那由(なゆ)に会う話も、必然的にその日になったのだが。


「それにしてもトシさんよ、妹さん明日来るって話だけど、早くねぇか?」

「まあ、荷物は既に一部届いているし、問題は無いだろう」

「そういった話では無いと思いますわよ……」


 俊樹(としき)としても、可愛がっていた妹に再会できるのは嬉しい。

 それに普段の彼女を知っていれば、行動的なスケジュールについては気にならないと思う俊樹(としき)


「ん、とにかく明日は、さらちゃと一緒に行く」

「あ、ああ、分かったが…あまり威圧しない様に、那由(なゆ)は中学生だからな」


 鬼気迫る様子に大丈夫だろうかと不安になり、年上らしい大人の対応をお願いしたいと思う俊樹(としき)だった。



 ◇



 【風紀委員会】一学期最後の会議が終わった後、華凛(かりん)は校長室に居た。


明夫(あきお)校長もお疲れ様でした、夏季休暇中は”本山”の方に、お戻りになられても大丈夫でしてよ」

「ええ、報告がてら一度帰省させてもらいますよ。

 個人的には、緋ノ宮(ひのみや)さんの休暇に同行したかったのですけどね」

「そこまでしていただかなくて結構ですわ」


 口ではそう言いながら、華凛(かりん)は初めから不動(ふどう)を連れていくつもりはなかった。

 あくまで仕事としての関係以外では、信用出来るとは言い難い彼。同行させるのは、リスクの方が大きいと考えていた。


「しかし、夏休みの半分近くを使って無人島に旅行とは、又無茶な計画ですが…これも、彼女(・・)をおびき出すための作戦ですか」

「ええ、夏休みの貴重な時間を、あの女(母さん)が無駄にする筈がありませんもの。

 絶対に潜り込んで来ようとする筈ですわ」

「その意味では、日野(ひの)翔太(しょうた)達3人は”白”ですか」


 そう、今回立てた旅の計画も、全て”母”をあぶり出す為の作戦だった。

 無人島と言っても、元々緋ノ宮(ひのみや)家で所有している避暑地の一つであり、並みのホテルより設備は充実している。

 富豪らしくプライバシーも守られており、一般人が島の所在地を知る事はまず無い。

 島に行くには、華凛(かりん)に同行するしか無いのだ。


「随分と焦っておられる様子ですね、もしや…あまり時間が残されてないのですか?」

「……余計な詮索はなさらない事ですわ」

「ははは、これは失礼…まあ、拙僧はいつでもご協力しますよ」


 華凛(かりん)冷たい視線を受け流しながら、あからさまな作り笑いで取り繕う不動(ふどう)

 暫しの沈黙の後、話題を変えようと不動(ふどう)が口を開く。


「それにしても、本当にそこまで警戒するほど、”お母様”は危険なのですか?」

「危険よ、あの女(母さん)は、何をしてくるか分からないわ」


 迷いなく断言する華凛(かりん)

 話す彼女の表情は、怒りの色に染まっている。


「私事ですから敢えて聞かない様にしていましたが…そこまで緋ノ宮(ひのみや)さんが仰る理由、伺いたいですね」

「…別に、難しい話ではありませんわ」


 深く息を吐き出し、気を落ち着ける華凛(かりん)

 どうにか冷静になると、重々しく語り出す。


「前世であの女(母さん)は…俊樹さま(お父さん)()り殺したのよ」



 ◇



 【放送室】では、長期休暇に向けた最後の戸締りや点検を終えてくつろぐ、星野(ほしの)芽々(めめ)――鴉子(あこ)の姿があった。


「それにしても今回の旅行の件、”大好きなお父さん”の為とはいえ、あの子(・・・)の行動は本当に大胆ね〜。

 多分あたしの存在を警戒して、夏休み中に、一気に決めてしまうつもりでしょうけど、少し焦り過ぎじゃないかしら〜?」


 考えを纏めているのだろうが、独り言は癖なのか、誰も居ない放送室で彼女の声だけが響いていた。

 暑くなり始めてからは、ホットからアイスに代わったコーヒーに手を伸ばす。

 ガムシロップを切らせていた為に、代わりに入れた砂糖が溶け残って、コップの底にざらついていた。


「まあ、こちらが先に決めてしまえば良いだけの話よね〜。

 絢歌(あやか)ちゃんも咲良(さら)ちゃんも来てくれるし、どちらかときー君が良い仲になってくれたら、予定通りあたしは芽々(めめ)ちゃんから離れて、その子(・・・)に憑くだけだしね〜」


 前回のデートでは、絢歌(あやか)の天然を計算に入れていなかった為に失敗したが、今回は長期隔絶された島に行く、いわば逃げ場のない状況である。

 華凛(かりん)が狙って作った状況だろうとは思うが、それは鴉子(あこ)にとっても都合のいい条件であった。


「出来れば絢歌(あやか)ちゃんが理想なんだけど、あの子はちょっと…何するか分からないのが困ったちゃんよね…はあ〜。

 咲良(さら)ちゃんも、根は真面目そうだから問題ないのだけれど〜。

 でも〜もしあの子(・・・)が邪魔してきたら、どうしようかしら〜?

 う〜ん…その時は、あたしも正体バレるリスクを負って、キツめにお灸(・・)を据えるしかないわねぇ、それが親の務めだもの……あ、あはは、アガガガガガー!!」


 本来瞳と口のある場所は、底なしの穴の様に黒く染まり、彼女が笑う度に濡れた黒羽がぼたぼたと落ち続けている。


 それぞれの思惑が交差する中、明日から夏休みを迎える俊樹(としき)達の運命は、しかし――。

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