彼女が此処に来た理由
緋ノ宮華凛は、学校の屋上で物思いにふけっていた。
放課後という事も有り、校庭では部活動に励む生徒達の姿が多く見える。
その中の、何処に居るかも分からない転生者の事を考えていた。
「…普通に考えれば、同じ”1年生”として入学してくる筈。
もしかして先に”上級生”として入って来ているかも、と考えましたが……」
結局、最初に怪しいと思って居た日下部咲良も、次に疑った橘絢歌も、転生者では無いと言う。
「橘絢歌は怪しいと思ったのですけれど、実家が神社をなさってるとか、共通点もありましたし。
まあ、見つからないのであれば、何時までも考え込んでる訳にはいきませんわね」
そう、彼女には大きく分けて”2つの目的”が有る。
一つは俊樹を”転生者”から守る事。
涼子の件で失敗した華凛は、その失敗を生かして俊樹を丸め込み、自身のマンションに引っ越させるなど手を回して保護した。
今は風紀委員会の副会長として、怪しまれない範囲で彼に付き添い、それ以外でも用務員に扮した佐助が目を光らせている。
一先ず、居るかどうか不確定な”転生者”の件は置いて、もう一つの目的を達成すべく思考を巡らせた。
「今の所、”咲良”と”絢歌”の2名ですか。
しかし、何故俊樹さまは重たい女性ばっかりに付きまとわれるのでしょうね……」
はぁ、と深く溜息を付くと、持ち歩いている胃薬を取り出し、ボリボリと錠剤をかみ砕くと、 キリキリした胃に爽やかな清涼感が広がっていく。
編み込まれて頭の後ろで繋がっていた髪をほどくと、纏まっていた髪が風に煽られて、鳥の羽の様に広がった。
「やっぱり、”あたし”がちゃんと見極めなきゃ。
今度こそ、ちゃんとした”お嫁さん”を見つけてあげるんだから」
濡れたカラスの羽の様な黒髪を見つめながら、気合と共に胸の前でぐっと両手の拳を握りしめた。
「だから大丈夫だよ、”お父さん”」