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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【風紀委員会の日常編】
4/68

会議と新メンバー


「生徒達の方は、今の所問題は無い様子ですわね」


 風紀委員会会議室で昼食を取り、そのまま昼食後の休み時間を利用した小会議が行われていた。

 先日のキャットファイト騒動が生徒達にどういった形で伝わっているかを中心にした、意見交換会が行われているのだった。


 あの後、日野翔太(ひの しょうた)朝日麻莉奈(あさひ まりな)桃井由香(ももい ゆか)の3人は風紀委員を交えず本音で話し合ったという。

 その結果、いくつかの決まり事を内輪で決めて、今は取り敢えずそれぞれ友人という関係に落ち着いている。

 決まりというのは、要は抜け駆け禁止とか過度なスキンシップ禁止とか、そういった類の事だとか。


 朝日は、自分でも言い方に問題があったと自覚しており、桃井もやり過ぎた事を自分自身で謝罪したらしい。

 かなりの部分が悪ノリした友人達に触発されて、と言うのが風紀委員の調査でも分かっているので、今後は問題無いだろう。

 その友人達も流石に反省しているらしく、今後は一歩引いて見守るという話になったらしい。


「朝日さんと桃井さん、それぞれの友人グループ同志が険悪になるのでは、という懸念は無くなったと断言して宜しいかと思います。

 何より、当の本人達3人が和解して仲睦まじく登下校してますので」


「友人と恋人の中間で、三者とも落ち着いた訳か」


「恋は盲目と申しますから、致し方無い部分もありますけれど。

 しかし、これで風紀委員会発足・・・・・・・から受けた相談14件中12件、破局した事になりますわねぇ……」


 室内には気まずい沈黙と、俊樹が熱いお茶をすする音だけが響く。

 俊樹は、否定も肯定もしない。仰る通りだったので。


「…しかし、朝日はあの性格でどうやって、日野と付き合い始める事が出来たのか分からんな」


 ご令嬢からの視線にいたたまれなくなり、露骨に話題を変える俊樹。だがその疑問も最もだったので、華凛も素直に質問に答える。


「どうも、本人達がどうこうやったという訳では無い様ですわね。

 朝日さんのご友人方が、色々とお節介を焼いた結果だという話です」


 要するに、朝日の友人達も桃井の側と、似たり寄ったりだった訳だ。


 恐らく、まず何も知らない翔太を友人女子が朝日の前に引っ張って来る。

 そして周りを朝日の友人女子だけで固めた状態で『ほら、いっちゃいなよ!』という感じで周りが囃し立て、退路を無くした状態で告白でもさせたのだろう。

 俊樹はそう予想し、事実大体はその通りだった。


 桃井の方は、翔太を中学時代から異性と意識し始め、しかし受験等で告白するまでの余裕は無かった。

 高校入学してこれから、という時に強引な手段で告白を成功させた朝日には、納得いかない感情があっただろう。


 告白の方法自体も(朝日が望んだ訳ではないらしいが)強引であり、桃井の周囲では『翔太が断りにくい状況で、無理に首を縦に振らせた』という認識が強かったと言う。

 要は、桃井の友人側から見れば【略奪愛】に見えたのだ。女子と言うのは、浮気や不倫等の【略奪愛】には特に悪感情をあらわにする。 

 そのタイミングで、朝日と日野が不仲になった。

 これを好機と見た桃井の側では『略奪愛の犠牲になった翔太を、朝日から取り戻す』という大義名分が掲げられ、今回の様な強引な行動に繋がった訳だ。


「三者とも周囲に流された結果とは言えるが、ある意味今回の3人は【恋愛】という(やまい)の、犠牲者だったのかもしれんな」


「刑事ドラマ風に締めても、誤魔化されませんよ?」


 ご令嬢華凛は、周りに流されない女子だった。


「はぁ…わたくし達風紀委員会が【別れさせ屋】と呼ばれ始めてますのよ? 何とかしてくださいませんか…。

 大体ですね…日野さん達の件もそうですが、俊樹さまの場合は今までの相談事も内容が現実的過ぎるのです!

 もう少し、未成年の男女に配慮した【夢を壊さない】程度の助言も出来ますでしょう?

 何故毎回毎回、熟年夫婦の実態みたいなのを引き合いに出したりするんですか!

 青春真っ盛りのカップルに、三十路女の現実を突きつける様な事ばかり仰らないで下さい!

 まだまだ若いのですから、浮かれてても良いじゃありませんか!!

 『結婚は、一度きりとは限らない』とか、『結婚しても離婚すれば独り身になるから、料理くらい自分で出来た方が良い』なんて言う必要ありますか!?」


 話しながら口調がヒートアップし、息が切れたために休憩を挟む華凛。

 ゆっくりとお茶をすする俊樹、少し苦くなった気がする。


 そこで、今まで沈黙を守っていた三人目の男子生徒が口を開いた。


「まあ落ち着けよお嬢(・・)、話聞いた感じじゃあよ、その翔太ってヤツがハッキリしねぇのが一番悪かったと思うぜ? いずれ駄目になってたんじゃねえか?

 大体、今まで相談とかいって来た連中だって、オレから見りゃあ別れてもしょうがねーヤツらばっかだったしよ。

 トシさんの言い方は…まあ正直たまにキツイとも思うけどよ、アレで良かったとオレは思うぜ」

「円谷君はいつも俊樹さまの味方じゃありませんか、参考になりません」


 緋ノ宮華凛をお嬢と呼ぶ彼は、【円谷(つむらや) 龍成たつなり】。風紀委員の平メンバーである。

 鋭い眼つきと短く刈った髪の、少しワルっぽい見た目の円谷は、むしろ取り締まりされる側に見えるが、れっきとした風紀委員だ。


 今日の小会議も、事件当時不在だった彼への事情説明を兼ねての事だった。

 俊樹は若干機嫌の悪い華凛は見ないフリをして、話を進めることにする。

 休憩時間も間もなく終わりだ。


「そういう事だから、日野翔太が新しく風紀委員会メンバーに加わる事になった。

 華凛と龍成は、何か意見は有るか?」

「オレは雑用を手伝ってくれるダチが増えるなら助かるぜ」

「人手不足ですし、異論ありませんわ」


 二人とも、特にないという肯定の意を伝える。

 正規メンバーはこれで4人になる。

 非正規で部活と掛け持ちなどで協力してくれる生徒は数人いるが、雑用などを気軽に頼めるものは居ないので、今まで円谷が殆どの雑用を引き受けていた。

 下っ端が増える事は、円谷にとっても有り難い事だった。


「それでは、今日の放課後にメンバーで顔合わせを行うので、又ここに集合するように」


 昼休みの小会議は、一先ず解散となったのだった。





「…それで、何故3人居る(・・・・・・)?」


 放課後、風紀委員会会議室に来たのは3人の生徒だった。

 一人は日野。残りの二人はもちろん、朝日と桃井だった。


「わ、わたしたちも!」

「風紀委員にいれてください!」

「「よろしくおねがいします!!」」


 練習したのか、妙に息が合っていた。


「と言うか、お前たち二人は仲が悪かったのではなかったのか?」

「まりちーとは、今はもう親友です!」

「あたしとゆっちーは、ズッ友なのよ!」


 すでにあだ名で呼び合う仲だった。

 【男子三日会わざれば刮目して見よ】などと言うが、女子にも言えるのか。

 いや、【昨日の敵は今日の友】か? と俊樹は思った。


「気持ちは分かるが、お前たち二人は駄目だ」

「「なんでですかー!」」

「動機が不純そうだからだ」

「「あっちゃー!!」」


 既に息もピッタリだ、たった数日で何故ここまでと思う俊樹。

 いっそ、そのままコンビ組んでデビューすればいいとさえ思う。


「お前たち二人は、早くお笑い研究部に戻れ」

「ひっどーい!」

「アタシたちはそんな部活じゃないわよ!」


 じゃあ何をやっているんだ、と聞く。

 すると桃井はバレー部で、朝日はフェンシング部だった。


「部活に入っているなら、そっちを優先しろ」

「えっと、まあそうなんですけど…」

「ぶ、部活は辞めるわよ!!」


 迷う桃井と、勢いで突っ走る朝日。

 だが、まだ一年生とは言え、よその部活動から部員を引っ張る様な真似は出来ない。

 俊樹は波風を立てたくないのだ。


(わたくし)としても、女子委員が居てくれれば心強いですけどもね。

 ただ、お二人が今いる部との関係を考えると、あまり引き抜きの様な事は出来ませんの」

「お前ら部活にもダチがいんだろ? ソイツらの事も考えてやれよ」


 緋ノ宮と円谷も幸い同じ意見の様だ。

 風紀委員会は、発足間もない為に地盤が不安定だ。

 メンバーが集まりにくいのも、そのあたりが原因なのだが、今事を荒立てる様な真似はしたくないと言うのは、風紀委員会の総意でもあった。


「う、やっぱりそうですよね…」

「た、確かにアタシもフェンシング部で期待されてるけど…」

「緋ノ宮さんと円谷さんの言う通りだよ、俺は一人でも大丈夫だからさ」


 申し訳ありません、と頭を下げる日野。

 彼もこれから、色々と苦労しそうだが、以前に比べると言葉使いもはっきりしている様に感じる。

 自分の意思表示をしっかり出来る様になった、と言うべきか。

 三角関係が続いているのに険悪さが無いのは、こういった日野の変化が大きいのだろう。


 まあ、朝日と桃井の気持ちも分かる。発足間もない(・・・・・・)風紀委員会は、俊樹を会長とした面々の濃さ、その設立の経緯から、一部の生徒(・・・・・)には疎まれている(・・・・・・)

 そんな場所に自分の愛する男が入ろうと言うのなら、心配もするだろう。

 もちろん、二人が単純に【翔太と一緒にいたい】と言う下心も有るだろうが。


 俊樹がそんな事を考えていると、突然会議室のドアが、バァン! と勢いよく開けられた。

 その場に居る全員が振り向くと、そこには一人の女子生徒が仁王立ちしていた。

 中学生位の身長だが、制服の襟章を見れば2年の生徒だと分かる。

 ショートヘアの前髪をヘアピンで留めた彼女は、何故かドヤ顔で立って居る。少しウザい。


「話は聞かせてもらいましたよ!!!」


 面倒なヤツが来た、そう思い俊樹は頭を押さえ、緋ノ宮は胃薬の準備をするのだった。



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