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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【清崚高校 俊樹入学編】
30/68

ボクシング部

 4人の前には、それぞれ龍成(たつなり)が自販機で買って来たドリンクが置かれている。

 あれから少し時間を置いて、俊樹(としき)も落ち着きを取り戻した。

 他の面々も深く追及出来る空気では無かった為に、有耶無耶のままその話は終わっていた。


「恐らく追い詰められた宮内(みやうち)は、すぐに次の手を打ってくると思います」

「つっても今動かせんのは、ボクシング部の連中しかいねーからな」

「荒事になる、と言う事か……」

「あら、(わたくし)的にはむしろ好都合でしてよ」


 何か好戦的な反応を示すご令嬢に、冷ややかな視線を送る俊樹(としき)

 権力だけでなく腕力にも自信が有るらしいが、正直自分まで巻き込むのは止めて欲しいと思う。

 自慢ではないが、俊樹(としき)は運動が苦手なのだ。

 そんな俊樹(としき)の内心など意に介さない様子で、華凛(かりん)は言葉を続ける。


「ちょっかいを掛けてきた所を返り討ちにして、逆に証拠を掴んでやればいいのですわ」

「何て言うか、すごい脳筋な思考回路ですねーかりんさん」

「ホントに良い所のお嬢さんかよ、ヤクザの娘の間違いじゃねぇのか?」

「あら、全然違いますわ。緋ノ宮(ひのみや)は、ああいう方々ほど優しく有りませんもの」


 言いながら微笑む華凛(かりん)。笑っている筈なのに迫力が有るのは何故だろうか。

 そこで、ふと疑問に思った事を口に出す俊樹(としき)


「生活委員会以外で敵対勢力は、ボクシング部だけなのか?」


 言いながら、ちらりと芽々(めめ)を見る俊樹(としき)

 その言葉を受けて、芽々(めめ)が現状を説明する。


「ボクシング部ほどではないですが、運動部系の3年には宮内の”男”が多いです。

 3年生は、宮内(みやうち)の影響力が一番大きいですから。


 2年生は、ボクとたっちゃんが色々と邪魔してたので、3年生ほどじゃないですが…多少は宮内(みやうち)に取り込まれてしまってます。


 1年生は入学したばかりですから、今の所影響はない筈ですね。

 つまり旧3年生が卒業し、入れ替わりで1年生が入ったばかりの今は、学年順に宮内(みやうち)の力も弱体化してます。


 その意味では、この入学直後に俊樹(としき)さんが引っ掻き回してくれたのは、偶然ですが絶好のタイミングだったと言えます」


 恐らく、それほど時間が経たない内に、宮内(みやうち)の毒牙にかかってしまった新入生も出てしまっただろう。


 俊樹(としき)の盛大な勘違いが原因ではあるが、新入生たちにとっては幸運であったと言える。

 意図せずに、多くの若者達の未来を救っていた俊樹(としき)だった。


「天然男の偏見が原因で追い詰められるとは、普通は思いませんわね」

「もういいだろ、あんまトシさんいじめんな」

「むう、悪かったとは思ってる……」


 ちくり、と言葉のトゲを刺す華凛(かりん)

 実際、女子二人は既に怒っては居ないのだが、流石にさらっと流せるほどの内容でもなかったので。

 それでも、出来るだけその話題から離れたかった俊樹(としき)は、丁度良く沸いた疑問を芽々(めめ)に投げかける。


「しかし、それならこの【放送委員会】は宮内(みやうち)の影響下には無いのか?

 私だったら、報道機関など放っておかず、真っ先に取り込みにかかるが」

「それは、放送委員は全員部活と兼任してるんですが、今の委員はみんな【漫画研究部】所属なんです。

 陰キャや濃い性格のオタク属性な面々なので、宮内(みやうち)の好みから大きく外れてますからね」


 芽々(めめ)の言いたい事を理解した俊樹(としき)

 龍成(たつなり)も若干苦い表情をしているが、そこまでキャラの濃い面々なのだろうかと、少し心配になる。

 一応彼らも、宮内(みやうち)のやっている事はある程度理解しているらしく、何かあれば協力してくれるらしい。


「そういう訳ですから、今日これから何か仕掛けてくるとしたら、ボクシング部以外は無いと思います。

 ヤツらの一部は、他校や街の悪い連中とつるんでますから、20人位ならすぐに集められます」

「随分と物騒な連中なのだな」

「あら、素人が何人来ようと、物の数ではありませんわ」

「オレ一人じゃキツイけど、お嬢が思った通りの強さなら、そうかもしれねぇ」


 何時の間にか、華凛(かりん)の呼び方が”お嬢”になっている龍成(たつなり)

 多分彼の中では、すっかりヤクザの娘的なイメージになってしまったのだろう。


「それじゃあ、この4人で帰宅するフリをしつつ、獲物をおびき寄せるという事で、宜しいですわね?」

「良い所のご令嬢が、そんな物騒な事をして許されるのか?」

(わたくし)より強いボディーガードは居ませんもの、一応周囲に人は手配しますわ」

「ボクもスタンガンは持ち歩いているので、自分の身位は守りますよ!」

「メメはあんま無理すんな」


 なんとか回避出来ないかと思う俊樹(としき)だが、既に宮内(みやうち)にマークされている。

 ならば分かり易いタイミングで迎え撃った方が良いだろう、という芽々(めめ)華凛(かりん)

 いざとなったら警察に連絡する心構えはしておこう、と思う俊樹(としき)だった。



 ◇



「本当に来たな」

「ですねー、でも思ったより少ないです」


 校内で話し込んでいたため、すっかり暗くなった帰り道。

 俊樹(としき)達は、わざわざ人気のない公園を通り、襲撃者立ちをおびき寄せていた。

 目の前に居るのは、全員高校生であろう10人程のガラが悪そうな男子。

 その中で明らかにリーダー格であろう、身長180cm程のがっしりした体格の男が前に出た。


「チッ、わざとらしく誘導しやがって。

 やけに落ち着いてやがると思ったが、こっちの動きは織り込み済みかよ」

「よお、久しぶりじゃねぇか。篠塚(しのづか)センパイよ」


 篠塚 雄大(しのづか ゆうだい)、3年生にしてボクシング部部長である。

 校外のワル達にも顔が効き、宮内(みやうち)の配下で最も暴力の得意な男だった。


「チッ、あんなに涼子(りょうこ)がビビってんのは驚いたがよ。

 お前ら4人、グルだったって訳かよ。

 とんでもねえ野郎らしいな、その高橋(たかはし)俊樹(としき)ってヤツはよ」

「いや、誤解しているぞ」

「としきさん、解かなくていいんですよ」


 律儀に誤解を解こうとする俊樹(としき)を、ジト目で制する芽々(めめ)

 その、あまり緊張感の無いやりとりに舌打ちする篠塚(しのづか)

 そして、自分が矢面に立つべく、歩み出てきた龍成(たつなり)が口を開いた。


「しっかしボクシング部の部長さん(・・・・)よ、やけに人数が少ないんじゃねぇか?」

「あぁ、何だかしらねぇが…生活委員の女どもとカラオケで遊んでた連中が、みんなハラこわして出てきやがらねぇ。

 そこの高橋(たかはし)だけだったら問題なかったんだがよ。チッ、ふざけた話だぜ」

「あらあら、それは大変でしたわねぇー」


 いち早くわざとらしい声をあげる華凛(かりん)

 生活委員と言えば、俊樹(としき)も保健室で聞いた食中毒の話を思い出していたが、それは流石に偶然過ぎるのではと思っていたが。

 だが、篠塚(しのづか)を見ている内に、それよりも気になる点があった俊樹。

 もやもやと考え込んでいる内に、篠塚(しのづか)がボキリと指を鳴らし始める。


「チッ、とにかくそこに居る高橋(たかはし)ってヤツは、ちとキツイ目に遭ってもらわないといけねぇ。

 他のヤツに用はねぇんだ、大人しくどけろ」

「おいおい、オレがんな事言われて大人しくどけるわけ――」

「はいビリビリー」

「あばばばばばばばばばば!!」


 いきなり奇声を発し、弾かれたように倒れた篠塚(しのづか)

 何時の間にか龍成(たつなり)の陰から近寄っていた芽々(めめ)が、隙をついて篠塚(しのづか)にスタンガンを押し当てたのだった。

 その空気を読まない、あまりな行動に一同は呆気に取られる。


「やりました! 敵将篠塚(しのづか)、討ち取ったりー!!」

「おいメメお前は前に出てくんなっていったろうが!!」

「ああ! これから(わたくし)の見せ場が始まる予定でしたのに!!」


 騒ぐ華凛(かりん)を無視しつつ、どこからともなく取り出した粘着テープのような物で、自由の利かない篠塚(しのづか)の手足をグルグル巻きにしていく芽々(めめ)

 緊張感なく騒ぐ面々を前に、ようやく再起動した篠塚(しのづか)の取り巻き達。


「このアマよくも篠塚(しのづか)さんに!」「こいつ本気(マジ)スタンガンあてやがった!」「テメェら無事に帰れると思うな!」


 殺気立つ取り巻き達に身構える龍成(たつなり)

 だが、前に出ようとする彼を片手で制する華凛(かりん)

 その手には、何時の間にか白い皮手袋がはめられていた。


「はぁ、一番美味しい所はもって行かれてしまいましたわね。

 しょうがないので、アナタ達で我慢して差し上げますわ」

「お、おいお嬢。さすがに一人で行くのはキツイぜ」

「邪魔よ、お下がりなさい」


 薄暗い公園で、濡れ羽色の髪をなびかせながら、不良連中に歩み寄る華凛(かりん)

 威勢が良かった連中も、その異様な雰囲気を感じ取り静かになる。

 耳にかかる髪をかき上げながら微笑む華凛(かりん)は、その笑顔のままで宣言する。


「怯えなくてよろしくてよ、大丈夫。ちゃんと、手加減してさしあげますわ」



 ◇



「いやー、全員即落ち2コマって、これ手加減って言うんですかねー?」

「あら、ちゃんと皆さま気絶だけ・・・・で済んでるではありませんの」

「おいおい、これマジでオレが3人でも勝てねぇか」


 如何なる方法か意識を刈り取られた9人は、公園の床に転がされていた。


「…あの程度の輩に苦戦するような鍛え方は、しておりませんので」

「うおお! おいジイさんどっから出てきた!!」

「ご苦労様、佐助(さすけ)


 言いながら、執事姿の老人からドリンクを受け取る華凛(かりん)

 緋ノ宮(ひのみや)家に仕える使用人、菱方(ひしかた)佐助(さすけ)であった。


「随分とお優しく扱われましたな、お嬢様」

「同じ学校の生徒でしたら、今はこの方が面倒が無くて良いでしょう?」

「左様にございますな」


 不敵に笑う華凛(かりん)と、表情を変えない佐助(さすけ)

 もしかするとヤクザより危ないかもしれないと、密かに思う龍成(たつなり)だった。


「取り敢えず、さっさと宮内(みやうち)を追い詰める証拠をさがしましょう!

 篠塚(しのづか)のスマホでも探れば、きっとヤツとやり取りした危ない内容が沢山出てきますよ!」

「ああ、まあそうだな…勝手にあさるのは気が引けるがよ」


 言いながら、何時の間にか猿ぐつわの上に粘着テープで目隠しまでされていた、篠塚(しのづか)の持ち物を探る龍成(たつなり)

 ポケットに入っていたスマートフォンを引っ張り出すと、あれこれと操作しようとする。


「あれ、これ電源が入らねぇぞ? 電池切れか?」

「ちょっと貸してください…壊れてませんかコレ、おかしいですねー」

星野(ほしの)さん、アナタこの方にスタンガン当ててましたわよね……?」

「あ、あーあー……」


 言いながら目が泳ぎまくる芽々(めめ)

 責める様な華凛(かりん)の視線が痛い。


「ちょっと、どうしますのよ! 折角の手がかりを!!」

「ちょ、不可抗力! ふかこーりょくですよ!!」

(わたくし)に任せておけば、もっとスマートに出来ましたのに!!」

「そそそんなこと言われても、顔近っ! あ、まつ毛長い」


 詰め寄る華凛(かりん)に後退る芽々(めめ)

 そんな2人を余所に、今まで口を開かずにいた俊樹が問いかけた。


「おい、星野(ほしの)

 この篠塚(しのづか)とかいう生徒も…宮内(みやうち)と関係を持っている、という事なのか?」

「え? ええ。現場を押さえた訳じゃないですけど、ボクの調べでは間違いないと思いますよ」

「そうか、そうなのか……」


 そんな事を話していた俊樹が、篠塚(しのづか)の猿ぐつわと目隠しになっていたテープを剥がす。

 頭を振りながら周囲を確認し、俊樹(としき)たち4人を視界に入れると舌打ちをする篠塚(しのづか)

 突然の俊樹(としき)の行動に驚きつつ、暴れ出さないか警戒する龍成(たつなり)

 俊樹(としき)は、静かに篠塚(しのづか)に詰め寄った。


「おい、篠塚(しのづか)と言ったか、聞きたい事が有る。

 お前は、宮内(みやうち)と男女の関係を持っているのか?」

「……チッ」


 質問に答える気は無い、と言わんばかりに舌打ちをして視線をそらす篠塚(しのづか)

 その行動が肯定しているようなものだが、俊樹(としき)は追及を止めない。


「答えろ、お前は宮内(みやうち)と関係を持っているのか?」

「…俺が、テメェらの為になる様な事を、言う訳ねえだろ」

「そんな事はどうでもいい……!」


 珍しく、やや怒気の含まれた口調で話す俊樹(としき)

 篠塚(しのづか)を刺激するのではと慌てた華凛(かりん)が間に入ろうとするが、その前に再び俊樹(としき)篠塚(しのづか)を問い詰める。


篠塚(しのづか)…お前は、日下部(くさかべ)咲良(さら)と付き合っているのではないのか……?」

「なっ……!?」


 その言葉で、俊樹(としき)が何を言いたいのかを察した面々。

 咲良(さら)の定期入れを拾った際、そこに貼られていたプリントシールには、彼女と篠塚(しのづか)が並んで写っていた。

 怒りを理性で抑えようと顔を歪ませた俊樹(としき)は、気圧されて下がる篠塚(しのづか)に詰め寄った。

 最早答えは分かり切っているが、それでも俊樹(としき)は追及する。

 それが、間違いであって欲しいと思いながら。


「おい、答えろ篠塚(しのづか)

 お前は、日下部(くさかべ)を裏切って…宮内(みやうち)と関係を持っているのか……!?」

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