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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【清崚高校 俊樹入学編】
27/68

高橋俊樹という男【4】

 日下部(くさかべ)の自宅に直接定期を届けに行った。


 玄関先で対応してくれたのは母親だったが、話した感じでは私の心配は杞憂だった様だ。

 一戸建てのよくある住宅に、両親と妹4人で暮らしているらしいが、ごくごく普通の明るいご家庭だ。


 日下部(くさかべ)の母も最初は訝しんでいたが、私が学校の制服着用だった事もあり、世間話をしていると逆に打ち解けて、色々と話し込んでしまった。


 特に、特待生で主席入学だという事を話した時から、日下部(くさかべ)母には大分気に入られてしまった。

 やはり、女性には肩書やブランドが強いな。


 そして、私が一人暮らしでこれから夕食を自分で作ると聞いた日下部(くさかべ)母は、せっかくだから上がって食べて行きなさいと言い出した。


 これから家に帰って自炊も大変だ、願っても無い事であったが、先輩女子高生の家に上がり込んで夕飯をご馳走になると言うのは、アラフォー男子にはキツイのだが。

 それに、今日は田舎から荷物が届く予定だ。

 不在で再配達させるのは、運送業者さんに申し訳ない。


 やんわりと断ろうかと思ったのだが、主婦特有の強引さに押し切られてしまった。

 まあ、ここで無理に断っても失礼だ、運送業者さんには悪いが仕方が無いと諦めることにした。


 リビングに入ると、既に日下部(くさかべ)の父も帰宅していた。

 定時にすんなり帰れる身分とは羨ましいが、この事からみても日下部(くさかべ)の家庭環境は良好と言えるだろう。


 娘の男が来たのかと、最初は警戒心をあらわにしていたご主人だが、落とし物の事や入学直後から助けてもらった、と適当に話を作って説明すると納得してくれた。

 まあ、娘を思う父の心情も、分からなくはない。


 その後、食事の用意が出来るまでご主人と談笑する。

 40歳過ぎた位だろうか、この世代とは本当に話が合う。

 お陰で話が弾み、大分気に入られてしまった。


 もちろん、話すついでに奥さんを立てる事も忘れない。

 仕事にかまけて家事を奥さんに丸投げしていると、家庭での信頼を失うから、休みの日のトイレ掃除くらいはした方が良い、などと話しているとすっかり奥さんに気に入られた。


 日下部(くさかべ)の為にも、このご夫婦には末永く円満に暮らしてもらいたいと思う。


 食事時になると、2階に引っ込んでいた中学生の妹さんも降りてきたが、私を見てもさして興味を示さず、会話の節々でたまに『俊樹(としき)さん、オジサンくさいー』などと茶々を入れて、奥さんに怒られていた。

 好きなアイドルがテレビに出る時間だという事で、夕食をさっさと済ませるとテレビに向かう。

 あまり急いで食べると消化に悪い、もっとゆっくり食べればいいのにと思わず漏らすと、日下部(くさかべ)母に、何だか俊樹(としき)君の方がお父さんみたいねぇ、などと言って笑い出した。


 しかし、こうして日下部(くさかべ)夫妻と話していると落ち着くな。

 精神年齢が近いので話も合うし、学校に居る時の様なストレスを感じなくて済むのは有り難い。

 強張っていた表情筋も自然とほぐされていく様だ。


 そんな事をしている内に、どうやら日下部(くさかべ)本人が帰宅した様だ。

 遊び歩いていた事を少々咎められていた様子だが、あの年頃ならあまり押さえつけるのも良くない。

 そんな事をさりげなく言ったら、俊樹(としき)君は大人ねぇ、アナタみたいな人が咲良(さら)と付き合ってくれればいいのに、などと言い出したが勘弁してほしい。


 あんな気が強くて自己主張の激しい女子と、付き合える自信はない。

 正直言えば恐い、私があんな女子と付き合ったら、1日で胃がやられる自信が有る。

 定期入れに貼ってあった彼氏らしき人物を心の中で称賛しながら、やんわりと断った。



 それにしても食欲も無く、大分顔色が悪い。これはいよいよ生理が一番重い時期に入ったか。

 そんな事を考えていると、日下部(くさかべ)父が娘の様子を心配したのか、大丈夫かと何度も声を掛ける。

 気持ちは分かるが、ご主人には日下部(くさかべ)の構って欲しくない様子が分からないのだろうか。

 ここは一つ、遠回しに注意しなければいけない。


「ご主人、年頃の娘さんですから余り、その…男性が体調不良について、突っ込んで聞くのは……」

俊樹(としき)君、何がだい?」

「ああ…もうアナタってば、本当にデリカシーが無いんだから」


 同じ女子だからであろう、奥さんは日下部(くさかべ)が生理だとすぐに理解してくれた。

 今迄そんなに酷くなかったろうというご主人に、酷い時だってあるのよ、だからアナタは咲良(さら)にウザがられるのよ、と辛らつな言葉を浴びせる奥さん。

 まあまあ、と夫婦の間を取り持っていると、俊樹(としき)君の方がよく分かってるわね、こんな旦那になっちゃダメよ。と奥さんに言われて、私とご主人は愛想笑いするしか無かった。男はつらいな。


 その後、足元がおぼつかない様子の日下部(くさかべ)を、何故か私が彼女の自室までエスコートする羽目になった。

 俊樹(としき)君お願いね、と言う奥さん。あまり変な気は効かせないで欲しい。

 まあ、私自身も日下部(くさかべ)に少し話がしたかったので丁度いい。


 部屋に向かう途中、生理痛の為に憔悴しきった日下部(くさかべ)を刺激しないよう、慎重に言葉を選び話し掛ける。


 いくら情緒不安定だからと言っても、あんな嫌がらせをしている事が知られては、育ててくれた両親に心配を掛けてしまう。

 ご家族の為にも、軽率な行動は慎む様に、それに私だって心配している。


 そんな事を説明すれば、ようやく日下部(くさかべ)も納得して、泣きながら謝罪してくれた。

 弱っていた事が幸いしたのだろう、今度は冷静に話を聞いてもらえた様だ。


 家族や宮内(みやうち)というアラサー教師に、今回の事をバラされるのを恐がっている様子だが、日下部(くさかべ)がちゃんと現状を理解し謝罪したのだ、もちろんそんな事はするつもりは無い。

 安心してほしいと言った。


 色々とあったが、これで一安心だ、本当に良かった。

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