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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【清崚高校 俊樹入学編】
25/68

高橋俊樹という男【2】

 その後、放課後に円谷(つむらや)と話をしていると、生活委員長の日下部(くさかべ)咲良(さら)という上級生に絡まれた。

 彼女が言うには、私の様な優等生が円谷(つむらや)と付き合うと、品性を疑われるので止めろ、と言う話だ。

 話の流れでは、どうも円谷(つむらや)の停学の原因は”暴行と喫煙”らしいが、話した印象ではこの円谷(つむらや)と言う男、あまり道から外れた事を行うような男には見えない。


 それはともかく、見も知らずの上級生に突然そんな事を言われても困惑するだけであり、それが事実だとしても円谷(つむらや)は今現在『留年』という処分をきちんと受けているので、蒸し返すのはお門違いではないか、と思うのだが。


 それに、正直いきなり女子高生に詰め寄られて、かなり動揺している。

 普段嗅ぎなれない甘い香りがするのは、若い女性の場合は皮脂の分泌が少ないので、シャンプーなどの香りが長く残るためだと聞いた事がある。

 とにかく、アラフォー男子に女子高生が無造作に近寄るのは、心臓に悪いので止めて欲しい。

 しかも、こっちがそれに反応して笑ったりしようものなら『ニヤニヤして気持ち悪い』『あの人ストーカーです』などと言われるかもしれない。

 文句を言われないのは、若く容姿の良い男だけだ。


 まあ、そこまで言う女子はさすがに少数だが、可能性があるなら最善の防衛策を取らなければ。

 一度の失敗で人生は、あっさりと転げ落ちるのだ。

 とにかく、あまりニヤニヤと笑わない様にしなければいけない。

 そういった事情もあり、学校ではトラブルにならないよう、今までも極力表情に出さない様に努めている。


 しかし、彼女は相手の話を聞かない。

 上から自分の意見を押し付けるタイプの女子だ。

 モンスターペアレントになる母親は、こういうタイプの女子なのだろうか、自分が正しいと言って聞かない。

 高校生と言う若さ故も有るのだろうが、困ったものだ。


 そうやって日下部(くさかべ)が廊下で騒いでいると、そこに1-6組の緋ノ宮(ひのみや)華凛(かりん)が来た。

 噂には聞いていた、もう一人の最高点入学生徒だ。


 如何にもご令嬢と言う雰囲気で、正直言って進学校とはいえ、何故この学校に入学してきたのか分からない。

 金持ちの考えることは本当に分からないが、そう言うものなのだろうか。


 そんな事を考えていると、今度は日下部(くさかべ)緋ノ宮(ひのみや)に絡み始めた。

 何か、髪型がどうとか言い出しているが、正直その程度の校則違反は上級生でも見られる。

 何故そこまで突っかかるのか。

 私から見れば、髪が長かろうが編み編みになっていようが、変わらないと思うのだが。




 そこで私はふと気が付いた。

 ――この日下部(くさかべ)とかいう女子、生理中(・・・)か。




 あの日(・・・)に入った女子は大抵理不尽だ。

 もちろん全員がそうなる訳では無いが、この女子は精神に出るタイプなのだろう。

 しかもあの様子だ、相当重い(・・)筈。



 前世の妻がそうだった。

 普段は気にしない事を執拗に気にしたり、自分ばかり大変なのは不公平だ、今日は自分で炊事しろなどと文句を言い出し、言われた通りに料理をしてやっても、出来に関わらず文句を言う。

 炊飯器の内釜は洗うのに、内蓋は洗わないのは何故だと言ったら、じゃあアナタがやりなさいよと濡れたスポンジを投げつけてくる。

 そんな風に、いくらこちらが正論を持ち出しても、最後は『あたしが嫌だからダメなの!』と感情を爆発させてしまうのだ。


 その後、生理が終わると、そんな事は無かったかのように振舞うのだが、自分に非が有っても謝る事は無い。

 内心は悪いと思って居るのか、終わるとやたらと甘えてくる事が有るが、逆にそれが癇に障る。

 まあ、そんな事を言うと、男にはこの苦労は分からないとか言い出し、再びキレるから言えない。



 とにかく、生理中の女子は暴君であり、何をやってもコレは生理現象だから仕方がない、という理論で通す。

 生理の存在しない男子には理解しようがないので、理不尽だが反論は難しい。分からないから『そういうもの』で納得しておくしかない。


 色々と並べたが、この日下部(くさかべ)という女子は今、そういった状況なのだろう。

 周囲には一般の生徒や緋ノ宮(ひのみや)の友人らしき女子が多数要るが、下級生たちの刺すような視線や敵意に、全く気が付いていない。

 周りが見えていないのだろう。


 大体、緋ノ宮(ひのみや)は頭脳明晰なだけではない。

 高校生とは言え財閥のご令嬢、つまり金持ちで権力者だ。


 校長から少し聞いた程度だが、すでに学校に多額の寄付を行っており、何か問題が有れば学校は間違いなく緋ノ宮(ひのみや)の味方に回る。

 正直、一介の生活委員生徒如きが、どうこう出来る相手ではない。

 現に、何時の間にか集まっていた、他の生活委員らしき生徒は顔を青くしている。


 女子同士がやりあう所に関わりたくは無いが、こんな事で互いに禍根を残すのは今後の学校生活を送る上でも良くない。

 双方をなだめて取り持つべく、少し冷静になった方が良いと言う為に割って入ったが、今度は日下部(くさかべ)の苛立ちは私に向いてしまった。本当に何なのだ女子は。


 だが、そこに校長を連れてあのアラサー教師がやって来た。

 騒ぎを聞きつけたのだろうが、緋ノ宮(ひのみや)が居るからだろう、真っ先に校長を連れてくるとは、大胆だが中々できる教師の様だ。


 しかし、そこで突然校長は土下座を始める。

 どうも緋ノ宮(ひのみや)の権力は、私が想像していた以上らしい。


 校長を土下座させる女子高生とはどういう事なのか。

 緋ノ宮(ひのみや)を甘く見ていたつもりは無かったが、少女マンガでも見ている気分だ。


 ふと、隣に居る円谷(つむらや)龍と眼が合う。

 我々は互いに頷くと、その恐るべき女子達から後退り、野次馬たちがいる場所まで距離を取った。

 この男も、案外気が合うかもしれないと思った。

 

 そうこうしている間に、緋ノ宮(ひのみや)は校長を伴って場を後にした。

 残されたアラサー教師は、てきぱきと指示を飛ばしあっと言う間に場を収めていく。

 やはり有能なアラサーの様だ。


 しかし、丸く収めようという私の努力は空振りしてしまった様だ。

 まあ、女子相手では思う様に行く事の方が珍しい。仕方が無いだろう。


 そして、私を逆恨みしてしまった日下部(くさかべ)

 生理が終わってくれれば思考も正常になるのだろうが、あの様子では今日明日に収まると言う話ではなさそうだ。


 それに、どうもこのまま穏便に離れてくれる様子でもない。

 これは何かやらかすな、私の勘がそう告げた。


 日下部(くさかべ)のあの様子。前世で問題を起こした女子社員と似た雰囲気だ。



 当時、余所の部署から来た部長が、余り評判の良い人物ではなく、特に女子社員へのパワハラが目立つ人物だった。

 それに耐えかねた女子社員が、部長のお茶に影で”雑巾の絞り汁”を入れる嫌がらせをしていたのだ。


 嫌がらせをしていた女子社員もあまり真面目とは言い難く、問題を起こす方であったため、他の女子社員からの相談という名目の密告で判明したのだが、その時相談を受けたのが私だった。

 あの時は私が色々と動き、嫌がらせの証拠集めと事後処理で大変だった。


 給湯室にカメラを設置し、お茶くみの時間を狙って証拠映像を撮影。

 盗撮は褒められた行為ではないので気は進まなかったが、事が事だけに思い切った。

 異物混入は犯罪だ、雑巾汁はもちろん良く無いし、そのうち毒物に発展する恐れも有るのだから。


 結局、女子社員の件は警察沙汰になり、彼女は会社を去った。

 パワハラの激しい部長も自己都合で退職する事になったのだが、他の善良な社員からは大分感謝された。



 話を戻すが、日下部(くさかべ)のあの顔は、その『思い知らせないと気が済まない』といった、怒りの表情だ

 すぐにでも何らかの嫌がらせを仕掛けてくる。

 ああいう見え見えな態度をとった女子は、行動も直情的で速い。

 しかも、女子の嫌がらせは陰湿な物が多い。

 おそらく前世の部長の時の様に、影で何か仕掛けてくるだろう。


 考えられるのは、私が帰った後に私物へいたずらを仕掛ける事だが、この学校に来て間もないので、私物は少ない。

 下駄箱か、教室の机。どちらかしかないだろう。


 考えた結果、下駄箱は名札を偽装して、念のため中身を持ちかえれば良い。

 名札に私の名前が無ければ、いちいち私の下駄箱は何処かなど確認は出来ないだろう。

 その為問題は机だけ。


 私の机は教室の最右最後尾。

 非常に分かり易い席だが、それが好都合だ。


 私の席の後ろの空いたスペースに、ダミーの机を一個置くことにする。

 予備の机の場所は、人の好さそうな用務員のお爺さんが居たので、聞いたら教えてくれた。


 机の並び方が不自然にならない様に、気を付けて配置する。

 幸い、今の机の配置ならまず不自然にならなかった。

 これでダミーを私の席と勘違いする筈だ。

 

 このトリックは、独り身になってから寂しさを紛らわすために一時期ハマった、ミステリー小説のネタを使わせてもらった。


 ついでに、友人になった円谷(つむらや)に、学校の放送委員の知り合いが居ると言うのを聞いていたので、ビデオカメラを貸してもらえないか頼む。

 校内放送をモニターで流すらしいので、そういった機材も有るだろうと思ったのだ。

 駄目元でお願いしたが、あっさりと貸してもらえた。


 カメラはダミー席の前にある、本来の私の席に仕掛ける。

 これで後ろのダミー席が撮影できる。

 仕掛けている時、給湯室にカメラを仕掛けた時の事を思い出した。

 ダミーに引っ掛からなかったり、予想しセットしたタイマー時間外に来るかもしれないが、失敗したらその時だ。

 そもそも嫌がらせにくるかも分からないのだ。


 この準備が、私の杞憂に終われば良いのだが。

 私は会社を追われる羽目になった女子社員の事を思い出しながら、そう願っていた。

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