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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【清崚高校 俊樹入学編】
24/68

高橋俊樹という男【1】

 私の名前は高橋(たかはし)俊樹(としき)

 紆余曲折あり、今日から2度目の高校生となる。


 2度目、と言うのは自分には『前世での記憶が有る』という特殊な事情の為だ。

 とは言っても、何もかも覚えている訳ではない。

 自分が何歳で、どうやって死んだのかは分からない。

 40歳代ではないかと思っているが、覚えている事が断片的なのだ。

 お陰で幼少時は大変だったが、幸いにも祖父母が理解ある人で助けられた。


 さて、実家はコンビニも無い程の田舎。

 当然、高等学校も無いが、知識は有るので今更高校に通うのも金の無駄だと思った。

 実家の農業を継いでも良いし、大学に行きたくなったら大検でも受ければいいので、高校には行かなくていいと祖父に言ったが、いいから行けとゲンコツを落とされた。

 祖父はいい人だが、どうも直情的なのが困る。


 そんな理由で、今日から高校に通う為に、独り暮らしをする事になった。


 前世、離婚してから私は大分長く独り暮らしをしていた様で、料理家事などは問題無い。

 ただ、自分の【前世の記憶】という特殊な背景は隠すようにと、祖父から厳しく言われていた。

 しかし、違和感なく高校生を演じられるか、それが不安だ。


 考えてみて欲しい。

 40代のオッサンが高校の制服を着て、校舎に入る時の気持ちを。

 正直、かなり胃が痛い。


 そして今日は入学式。自分は成績優秀者として、今日の代表挨拶を任された。

 特待生ならば入学金と授業料免除、その他様々な優遇がある。

 勉学には向かない田舎でも必死に勉強した、というより他にやる事も無かったのだが。


 そうやって努力していたら、前世の記憶もあり自分が考えるより好成績で入学してしまった。取り敢えず特待生に滑り込めれば良かったのだが。

 前世の知識無しで頑張る他の高校生諸君に申し訳ないとは思ったが、みすみす特待生という席を譲るつもりは無い。

 金に余裕はあるから心配するなというが、実家にあまり負担は掛けたくは無いと思う。


 実はもう一人、自分と同じ高成績で入学した者が居るらしい。

 最高点で合格した者が2人も入学するという事で、事前の挨拶で伺った校長は嬉しさを隠そうともせずにいた。


 だが聞いてみると、もう一人の生徒は家が裕福な事もあり、特待生を辞退。

 そのまま入学式の代表挨拶も私に、という流れになったらしい。


 まあ、特待生で援助を受けるどころか、逆に学校に多額の寄付をするような富豪の家らしいので、余り目立たない様に学校側が気を使ったのかもしれない。



 話がそれてしまったが、そういった事情から入学式である今日、私だけ早めに来て欲しいと校長より話が有った。


 だが、どうも早く着きすぎてしまったらしい。

 校門で清掃をしていた、”アラサー女子”らしき教諭に呼び止められてしまった。


 この表情は分かる、笑ってはいるが目の奥の不機嫌さを隠しきれていない。

 怒った時やイライラした時、笑顔で表情を隠すタイプの女だ。


 こういう女は自分の容姿に自信をもっており、裏では他人を見下すタイプが多い。

 この学校のお局様かも知れない、敵に回さない様、気を付けなくては。


 そして、何故イライラしているかの理由も分かった。

 この女教諭、まだきっちりと化粧をしていないのだろう。

 眉毛は流石に描いてあるが、かなりすっぴんに近いのだ。


 掃除中に落ちてしまうので終わってからと思ったのだろう。

 早朝なら生徒も来ないと油断していたのだろうが、私が思いのほか早く来てしまったと言う訳だ。


 こういう、自分に自信のあるアラサー女子は、隙や弱みを見せるのを好まない、そして認めない。

 早い話が、化粧レスのすっぴんなんか見られると、八つ当たりでキレるかもしれない。

 参った、入学早々失敗してしまった。


 取り敢えず、今は余り顔を見ないようにしておこうと思う。

 当たり障りない話をしつつ、素顔には気が付いていませんよ、という体裁を保つ。


 だが、途中年齢の話を振って来た。不味いな、こちらを探って来たか。


 それにしても、女子が自分から年齢の話を振ってくるとは。

 このアラサー女子かなりの自意識過剰女だ、やはり慎重に接しなければ。


 さて、私の見立てでは31歳と言った所だろう、これには自信がある。

 前世で多くの女子社員と接してきた、私の経験からだ。

 寿退社を見送りながら会社に貢献してくれた、頼もしい彼女達と同じ雰囲気がある。


 女子の年齢に関する話題は爆発物の様な物だ、絶対ミスは許されない。

 必死に鍛えた年齢当てスキルだ、この見立ては間違いないだろう。


 31歳なら28歳と言っておけば問題無いか。

 こういう時、余りに下に答えれば、その見え透いたお世辞でも女子は怒る。

 3つ下位ならば丁度いいだろう。



 ◇



 教室では、やはり私は浮いた。

 というか、今更どうやって高校生に話を合わせれば良いのか分からない。


 私が日課である、一回5分で出来る近視回復トレーニングの為に、遠方の山々に眼の焦点を合わせて現実逃避していると、甲高い女子高生の話声が教室に響く。

 この雰囲気、馴染まんな……。


 そんな事情に頭を抱えていると、自然と女子達の会話が耳に入ってきた。



涼子(りょうこ)先生って若いよね、何歳かな?」

「26歳らしいよ、いいよねー綺麗だし優しそうだし」

「あたし、ああいう先生が担任なら良かったー」




 ――何という事だ。

 あのアラサー教諭、5歳もサバを読んでいたのか。




 よくもまあ、そこまで自分に自信を持てるものだ。

 確かに入学式で横目に見えた彼女は完璧に顔を整え、5歳は若く見られても不思議では無かった。

 アラサー女子の、金と年季を掛けた化粧スキルを甘く見ていた、失敗だ。


 それにしても、5歳サバを読んだ挙句、それを堂々と広めていたとは。

 彼女は相当な自信家であり、そして敵に回すと面倒な事この上ない人種だ。間違いない。


 あの様子では、私が28歳と答えたのも社交辞令だと気付かれたか。いや間違いなく気付いている。

 つまり、私がノーメイクの彼女を見て、31歳という実際の年齢に見当を付けている事も、当然気が付いている、という事だ。

 これは非常に不味いな。


 何とかして、彼女のすっぴんや実年齢に関して公にするつもりは無い、という事を伝えなくては。

 しかも、直接的表現は避けて遠回しに。

 既に分かりきった事であろうとも、ストレートに言えば女子は怒るのだ。



 外に目を向け、本日6セット目の視力回復トレーニングに逃避しながらも、内心焦っている私の耳に何やら留年生が、と言う声が聞こえてきた。


 やれやれ又か、と思う。


 この学校の校長先生に挨拶に伺った時も、事務員に新任の教諭と間違われたりした。

 あの時は未だ高校の制服が無かったので、私服だったのが余計にいけなかった。うむ、いけなかった。

 どうも精神年齢故か、私は年相応には見られない事が多い。


 教師に間違われるよりはマシだが、とにかく誤解は早めに解いておかなくては、後で問題になられても困る。

 決して年上に見られた事に、憤りを感じている訳ではない。


 そういう訳で、私は留年などしていないし、人を見た目だけで判断するのは良くないと説明したのだが、どうもその話は前の席に座る、少しワイルドな男子生徒の事だったらしい。

 盛大に勘違いして笑われてしまい、恥ずかしい思いをしてしまった。


 アラサー教諭の誤解を解く事を考えて焦っていたのだ、いかんな冷静にならねば。


 まあ、話す切欠を掴めなかったクラスメイト達と親睦を深める事が出来たので、良しとしよう、災い転じて福をなすと言った所だ。


 そして何故かは分からないが、そのワイルド系男子で円谷(つむらや)龍成(たつなり)と言う生徒との距離が縮まった。

 どうも、私の恥ずかしい誤解を『クラスに馴染めない自分をかばってやった事』だと思っている節が有る。


 まあ、害はないので良いが。

 と言うか距離感が近いなこの男、体育会系か? ソッチ系じゃないだろうな?

 しかし、こういう男を見ると、前世で最初話を聞かなかった新入社員が、仕事を教える内に自分を慕ってくれる様になった時の事を思い出し、悪い気はしなかった。

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