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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【清崚高校 俊樹入学編】
21/68

宮内涼子と生活委員会【3】

「さっき倒れた生徒は大丈夫だった?」

「うんうん、1年の男子だけど結構カッコ良かったよね」

「アンタたち、ウチは恋愛禁止なの。生活委員がそんな話してたら示しが付かなくなるわ」


 やや語調を強めて言う咲良(さら)に、慌てて弁明する生活委員の面々。

 全員が女性で構成されている生活委員だが、委員長の咲良(さら)は女子の中でも上位の勢力に居る。

 機嫌を損ねて明日の居場所を失いたくない他の女子は、基本彼女に従っていた。


 放課後、彼女達は薄暗くなるまで居残り、高橋(たかはし)が在籍する1-1組の教室に居た。

 すでに残っている生徒は殆ど居ない。


「じゃあ、アンタたちは見張ってて頂戴」

「はーい」「咲良(さら)は容赦ないよねマジで」「ホントうける!」


 何をするかと言えば、彼女たちは高橋(たかはし)に嫌がらせをする為に、この教室に来ていた。

 生徒を指導する側の仕事とは真逆の事だったが、咲良(さら)は今までも涼子(りょうこ)の為に何度となく似たような事を行ってきた。

 彼女達にとってこれは、いわば聞き分けの無い病人に苦い薬を飲ませる様な事だった。


 嫌がらせやいじめ(・・・)を受けた生徒は、その後必ず涼子(りょうこ)を頼り、差し伸べたその手を取るだろう。

 従順でない生徒に対する指導であり、咲良(さら)には罪の意識はない。


 昼間、高橋(たかはし)を観察した時に席の場所は確認してある。

 その、窓際最後尾の席まで行くと、入学直後で中身の無い机に、マジックで罵詈雑言を書きなぐる。

 教科書でも入っていれば尚良かったのだが、あの機械の様な高橋(たかはし)の事、その辺きっちりと持ち帰る性格なのだろう。


 この時、もう少し疑問に思って居れば、彼女の不幸は回避できたかもしれない。

 それもまた、自業自得なのだが。


 ひとしきり書きなぐるが、先程の事を思い出し怒りが湧き上がって来た咲良(さら)は、その勢いのままベランダから外に出て校庭に机を放りだした。


 普段ならそこまでの事はしない咲良(さら)

 だが、机を外に放り出したこの行動が、後に涼子(りょうこ)の首を絞めることになるとは、この時知る由もなかった。



「うひょー、咲良(さら)今日はマジ容赦ないじゃん」「キャーこわーい」「キャハハハ」

「ふん、これも最後にはアイツの為になんのよ」


 とにかくこれで準備は出来た。

 後は明日、困り果てた高橋(たかはし)の前に、涼子(りょうこ)先生が手を差し伸べてあげれば奴も落ちるだろう。

 あの氷の様な高橋(たかはし)の表情が、明日どんな苦悶の顔に変わるのかを想像して、思わず笑みがこぼれる咲良(さら)だった。



 ◇



 翌日、校舎は朝から騒がしくなっていた。


 既に半分以上の生徒は登校してきていたが、ようやく校庭に放置された机の存在に気が付いたらしい。

 他の教師の誰よりも早く登校した涼子(りょうこ)は、見て見ぬ振りをしていたソレに今気が付いたとばかりに、騒がしい廊下を抜けて1-1組の教室に駆け込んだ。


「どうしたの!? 何のさわぎ……?」


 言いかけた所で、落ち着いた様子で自分の席(・・・・)に座っている高橋(たかはし)と眼が合った。


 高橋(たかはし)涼子(りょうこ)を見ると、まるで要領を得たとばかりに一人頷くと、涼子(りょうこ)の元に来て語り出した。


「先生、どうやら校庭に学校の備品がイタズラされ、放置されていた様です。

 昨日、私の後ろに”余った席”が有りましたが、その机が無くなっていますので、もしかするとその机かもしれません」


 心臓を掴まれた様な感覚、涼子(りょうこ)の全身に悪寒が走る。


 ――気付かれた(・・・・・)


 あの机が、1-1組にあった物だと分かる前に来てしまった。

 それはつまり、この件に涼子(りょうこ)が関わっていると言っている様なものだ。


 そして、眼が合った時に分かった。

 これもすべて、高橋(たかはし)俊樹(としき)の仕組んだ罠だったのだ。


 ヤツは、こうやって犯人がのこのこと現れるのを待ち伏せていた。

 そして教室にきた涼子(りょうこ)を一目みて、彼女の関与に気が付いた。


 そもそも、机がこうやってイタズラされる事を予想していなければ出来ない。

 入学間もない高校生に、そこまで予測できるものだろうか。

 恐ろしく先見性が有り、頭の回る男だ。

 そして犯人に関わる人物を前に、今も変わらず表情を変えない冷静さ。

 ただの秀才ではない、悪魔の様な天才。


 緋ノ宮(ひのみや)など目ではない。

 真に関わるべきでないのは”高橋(たかはし)俊樹(としき)”だったと、涼子(りょうこ)は後悔した。


 だが、まだだ。

 決定的な証拠が出た訳では無い。

 内心の動揺を必死に押し殺し、高橋(たかはし)や他の生徒に向かい話す涼子(りょうこ)


「予備の机、そうだったの…不幸中の幸いかしらね。

 とにかく、後は先生が何とかしておくから、皆は余り騒がないで頂戴ね」


 涼子(りょうこ)は言い終わると、足早に校庭に向かって行った。



 ◇



 放課後、咲良(さら)は一人で高橋(たかはし)に呼び出されていた。


 今日は何人かの生活委員が急に休んだ為、委員としての活動は休みにすると、涼子(りょうこ)から説明が有った。

 その時に、今朝の事は涼子(りょうこ)から聞いている。

 あれほど狼狽した涼子(りょうこ)先生を見たのは初めてだ、そう咲良(さら)は思った。

 そしてそれ以上に、恩師をそんな目に遭わせた高橋(たかはし)に怒りが湧いてきたが、涼子(りょうこ)からは下手に刺激しない様に事前に言い含められていた。

 何を言われようと白を切り、出来るだけ会話は避ける様に。

 曰く、”高橋(たかはし)俊樹(としき)は底が知れない”と。


 そして、それは正解だったと咲良(さら)は思い知ることになる。


「こ、これは…隠し撮り、してたのね……!」


 画像の位置から、おそらく前の席にカメラを仕込んでおいたのだろう。

 携帯端末にコピーされたと思われる動画を見せられ、狼狽する咲良(さら)

 それでも気丈に振舞おうと、隠し撮りなどという表現を使うが、自分の事を棚に上げている事には気が付いていない。


 用意周到にも程がある男だ。

 中学を卒業したばかりとは思えない、どれ程の修羅場(・・・・・・・)を経験すれば、ここまで用心深くなれるのか。


 その行為に、咲良(さら)高橋(たかはし)という男の”深い闇”を見た。


 だが、高橋(たかはし)は動画が終わると迷いなくそれを削除してしまった。

 それを見て一瞬驚いた咲良(さら)だが、すぐに理解する。

 すでに同じものが、別の場所に保管されているのだと。

 主導権は完全に、高橋(たかはし)の手に握られていた。


「先輩、今回の件については、不幸な間違いがあったと私は思っています。

 聡明な貴女なら、今後どうすれば良いか。

 私如きが言わずとも理解して下さるとも思っております。

 私は、ただ平穏に学校生活を送りたいと思っているだけです。

 ……貴女が尊敬する宮内(みやうち)先生も、そう思っているのでは?」


 その言い方に咲良(さら)は確信した。

 この男は間違いなく、涼子(りょうこ)先生が関与した事に気が付いている。

 それをネタに咲良(さら)を呼び出し、脅そうとしたのだ。

 何の為に? 相変わらず表情を変えない高橋(たかはし)の意図は知れないが、自分と涼子(りょうこ)先生に害をなそうとしている、その事だけは確かだ。


 咲良(さら)自身は良い、だが恩人でもある涼子(りょうこ)先生まで巻き込もうとする高橋(たかはし)に激しい怒りが湧き上がる。

 それが、自分達の行いの結果だという事には、眼を背けながら。


「この、少し弱みを握った程度で! アンタの言いなりになるなんて思わないで!!

 アンタが何かしようとしたら、アタシが道連れにしてでも地獄に落としてやる!! 覚悟しなさい!!!」


 地面に置いたバッグを乱暴に掴む。

 振り回したバッグが高橋(たかはし)に当たるが、気にせずその勢いのまま踵を返して立ち去る咲良(さら)


 だが、この逃げとも言える場当たり的な行為が、後に彼女を絶望に追いやる事になるのだった。

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