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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【清崚高校 俊樹入学編】
19/68

宮内涼子と生活委員会【1】

「じゃあ、高橋(たかはし)君は田舎から出てきたばかりなのね」

「はい、3日ほど前からアパートを借りて、こちらで暮らし始めた所です」

「あらあら、若いのに大変ね?」

「いえいえ、先生もまだ十分若いですよ」


 当たり障りのない会話をする二人。

 涼子(りょうこ)は、どうにもこの特待生を計りかねていた。


 鋭い眼つき、常に眉間に力を入れた油断ない表情。

 高校生らしくない、あまりに異質な生徒だった。


 そして挨拶の時以外、出会ってから涼子(りょうこ)を見向きもしない高橋(たかはし)

 まるで興味が無い、と言われている気分になる。

 涼子(りょうこ)は若干の苛立ちを抱えていた。


 それでも、この将来間違いなく有望であろう優等生とコミュニケーションを取るべく、話を続ける彼女。


「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわね。何歳に見えるかしら?」

「そうですね、28歳位でしょうか」

「え、ええ…そうよ。よく判ったわね」


 こちらを見向きもせず、当然の如く答える高橋(たかはし)

 その興味無さげな態度と裏腹に、実年齢をずばり当てられた事に、少し動揺する涼子(りょうこ)

 この不気味さは何なのだろう。

 まるで一目見ればお前程度なら大体の事は分かる、そう言われている様だった。


 涼子(りょうこ)が羽織っていたジャージは、既に脱いで手元に持っている。

 そのため、白いブラウス越しに形の良い胸が自己主張していた。

 スカートは、ロングながら腰まわりやヒップのラインが良く見えるデザインを選んでいる。

 それに合わせて彼女の磨かれた美貌もあり、殆どの男子は校内ですれ違えば、涼子(りょうこ)を目で追う。

 60過ぎの枯れた用務員の爺さんでさえ、遠間から色目を使うのを感じていた彼女。


 だが、相変わらず涼子(りょうこ)を見向きもしない目の前の男子高校生を見ながら、その自信が若干揺らぎそうになるのを覚える。

 彼女のプライドが、歯ぎしりする様な不快な音を立て始めていた。



 ◇



 入学式など一通りの行事が終わった後、涼子(りょうこ)は自分の根城とも言える【生活指導室】に居た。

 先程の入学式での光景を思い出す彼女。

 あの後、自身の敗北感を抑える為か、何時もより入念に化粧をして向かった。

 その式でも、最初と変わらない表情のまま、特に詰まる事もなく無難に挨拶を終えた特待生の高橋(たかはし)

 他の男子新入生から彼女に集まる視線、それを観察したお陰で彼女の自信は回復した。

 だが、あの特待生が目に入る度に嫌な気分になる。

 入学式の時も、高橋(たかはし)は相変わらず周囲に見向きもしなかった。


 まあ、今日は入学式当日。

 高校生活は長い、これから時間をかけてじっくりと”指導”していけばいい、そう自分に言い聞かせていると、不意にノックの音が響いた。


「失礼します!」


 入って来たのは、肩まである髪を二つ結びにした女子生徒。

 涼子(りょうこ)が支配する【生活委員会】の委員長である、3年1組の【日下部(くさかべ) 咲良(さら)】だった。

 手塩にかけて”指導”した生徒であり、優秀な駒の一つだ。


「ごめんなさいね、日下部(くさかべ)さんも入学式の手伝いで疲れている所なのに」

「い、いえ! そんなことありません! 涼子(りょうこ)先生の為だったらあたし、何時間でも働きます!」

「あらあら、頼もしいわね。うふふ」


 そっと咲良(さら)の肩に手を置く涼子(りょうこ)

 その所作だけで、咲良(さら)の頬は紅潮し陶然となった。


「それじゃあ、今期”指導”が必要そうな生徒について、話し合いましょう」

「はい、先生!」


 ◇


 入学式の翌日、涼子(りょうこ)の指示で早速行動を起こし始めた咲良(さら)は、注意すべき人物として名前の挙げられた、高橋(たかはし)について情報を集めていた。


高橋(たかはし)俊樹(としき)君、ですか?」

「ええ、どんな生徒なの?」


 だが、得られた情報は「表情を変えない」「あまり会話しない男」「いつも窓の外を見ている」等、取り敢えず人付き合いが嫌いな人物ではないか、という事だけであった。

 会話したのは担任の教師と数回、クラスメイトとは挨拶程度しか話さないので、外見の印象以上の情報は獲られなかったのだ。

 まだ入学式から1日しか経って居ないとは言え、少し異常に感じた咲良(さら)


 そこで直接本人を見てみようと思うが、三年生の自分が一年生の教室に入る訳にもいかず、外から遠巻きに確認してみた。

 窓際最後尾に座る俊樹(としき)は、確かに何処か遠くを見ているばかりで、クラスと積極的に関わろうとする意志が希薄だ。

 とにかく気味が悪い、咲良(さら)はそう感じていた。


 今の所、これ以上の情報は得られそうにない。

 そう判断した咲良(さら)はアプローチを変える事にした。


 このクラスにはあの円谷(つむらや)が居る。

 素行が悪く、涼子(りょうこ)先生の指導にも耳を貸さなかったヤツは、その報いを受け留年して再び一年生からやり直す事になっていた。


 あの野蛮な男に揺さぶりを掛けて、その様子を見てみるか。

 丁度良く円谷(つむらや)の席は俊樹(としき)のひとつ前、上手くいけばそのまま円谷(つむらや)がちょっかいを掛けてくれるかもしれない。


 どうせ円谷(つむらや)も、いずれ学校から追い出すつもりなのだ。

 涼子(りょうこ)先生の優しさを理解しない、あんな品性に欠ける男は学校に必要ない。


 波を立てるには、石を投げ込むのが手っ取り早い。

 円谷(つむらや)が暴行や喫煙で留年している事を、クラスの連中に教えてやれば、気の短いヤツの事だ、何か問題を起こすだろう。

 それでヤツが孤立すれば尚いい、そう思い咲良(さら)は早速行動を開始した。


「ねえ、そこのアナタ。あそこにいる円谷(つむらや)って男子はね――」


 だが、彼女の行動は完全に裏目に出る事になるのを、この時は知る由もなかった。

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