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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【風紀委員会の日常編】
15/68

友達

「俺、そんなに頼りなく見えますか?」

「廊下で暴れる女子二人、止められん男だろう?」


 冗談交じりに返された俊樹の言葉に、苦笑いする翔太。


「あれは私でも止める自信は無いがな」

「じゃあ、言わないで下さいよ」


 それもそうだ、と二人で笑い合うと、やや真面目な顔になった翔太が話を続けた。


「見くびらないで下さい、俺だって男ですよ。

 そんな話されたら、尚更手助けしたいって思うじゃないですか。

 何ていうか、俊樹さんてあんまり高校生っぽくない所ありますけど、俺はもう『友達』だって勝手に決めてますから」

「友達…友達か、そうか」


 言われた言葉を反復して噛み締める俊樹。初めて意識したが、今まで無意識に同級生達を『下』に見ていたのだと思ったのだ。

 前世の記憶。曖昧ではあるが、自分では精神年齢40代位だと思う。

 見下している訳ではないが、見守る様な保護者的視点で接してしまう事が多かった。

 現実に自分は今、高校生なのに。


 いや、違うな。と俊樹は気が付く。


 結局自分は怖かったのだ。

 見た目の若さと中身がちぐはぐな、この世界では異質な自分が、素直に受け入れて貰えるのか。

 だから、見守るなどと言い訳をして、距離を取っていたのだろう。

 人の事をとやかく言えない、自分はただ年上ぶっているだけの、臆病な子供だ。


 だが、そんな自分に日野翔太は、素直に好意をぶつけてくれた。

 友達と言われて、それが俊樹を懐かしくも心地よい気分にさせてくれたのだ。

 こんな照れ臭い気持ち、いつ以来だろうかと思う。でもその気持ちが、俊樹が今『高校生』だという証拠なのだな、そう思った。


 だったら、年上ぶるのは止めよう。素直にならない自分より、翔太のほうがよほど『大人』なのだ。そう思ったのだった。


「そうだな、我々は『友達』だな、日野…いや、翔太」

「そうですよ俊樹さん」

「『さん』は取れないのか?」

「ああー、さん付けた呼び方に慣れすぎちゃって……」

「ふっ、そうか。ハハハ」


 男同士で爽やかな空間を作り出す二人。

 龍成も、すぐそばで黙って頷いている。

 その少し引いた場所から、華凛は入学以来見せた事も無いような、ほっこりした笑顔を浮かべていた。

 男同士の友情は、時には女子にとっての癒しになるらしい。


「そういう訳ですから、俺絶対に風紀委員会入りますよ」

「分かった、友人として私を助けてくれ、宜しくな」

「おう、当然オレも『友達(ダチ)』だよな!」

「勿論ですけど、龍成君あんまり顔近いと恐いです」

「ああ? なんだとコラ?」


 冗談ですよと言う翔太、案外図太いヤツである。その軽口に笑い合う3人の男子高校生。

 華凛の表情はいよいよ、ちょっとヤバイ位のニヤけ方になっているが、本人は気が付いているのだろうか。幸い3人の視界には入っていない様だが。


「まあ、危ない時には遠慮せず逃げろ。

 何なら、華凛に鍛えてもらえば良いかもしれん」

「宜しいんですの? 最悪死にますわよ?」

「俺、死にたくないんで遠慮します」

「龍成はどうだ?」

「いいぜ、取り敢えずぶっ倒れるまで走れ」

「どっちも地獄っぽいんですが……」


 どうも、小西の件から学習しているのか怪しい俊樹。

 この先も振り回されそうな予感のする翔太だった。

 そして無理ですと繰り返し言う翔太の背中を、龍成が任せろといいながら叩く。

 いつの間にか空になった湯呑を弄びながら、これが青春かと(がら)にも無く思う俊樹だった。



 ◇



 日野翔太との話し合いが終わり、緋ノ宮華凛は校長室に向かっていた。

 廊下を歩く華凛がふと、正面からやってくる小柄な女子に気が付く。

 ぺたぺた子供っぽい走り方、放送委員長の星野芽々だった。


「やー、かりんさん! 昨日は美味(おい)しかったですね!!」

「ごきげんよう星野さん。相変わらず美味(うま)い話が好きですのね」


 開口一番スイーツの話をする芽々に、表現に捻りを加えながら答える華凛。

 帰りの不良との一件など、どうでもいい事の様に振舞う辺り、中々大物だと思われる。


「今度は華凛さんオススメのお店に連れてってくださいよ!」

「いいですけど、(わたくし)が薦めるお店は、ドレスコードが厳しいですわよ」

「ええー、庶民的なお店は無いんですか?」

「調べておきますわ」

「期待してますよー!

 それで、話し変わりますけど――昨日はやりすぎ(・・・・)じゃない?」


 脈絡なく素の声色に変わる芽々に、一瞬寒気を覚え表情を硬くする華凛。

 突然話題を変えた芽々は、その表情を読むかの様に、じっと華凛を見つめていた。

 それも長く続かず、いつもの緩い表情に戻った芽々。

 この小さな上級生が何を考えているのかは、華凛でも分からなかった。

 華凛は会話のイニシアティブを取る為か、いつもより饒舌に話を進め始める。


(わたくし)の性格はご存知でしょう? あんな下劣な輩に手加減など無用ですわ」

「あれれー? 勘違いしてます? ボクが言ってるのは、”橘 絢歌(たちばな あやか)”を巻き込んだ事ですよ」


 煽り気味に話す芽々に痛い所を突かれ、内心舌打ちする華凛。

 そう、薮内たちの件をわざと(・・・)遅れて報告し、絢歌が引けない状況にして巻き込んだのは、華凛だった。

 そもそも、絢歌は風紀委員では無い。あの場に居る必要も無かったのだ。


 傍から見れば、華凛の僅かな動揺は分からない。

 だが、星野芽々という(おんな)には、些細な心情の変化も察知されてしまう可能性が有る。

 華凛は、彼女をそう評価していた。


 そんな内心はおくびにも出さずに、華凛は言葉を続けた。


「彼女は風紀委員に興味を持っていました。動機は不純ですけど、いずれ委員会の門を叩いていたでしょう。

 だから、早めに風紀委員の現状を知ってもらった方が良いと、判断したのですわ。

 もっとも、あの様子では引きそうにありませんが」

「ええー、でも日野翔太にはそんな事してませんよね?」

「日野君にも、昨日の事は既に俊樹さまから説明しましたわ。

 それに、彼にはいつも、桃井さんと朝日さんがついてらっしゃいます。

 流石に、あの子達二人まで巻き込めないでしょう?」

「なるほど、それもそうですねー。

 わかりました! ボク納得しました!!」


 そして、唐突に会話を切り上げると、去り際に「今度、風紀委員新人歓迎会やりましょうね!」と言い残し、現れた時と同じくペタペタと走りながら去って行く。

 廊下の角を曲がる直前に芽々が振り向くと、華凛に向かってこう言った。


「かりんさーん! ボクたち、『友達』ですよね!!」

「ええ、もちろん『友達』ですわ」


 それを聞くと、笑顔のまま曲がり角に消えた芽々。

 いつもと同じように、微笑みを浮かべたまま見送る華凛。

 彼女達が何を考えていたのか、その表情からは分らなかった。

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