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バツイチ高校生 高橋俊樹くん  作者: 竹天
【風紀委員会の日常編】
12/68

その時の日野翔太達

 

「こんな人の多い場所で走っちゃダメだよ?」

「ご、ごめんねゆっちー」

「いや、俺のせいだよ。本当ゴメン」


 ”――肋骨ではなかった”

 その衝撃の事件後、落ち着いた桃井由香・朝日麻莉奈・日野翔太たち三人は、フードコートで早めの昼食を済ませた。

 現在は女子二人の長い買い物に、日野が付き合っている形だ。

 あの後星野から『自由時間!』と一言メールが来たので。

 その星野からの作戦(・・)は、結局何が目的だったのか意味が分からなかったが。


「だから言ったじゃないー! どうせ面白がってるダケだって!」

「そうなのかな……」

「あはは、まあ乗ったあたし達にも責任はあるんだけどねー」


 もう昼も回り午後になる。何も買って無いのを買い物と言うのか日野は分からなかったが、普通の男子ならウンザリする時間を連れまわされたにもかかわらず、楽しそうな二人を見てニコニコしている。心までイケメンである。


 風紀委員に在籍すると宣言してから、俊樹から節度ある男女交際をと言われている日野たち。

 そのため、日野自身ガードが固くなり、腕を組むどころか手を繋ぐことも控えるようになった。


 桃井と朝日も、お互いの言いたい事を言い合い友情を深めたので、抜け駆けしないと言う事が話し合われていたので、それについては何も言わない。

 だが、何も言わないから不満が無いと言う訳でもない。恋する女子としては、やはり好きな男子に少しでも近づきたいという気持ちはある。

 もっとも、今現在三人はあくまで友人同士という関係なので、その意味では正しい距離感なのだが。


 とまあ、そんな所で星野が「諸君に極秘任務を任せます!」と意味不明な事を言い出したのだ。

 日野は戸惑っていたが、残る二人は星野の事を何となく理解し始めていたのと、風紀委員の活動を口実にイチャイチャ出来るという打算から、その作戦に乗ったのだ。


 その後、流石に懲りてツインテを戻そうとしたが、やや未練のありそうな朝日の心情を察した桃井の手で、サイドへの攻撃範囲を減らしたツーサイドアップに変更された。すっかり親友の二人である。

 何だか桃井に髪型で遊ばれてる様でもあるが、朝日も新しい髪型に機嫌がいいので問題ないだろう。楽しそうにじゃれ合う二人の様子を見て、自然と笑顔になる日野だった。


「ずっと、三人で楽しく過ごせたら良いな……」

「翔太……」

「あはは、あたしも…そう思うよ」


 それは三人の共通する感情でもあったが、男女という関係がやがてそれを終わらせる。それも又事実だった。


「やっぱりさ、ショウは…どっちかに決めたい?」

「ゆっちー……」


 色々な感情が籠った桃井の言葉に、その先は考えたくないと唇を噛み締める朝日。

 日野は、困ったような顔で、しかしはっきりと言葉にする。


「うん…卒業する時に俺、二人のどっちかに告白したい。

 でもさ…これは俺の我儘だから、二人が合わせる必要は無いんだ。

 他の誰かを好きになったって、文句は言わないよ」

「あ、アタシが他の男を好きになる訳ないじゃない!」

「あはは、あたしもまりちーと同じだなー。

 でもさ…ショウはあたし達のこと、どうなの?」


 やや突っ込んだ桃井の質問。それを聞き、やや不安そうに日野を見る朝日。

 日野は二人を見ると、その質問に迷いなく答える。


「麻莉奈の強引だけど、困ってる人をほっとけないお人好しな所が好きだ。

 子供の頃からずっと後ろから見守ってくれた、由香の優しい所が好きだ。

 だから、二人以外の誰かに恋するなんて、有り得ない。

 でもさ、俺は二人に対して一度、失敗しちゃったから。

 だから、今度は間違えないように、今まで見ようとしなかった部分も、ちゃんと見ようって思って」

「見ようとしなかったって……?」

「二人の持ってる、俺の嫌いな部分とか、苦手な部分。

 同時に、俺の悪い所も二人に見て欲しいって。

 長く付き合うなら、それこそ結婚まで考えて付き合うなら、そういう所もちゃんと見て好きにならなきゃって、そう思ったんだ」

「わ、悪い部分なんて見たって…でも、結婚まで考えてくれるなら、いいかもだけどぉ……うふふ」

「まあ一理あるね、なんだか俊樹さんが言いそうな事だけど」


 結婚と聞いて照れる朝日。逆に冷静な桃井のセリフに、図星を指されて思わず苦笑いする日野。

 ただ、朝日と桃井も、日野が俊樹にかなり影響を受けているのは分かっているし、それが悪い事ばかりでもないとは思っているので、特に悪感情を持っている訳ではない。

 高校生なんだから、もう少し甘くても良いんじゃないかなーとは思って居るが。


「あとさ、恋人になるとか関係なく、三人で仲良くしたいんだ、友達として」

「あー! それは分るわね!」

「うんうん、こうやって遊んでるのも楽しいよね!」



 ◇



「でも…やっぱり好きな人は誰か一人に決めないと、不誠実じゃないですか!?」

「それを今のお前に決められるのか?」

「そ、それは……」



 あの、『放課後の三角関係乱闘(デルタアタック)事件』が起こった日だった。

 ぬるいお茶で喉を潤しながら諭す俊樹。

 傍からみていれば、同級生と言うより父と子の会話だった。


「例えばだ、お前はあの二人と本気で口論したことはあるか?」

「いえ、無いですけど…それがいけない事ですか!?」

「あのな、男と女が本音をぶつけ合って…ケンカにならない、なんて事は有り得ない。

 つまり、お前はまだあの二人の事を、何も知らんと言う事だ」

「いや、それは極端すぎないですか?」

「馬鹿者…お前な……女が何考えてるかなんて、男に分かる訳無いだろうが。

 現にあの二人が、何故掴みあう程のケンカになったのか分かるか? 私は理解できん」

「あ、分かりません」


 もう少し冷静に話し合えば良かったんじゃないかな? と日野も思って居た。

 女心を理解するのは、男子には難易度が高い仕事なのだ。


「もっとも、向こうにも同じことが言えるだろう。

 あの二人だって日野の事をどれだけ理解している事か。

 好きになった部分だけ見て相手を理解した気になっていると、お互い時間が経ってから大きな失敗をして後悔する事になる。

 ケンカをすると言ったが、要するに”建前を取り払い本音で語る”という事が必要ではないか、と言う事だ。」

「まあ、それは納得できますけど」

「今回の騒ぎも、そういう意味ではいい経験になるだろう。

 学校側、と言うか風紀委員会としての結論は明日出すが、まあ大した処分にはならん。その後にでも3人で話すと良い。

 今まで分からなかった、あの二人の一面も見えてくるだろうし、お前に対しても同じことは言えるだろう」

「そうですね…俺がちゃんと麻莉奈や由香と話してれば、こんな事には……。

 明日、ちゃんと話し合ってみます。本当すいませんでした」

「…まあ、そのな、私も言い方が足りない所がある。

 あまり難しく考えるな、別にわざと喧嘩しろと言う訳ではない。

 恋人関係に固執せず、3人で『良い思い出』を作っていけば良い。

 それこそ、お前があの二人どちらかと結婚しても、10年後に自分たちの子供に笑って語れる様な、誰に対しても引け目の無い、楽しい思い出をな」

「『楽しい思い出』ですか…良いですね、それ。

 俺、考えてみれば、急いで恋人関係になろうとして、失敗したのかもしれません」


 すっかり冷めたお茶に口を付ける俊樹。

 その姿は、日野が今まで持っていた印象とは大分違う。

 特待生で入学した学年1位の秀才であり、その為か高校生らしからぬ落ち着いた雰囲気。同世代から見ると近寄り難い印象を受ける。

 更に一部では『別れさせ屋』『クラッシャー』『リア充ブレイカー』などと言われているので、少し心配だったのだ。

 だが、こうやって話すと、もっと温かい人間に感じる。厳しくも世話好きな親戚の叔父さん、というのが近いかな、と日野は思って居た。


 …まあ、多少意見が偏っていたり、例えがオジサンっぽかったりと、問題が無い訳ではないが。


「なんか…俊樹さんて、結構良い人ですね」

「……ふん」


 裏表のない日野の笑顔と、無愛想を装いつつも照れ笑いの為か口の端がつり上がる俊樹。

 割と青春の1ページである。

 思えば、日野が風紀委員会に興味を持ったのは、この辺りからだったのだろうか。


「ともあれ、明日話し合うにしてもだ…女子二人を同時に相手にするのは骨が折れるだろう。

 今の内に、私からも色々と助言しておこう」

「あはは、助かります」

「いいか、まず女子と言うのは基本、最初は男の話など聞かん。とりあえず疲れるまで向こうに喋らせろ。その間こちらは『はい』『うん』『わかった』『そうだね』『君の言う通り』等、とりあえず当たり障りない程度の肯定するセリフだけ言ってればいい。最低4・5回は話が脱線すると思うが気にするな」

「え? ああ、はい」

「よし、次にな――。」

「え、はい―――。」


 その後、俊樹の偏った知識の影響を受ける日野だが、翌日の話し合いで桃井と朝日が協力し、完全ではないが何とか元に戻す。

 その時の共闘が、桃井と朝日が親友同士になる切欠になるのだった。



 ◇



「…というお話じゃったんじゃよ」

「星野先輩、何時から居たんですか? あと何でそこまで細かく知ってるんですか??」

「それはヒミツです! うふン!」


 何時の間にか会話に混ざって、日野の心情をモノローグ調に語り始めていた星野。

 放送委員長だけあるのか、話し方が上手い為、最後まで止めるタイミングが無かったのだ。

 彼女が何故、俊樹と日野しか知らない話の仔細を知るのかは分からないが。


「あの、後ろに居るポニーテールの方、橘先輩ですよね?」

「うん…アヤは、絢歌(あやか)

「え? 橘先輩ですか? やだその恰好ステキ!!」

「迷惑かけて、ごめんね?」


 取り敢えず、状況を知らない日野達に簡単に説明をする星野達。

 穏便に終わったと聞いて胸を撫でおろす日野達だった。


「それで、先輩方は何を? 俺達を探してたんですか?」

「んん、着替えて、来たの」

「と言う訳で! この服はボクには大きすぎたので桃井さんにあげます! コンチクショー!!」

「え? なになに?? え、星野先輩? 何処連れて行く気ですか??」


 あっと言う間に拉致される桃井と、展開の速さに呆然として動けない日野と朝日。

 暫くして戻って来た桃井は、先程まで橘の着ていた服。白いブラウスに腰回りの絞られたハイウエストのスカートという姿だった。


「正直、ボクも甘く見ていましたよ……」

「ん…これは、存在しちゃ、いけない服……」

「ええっと、改めて見ると凄い恰好だね、ははは」

「胸……F……脂肪……うら、やま……」


 一言で言えば『はちきれそう』。

 それ以上、多くは語るまい。


 そんな桃井を見る、光彩の無い瞳の星野に、ギラギラと獲物を狙うような眼つきの橘。

 日野はひたすら苦笑いしているが、朝日はぶつぶつと何か呟いて心ここにあらずだった。


「んんっ…これ背丈は合ってるけど、胸とか腰とか全体的にキツイ」


 窮屈そうに身をよじる桃井のセリフに、周囲の男性の熱い視線と、女性たちの嫉妬の視線が交差する。

 だから「もう少し小さくならないかなー」などと胸を押さえながら言っちゃいけない、と日野は思うのだった。


「何なんですかこのけしからん脂肪は!! ダメダメえっちすぎます!! 許されませんよ!!」

「え? きゃあ!! 星野せんぱいやめてっくださっんんっ!!」


 桃井の後ろに回り込み、胸を揉む…というかもぎ取ろうとする星野。

 その反動で、その実り豊かなメロンの収穫をギリギリで抑えていたブラウスのボタンが、音を立てて派手に弾け飛んだ。

 そのボタンは、狙った様に日野翔太の顔面目掛け飛んでいき、その眼を直撃する。


「痛っ! め、眼がっ!!!」

「きゃあ! ショウ! 大丈夫!?」

「あはははは! あははははははははは!!」

「ちょっと芽々先輩! 笑って無いでなんとかしなさいよ!!」

「ん、見事な(あた)り」


 よろける翔太に駆け寄ろうとする桃井、だが又しても視界を潰された日野は、そのまま足をもつれさせる。

 そして、あろうことか桃井の胸の中に倒れ込んでしまった。何か、ものすごく柔らかい感じの擬音と共に。


「ひゃぁぁぁぁぁああ!!」

「この男! またラッキースケベですか!! このラノベ主人公が!!」

「ゆっちー翔太放してそれじゃ息できない!」

「ねえ、トシ君たち待ってるから、そろそろ行こ?」


 はだけた胸を隠そうと、日野の顔まで巻き込んでしまう桃井、騒ぐ星野と朝日、そして一人マイペースな橘。

 どうも橘にとって、日野達の優先順位は低い様だ。

 だが、星野も騒ぎになりつつある現状を把握し、橘の言葉に便乗する。


「そ、それもそうですね! じゃあボクらはもう行きますので、後は頑張ってください!!」


 星野は逃げ出した。

 これでこの場で自由に動けるのは朝日だけになってしまったのだが、正直この状況を収めるのに、彼女一人では経験値が足りないのだが。

 とにかく日野を引き離して気道を確保し、桃井を整えないといけない、そう思った朝日。

 まず日野を引き離し、着替えの入ったショップバッグを桃井に押し付けて胸を隠させる。

 そして二人をイスに座らせると、3人分のドリンクを自販機で買い戻って来た。

 完璧な動きをした朝日、この間わずか48秒。今迄の人生で一番早く動いたかもしれない朝日だった。やれば出来る子なのだ。


「ご、ごめんね取り乱しちゃって」

「いいから、ゆっちーは着替えてきて。

 って、翔太? 大丈夫!?」

「…………。」


 窒息しそうなほどのメロン畑に放り込まれた日野。普通の男子なら大喜びする所だ。

 だが、この桃井の皮下脂肪との激しい衝突は、日野にあるトラウマを思い出させていた。





 ”――ワシが小西ばい! 相撲部によう来たの!!(バシバシ!!)”


 ”――うむ! よう分からんが、そういう事なら先ずは稽古じゃ!!(バシバシ!!!)”


 ”――何? マワシの締め方が分からない? ならワシが絞めたる! さあ脱ぐばい!(むんず!)”


 ”――ハハハ! 転がって土俵の土まみれやの! いい男っぷりばい!(バシバシバシ!!)”


 ”――びびらんと! ワシの胸目掛けて! 顔からぶつかってくるばい!!(バシッぶるん!)”


 ”――もっとこう! 下から突き上げる様に!! がっぷりと!!(ぶるぶるん!!!)”


 ”――そう、そうだ! ああああ! いい腰の入りっぷりばい!!(ガシッぶるんぶるん!!)”





「ごっつぁんです、ごっつぁんです……」

「あれ、ショウ? どうしたの?」

「ちょっと、何か様子おかしいわよ!?」

「胸は脂肪、1800グラムの脂肪……」

「翔太!? 落ち着いて!!

 ゆりちーは早く着替えてきて!!」

「…う、うん分かった」

「うう、稽古、おっぱい、恐い……」

「ああもうっ! ほら大丈夫よーおっぱい無いでしょ? 恐くないこわくない」

「うっ…ああ、硬い、無い……」


 すがる様に朝日にしがみ付く日野。

 桃井が着替え終えて戻る頃には、その朝日の献身のお陰で落ち着きを取り戻した日野だった。

 帰宅後に、自分の大胆すぎる行動を思い返した朝日は、ベットの上で悶える事になるのだが、それはまた別の話。


 そしてこの件をきっかけに、俊樹に対する桃井の好感度が下がり、朝日の好感度は少し上がるのだった。

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