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Evangelium02-1:恐るべき大人達

 首都福岡、新国会議事堂。

 ガラス張りの喫煙室に、箕輪外務大臣が入って来た。

「及川さん」

 喫煙室には先客がおり、携帯端末を眺めながらぷかぷかと煙を吐き出していた。及川と呼ばれた白髪の男は、箕輪に気づいて頭を下げ、携帯端末を内ポケットにしまった。柔らかな笑みを浮かべるその顔は、どこか日本人離れしている。

「ご苦労さまです。どうぞ」

「ありがとうございます」

 促されて、箕輪は及川の隣に腰かけ、電子煙草の電源を入れる。目を閉じて煙を深く吸い込み、吐き出した。顔には疲労の色が浮かんでいる。

「お疲れですか」

「ええ、まあ。上手くいかないことばかりで……。及川さんはお元気そうですね」

「いやいや、私も上手くいかないことばかりですよ。中東の後処理も難航していますしね。さらには武装をいくつか紛失したという報告もあって……本当に、悩みの種が尽きません。そちらは東京の件ですか?」

 箕輪は目を閉じたまま頷く。

「おかしな集団が居着いてましてね。立ち退かせるには骨が折れそうで――」

 言葉の途中で、箕輪は目を見開いた。

「そうだ、真っ先に報告しようと思っていたのにすっかり忘れていました」

「なんです?」

「及川さん、例の猫の件はどうなってます?」

 及川は困ったような笑みを浮かべる。

「痛いところを突かれましたね。実は一匹、脱走してしまった猫がいまして。今必死に探しているところなんですよ」

「やっぱり……。実はですね、東京にいたんですよ。神田です」

 及川はそれまでと変わらない紳士的な笑みを浮かべていたが、目だけは鋭く光った。

「……本当ですか」

「ええ。雇った護衛の一人が足を折られそうになりましたよ。話には聞いていましたが、恐ろしい身体能力でした」

 及川は煙を吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。

「それはありがたい情報です」

「お役に立てたのなら嬉しいですね。しかし、ゼノイドはその……洗脳に近い教育を施されているのでは? なぜ逃げ出すようなまねを……」

「その件に関してはこちらの人為的なミスです。面目ありません」

「ああ、いや……。でもそれなら、連れ戻すのは簡単そうですね」

「どうでしょうね。あの子たちの知能指数は非常に高い。上手く教育すれば、すぐに判断力を身につけ、自身の考えで行動するようになるでしょう。頭の悪い人間に拾われていればいいのですが……」

「……それが、ですね」

 見ると、箕輪がバツの悪そうな顔をしている。

「伏見家の長男が関わっているんですよ。伏見ヒロト」

 及川は天を仰いだ。箕輪は煙草をふかしながら続ける。

「あそこの住民からかなり慕われているようで。先生なんて呼ばれてるんです。伏見家は与党議員に顔が利きますから……おかげで強引に立ち退かせるわけにもいかなくて、困りました」

 突然喫煙室に大きな拍手が響いて、箕輪は驚いて身をすくめた。

「な、なんです?」

 及川は拍手を止め、咥えていた電子煙草の電源を切った。

「素晴らしい。天の導きを感じますね」

「は? どういうことです?」

 呆けた顔の箕輪に、及川は手を差し出す。

「筋書きが見えてきましたよ。何もかも上手くいきます」

この作品はシェアード・ワールド小説企画“コロンシリーズ”の一つです。


http://colonseries.jp/

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