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ナツメナツミ  作者: かに
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楽しいデート

 私、川島菜摘かわしまなつみには彼氏がいます。

 これといった取り柄もない女子高生でしたが、クリスマスをシングルベルで過ごすくらいならば、と洋菓子店で臨時アルバイトしていたらナンパされて彼氏ができました。

 彼氏はイケメンです。日中空の下で見たらキラキラ眩しいくらいの格好良さです。

 しかし彼、夏目君は足フェチの変態野郎でした。夏目君の興味は私の足だけ(客観的に見て決して美脚ではないのに)で、私自身はどうでもいいみたい。

 それを実感したら、悲しくなって、悲しくなったことが不思議だった。

 イケメンにそそのかされて、ホイホイ付き合い始めただけのつもりだったのに。



 初めてのデートは私の家から30分くらい電車に乗ったところ。

 この街は高校生が買い物をするようなお店がたくさんあるし、カラオケ店や喫茶店も多い繁華街。

 デートの行き先は夏目君が決めた。私の足に似合う服を買うつもりみたい。

 やっぱり、足なんだなあ。足しか興味がないんだなあ。

 私は目尻に滲んだ涙を指で押さえて止めた。

 私だって顔に釣られて流されたくせに、何を傷ついたつもりになっているんだろう。

 涙を拭った手を夏目君に握られた。

 気づかれた?

「手をつないでいい?」夏目君の声。顔は前を向いていて表情はわからなかった。

 答えを言う代わりにギュッと握り返した。

 なんだ、ちゃんと付き合っているっぽいじゃん。私たち。


 と思ったのもつかの間。夏目君が手を繋いだ理由がすぐにわかった。

 目的地に着くまでにスカウトに捕まること捕まること。それこそ5分も経たないうちに。

「ちょっとお時間いいですか」と話しかけられたり、名刺を渡されそうになったり。

 そのたびに夏目君は繋いだ手を挙げて「連れがいるんで」とかわした。

「お連れ様も一緒に」とまで食い下がるスカウトはおらず(すみませんね、平凡な女子高生で!)、難なく撃退できた。

 夏目君曰く、1人だと振り切るのも一苦労なんだそうだ。

「1人?」1人で歩くことあるの?

「ヤローで連んでるときなんかだと、あとでボコられるしさ」

 1人? 友達? ふーん。そうなんだ。元カノは?

 付き合う前に、私が浅はかに夏目君にカマをかけてアッサリ見破られているので、同じことはできない。

 たずねようとする台詞を飲み込んだ。



◇◇◇



 着いたのは、同じ年頃の男女がごった返すショップだった。

 夏目君が店内を歩いていると、既にいたお客さんたちは「おっ?」という表情で夏目君を見る。次に私を見て「ああ……」って表情をする。

 格好いい人を彼氏にするというのは、こういうことなんだ。これはもう、開き直るしかないね。

 悔しかったら、こういう足になってみろ、と。どういう足だかわからないけど。

 夏目君は既に店内を知っているようで、真っ直ぐ目的の場所に行く。

 さっき私が再三「ミニは穿かない」と言ったのを覚えてくれているかな。

 私が店内をキョロキョロ見回していたら

「これ」

 夏目君がハンガーにかかった服を差し出した。

 試着しろと?


 それからはもう、とっかえひっかえ穿いたり脱いだり。

 店員も「お決まりになりましたら、お声かけて下さいねー」と離れていってしまうほど。

 何度目かの衣装チェンジを終えて、ようやく夏目君のお許しが出た。

 試着室の鏡に映った私。待ち合わせの時に着ていた中途半端な長さのスカートの代わりに、ショートパンツを穿いていた。

 これはまた絶妙な長さで、これより少しでも短ければエロく、長ければ野暮ったい、ギリギリの長さ。私の足の長さと太さにドンピシャなショートパンツだった。

 店員が絶賛するのはセールストークだとしても、私自身が驚くほど似合っていた。


「ミニスカートを穿かされるかと思った」

「俺は足は見たいけど、パンツを見たいわけじゃない」

 堂々と変態発言するな。パンツとかデリカシーも無いんかい。

「下はこれ」

 私が着替えている間に確保していたらしく、黒のタイツを差し出した。

「生足じゃなくていいの?」

 こんなことを聞き返す私も大概変になってきたと思う。

「年末の寒さの中、素足を晒せと言うほど、俺は鬼じゃない」

 クリスマスの日に、サンタガールの衣装の上からベンチコートを羽織っていた私にぶーぶー文句垂れた人が言うか。


 お会計の時に少し揉めた。

 だって、この服すっごく気に入ったから自分で買いたかったのに夏目君が払うと言ってきかなかったから。

 結局、ショートパンツは夏目君、タイツは私というところで折り合いを付けた。

 着てきたスカートをショップの紙袋にしまい、買ったショートパンツとタイツを穿いて店を出た。


 まだお昼前。サヨナラするには早いと思う。

 夏目君が「ちょっと電車とバスに乗るけどいい?」ときいてきた。次に行く場所の当てがあるのかな。

 とにかく、隙あらばスカウトやら逆ナンされる(隣にいる私の立場は一体!?)この街から離れたいみたい。



◇◇◇



 駅ナカのイートインコーナーでお昼ご飯を食べてから、電車とバスを乗り継いで着いたのは大きな公園。

 公園とは名ばかりで、美術館あり、池とボートあり、動物ふれあいコーナーあり、ミニ遊園地ありの、アミューズメントパークだった。

 夏目君が公園入り口の園内マップを指さした先は「アスレチックコーナー」

「初級者から上級者までコースがあるから、とりあえず初級者から行ってみようか」


 アスレチックに行ったのなんて何年ぶりだろう。小学校の遠足以来?

 小学生にまじって、縄に捕まって登ったり降りたり、丸太を乗り越えたり。

 何コレ超楽しい!!

 最近、遊びと言えばカラオケとか、DVD鑑賞とかインドアばっかりだったなあと思い返した。

 夏目君も一緒に叫んだり笑ったり、はしゃいでいる様子。

 生意気な小学生に「大人がデートしてんじゃねーよ」とからかわれたり。

 コートはとっくに脱ぎ捨てて、思いっきり体を動かしたら汗ばむほどだった。


 スカートだったら、こんなに動いて遊べなかった。

 夏目君がときどきショートパンツから伸びる私の足をチラチラ見ていたのは気づかなかったことにしてあげよう。


 上級者コースまで一通りクリアして、たぶん明日は筋肉痛かもしれないなんて話した。

「暑いねえ。疲れたー」

 息を切らす私、ニヤリと笑った夏目君。たぶん変態なことを考えていそうなんだけど、笑顔は爽やかそのもの。

「ここ、足湯もやってるんだよね」

 足湯……ですか。気持ちいいんだよね、ポカポカして。

 私は自分の足を見た。黒いタイツ、穿いてますね。



「あーもう、ハメられたー!!」

「人聞きが悪いなあ」

 長いすに座って、足湯に浸かる私と夏目君。

 ええ、黒いタイツは脱ぎ捨てましたもの!! ショートパンツに生足ですよ。

 足湯でポカポカしているので、全然寒くはない。それが悔しい。

 無理矢理生足にさせられたのではなく、自ら生足になるように差し向けるその策士ぶりが!!

 夏目君は遠慮無くジロジロジロジロ足を見ているしさ。

 見られるのは嬉しいよ。でも足ばっかり見んな。

 私は夏目君の顔ばっかり見ているわけじゃないんだから。

 夏目君の長いすについた手、節ばった指を眺めていた。だから夏目君が微かに動かした口にも、そこから漏れる言葉にも気づかなかった。

「さすがに生足は独り占めだよ」



 帰り道。体を動かして疲れて、温まって気だるくて、それでもバスの中では何とか起きていられたけど、空いている電車で座席に座ったときには限界だった。

 眠い。降参。ごめんなさい、私寝ます。

 でも大丈夫、私は寝ても隣に寄りかかったりしないから、前か後ろか縦方向にしか動きませんから。

 ゴツン

 思いっきり窓に後頭部をぶつけた。

 音に驚いて目が覚めた。隣で夏目君が笑っている。チクショーいい笑顔だ。

 夏目君はトントンと私と隣り合った自分の肩を叩いた。身振りで「ここに寄りかかっていいよ」と言っている。

 それでは、お言葉に甘えて……


 ……全然眠れないよ!!

 首に変な力が入っちゃうし、心臓バクバクするし、でもせっかくなので目を閉じて寝たふり。

 タヌキ寝入りなので、夏目君の息づかいも聞こえる。ひとり言も。

「膝枕で寝たいなあ……」




ひとまず<おわり>

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