8―本音とゲーム
「…来たか」
待ちわびていたのかニヤリと不敵な笑みを浮かべてた。
アバターの姿はハイエナをモチーフにされ、何処かの悪徳商売人のような格好をしている。ギラギラと鋭く光る黄色い瞳はこちらへと向かって来る少女…五十嵐皐月をいやらしい目つきで見つめている。皐月の姿はアバターではなく人間の姿。この行為は出会い系のサークルで良く使用されているらしく禁止にされていないのだ。
彼が出した条件に素顔で来いという命令があり、思っていた姿と同じだったのか、彼は鼻息を荒くしながらニタニタとしている。
「…約束通り…来たわ」
「上出来だ」
ハイエナのアバターは皐月に近寄りニヤニヤと彼女をじろりと眺める。
「あなたは…誰?」
「そうか。紹介がまだだったなあ。俺様は『鍵山代』。
会いたかったぜ五十嵐ぃ~。」
気持ちの悪い言葉が彼女の背中を這うように伝わる。
だが、皐月は毅然とした態度で代を睨み一歩下がる。
「あなたの目的は何?どうして私に…」
「決まってるじゃんよ~」
彼女の一歩に合わせ、代も一歩近寄る。
「お前を俺様の女にするためじゃん」
「っ!」
やはり……。
大抵の奴らはそうなのだ。人の弱みに漬け込み脅し、ズタズタにした状態で最終的に引き込む。
彼もその一人なのだ。
「賢い五十嵐さんなら分かってるよなあ。断ればどうなるかことぐらい」
脅されている…。
断れば間違いなく更にエスカレートするだろう……。
彼のいやらしい目つきを見る限りでは、自分だけじゃなく、他の女にまで手を出そうとしている。
「私を…女づるにするき?」
「賢いねえ…そうだよ…」
顔を伏せ笑いながらそう呟く。
気味が悪い……。
「でもさ…」
「……っ!」
伏せたままこちらに向かい前進して来る代。皐月は一歩一歩下がるがじりじりと追い込まれていく…。
「君は特別だよぉ~!これから出来るお人形さんの中でも最も可愛がってやるからよ」
「お人形?…どういうことなの!」
「あれ?まさか君目当てだと思ったの?」
「…え」
伏せていた顔が上がり、ハイエナの顔は完全に悪意100%の笑みに変わっていた。
「俺様の本当の目的はあの『雨宮つぐみ』だ!」
「…………つぐみ?」
「そうさ!あの小さな体系なのに胸がデカメロンだし抱き心地が良さそうだし、気弱だし…何よりモテモテだしなあ」
「………っ!」
自分のせいで親友にまで…いや、自分が行ったせいで彼女に被害が及ぶ…。
皐月は顔は伏せ、黒い髪が垂れた。
「…くく。ああ早くあのデカメロンを揉みしだきたい」
「……」
「あれ?親友に手を出されそうで悔しい?」
「……」
「大丈夫。お前を味わった後に彼女を堪能するからよ」
代は皐月に近寄りスッと手を伸ばし、黒い髪に触れる。
ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、手のひらは彼女の胸元へと下っていく。
「いただきます」と叫ぶと彼は一気に手を伸ばした。
「…あんた…全部分かってないじゃん」
「っ!」
胸元に伸ばした腕はガッと素早く掴まれ、男性の声が聞こえると同時に彼は投げ飛ばされていた。
「ぐっ!……う」
「つぐみが何だって?たくっふざけやがって」
「…え?え?」
さっきと打って変わって態度が変わり、声までも変わっている
どういうことだと目を白黒させる彼を呆れた視線で見つめると彼女は…いや彼はバッと服とウィッグ、眼鏡までをその場に捨て、其処にはストレートに左側が癖毛の茶髪に猫のような鋭く赤い瞳をし、黒いローブを身に付けた秀久が現れた。
「なっ!…お前…」
「よう。俺のクラスメイトが世話になったな鍵山代。」
「何故…まさか…っ!」
「ああ。そうさ…本物の五十嵐皐月はこっちだ」
ニヤリと笑みを見せつけ、秀久は横に魔法陣を展開する。
赤い魔法陣の中央が光り、中からアバターの二人の少女がこけるように落ち、秀久はすかさず片手でつぐみを抱きかかえ、皐月に手を貸しながら地面へと下ろす。
「みゅ!いきなり何するの!」
「だっ!?」
つぐみはピコピコハンマーで秀久の頭を叩くと彼の頭から星が飛び散った。
「…その口癖…そしてレアアバター…まさか…雨宮!!」
「…いってぇ。…そう。そして隣に居るのが――」
「私が五十嵐皐月よ」
「なああ!?」
代は騙されていた。
ずっと居たのは女装した秀久であり、本物は彼が隠していたのだ。
「…だがどうやって…まさかさっきの魔法…」
「ああ…転送魔法だ。初歩の初歩だから分かるよな?」
「く…っ…」
「おかげでMPが減っちまったが…そんなことはどうでもいい」
「っ!!」
笑みを消し、代を赤い瞳が捉える。
獣…違うこれは…
「…お前みたいなカス…0でも潰せるぜ」
「…!」
「ヒデくん…」
つぐみには分かった。彼が今何を考え、そしてどんな気持ちであるかも…
「覚悟は……良いよな鍵山」
「…何?」
「此処は洞窟。オンラインでも…サークルですらねえ」
「だからそれが何だ!?」
「まだ分からないのか?」
『レッツ!マジック・ショータイム!』
洞窟にある周りの炎がその声と共に燃え上がり、一瞬にして場が東京のとある街へと変わった。
「ゲームのルールにより、相手または魔物と戦う場合、場所は現在地へと切り替わる」
「…まさかお前…俺様に戦いを」
「ルールにより、相手魔法使い、または魔法使いの魔物と戦う場合、人数は平等な数となる」
つぐみを降ろし、秀久は炎に囲まれた輪へと入る。
それに伴い、代は強制的に輪の中へと弾き飛ばされ、つぐみ、皐月は戦闘が終わるまで、入ることが禁止とされる。
「へえ上等じゃん。俺様強いぜ?」
「生憎…俺は強い奴と当たると…強くなるんでね…。お前はどうやらパーティが居ないらしいな…残念だったな…仲間が居なくて」
「てめえ…」
「正直俺はお前じゃない奴と戦いたかったけど」
「…!」
ルールによりオンライン広場、サークル以外で他のパーティ若しくは魔法使いに会った場合、戦闘を仕掛けることが出来る。
これはよりレベルを上げる為と相手と戦い、戦闘力向上の為と言われている。
代は拳を握りしめ、黒い手から赤い血が地面へと落ちた。
「もう一つ」
「何だあ?降参か?」
「いや。ただ自慢というか…。お前の目的のつぐみ。俺のパーティというかパートナーなんだよね」
「…てめえ………マジムカつく」
「どうも」