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7―本当の気持ち

 お 前 の こ と は 全 て 知 っ て い る

 こ れ 以 上 部 外 者 に 手 を 出 さ れ た く な け れ ば 俺 の 元 に 来 い


 そして自分はオンラインゲームの中に居る。

 前々からエスカレートしていたストーカー行為はいよいよクライマックスと言ったようだ。

 五十嵐皐月は不安と恐怖の表情を押し隠し、いつものように冷静な瞳で彼が居る場所へと向かう。

 彼女のノーマルアバターは綺麗なフォルムをした美しい雌鷲の姿だ。

 簡単に言えばつぐみのような人間タイプでなく、秀久のようなタイプであり、武器は一切持って来て居ない……いや、持って来れなかったのだ。

 しかも此処は既にオンライン広場を離れ、とある洞窟…。魔物が出てもおかしくはない……

 しかし彼女は脅されている為、マジシャンズアバター、武器は一切禁止とされてしまったのだ。


 怖い……。

 これから起きることが何か分かっている彼女に闇が覆う。

 だが後戻りはできないのだ。…自分が犠牲になれば他のみんなは無事。ならば余計に進むしかない。

「私は………」

 しかしそれが本当に自分の本心なのか?…自分は嘘をついているのではないだろうか?

 皐月の闇は更に膨らみ、やがて迷いが生まれた。

「……分からない…」

 ずっと一人で考え、隠し、そして犠牲にまでなろうとしている。

 彼女の心は既にボロボロだったのだ。



「分からないなら何で頼らないんだ?」



 他人を巻き込みたくないからだ…。

 口でそれを言いたいのに出てこない…。

 皐月はいつの間にか建物の側に立っていた狼のアバターと小さな歌姫のアバターに涙を見せた。

「私はっ……本当は…」

 苦しくなり、今まで我慢していたことは彼の一言によって脆く崩れた。

 涙をポロポロと流す彼女につぐみは優しく抱きついた。

「抱え込まなくて良いんだよ?……不安だったんだよね」

「うぁっ…うっ…うん…。私ぃっ…本当は…っ怖くて……巻き込みたくないのにぃっ……本当はっ…どこかで…助けを求めてたのが…おがかましくてっ…うう…」

「……回りくどいのは嫌いなんだよ…。素直に助けてと言え」

 つぐみを抱きしめながら涙をボロボロ流していた皐月はしばらく沈黙を作った後、小さく口を開いた。


「助け……て」


 素直じゃない…。だが、それが彼女なんだ。秀久はふんっと鼻を鳴らし、ニヤリと笑みを浮かべた。

「めんどくせえ…」

「え?」

「あっ!大丈夫だよ!ヒデくんは結構素直じゃないから…」

「つぐみ!余計なこと言うなよ…」

 つぐみは皐月の背を優しく撫で、ヒデに近寄るとたしなめるように優しく手を握った。

「ヒデくんも率直じゃない自分を嫌わないで…。ね?」

「はあ………つぐみが言うなら…。五十嵐」

「!?…な、何?」

「「みゅ~くすぐったいよ~」会う予定のそいつ……。お前の顔知ってるか?」

 つぐみの頬を撫でながらそう問いかけると皐月は首を横に振った。

 なるほど…ならば……良い方法がある…。

 つぐみを膝に乗せると秀久はニタリと口の端を上げる。


「私も一ついいかしら?」

「なんだ?」

「吉沢君は雨宮さんとどういう関係なのかしら?」

「ーーー※※#&%!!な、なななぁああ!?」 嫌な予感を感じたのかつぐみの耳を塞ぎその質問を聞いた途端、秀久の耳から湯気が吹き出した。

 そして何を想像したのか顔は蛸のように茹であがり、目をグルグルと回転させる。

「わ!!ヒデくん顔が赤いよ?」

「っ!ば、馬鹿!!触んなっ!」

 ふさふさした黒い毛はつぐみがペタペタと触り、真っ赤に染まる。

 やばい!

 そう思った秀久は慌ててつぐみを下ろすとその場でうずくまり悶え始めた。

「お、俺はっ!…べ、べつにそんな関けいっじゃなくて…だな!た…だ幼なじ…みじゃなくて…いや本当は…す…」

「ヒデくん?」

「ぁあああああああっ!!違う!断じて違う!」

「ヒデくん!?いきなり悶絶して大丈夫?!」

「わ…!待て!後ろから覗きこ…(ムニュン…)ーーーーーー!!?」

 背中に二つのたわわが当たり、彼の心臓は今にも飛び出しそうな程跳ね上がった。

 そして、それがつぐみのだと意識した途端彼の視界は真っ白になって行った。

 これも運命…

 彼のラッキーイベントは毎回逆に不毛なイベントに変わっていくのだ…。

「ヒデくん?ヒデくん!」

「…………プシュー」

「わっ!口から煙?」


 微笑ましい…。

 皐月には何となく二人の関係が見えたのか優しい瞳で今の光景を見つめる。

 秀久の気持ちなど、今の状況で判断がつく…。

 つぐみは分からないが…ただ、こんな光景が生まれるのは…ただの関係でないことは確かなのだ。

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