6―側に…
忙しい…。ようやく更新をし、感想返信は前回を含め後ほど…
「爪のマジシャンズアバター?知らないなあ…」
「そうか。すまない」
手がかりは無し…。爪…恐らくは武器の事…。
同じ被害が無いか、はたまた見ていないか聞き込みをするが応えはどれも同じ。
秀久は近くのベンチに座ると唸り始めた。
「……くそ…。やっぱレアなんだろうな…」
魔法使いのアバターで爪装備はまれにしか見ない。
それならば直ぐに目立つ筈と思っていたが、何らかの手段を使って目立たないようにしているのだろう…。
「けど、此処でやめたら被害は拡大する…。それに“奴ら”を突き止めることは不可能だ」
周りを見渡していると毛むくじゃらの頬に冷たい感覚が走った。
「…つぐみ?」
「考え込みすぎると頭壊しちゃうよ?はい」
「サンキュ…」
つぐみから紙コップを受け取り中を覗く。オレンジジュースの中に氷が浮き、小さく綺麗な輝きを放っていた。
「うまっ」
「ふふっ。良かったあ」
コップを両手で持ち、犬のように舌ですくい飲みこむ。
そんな彼を嬉しそうに眺めながらつぐみはふわふわのしっぽを小さく揺らすと彼の横で飲料水を喉に運んだ。
「…んっ。美味しいね」
「味覚も伝わってくれるのは有り難いな。んくっ―」
ベンチに座っているのは二人だけ。といっても二人しか座れないから当たり前なのだが……。
異性と居ることに意識してしまうの普通のことであるが、幼なじみの二人にとっては笹井もないいつもの日常に過ぎない。
「今回は結構厄介だな…爪だけがヒントじゃ手がかりも掴めない」
秀久はコップをくるくると手の平で回しつつ苦い表情を浮かべる。
今までの事件はもっと詳しい情報があったが故に突き止めることが出来たのだ。
「…あ!」
「どうしたつぐみ?」
「そういえばさっき皐月ちゃんに会ったの」
「え?…何で依頼した本人が!?」
五十嵐皐月
弓道部所属の女子生徒で、真面目だが努力家のクラスメイトでもある。
彼女の依頼を受け、この世界に来たのだが、授業をサボってまで何故来たのだろう?
「…何か言ってたか?」
「うん。確か…誰かからメールが来て…呼ばれたんだって…」
「俺達が居なくなった後か…(まさか…!)」
秀久の脳裏に蘇ったのは依頼した時の彼女の表情…。
怯えていた…。焦っていた。なるほど…犯人を探すヒントには過ぎる内容だ。
秀久はつぐみを膝に乗せると確かめるように尋ねる。
「なあ…最近五十嵐何か困ってたこと言ってたか?」
「ふえ?あ…先週から誰かに付きまとわれてるって聞いたかな…」
思った通りだ。
五十嵐はつぐみですら軽い内容にするようにオブラートに包んで言っていたのだ…。
…彼女は脅迫されていることを隠していた。
つまり犯人は…
「つぐみ…。やっぱりお前が居なきゃ駄目だなっ」
「きゃっ!…ひ、ヒデくん?」
思わず力強く抱きしめ、つぐみは幼なじみの行動に慌てふためく。
彼のふさふさした毛が肌に当たりくすぐったい感覚が襲う。
「もうっ!今はこんなことをしている場合じゃないよ!」
「どわっ!何時の間にピコハン…ぐふぁあ!?」
恥ずかしさから、つぐみは桃色のピコピコハンマーを取り出し彼の頭部を叩きつけた。
勿論、威力は戦闘向きでもある為、秀久はズシャリと地面に倒れた。
「全くもう…変わらないなあ」
呆れたようにため息を吐くも、表情はどことなく嬉しそうだ。
変わらないで欲しい…。ずっと昔のままでいてほしい…。
気絶した彼の頬を優しく撫でながら、穏やかな瞳で彼にそう告げた。