5―ナンパと殺意
秀暴走(笑)
オンライン広場は名前の通りゲームをしている者達の交流する場所だ。
魔法の城が建てられ、中には喫茶やカジノが開かれており、まさに現実そのものを意識させた作りになっていた。
秀久達は毎度此処に訪れては情報を得ているのだ。
「今日も相変わらず人が多いな…」
男女混合入り乱れており、殆どのアバターが高校生だと秀久は見ただけで分かった。
恐らく自分と同じように授業を抜け出しているのだろうなと思うといたたまれない。
「さて、早速捜索を始めるかつぐみ」
振り向き際に言ったが返事が返ってこないことに眉を潜めた。
はぐれたのか?いや、一緒に来た筈……。
次第に彼女が居ないことが彼の冷静さを引っ掻き回す。顔をふり落ち着かせると静かに耳を済まし辺りの声を探った。
「あ、あの…困ります」
『いいじゃん。一緒に行こうぜ?』
彼女の声だ…。いや、何かに絡まれているのか……。声が聞こえた方を探り辺りを見回すと盗賊装備をしたカラスの『ノーマルアバター』が二人お姫様を囲んでいる。
“狼”はため息を吐きながら盗賊カラスを睨む。
「君可愛いね~。俺達とパーティ組もうぜ?」
「いや、あの…」「大丈夫絶対楽しいから。ひひひ」
「いやっ…!」
「おっと、足掻いても無……いだっ!」
肩をがっちりと掴まれミシミシと力が入る。カラスアバターの一人は痛みに顔をしかめつつ後ろを振り返る。
なにすんだてめえ!と言い出そうとした瞬時、殺気に似た感覚が彼を覆った。
「おい。人のパーティにナンパとは良い度胸だなてめえ」
「ひっ……!」
「ヒデくん!」
狼……。
彼の背後には鋭い瞳で自分達を威嚇する獣が見えた。
「いや、あの…」
「俺達…知らなかったんで…」
「へえ…知らなかったか。なら…知っとけカラス…パーティに関わらず女をナンパすんじゃねえよ」
「「ひぃいいっ!」」
トドメと言わんばかりに手を離し警告をするとカラス達は一目散に逃げ出した。
「たくっ…。面倒な輩がいるな…」
「ありがとうヒデくん…」
「ふんっ。だから言っただろうが…」
「?」
小首を傾げを秀久を覗くと、呆れたような表情を見せる。
「ほら行くぞ」
「え?…わっ」
ふわりと体が浮き、気づけば彼女の小さな体は彼の胸と腕の中に収まっていた。
例にいうお姫様様だっこというものだ。
「ひ、ヒデくん?」
「黙ってろ。今探してる」
「降ろして!恥ずかしいよぉっ!」
「嫌だ」
「ふえ~!?」
こうなってくると秀久は聞く耳を持たなくなる。
つぐみは仕方ないというようにため息を吐いた。
「迷惑かけた罰だな」
「みゅう~」
周りのアバターからの視線が恥ずかしく、つぐみはうさぎの耳を垂れ、目元を隠す。
秀久に集まっている視線はほぼ嫉妬、殺意に近いものだが…。
(本当は心配+嫉妬してたって…なんて言える訳ないじゃないか……はあ…俺もまだまだガキだなあ…)