3―ドストライク
つぐみが結構ツンデレに…
「はあ?弓道部の弓弦が壊れた?」
「ええ。誰がやったのかは知らないけど、弓弦と一緒に大きな爪跡があったわ」
「爪跡か……分かった。とりあえず調査してみるよ」
「よろしくね吉沢君」
弓道部の女子生徒は秀久に頭を下げると自席へと戻る。
変わるように様子を見ていたつぐみが心配そうに彼に元へと歩み寄る。
「ヒデくん…何かあったの?」
「ああ。早速依頼だ…ちょっと行ってくる」
「あ、ヒデくん!」
授業が始まる前だというのに彼は扉を開くとさっさと出て行く。
「もーしょうがないなあ…」
「ん?おい、つぐみ授業始まるぞ?」
「!?…ちょっと…トイレ行きたくなって…」
「そうか。ま、悪くなったら保健室行っとけな?」
「うん。ありがとう一麻くん」
本当は秀久を追いかける為と言いたいが、迷惑をかける訳にも行かない。
つぐみは教室を抜けるとトイレへ行くフリをし秀久の後を追った。
一麻は彼女の影を見送った後、前の席に居る女性に問いかけた。
「なあ、みく。あれって間違いなくシュウを追い掛けに行ったんだよな?」
「そうやな。シュウもシュウやけど、つぐみもつぐみやからなあ…わっちらの出番は無いかもしれへんなあ」
「仕方ないな…後でノート貸してやるか………」
二人はニヤリと笑うと教室に入ってきた教師に何と言い訳しようか思案するのだった。
『君!授業は始まってるよ!』
教師の声に聞く耳持たず。
廊下を走っている秀久は教師を避け、右折する。
此処の学園は広いが故に場所を把握しておかなければならない。
教師でさえ混乱する廊下を秀久は勘で目的場所を探り当てている。
(…改めて見ると本当に広いな。道が何本もあるから迷路かあみだくじみたいだ)
こんな構造にした理事長に恨めしさを抱きつつ柵を越えてショートカット。
そのまま真っ直ぐ突き進むと『シーモネア』と書かれた扉が目に入る。
「よし。ちゃんと道を把握してた!」
扉を開くと聞こえるのは機械の音。
ゴウンゴウンと音を立てながら円盤のようなクッションがこちらへと上ってきている。 『シーモネア』と呼ばれるこの機械はエレベーターのシステムが更に近代化したものだ。
『シーモネア』は学園の行き先を指定しながら乗ることで、自動で行き先に設置してある『シーモネア』の扉へと移動する。
体に重力はかからず、また安全に移動してくれる。
「行き先は『情報室』だ」
場所を指定し、『シーモネア』に足をかける。
と、同時に後ろの扉が開き誰かがこの部屋に入って来る。
息を切らしながら小さな体を震わし、潤んだ緑色の瞳が彼を睨んでいた。
「つ、つぐみ…?」
「…………」
息をするので精一杯のようだが、瞳は彼を捉えたまま。
秀久の額から汗がつたい、『シーモネア』に着いていた足を下ろす。
「な、なあ…大丈夫か?」
「……」
「どうしたんだよ?…うおっ…」
つぐみは無言で秀久の腕を掴み、『シーモネア』へと乗る。行き先を指定された『シーモネア』は指定した者が乗ったことを認識すると宙に浮かび移動を開始した。
「何なんだよ?」
「……くれなかったの?」
「え?」
「……くれなかったの?」
「何?」
「…………はー。…何で一人で行こうとしたのぉお!!?」
「耳ぃいい!鼓膜があああ!!」
耳を掴み聞こえるように大音量で叫ぶと秀久は痺れたように目を回す。
つぐみは秀久に詰め寄り、腰に手を当てる。
「だいたい…ヒデくんは毎日毎日無茶しすぎだよ!人助けは分かるけど…失敗したら無意味なんだよ?」
「…ぐ…あれは俺が弱いだけだ」
「違うよ!ヒデくんが一人で行くからだよ!」
「………う」
困ったようにいや、坪を突かれたかのように大きく彼の瞳が揺らぐ。
つぐみはそれを見逃さず彼をジト目で見つめる。
「何で一人で行こうとしたの?」
「…またそれかよ」
「当たり前でしょ!あたしは納得行ってないよ?」
「…言っても納得いかないさ」
「言っても無いのに分からないよそんなの」
逃げられない…。
改めて幼なじみの凄さを実感し、同時に言わなければ絶対…永遠とこの口論は続く。秀久は大きく息を吐くとつぐみへと視線を戻す。
「じゃあ、言って…動揺しないと約束できるなら…」
「うん。いいよ」
「…決断…はやっ…。まあいいか…」
頬を指で掻きながら移動の為発生する白い空間を眺める。
「…あのさ…その…カズと深紅は色々とある訳だし、そっちを優先して貰いたい。……で、なんでつぐみを連れて行かないのはな……………………その」
「みゅ?」
「…………ぁあああもー!それだよ!それが原因なんだよ!」
「…へ?」
「だーかーら!お前が可愛いから他の奴らに狙われるからだよ!!」
大音量シャウトすると周りは沈黙に包まれる。
つぐみはしばらくポカーンとしていたが、意味を理解していないのか首を傾げた。
「他の人達に狙われるといけないの?」
「~!!(…鈍いっ)…当たり前だろ!つぐみはロリ+グラマー×童顔=ドストライクなんだぞ!?」
「意味が分からないしちっさくないもん!」
「自分の立場に気づけ!!つかちっさくないと許さん!」
「ちょっとヒデくん!?壊れてるよぉ!」
「誰のせいだぁあ!!誰の!」
秀久とつぐみの口論は『シーモネア』が目的場所に到着した後でも続いた。
あまり人と関わらない秀久、そんな彼と簡単に口論に持ち込む彼女はやはり幼なじみ…特別なのかもしれない…。