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23―逃亡の理由

「それで……つぐみは眠ってしまったと」

「………(朝から大変だね…シュウくん)」

「……お恥ずかしい限りです」

 王立学園東側にある二年A組。其処では眠り姫のつぐみを抱いたまま正座している秀久の目の前には、兄貴的存在にして師でもある龍星と彼の愛人である芹香が寄り添う形で立っている。

 二人の惨劇を聞き終えた龍星は何とも言えぬ表情でため息を吐いた。

「まぁ…つぐみにも原因はあったからおあいこだが…秀久」

「はい…」

「お前達は同棲しないのか?」

「ぶほぁっ!?」

「…あ。わり…言葉を間違えた」

「…な、なんだ…そうなんで「いい加減告白しろ」…ぶ!?」

 安堵の息をついたおり、ストレートに飛んできた言葉に再び吹き出す。

 龍星はその様子にため息を吐き、芹香の頭を撫でる。

「いいか?お前「ごろにゃん♪」が何時まで「にゃ~ん♪」そんなんじゃ…つぐみとは何「りゅーくん♪」も進展しないぞ。」

「あの…ところどころ芹香さんの声でよく聞こえなかったんですが…」

「ん?そうか。なら一言で言うから良く聞け」

 龍星はいつの間にか猫のように鳴く芹香を抱きしめつつツッコミを入れる彼から視線を外さない。


「……告白しろ!!」

「結局それじゃないですか!?」

「告白してみろ!つぐみは絶対嫌だとは言わないぞ!」

「もし言われたらどうするんですか!?」

「やっぱ鈍いなお前!」

「ええ!?」

 つぐみといい秀久といい、何故あんなに鈍感なのだろう?龍星は器用にもう片方の手でつぐみを撫でながら秀久を見る。

「秀久。噂によれば今年の学園祭はペアで行うイベントらしいぞ」

「ペア…ですか?」

「ああ。しかも必ず男女だ…生徒会、教師、委員会のメンバーを誘っても可。早い者勝ちらしいぞ」

「早い者勝ちって…それじゃあ先に誘った人と絶対ペアにならないといけないじゃないですか」

「そういうことだ。お前なら察しがつくだろ?」

 秀久の頭に浮かぶのはつぐみと他の男子と良い雰囲気になっていく未来予想図。

 そしてあわよくばつぐみに子供が出来、家庭は…


「帰ってこい秀久!」

「あだっ!?」

「どこまで考えていたんだ」

「……つうう…。…つぐみに孫が…」

「オーバーすぎるわ!」

「龍星さんストップ!ぐふああ!?」

 龍星のハリセンツッコミが炸裂し、パアアンと音と共に秀久の頭に巨大なたんこぶが出来上がった。

「くぅう………。……俺だって……他の奴らに負けないくらい…あいつが好きです…」

「ん?じゃあなんで告白しないんだ?」

「………(何か理由があるの?)」

「好きって誰が?」

「誰って…決まってうぁあああああつぐみ!?」

 言葉を濁しながらも必死に訳を説明しようとする秀久に疑問を投げかける龍星、芹香、つぐみ……。

 …そうつぐみだ。秀久は気づくやいな猛スピードで廊下へと逃げ出す。


「あ、ヒデくん!?」

「これは…難しいな」

「……(うん。相思相愛でも、逃げ出しちゃ駄目だよ…)」

「…あたし何かしたかな?」

 首を傾げ、思い当たる節を考えるつぐみに二人は苦笑しながら互いに見つめ合った。

 






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「はあ…」

 勢い良い余って窓から飛び降りた秀久は傷をさすりながら、二階のロビーのソファーに座る。

 此処もあまり知られていない場所であり、お昼時も使用することがある。

 ソファーにもたれかかり、真っ赤に染まっていた顔から熱が引いていくのが感じられる。

「…思わず逃げ出しちまったけど……たぶん良くなかったよなあ」

 ぶつぶつ呟きながら、ちらりと廊下を眺める。

 学園祭のため飾られた装飾品は綺麗であり、一つ一つが丹念に作られている。それを見ていると、龍星が言っていた言葉が頭の中でリピートされる。

「……ペアか…。当然つぐみとなりたいのは山々だけど…もし危険なイベントだったらどうすんだ…」

 聞いている相手など誰も居るはずがない。

 そうだ。自分がもたもたしていれば、他の奴らがつぐみとペアになる。最悪の場合、つぐみがそのペアを好きになる可能性だって無いわけではない。

 唇を噛み締め、天井を睨みつける。

「……そうだよな…。つぐみが危険な目に合うって決まったわけじゃねえし…何よりつぐみを信じていないんだ俺は…」

 彼女は自分を信じると言ってくれた。だからこそ自分も彼女を信じたいと実感した。

 なのに…何故か信じられない自分が存在している。


 何故……?


 だから告白すら出来ないんじゃないだろうか?

 いや、違う。自分が彼女を幼なじみとして見ているからに違いない。近すぎて…怖いのだ。

「…ごめん…つぐみ…………。…つ!」

 静かに冷たい雫が流れ、軽い痛みが頭に襲う。

 駄目だ。意識が…薄れていく。…視界がぼんやりと見えなくなり、秀久は静かにソファーへと横たわった。

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