21―負荷と悲劇
『ロード完了。システムを展開します』
「………。うわあ…やっぱボロボロだなあ」
『アバター約40%の破損及びダメージがあります』
「…修復時間は?」
『今から全機能修復を考えますと最低九時間は必要とします』
「…九時間か。今から行くとおよそ十四時ちょいか…仕方ない。修復機能作動するよ」
『了解致しました。これより修復完了までマジシャンズ・ナイトアバターは使用できません』
「分かった分かった」
修復が始まるとオンラインを閉じ、デスクに映し出されている、ビジョンモニターの『サイバーネット』を消す。
アバター使用不可を余儀なくされた秀久はため息を吐くと椅子にもたれかかり天井を睨む。 余根倉戦の被害は自分にだけでなく戦闘用アバターにまでダメージが大きかった。仕方ないことなのだが、先行きが不安になって来る。
「………信じてない証拠だな」
軽く笑い、目を閉じる。
自分が戦えずとも仲間に頼ればいい。信じることも時には必要だとあの事件で実感したのだから。
「……………」
ふと、何かを思い出したように、指をそっと唇に触れる。
昨日の屋上の光景が蘇ってくると思わず首を横に振る。
嘘だ…。彼女が自分にあんなことをするはずがない…。
「でも…仲直りは出来た…よな」
彼女の微笑みが脳裏に蘇り顔面が真っ赤に染め上がると、近くにあった枕をベッドに投げつける。
駄目だ駄目だ。しっかりしなくては…。
「よ、よし。…もうすぐでつぐみが起きる時間帯だし…寝るのはやめとくか」
半分寝ぼけている顔をパンパンと両手で叩きベッドからゆっくりと降りる。
食費などに関してはつぐみが管理しているためか材料が…というか冷蔵庫には必要最低限な物しかない。故に作ろうと思っても出来ない。
というのは朝、晩…休日は昼も彼女が作りに来ているからだ。
気を遣わなくて良いと言っているのだが返事は決まって『心配だから』と言う。確かに過去のことが関わっているせいでもあるが。
「そうだ。たまには出迎えてみるか」
朝食は彼女が作ると言っているため無理には出来ない。だが、いつも寝ている自分より早く起きてくれているのだ。
気持ちだけでも安らげてあげたいと考えた秀久は赤い櫛を持ちマンションの部屋からさっさと出て行く。
すぐ隣なので急ぐ必要も無く、マンションの外で朝の空気を目一杯吸っては吐いてを何度か繰り返す。朝の空気は本当に美味しい。
「ふう~…あんまやりすぎたら体に負荷がかかりそうだ」
肋骨辺りを押さえつつ、扉へと向き合う。
横には『雨宮』と金色の字で彫られており、扉は白い自動ドア式だ。
「…わっ!…開いた?」
彼女が起きるまで、扉の前で待っておこうかと思っていた矢先、自動ドアは出迎えるようにゆっくり左右へと開く。
「もう起きてんのか…。」
いきなり来ても説明すれば大丈夫だろう。
秀久は扉前でローファーを整え、ゆっくりと体を起こす。
恐らく彼女のことだ。今頃朝飯でも作っているだろう。
「久しぶりに上がるな」
はやる気持ちを抑えつつ、中へ一気に突入した。
「おは…よ…う…つぐ……み…――」
「ふえ!?ひ、ヒデくん!?」
「……………あ」
ローファーを脱ぎ揃え、リビングへ向かうと其処には着替え途中だったつぐみが学園用の赤いチェックスカートを持ったこちらを凝視していた。
Yシャツは身に付けてはいるが、いつもはブレザーで隠せていた豊満なたわわの実が強調するように膨らみを見せている。
そして数秒たった時、現状を理解したつぐみの顔が真っ赤に茹で上がった。
「な、何してるのおおおお―――!?」
「え…?あ!ご、ごめんなさ…ひでぐふあ!?」
即座に謝ろうとした秀久だが、つぐみが投げつけた枕が激突し、勢いが強かったのか後ろへと倒れ、ソファーに頭を打ちつける。
つぐみはその間、スカートとブレザーを持ち、素早く隣の部屋へと逃げ込んだ。
「最低だよヒデくん!!」
「…………」
「聞いてる?」
「………」
「ヒデくん?」
「…………」
「…」 部屋から思い切り罵倒するが、返事が無い。心配になり問いかけてみてもやはり返ってこない。
手早く着替えを済まし、扉越しから耳を済ませるとドクドクと奇妙な音が聞こえるではないか。
「…え!?まさか…きゃああ!?」
「……」←頭から出血で顔面真っ赤
「わわ!…手当てしなくちゃ!」
つぐみは耐えきれずに扉を開き、諸に意識を飛ばし血ドクドク状態の秀久に思わず悲鳴を上げた。
すぐさま慌てている場合ではないと悟り、急いでリビングから出る。
ちなみに原因は、昨日戦った傷が衝突したことで、開き悪くなっていたらしい…。