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17―狼の怒り

二話連続です

「ところでつぐみ君一つ聞いていいかね?」

「うん。何かな?」

「秀久とはいつ知り合ったんだい?彼、なかなか教えてくれなくてね」

「…ははっ。ヒデくんらしいね」

 つい笑みがこぼれ、智はそれを見て少しホッとしたように笑う。

 つぐみはしばらく考える仕草をしてから首をこてんと傾げた。

「あまりあたしからも言えないかなあ…。……」

「ふむ。よほど大切な記憶らしいな」

「ち、違うよ!別にヒデくんのためなんかじゃないからね!」

 腰に手を当て、びしりと言ってみせるが顔は真っ赤に染まっており瞳も揺らいでいる。そんな状態を見れば本心を見抜くことなど一目瞭然だ。

「そうか。ならば聞かないべきだな……ではとりあえず教室に戻ろう。もうじきイベントが始まる」

「うん」

 頷いたのを確認し智はベンチから立ち上がる。


 ――刹那。奇妙な気配に気づき、素早く後ろを振り返った。


「がっ……!」

「智くん!?きゃっ!」

「………つぐみ君…!」

 背中に走る痛みに地面に倒れると同時につぐみの悲鳴が聞こえる。

 消え行く意識の中、やっとのことで目を開くが再び背中に激痛が走る。

「………」

「もういい。やめろ」

「…智くん!」

「おっと暴れないで貰おうか」

「痛っ!離して!」

「そうは行かない。くく…おい、ずらかるぞ」

 暴れるつぐみを無理やり抑え、一人の高身長の男の言葉に数人の男子が頷く。

 つぐみの腕を強く握りしめ、彼らは智が倒れる屋上を後にした。

「っ……は、早く知らせなく…ては」





「………つぐみ」

 屋上のフェンスに体を預け、秀久は空を仰ぐ。

 呟くは大切な少女の名前。ブレザーの内ポケットを手探り、黒いメモリーカードを空へと透かす。

「……無茶か」

 このゲームに参加すれば彼女は狙われてしまうだろう。

 『ブラックゲーム』と呼ばれるマジックオンラインイベントは正に生死をかけたグレーなシステムばかりだ。

 もしもを考えれば考えるほどつぐみだけでなく、他のみんなまで被害に加えるわけにはいかない。

 ――もう。誰かが消えるのは見たくないのだ。


 彼女に汚れ役などさせたくはない。結局解決といいながら自分はたくさんの命を奪っているのだから。

「……けど…あいつは…」

 ぐっと歯を食いしばり拳を握りしめフェンスに叩きつける。

 ガシャリとへこみ、繋ぎが千切れたフェンスの先が拳に突き刺さり、彼の手から血が滴り落ちていく。

「龍星さんも…カズも…響や優一達も俺自身に答えを出させようとしている…けど…それが正しいかなんて…わかんねえよ…」

 正しい答えがあるのだろうか?もし見つけたとしてもそれはつぐみにも当てはまるのか?自己満足なのか……。

 再び空を仰ぎながら赤い瞳に雲が映る。


 ――Pill


「……通信?」

 突然鳴ったブザーコールに少し目を開きつつ、『サイバーネット』を開く。

 通信と言っても電話らしく、コールに切り替え暗い画面が映り音声に変わる。

『やあ…。出てくれたようだね』

「……何のようだ」

 何か弄っているのか声が裏返っているため誰かわからない。

『すま…ない。切り替え忘れて…たようだ』

「お前……杉崎か。どうした?」

 電話主は独特な喋り方から智だと分かり、単に彼が弄っていたのを忘れていたようだ。


『落ち着いて聞くんだ。……つぐみ君が誘拐された』

「――――!!…何。誰が!?いつ!?つぐみを…!?」

『落ち着くんだ秀久』

「!!…すまない」

『犯人は君をバットで殴ろうとした『余根倉』だ。』

「……なんだと!…あいつ…が」

 恐らくは龍星に止められ自分を殺せねかった恨み、振り向いて貰えずつぐみに対する一方的な好意からだろう。

 秀久は拳をギギと握りしめ怒りに震える。

「……そいつ何処にいる?」

『GPS機能をつけておいた。…確か放送室だ』

「余根倉ぁ……潰してやる!」

『待ちたまえ。情報によれば彼は不良グループとグルらしい…狙いは君だ…』

「…分かってる!だがつぐみが!つぐみが危ないんだよ!

 あいつだけは何があっても俺が…絶対守らねえといけねえんだ!」 電話を強引に切り、サイバーネットを閉じ、秀久の赤い瞳は雲り空と怒りによって黒く濁っているようにも見えた。

「待ってろよ…つぐみ!」



 放送室への道は遠くはない。秀久は持ち前の身体能力を生かし屋上から三階へと飛び降り、開いている窓へと入り込む。

 普通はそんなことをすれば間違いなく大怪我なのだが…。というよりまず出来ない。

「…っと」

「!?よ、吉沢君!?何処から…」

「川口先生か。まあいいか…今日のイベントは中止だ!」

「は?何を言っ…「人が誘拐されたんだよ!イベント所じゃねえだろうが!」…な、何だって!?」 川口と呼ばれる眼鏡教師は秀久の言葉に体を跳ねらせ、事情を聞こうと彼に声をかける。

 しかし、秀久は「先生達に伝えろ!」と言うとすぐさま廊下を駆け出す。


(つぐみ!…絶対助けてやるからな!)


 廊下には二年生徒が雑談や悪ふざけをしているが、秀久は器用に避けながら加速し、突風が吹き荒れる。

 彼が走った後に起きた風は女子生徒のスカートをふわりと浮かし、男子生徒が鼻血噴出というカオスが巻き起こっていた。

「わっ!?」

「悪い。どいてくれ」

「きゃ!」

 目の前に居た二組の男女を剥がすように横へどける。

「…この道はショートカットだ!」

 学園の構造は複雑であり、三階だけでも無数に道が存在している。放送室に早くたどり着くために秀久は庭に繋がる道へと出ると一気にスピードを上げて行く。

『…あー…これでいいのか?』

「ーっ!…放送室から…」

 途中、ピンポンパーンと呼び出しの放送音が耳に入り、思わず立ち止まる。


『えー…ごほん。二年の吉沢あああ!てめーの彼女を預かった。返してほし『下手くそか!変われ!』』

「……この声は余根倉…!」

『吉沢秀久。事を荒げたくないから簡単に言わせてもらう。雨宮さんを返してほしいか?ならば俺の元へ来てみろ。その前に味わうけどな。…場所は“お前の活動場所”で言えば…体育館だ。……殺してやるよ』

「………あの野郎…」 プツンと放送が途切れ、秀久は拳を握りしめながら耳を澄ます。


『本当に誘拐されたのか!?』

『放送室に早く行くんだ!』

『二年の雨宮さんが…はい。吉沢君が関係しているようです』

『先生方は生徒に教室待機を…!』


「くそ。先生に捕まったらつぐみの元に行けねえな。…あの場所……か」

 最後に呟いたあの言葉。それは場所を示すヒントであることが分かる。

 だがこの距離からだと上の階に上がる必要がある。

「そんなことしてたらつぐみが…」

 彼女にとって最悪な“事”が起きるかもしれない。

「使うしかない…か」

 黒いメモリーカードを取り出しぐっと握りしめる。

 これを使用すれば彼女の気持ちを否定することになるかもしれない…。だが…


「俺は…つぐみのことが……」


 嫌われてしまわれようが関係ない。…大切な人を守れるなら……。


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