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15―喧嘩と兄貴達

 秀久によって彼方へと消えたはずの『杉崎智』はHRが始まる前には席に戻っていた。が、いつものことなので仕方がない。

 ――そう……彼らが遅いのもいつものこと。

「おはようみんな。…と言っても…今日も来てないわね…」

『遅刻魔神だからいつものことだろ?』

『流石兄貴だぜ』

『瀬川さんも大変ね』

 女性担任教師の一言で周りが一気にざわめき始める。

 遅刻魔神…。兄貴。今遅れている彼はそう呼ばれているのだ。


「みゅ?何やってるのヒデくん?」

「ん?ああこれか。…ちょっと魔法やアバターの装備を整理してんだ」

「そう……。あまり無理しないでね?」

「わーってるよ」

 手をひらひらさせながら返事を返すと、本当に分かっているのか否か再び『サイバーネット』と呼ばれるエキシビジョンモニターを手で操作する。


 ――まるで自分の言うことは無意味ではないか?自分は邪魔者なのだろうか?

今まで感じてきた複雑な感情が入り混じっていくのが分かる。


 ――きっとヒデくんは嫌いなんだ。


そんな気持ちが渦を巻くようにつぐみを締め付け一気に負の感情が覆う。表情を引き締め、つぐみは業を煮やし隣に居る秀久の横へと立ち――


「ふざけないで!!!」


『『!?』』

「…え?………つ、つぐみ?」

 いつものおっとりした彼女は居なく、其処には秀久のデスクを強く叩きつけ緑色の瞳で彼を睨みつける少女が居た。

 一麻や深紅達もその声と音に体を跳ねらせ、周りは静寂に包まれ、二人を見つめる。

「本気で…」

「え」

「本気で心配しているのに何なのその態度!!!あたしはお節介てこと!?」

「……おい。何言ってんだよ!そんなわけ――」

「だってそうでしょ!!!!毎日毎日…どれ程…ヒデく…んを…心配…してる…と…思って」

『つぐみ…』

『雨宮さん…』

 考えるだけでとめどなく涙が溢れ、つぐみは地面に座り込む。両手で目頭を拭い拭い…それでも涙は溢れるばかりだ。

「つ、つぐみ…俺は」

「知らない…」

「…え」 動揺する秀久へと振り向き、涙を拭わないまま怒りを彼へと吐き出す。

「――人を…あたし達を信用してくれないヒデくんなんてもう知らない!!!ヒデくんなんか…ヒデくんなんか大嫌い!」

「…………!」

「あ、待つんや!つぐみ!」

 吐き捨てるようにはっきりと伝え、うさぎ耳のリボンを彼へと投げつける。

 呆然とする彼を横目に深紅は教室を出て行った彼女を追いかけた。

 と、同時にほぼ入れ替わる形で二人の男女が入る。

「……さっきつぐみ達が走ってたんだが何かあったのか?」

「……(つぐみちゃん泣いてたよ?)」

「龍星さん!芹香さん!」

 短い黒髪を立たせ後ろで結ぶ長身の男子と、濡れ羽色の腰まである長い髪をポニーテールを揺らしながら首を傾げる可愛い女子生徒に一麻や優一達が駆け寄る。

「二人共遅刻よ!」

「……(ごめんなさい先生)」

「そんなことより今はこの状況の理解が先だ。何があった?」

 我らが兄貴は教師に遅刻の謝罪をせず今起きた修羅場について尋ねる。

 芹香は頬を膨らましながら彼を見ていたが、呆然と立ちすくむ秀久が目に映った。





「………っ」

『ふざけんなよお前!』

「……」

『雨宮さんを泣かしやがって!』

「………俺は」

『喋んじゃねえよ!今のお前なんて屑だ!』

「…ぐっ…」 暗闇に包まれたHRが終わり、イベントの時間が迫っているというのにクラスのみんなは誰も動かず、男子達は秀久をたこ殴りにしていた。

「……っ…」

『なんとか言えよ馬鹿!』

『雨宮さんに謝れ!!!』

 力なくただ殴られ床に倒れまた殴られる。抵抗する気はなく、ただ殴られるだけだ。

 誰が再び殴り、急所に当たったのか頭がチカチカと目眩が襲った。

「みんなやめて!しゅーくんが死んじゃうよ!」

『離すんだ!相沢さん!こんな奴…』

「暴力なんて良くない!ダーリンしっかりして!」

『九条院さんまで…』

 綾菜は秀久を蹴る男子生徒を押さえ込み、響は庇うように秀久を抱きかかえる。

 何故そこまで庇う?クラスメイト達の怒りは更に募る。


「そうね。シュウが悪くても暴力だけで解決なんて有り得ないわ」

「うん。そうだよ……シュウ君…大丈夫?」

「………お前…ら…。ごほっ…」

 初音、優一も自分なりに考え、秀久を守るように男子達を押さえる。

 秀久は腫れた目蓋を開き微かに動揺していた。

『…ふざけるな』

『そうだ。俺達がどんなに雨宮さんが好きなのかお前にわかるのか吉沢!?』

「…」

 そうだ。彼らはつぐみが好きなのだ。

 だから彼女が傷つけば彼らは……。

 それ以上に――

『死ねええ!』

「「きゃ!」」

「わっ…!」

「何するの?」

 考えていると、一人の生徒が狂ったようにバットを振り回し彼女達を退ける。

『屑…屑が…。ただ不気味な赤くて冷たい目をしているだけの屑がああ!』

「……っ」


 ――ガシッ


「やめろ。…それ以上暴れると容赦しねえぞ?」

「龍…星さん?」

『うわっ!』

 龍星はバットを掴む力に圧力を加え、簡単に砕いてしまった。

 生徒が動揺している隙に芹香は秀久を引きずり出し、龍星は男子生徒の首裏を軽く叩き気絶させた。


「全く。ほら、立てるか?」

「…………ありがとうございます」

 手を差し出され、しばらく悩んだ後秀久は彼の手を握りゆっくり立ち上がる。

 龍星はシスコンとも呼べるほど幼なじみのつぐみを可愛がっている。無論、彼女に何かあれば彼は容赦ないはずだが…

「殴らないんですか?」

「は?何言ってんだ」

「いえ、…だってつぐみを泣かしたの俺ですし」

「確かに…殴るのは簡単だ。けどなヒデ…それなら俺はさっきバットを振り回したあいつと同じだ。わかるか?」

「……はい」

「………(とりあえず今は保健室に行こう?つぐみちゃん達は私達に任せて)」

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