14―クラスメイト
「今度からバイクも良いかもな」
「ん?ああ、なるほど」
王立学園に着き校門へ向かう中、秀久は立ち止まってそう呟く。
一麻は不思議そうにその視線を追ってみるとすぐに理解できたが敢えて口にしない。
ちなみに王立学園はバイク登校カモーーンである。
「バイクがあれば遅刻しねえし…何よりつぐみの負担が軽くなるしな」
「相変わらずつぐみ前提だな」
「………悪いか?」
「全~然」
ジト目で見つめる秀久に一麻は笑って返す。ちらっと先ほどの場所を眺めると、男子生徒がヘルメットをバイクに引っ掛け、仲良く女子生徒と校門へ向かう姿が映った。
「ヒデくーん!置いて行くよー?」
「一麻もや。遅刻するでー!」
「「今行くよ」」
秀久と一麻は二人に返事をすると校門へと小走りで向かって行く。
途中ギトギトした視線で見つめられたのは気のせいでは無いだろう。
『だからだな。君はもう少し自覚を持つべきだ。彼は仮にも年頃の男子…異性なんだからな』
『でもでも、友達関係なんだし、ゆいちゃんは嫌がってないよ?』
『優一ならいいかもしれないけど、普通はそういうことはやっちゃいけないのよ』
『僕ならいいってどういうこと!?』
王立学園二年5組では今日も変わらず賑やかなクラスメイト達が会話に華を咲かせている。
秀久達は教室に入り、何やらもめている友人達へと向かう。
「朝から大変だなゆいちゃん。今日は響が原因か?」
「あ、おはようシュウ君」
秀久が真っ先に声をかけたのは先ほどツッコミをしながらため息を吐いていた女子のような可愛い容姿をした男子生徒『笹木優一』ことゆいちゃんだ。
温厚で優しいのだが、わけあって女子生徒の制服を着用している。
「むう。ダーリン、ぼくはただ抱きついただけだからね」
「わかってるよ響。ただ抱きつく相手はちゃんと選べよ?ゆいちゃんはいいけど」
「うん。わかった♪」
「だからどうして僕はいいの!?」
「ゆいちゃんだし」
「…さいですか」
響の頭を撫でつつ、優一のツッコミをわかりやく返答する。
響は気に入った人には異性関係なく抱きつくため、秀久も何度もされたとか…。
「おはよう。ね!見て見て!」
『みゃあ…』
「わあ…可愛い♪猫ちゃんだ。」
「今日、朝着いて来てたからつい拾っちゃった♪」
初音と呼ばれる女性は子猫を抱きしめ、銀色のツインテールを揺らす。彼女は優一の幼なじみであり、冷静な性格と裏腹に可愛いものが大好きなのである。
『みゃあ…』
「おい、初音。苦しくなる前に離してやれよ?」
「シュウならわかるはずよ。可愛いとつい離したくなくならない?」
「…………確かに」
「気持ちはわかるけどヒデくん賛同しないで!?子猫ちゃんなんか苦しそうだよ!」
「「ああ!猫ちゃん!」」
「駄目だよ!ヒデくん、初音ちゃん!冷静になって!」
初音を止めようとしたが彼女の問いには同じく可愛いもの好きな秀久はそれに賛同する。
意外な面があるが、離してやることを忘れ、慌ててつぐみが目にも止まらぬ速さで猫を抱きかかえる。
「朝から大変やなあつぐみも」
「私もぎゅ~ってする♪」
「あ、綾菜」
『ん?綾菜?…わぷっ!?』
『ぎゅ~っ♪』
『きゃー!ヒデくんー!?』
「騒がしいが、このクラスは本当に楽しいな」
「そうやね。いつも賑やかで飽きやへんで」
「ぼくも参加っ!いくよゆいちゃん!」
「え、僕も!?わっ!」
微笑ましく、まるで保護者のように騒ぎを見つめる一麻と深紅の横を響と手を掴まれ強制参加させられた優一が通過し、騒ぎに加わる。 この騒ぎを止められるのは恐らく同じクラスの彼らや生徒会だけだろう。
「…ぷは!苦しかっ…うおっ!響!?」
「今度はぼくの番だよダーリン♪」
「ちょ…馬鹿!背中に感触が…」
「ははっ♪ダーリンの背中大きいねっ」
「だっ!…わ…」
響は秀久の『おんぶ』を堪能し、するりと降りていく。
綾菜に抱きつかれ呼吸困難、響に抱きつかれ限界メーターが一気に跳ね上がってしまったがこれで終わりかと安堵の息を吐いた。
「あの…シュウ君」
「……ふう。ん?ゆいちゃ…んっ!?」
不意に声を掛けられ振り返ると優一らしき美少女が困った表情を浮かべていた。
いや、普段なら問題はない。問題はないのだが、彼の頭にはいつの間にかウィッグ(茶髪のロングタイプ)が被せられており、別人の美少女に見えてしまうから大変だ。
「今日も愚痴聞いてくれる?」
「…っ!あ、うん。勿論いいよ(いけね彼は…ゆいちゃんだったな)」
「いつもありがとう♪」
「あ、ああ…困った時はお互い様だ」
『ゆいちゃん』の可愛さは下手をしたら一般女子よりも可愛い。そのためそう思ってしまうのはある意味仕方ないだろう。
秀久は危うく飛びかけた意識を戻し、ウィッグをつけたままの優一の相談に乗るべくみんなから離れていった。
「シュウもいつも大変ね。そのせいでちょっと誤解した時があったけど…」
「……………」
「つぐみ?」
「……なんか面白くない」
不意に出た言葉に猫を再び優しく抱きかかえながら初音は珍しく目を見開いた。
いつもは天使のように微笑みながら返すつぐみなのだが、秀久の様子を見て頬をぷくうと膨らませていた。
「……あたしにはよくつんけするのに……響ちゃんや綾菜ちゃんには笑顔向けて…」
「「?」」
「……シュウはたらしだから仕方ないわよ(…やっぱりつぐみは気づいてないようね)」
「みゃ…あ」
「よしよし♪」
綾菜と響は互いに首を傾げ、初音は苦笑いしながらそう答えると子猫を優しく撫でる。
秀久はあまり人と関わりを持つのを嫌がるが人助けは積極的に行う優しい人だ。確かに好意を向けている人は多いかもしれない。
無論、二人とは親友関係なのだが。
『それは彼がツンデレだからなのだよ雨宮さん』←つぐみの真下からこんにちは
「きゃあっ!?」
「いきなり真下から現れないで変態!」
「ごふ…」
黒髪に眼鏡と優秀そうな変態男子生徒に初音は近くにあった椅子で殴り飛ばす。
「ふっー。おはよう諸君」
「すぎくんだ♪今日も大変だね~」
「ふ…問題ない」
「杉崎ぃいいい!!」
着地した杉崎と呼ばれる男子は眼鏡を数ミリ上げ威風堂々と挨拶を交わす。
綾菜はふんわりと笑みを浮かは労いの言葉を言うが、杉崎は手をパンパンと払いながら返すと、お次は秀久が化身のごとく杉崎に迫る。「おお。秀久…ちょうど君について話して――」
「つぐみの真下から現れてんじゃねえええーーー!!このド変態があああ!」
つぐみの真下から現れたのがかなり気にくわない+彼を不機嫌にし、杉崎は怒りの回し蹴りで彼方へと消えた。
『あー龍星さん。ちょっと連絡が…え?まだ家を出てない!?もう始まりますよ!』