11―毎朝の風景…
彼がオンライン支援部を設立してから二年目、事件解決から二週間が経とうとしていた。
四月を教える桜はそろそろ引っ込む時期であり、王立学園では毎年恒例である『学年祭』が開かれる月が訪れる。
『学年祭』は体育祭や文化祭とは異なる行事であり、王立学園にしか存在していない。
内容は…学年関係なく交流を深めようとのこと。考えたのは生徒会であり、何をするのかはその日まで教えないルールとなっている。
しかし、この行事…実は三、二年だけでなく毎年入学する一年生もトラウマになる内容である。
怪我人や乱闘が毎年起こり、交流を深めるレベルを過ぎているとまで言われている。
その謎の行事を控えた学園から離れた場所にあるとあるマンション。番号は320と書かれ隣には金色の文字で『吉沢』と掘られている。
「う…ん。…はは…くすぐってー…えよ…つぐ…み……」
ベッドの上で寝言を呟きながら吉沢秀久はTシャツに短パンといったラフな、今時の男子高校生の格好で気持ち良く眠っている。
ちなみに時計は7時を回っている。
ピンポーン…
部屋に伝わるチャイムが静かに周りに広がるように消えていく。
『……ヒデくーん!朝だよー?』
と、自動ドアの向こう側から可愛らしいソプラノの声が彼に呼びかける。
「くかーーー」
当の本人は爆睡中だが……。
『まだ起きていないのかな?ヒデくーん!』
「くぅ…」
『……もう!起きないなら無理やりでも入るからね!』
「……んー?」
「お邪魔します!」
つぐみはむうと柔らかな頬をぷくうと膨らませ、ロックがされていない自動ドアの前に立ち、ドアが自動的に彼女を招く。
「わっ…雑誌の山だ」
リビングのソファーに数十冊散らばった本が目に入り、つぐみは唖然とした。
少し内容が気になりそっと一冊を拾い上げると其処には『ズキューン!』な題名と『バキューン!』な表紙が展開されていた。
「ひゃあぁあっ!……嘘だよね?まさかヒデくんが…」
思わず雑誌をソファーに投げつけ、頬が朱に染まる。
同時に奥の部屋で眠っている秀久に疑うような視線を送った。
秀久は『ズキューン!』な雑誌は読まないのだ。というのは彼は性知識はゼロに等しく過去に間違えてつぐみの胸に触れてしまった時は一日中気絶をしている程だ。
「…良くないと思うけど、聞いてみようかな……あ…心配なだけだからね!」
強がってみるもののやはり心配なものは心配だ。急に変わるなどよほどのことが無い限り。例えば彼女が出来た…とか。
少し歩き、ドアを開くとすっきりと片付けられている部屋のベッドで秀久がくの字で眠っている。
「…やっぱりヒデくんだった」
安心の吐息をし、唇を固く結ぶ。
鞄を床に置くとブレザーの腕を捲り、いざ戦陣へと赴く。
まずはレベルを落とし軽く揺すってみよう。つぐみは秀久の肩に触れ優しく左右に揺すった。
「ヒデくん。朝だよー」
「……見つけたぜ犯…人…」
「駄目だ…。夢の中でも事件と戦ってるみたい」
レベル1は失敗に終わった。ならば次はレベル2声作戦だ。
その場にしゃがみこみ、秀久の耳へと顔を持っていく。
「ヒデくん!起きなきゃ駄目だよ!」
「うにゃ…。今日…は学…校に…行…きたく…ない…んだよ…」
「聞こえてるなら起きてよ!。学校が嫌だって…ヒデくんらしくないよ」
「大丈…」
「大丈夫じゃないよ!?」
言葉が区切れ再び眠りに落ちる秀久。レベル2も失敗したとなると…
「……よいしょっ」
直接問いかけるしかない。
落ちないようにベッドに上り、秀久腹部の間に膝を付き、前屈みの体制で彼の頬をぺちぺちと叩く。
叩くという行為は彼女自身好きではないが、状況が状況なので仕方がないだろう。
「ヒデくんっ!いい加減起きてよ!」
「………くう」
「もー!このままじゃ遅刻だよ!」
「…あと…三万年…」
「何言ってるの!?ううー!とにかく朝食作らなきゃ!ヒデくん疲れてるのかなあ?」
秀久が起きないと理解すると、するりとベッドから降り、バタバタとキッチンへと向かう。つぐみが彼に朝食を作るのは日課のようなものである。