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10―毎日と異変

 マンション宅。まだ朝が明けない時間帯に秀久は覚醒してしまった。

 二度寝しようか…と考えては見るものの昨日の悲劇が鮮明に浮かび思わず顔をブンブンと振る。

「……しょうがねえ…とりあえず支度するか」

 朝食を作って弁当を作って……そうだ。ついでにあの娘のも作ってあげよう。

 時間は丁度良い感じにもなるし、逆に彼女を起こしてあげることだって出来る。

「つぐみは確か…サンドウィッチが好きだったな…。食パンもあるし」

 テキパキと作業を進め、弁当箱へと詰める。

 真っ赤なラインの黒い弁当箱は実に秀久らしい。

 自分の弁当が完成し、同時に桃色の桜を散らした綺麗な弁当箱を隣に置く。

 お分かりだろうがこれはつぐみの弁当箱だ。何故あるのかは伏せて置こう。

「…よし」

 ランチバックに入れ終え、秀久は満足げに鼻息をぷすーんと漏らした。

「んじゃまあ…時間も良いし起こしに行きますか」



 秀久の部屋番号は320。隣に住んでいるつぐみの番号は321

 部屋の前に立ち、しばらく考えてからチャイムを鳴らす。

 ふむ……応答が無い。

「…まだ寝てるのかな。おーいつぐみ!起きてるかー?」

『……………!』

「…は?」

『今は無理だよー!』

 どうやら今、慌てて起きたらしい。

 ドタバタと聞こえる一方で焦ったような声がロックされている自動ドア越しに伝わる。

「大丈夫かー?余裕無いなら朝飯作るぞ?」

『いい!大丈夫だから…ちょっと外を見てて』

「は?…何言ってんだ」

『……い、今着替えてるから…向こう向いててーー!』

「…!?は、はいい!」

 つぐみの怒号というより必死な叫びが耳に響き、慌てて外を見る。

 着替え中……。

 秀久にとって幼なじみの着替えなど興味が無いが、彼女は年頃の女だ。見られていないとはいえドアを向いている視線が嫌らしく感じる筈だ

「はあ…やっぱ俺…こういうこと駄目だな」

 昨日だってそうだ。皐月にお礼を言われたがデリカシーにかけた発言でビンタ+つぐみのお説教×6を受ける羽目になったのだから。

「…………」

 人は簡単には変われないというが…自分には……そんな常識…通用しない。


「………ま、あいつのおかげで今を生きられてるんだけどな」


 忘れようにも忘れることは出来ない。だが、それがあるから彼女を忘れることは…自分を忘れることは無かった。

 秀久は軽く微笑み、再びドアへと振り向く。

「おい…つぐみ」

『!…あ、ごめんね今ロック外すから』

「…あ、おう」

 トタトタと足音がこちらに向かって来るのが分かる。

 その音に耳を済まし待っていると、ガシッと肩に痛みが走った。

「ちょっと君」

「……え?俺…?」

「君以外誰が居る」

 け、警察……。

 何かを予期したのか秀久の顔面がサーッと真っ白に染まっていく。

「さっき連絡があってね。不審な高校生が小学生しか住んで居ないマンションのドアの前でずっと立っていると」

「…あ、いや…違います!彼女は…小学生じゃなくて…」

「何を言っているんだ?まさか言い訳をする気か!」

「えええ!?」

 まずい。非常にまずい……。自分は今、小学生の家に入ろうとしている変態だと認識されている

 つぐみが小学生だと誤解されるのはいつものことだが…まさか彼女を知っている人にまで間違われるとは……。

 幸いか不幸か…

 ロックが解除された音が響き、自動ドアからつぐみがぴょんと現れ、秀久の腕を掴んだ。

「げっ…つ、つぐみ…」

「おはようヒデくん♪」

「…あ、ああ「貴様!やはり小学生ではないか!」」

「…みゅ!!あたし小学生じゃないよ!」

 今、警官に見えている光景は、制服の高校生の腕を掴む私服のエプロンの小学生

 警官は秀久の肩を強く握り圧力をかける。

「いだだだっ!」

「貴様…どういうことだ?彼女とどういう関係だ?」

「どういうって…見れば分かるじゃないですか!」

「(じーー)…………まさか」

 高校生+小学生=犯罪

 警官に青筋が浮かび上がり秀久を締め上げる。

「ちょっ…ええ!?」

「貴様…ロリコン犯罪者だな!この変態がああああ!」

「「えええっ!?」」

 流石につぐみまでも動揺し、警官の太い腕を掴む。

「違います!ヒデくんは………ロリコンじゃありません」

「まてつぐみ!?言うべき所そこか!?」

「それに…あたしも小学生じゃありません!」

 言うが早くつぐみは部屋に戻りしばらくしてから再び現れる。

「ほら!…あたし彼と同じ高校生ですよ!」

 つぐみは軽くターンをして見せ、必死にアピールをする。

 警官はつぐみを見つめ、ドサッと彼を解放した。

「……良かった…誤解が解け「貴様」はい?」


「…小学生にエプロンを着させ、挙げ句の果てには制服でコスプレ…そして調教…やはりロリコンかああああああああああああ!?」

「なんか…更に酷くなったあああ!?」

 警官は怒り任せに秀久の襟首を掴むとブンブンと勢い良く回し始める。

「…ちょっ…え!待って!?ちょっと待ってえええ!?」

「消えろロリコン犯罪者あああ!」

「ぎゃあああああああああああああああ!?」

 秀久をボールのようにぶん投げると秀久はマンション五階から地面へ目掛けて落下して行った。

 ――ガシャアアアア!と盛大に何かが砕けた音と衝突音が響き渡った。

「…ひ、ヒデくーーん!?」

「…ふう。これで暫くは問題ないな」

 快晴の中、平和でいつも通りな日常が今日もスタートする。

 そう…いつも通りの日常が……。



『ヨシザワヒデヒサ様宛メール一通受信』


【運営よりマジシャンズ・ブラックゲーム始動のお知らせを致します】

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