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今日はここで一泊します。宿を取ってありますのでお使い下さい。」
ナジラは村に到着するといつものように言って馬車を離れた。
「行くか。」
マリアは馬車を降りた。
「うーん、腰がいたくなっちゃった。」
イリスも伸びをしながら降りていった。
「ああ、寝むぃ。」
あくびを噛み殺しながら二郎はゆっくり馬車を降りた。
この村を出れば聖都まで一直線だった。
「お、ジロウ。この村の名産しってるか?」
馬車を降りるとオジが待ち構えていた。
「名産?聞いてないな。」
二郎は腕を組んで考えたが答えは出なかった。
「実はな、この村の奥に温泉が湧き出ているんだ。その温泉には美容効効果、保湿効果があって女性に大人気なんだ。」
二郎はオジに言われた瞬間、周囲を見回した。
年齢はさまざまだが、女性の旅人が多かった。
「それに聖都から馬車で2日だ。足の速い馬なら魔物を置き去りにできるから、有名な観光地なんだ。」
「なるほど、だからマリア達は急いで降りて行ったのか。」
二郎は納得した顔をした。
「でも、その温泉の事2人に言われなかったぞ?」
二郎は2人の会話を思い出しながらオジに言った。
「そりゃあ、俺達は覗きの前科持ちだから警戒されて当然だな。」
「なるほど、すっごく納得できる理由だな。」
納得した二郎は何度も首を縦に振った。
「で、行くかい?」
オジがニヤリと黒い笑みを浮かべた。
「行かない理由がないな。もちろんだ。」
二郎も黒い笑みを浮かべた。
「あ、あの。」
二郎達に声をかけたのはナジラだった。
「ここで覗きをすると危険ですよ?村から温泉地の道と温泉施設は魔除けの結界で安全ですが、周囲の森は今まで以上の魔物が出て危険ですよ。」
ナジラは知っている情報を二郎達に伝えた。
「ナジラさん、男なら危険とわかっていても立ち向かわなければならない時があるんだ。俺にとっては今がその時なんだ。」
二郎は格好が良く言ったが、使うタイミングは最悪だった。
「おお、ジロウ!わかってるな!ここで引いては男として大事なモノを失ってしまう。だから俺達は熱い魂の鼓動に従って行動するんだ。」
オジも二郎と同じダメ人間だった。
「…まあ、私は止めましたから。一応、宿は取ってあります。」
ナジラはそれだけ言って二郎達の前から去った。
「オジ、場所は?」
「まかせろ、把握済みだ。」
オジの目は獲物を狙う狩人のように鋭かった。
「ならば」
二郎の目も鋭くなった。
「行こう。俺達の夢の世界へ!」
2人は村を出て森に入った。
「くそっ!クレイジーベアがいるなんて聞いてないぞ!」
オジはベアクレイジーベアの鋭い爪をかわしながら叫んだ。
「早くそいつを片付けろ!俺がピンチだ!」
二郎は2匹のクレイジーベアの攻撃を避けながら叫んだ。
クレイジーベア、Bランクパーティーでも苦戦する攻撃力と防御力に優れた魔物だった。
「ああ!ちくしょう!」
オジがクレイジーベアの爪を剣で弾き、噛みつこうとする顎を盾で殴りつけた。
オジは怯んだクレイジーベアの喉に剣を突き刺しクレイジーベアを倒した。
「よし!ジロウ大丈夫か!」
オジが振り返るって二郎を見ると、2匹目のクレイジーベアを倒すところだった。
「はぁ、はぁ、はぁ。行こう。ここで立ち止まるわけにはいかない。」
二郎は消えていくクレイジーベアを見ながらオジに言った。
「ああ、行こう…って、今度はワイルドドッグの群れかよ!」
「ちくしょう!邪魔ばかりしやがる!駆け抜けるぞ!」
二郎は襲いかかるワイルドドッグの群れに刀を抜いて走っていった。
オジも剣を抜き駆けだした。
「はぁ、はぁ、はぁ、ジロウ。何匹倒したか覚えてるか?」
疲労困憊のオジが気に寄り掛かりながら二郎に聞いた。
「あー、途中まで数えてたんだけどな。」
「俺もだ。」
違いないと、2人は笑い合った。
「さて、もう一勝負だな。」
ジロウが見上げた先にはクレイジーベアがいた。
「ああ、俺達は負けるわけにはいかないからな。それに目的地まであと少しだ!」
オジの視線の先には骨の顔つけたようなをしたボーンベアが立っていた。
体のいたる所に骨のような装甲をつけているボーンベアは小柄な体格ながらも物理攻撃には耐性があった。
2人は重い体に鞭を打ちながら立ち上がった。
オジは疲労の為、体に無理な力が掛からない剣筋になった。
二郎は神経が研ぎ澄まされて気配に敏感になった。
2人は戦いを終えると疲れきった顔をしてお互いに頷きあうと無言で温泉の方に歩いて行った。
「ジロウ、この先だ。」
「ああ、気配を消していこうぜ。」
2人は茂みに隠れながら満身創痍の体で頷きあった。
二郎とオジはゆっくりと茂みから頭を出し、2人の描いたパラダイスを覗き見た。
「「…」」
そこにいたのは、男だった。
「あれ?ジロウさんにオジさん?いままでどこに行ってたんですか?」
裸のナジラが魂の抜け掛かった2人を見つけた。
「まさか、あの後すぐに覗きに行ったんですか?もう少し早ければ女性の時間だったんですが、残念でしたね。」
「い、いや、お、おれ、俺達は魔物を狩っていただけだ。決して女湯を覗こうとしてたんじゃないんだ。」
二郎は動揺しながらも苦しい言い訳を言った。
「そ、そうだ。俺達はこの村を思って周囲の魔物を倒していたんだ。邪な思いで狩ってたんじゃない。」
オジも二郎の言い訳に便乗した。
「そうですか。それはお疲れ様でした。温泉に入ります?」
「「ああ、もちろん。」」
2人は強く頷いた。
ナジラと従者は二郎とオジよりも先に温泉を上がった。
二郎とオジは虚しい戦いの後だったが、疲れきった体を温泉で温め気持ち良く眠りそうになった。
「…ハッ!俺は寝ていたのか?」
二郎は眼を覚ますと隣のオジは半分眠っていた。
「おい、オジ!起きろ!」
二郎はオジの肩をたたいた。
「ん、ああ。起きてるよ。大丈夫だ。」
眠そうな目をしたオジと二郎は温泉から出ると宿泊予定の宿に向かった。
「うん、ここの宿は当たりだな。」
「だろ?ラッキーだったよな。」
二郎とオジは2人で宿の食道で少し遅めの食事をしていた。
周囲を見ると女、女、女。
若い女性が達ばかりがこの宿に宿泊していた。
2人は女性を眺めながら酒を飲んでいた。
「ねえ、どこに行ってたの?」
二郎とオジのテーブルの横にはアルミが立っていた。
「…ん、討伐。」
消えそうな声でオジが言った。
その顔は今までの明るい表情から一転して恐怖におびえる顔をしていた。
「そう、討伐ね。それならなんでパーティーの私に声をかけなかったの?」
「だって、温泉に行くって張り切ってたじゃん。」
オジの声は喧噪にかき消えそうだった。
「はぁ?聞こえないわ。」
二郎はアルミの顔を見た。
赤い。耳まで赤い。そして、少し先のテーブルで飲んでいるエリーナ、イリス、マリアが笑いながらこちらの様子をみていた。
気がつけばアルミはオジの隣に座り絡みながら酒を飲んでいた。
オジは説教を受けながらもアルミに酌をしながら酒を飲んでいた。
二郎は溜息をつくと女性陣のテーブルを見た。
すると、エリーナが手を振って呼んでいた。
「ちょっと行ってくる。」
二郎は一応2人に断わって女性陣のテーブルに遣って来た。
「どういうこと?」
二郎が椅子に座りながら質問した。
「ふふふ、アルミったら飲まないと自分の気持ちに素直になれないのよ。」
エリーナの視線の先には説教をする人とされる人が見えていた。
「そうよ、アルミさんったら温泉に入って奇麗な私を見てって気合い入ってたのに出てくれば何所にもいない。ジロウさんもいない。で、仕方なく食事してたら2人がいてアルミさん爆発って感じです。」
イリスが二郎に説明した。
「なるほど、アルミはオジが好きなのか。」
二郎は頷きながら納得した。
「そうだ。今までの戦闘を思い出すとアルミは常にオジのサポートを主に行動していた。それに表情もオジと二郎で全然違った。分からない方がおかしい。」
マリアは静かに言った。
「そうかな?」
二郎はそのまま女性3人の席で食事を続けた。
エリーナの服装は白いシャツと黒いズボン。白いシャツから桜色のロマンが薄く見えていた。
イリスは黄色いワンピースを着ていた。ただし、胸の部分は大きく開き屈むと柔らかそうな果実が見えそうだった。
マリアは青いシャツと黒いズボンだった。シャツは上までボタンを留めていた。
「ジロウ、邪なことを考えていたな?」
マリアは二郎を横目で睨んだ。
「…ごめんなさい。」
「ところで、気が付いてる?」
イリスがオジとアルミを見て静かに言った。
「あの、2人テーブルの下で手を繋いでるわよ。」
イリスが少し興奮気味に言った。
「それにあの2人の雰囲気が甘ったるいものになているな。」
マリアが2人の表情や感じから判断したのだろう。
周囲の人間も頷いていた。
「あ、2人で寄り添って出て行くわ。」
エリーナが少し困惑した表情で言った。
「エリーナ。君もオジの事が」
二郎が言った言葉を遮るようにエリーナのビンタが二郎に飛んできた。
「そうじゃないの。私はアルミと同室なの。2人で籠ったら帰れないじゃない。」
腕を組んで不機嫌な表情のエリーナだった。
「そ、そうか…」
その後、すぐに解散になりそれぞれが部屋に戻った。
二郎はオジと同室な為、こちらの部屋にいる可能性もあることに二郎は気が付き静かに部屋のドアを開けると無人だった、溜息をつき部屋に入った。
暫く部屋で刀の手入れをしているとノックが響いた。
「ジロウさん、起きてますか?」
扉の向こうからイリスの声が聞こえた。
「ん、どうした?」
二郎は言葉を掛けながら扉を開けると黄色いワンピースのイリスが立っていた。
「あ、あの、実はエリーナさんが私のベットで寝ちゃって…」
二郎はそれでおおよその事を理解した。
「そうか。オジのベットは右側。俺は左のベットだから。」
二郎はそのまま部屋に入り刀の手入れの続きを始めた。
イリスは恥ずかしそうに部屋に入った。
ベットに潜り込むように入り掛け布団で防御するように持ちながら座った。
「…あの、襲わないで下さいよ。」
イリスが顔を真っ赤に染めて二郎に言った。
「襲わないよ!バカな事言ってないで早く寝ろ!」
イリスは頭まで布団を被って横になった。
暫くするとイリスの方から寝息が聞こえてきた。
「俺も寝るか。」
二郎は自分のベットに入ると直ぐに眠りに着いた。
朝
カーテンの隙間から入った光で目が覚めた二郎は寝ぼけた頭のまま起き上がった。
何気なく隣のベットを見るとイリスが下着1枚で掛け布団を蹴り飛ばし寝ていた。
二郎は気だるそうにベットから出てイリスのおっぱいを何度か揉むと落ちていた掛け布団を拾いイリスに掛けた。
(普段は可愛いのに寝姿は残念だな。)
二郎はイリスにした悪戯がバレナイうち部屋を出て朝食の時間まで朝の村を散歩し人気のない森の中で自己発電を2回行った。
1時間ほどで宿に帰るとイリス、エリーナ、マリアが朝食を取っていた。
二郎は3人の席に座り一緒に朝食を取った。二郎はイリスの顔をまともに見ることが出来なかった。
オジとアルミは馬車がでるギリギリまで部屋から出て来なかった。
「それでは出発です。」
ナジラが声を上げ馬車が動き出した。
何度か魔物の襲撃を撃破し二郎達ボクチャソースと西のそよ風の連携も上手くなってきた。
聖都の周辺の敵はレッドゴブリンが多かった。
レッドゴブリン、通常のゴブリンは肌が緑だが、レッドゴブリンの肌は赤かった。炎耐性があるがそれ以外は普通のゴブリンと変わらなかった。
レッドゴブリンを退けた二郎達の耳に馬の足音が聞こえた。
「なんだ?」
二郎は森の中から聞こえる足音の方向をみると50人を超える山賊が数頭の馬を操り馬車に向かってきていた。
「山賊だ!数が多いぞ!」
二郎が叫んだ。
「逃げます!乗ってください!」
ナジラが叫ぶと西のそよ風とマリアは馬車に乗り込んだ。
「イリス乗れ!」
馬車に乗らずに二郎のそばにいたイリスに二郎が叫んだ。
「でも!」
「いいから!!」
二郎はイリスを担ぎあげると強引に馬車に乗せた。
「いいぞ!出発だ!」
二郎は大きな声を上げると馬車は全速で走りだした。
「先にギルドで待ってろ!必ず追いつく!」
二郎は馬車に向かって叫ぶと山賊を見据えた。
刀と脇差を抜き2刀の構えで街道の中心に立った。
「ここを通りたければ俺を倒していけ!!」
二郎が叫んだ。
山賊はニヤニヤしながら二郎の両脇を2頭の馬に乗った山賊が駆け抜けようとした瞬間、二郎の刀から発せられた真紅の刃が馬と山賊を切り裂いた。
「引く者は見逃そう。死ぬ覚悟がある者は掛かってこい!」
二郎が1歩進むと3人の山賊が二郎に襲いかかった。
二郎は山賊の剣を捌きながら隙を見て切り倒した。
3人を斬り伏せ山賊の方を見た二郎は大量の矢が自分に降りかかる所だった。
二郎は2本の刀で器用に致命傷になりそうな矢を落としたが、肩や足に数本の矢が刺さっていた。
「ック!これくらいで俺を倒せたと思うなよ!」
二郎が次に見た物は自分に迫る多くの炎の玉だった。
イリス
「イリス乗れ!」
私はジロウさんの隣で迫る山賊の足止めをしようと待ち構えました。
「でも!」
あの多人数を1人で相手をしたら逃げる隙もないはずです。しかし、2人ならもしかしたら…
「いいから!!」
私はジロウさんに担がれ馬車の中に投げ落とされました。
「いいぞ!出発だ!」
馬車の外からジロウさんの声が聞こえてきました。
「先にギルドで待ってろ!必ず追いつく!」
その遠ざかる声を聞きながら馬車は聖都に向かいました。
「イリス…、ジロウが足止めをしなければ我々は逃げられなかっただろう。」
「でも!他に手があったはずです。なぜ!ジロウさんが!」
自然に涙があふれてきます。
「…済まない。」
マリアさんも悔しそうです…
すると、ジロウさんがいる方向から膨大な魔力反応がありました。
人間では有り得ない莫大な魔力…
ジロウさん、どうか無事で…
馬車は一昼夜走り続け聖都に着きました。
「…これが報酬です。イリスさんにはボクチャソース分の2万エレを渡します。」
ナジラさんも言葉数少なく報酬を渡すと立ち去りました。
判っています。あの時は他に選択肢が無かった事が…
「イリス…、ジロウを信じるんだ。」
マリアさんが励ましてくれます…
「イリスが信じないで誰があの野郎を信じるんだ?」
オジさんも…
私はギルドで待ち続けます。
1日中待ちました。
次の日も待ちました。
次の日も待ちました。
次の日も…
「イリス?ど、どうしたんだ?」
気がつけばギルドの私が座っている長椅子の前で困った顔をしているジロウがいます。
「ちょ、泣きやんでよ。」
自然に涙があふれます。
「…よかった、よかったよ~…」
涙が止まりません。
二郎
迫りくる炎の玉が直撃した二郎は数メートル飛ばされ炎に包まれた。
「ぐああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
声を出すと喉が焼けた。
呼吸が出来ずに地面を転がる二郎は炎とは違う光に包まれた。
光が納まると二郎は炎の魔人に変身していた。顔は二郎のままだったが…
炎の魔人
中東の氏族に口伝で伝わる古い伝説。
ある氏族がジンと契約した。それは対価を払う事で氏族を護るというもの。
長年に渡り氏族はジンとの契約を続けた。
ある年、氏族間の戦争が起こり、契約していた氏族は窮地に落ちいていた。
族長がジンに契約の事を持ち出し敵対氏族を打ち破った。
その時の怒れるジンの姿が炎をしていた。
数十年後、氏族の中でジンの契約を軽く見た族長がいた。
その族長が数年に渡り対価を払わなかった。
しかし、族長の都合よく何度も呼び出されたジンは怒り狂い氏族の集落を焼き払ってしまった。
生き残った氏族はジンの怒りを鎮め集落に平和が戻った。
その後、ジンは氏族を見捨て去り氏族は他の氏族に敗れた。
奴隷まで身分を落としたが、ジンの恐怖を氏族の子孫は口伝で長年伝え続けた。
二郎の体は炎を無効化した。
「ハハッ、体から湧きあがる力が凄いな!」
二郎は山賊達に向かって両腕を振ると熱波が山賊を襲いかかった。
山賊達は逃げる暇も無く、皮膚が焼かれ、肺が焼かれ苦しんで死んだ。
「…これは酷い。やり過ぎたか…」
二郎は倒れる山賊に近づこうとした。
二郎自身が超高温な為、近づくだけで山賊の死体に炎が上がり、数秒で灰になった。
二郎は倒れる山賊の死体をすべて灰にした。地面は二郎がいた場所を中心に多少焦げ付いているが気にしなかった。
姿を武者に帰ると街道を歩きだした。
聖都と反対方向に…
二郎が1日掛けて歩き着いたのが温泉の村だった。
「なんでだよ。」
一人さびしく言うと温泉に入り体を休め宿に泊まった。
翌日、二郎が起きると村は騒然としていた。
昨日、聖都の方角に膨大な魔力反応が現れた為、1日は街道を封鎖すると言われ1日は温泉に溶けるまで入り楽しんだ。
翌日に、聖都に向かう中年女性グループの馬車に乗せてもらい2日掛けて聖都に到着した。
二郎は女性グループに礼を言いギルドに入ると壁際の長椅子に座りうつむいているイリスがいた。
「イリス?ど、どうしたんだ?」
イリスに話しかけると何も言わずに泣き始めた。
「ちょ、泣きやんでよ。」
混乱する二郎を余所にイリスは安堵した表情だった。
「…よかった、よかったよ~…」
二郎はイリスの頭を泣き止むまで撫で続けた。