2
二郎が目を覚ますと森の中で倒れていた。
「ん。ここはどこだ?」
二郎が辺りを見まわすが右を見ても左を見ても木しかなかった。
太陽の位置がまだ低い事から比較的早い時間だろうと二郎はかんがえた。
「とりあえず、人がいる場所に行かないと。」
二郎は野宿は我慢できたが、食事抜きは我慢できなかった。
二郎は早めの食事確保を求めて森の中を進んだ。
二郎が道なき道をすすんで行くと周囲に濃厚な気配を感じた。
気配は二郎を囲むようにあり、どこからか視線も感じた。
「ヤバい。ヤバいよ、これ。」
二郎は周囲を見回しながら状況を把握しようと森の中の比較的広い場所で立ち止まった。
「グルルルルル・・・」
二郎を囲むように1メートルほどの犬が数十匹現れた。
「むう…、早速変身して見ようかな!」
そういうと二郎は頭の中にある生物を思い浮かべた。
二郎の体が輝いた。
光が納まるとそこには大きなドラゴンがいた。
黒い鱗、赤い瞳、背中には大きな翼。
その全長は尻尾をいれると30メートルを超えていた。
≪ふふふ、なんだか美味そうな匂いだな。≫
周囲の犬を見ると明らかに怯えていた。
二郎は口から炎を出すと首を動かし犬を焼き払った。
数匹は逃げられたが、半分以上を焼き殺した。
≪むぅう、この犬食えそうだな…。食っとくか?≫
二郎が焼き肉を目の前に食べるか食べないか葛藤していると犬の体が消えてしまった。
≪なんで!俺のごはん!≫
二郎は目の前で消えた食事を残念に思った。
≪むぅ、次は早めに食べるか・・・≫
二郎はドラゴンの姿に戻で当てもなく先に進んだ。
≪畜生!これで3回目だぞ!≫
二郎は3回も食事に失敗していた。
2回目は鼻先で消え、3回目は口の中で消えてしまった。
空中に炎を吹きながら黒いドラゴンは大きく鳴いた。
≪あ、これで空から町を探せばいんだ。すっかり忘れていた。≫
二郎はドラゴンの羽を見て空を飛べる事を思い出した。
翼が何度か動くとドラゴンの体は宙に浮かんだ。
そのまま空高く飛ぶと大空へ羽ばたいた。
≪気持ちいい!!これが空か!≫
二郎は曲芸のように空を飛んだ。
暫く飛んでいると大地の向こうに大きな白い城が見えた。
二郎はその城の下に栄える街に向かって飛んでいった。
街に入る為に城門の手前に着陸すると大勢の兵士に囲まれた。
「このドラゴンめ!」
「囲め!囲め!」
「隊列を組むんだ!」
「弓隊!まだか!」
二郎は自分の姿がドラゴンなのを忘れていた。
≪ちょ、待って!ストップ!≫
二郎が叫んだ。
二郎の叫びは兵隊には雄叫びのように聞こえた。
「ック!なんてデカイ声だ!」
隊長らしき人物が叫んだ。
「魔法隊到着!」
門からローブを纏い杖を持った数十人が現れた。
魔法隊はそれぞれが魔法を唱えると
杖の先から魔法が放たれた。
幾つもの火球が二郎の体に直撃した。
≪ぐわあああ、…あれ?熱くない?それに剣で切られても怪我しない?≫
二郎は自分の体を見て擦り傷一つない事に驚いた。
≪とりあえず、逃げないと。≫
二郎は翼を羽ばたくと大空へ飛んで行った。
街が地平線の彼方に見えなくなり二郎は空中で安堵した。
そのまましばらく飛んでいると城が見えた。
先ほどの城は白く豪華な感じがしたが、こちらの城は要塞のように堅牢だった。
十分な距離を取りながら森の中に降りた二郎は元の姿に戻った。
人の姿に戻った二郎は城に向かって歩きだした。
数十分で街道を見つけるとそのまま街道沿いに歩いて行った。
暫く歩くと二郎の目の前に1メートル程の犬が1匹現れた。
「グルルルルル…」
喉を鳴らし威嚇する犬。
「どうする!?どうする!?俺どうするの!?」
二郎は頭の中で必死に考えた。
先ほどはドラゴンに変身して退治したが、ここでドラゴンになれば大騒ぎになるかもしれない。
何か武器は…と考える二郎に犬が飛びかかってきた。
「うわ!」
二郎は咄嗟に腕を振り回すと運よく犬の顔に当たった。
「グルルルルルルル!!」
犬が二郎に対して怒りの表情をしていた。
その時、二郎の姿が光輝いた。
光が長まると、二郎の姿は日本の鎧を着た引きしまった体を持つ武者の姿になった。
顔のみ、二郎のパーツが残っていた。
二郎が思い浮かべたのは、ある地方に伝わる伝説の武人だった。
勇猛果敢な若武者は手柄を立てた。何度も立てると他の武将から妬みを買ってしまった。
そして、戦場で大将を打ち取った後、本陣に戻る途中に暗殺されてしまった。
暗殺のあった地では彼の命日になると、敵将の首を掲げた若武者が本陣を探し彷徨っている。
もともと、農民の出身だった若武者は出世しても農民や村民には優しく接していた。
若武者の暗殺後、彼の鎧は農民の手で持ち去られ行方知れずになってしまった。
それを400年以上の時が過ぎた現代に、地元の歴史保存会の手で鎧を探し出し、修復した。
二郎は、深夜に現れる亡霊の話を聞き武者を撮影しようとビデオカメラ片手に深夜に歩いているところを職務質問されたのは、良い思い出だった。
二郎は腰の刀を抜き犬に向かって構えた。
お互いが睨み合い、犬が二郎に飛びかかった。
二郎は犬の下に滑り込むように走ると体を横回転させ犬の胴体を薙ぎ払った。
犬は地面に上半身と下半身が分れて落ちると、犬は消えてしまった。
「はぁ、なんとかなったか…」
二郎は刀に付いた血を払い鞘に納めると城に向かって歩き出した。
「ここはドリートの城下町だ。」
二郎は門番をしている兵隊に町の名前を尋ねた。
「ドリートですか。それでここで何か仕事はないですかね?」
「うん?そんな恰好をして冒険者ギルドに登録してないのか?あそこなら依頼で稼げるはずだ。楯と剣が目印の看板だ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「ああ、気にするな。気を付けて。」
二郎は門番に礼を言うと街に入って行った。
「えーっと、楯と剣、楯と剣…」
二郎は周りを見ながら冒険者ギルドを探した。
「あ、あった。ここか…」
1件の大きな建物に大きな看板が付いていた。
二郎はドアを開け中に入った。
中にいる者達が一斉に二郎を見た。
二郎の実力を値踏みする者が大半だったが、一部にはカモを見つけたと言わんばかりにニヤついている者、また、二郎の体を見て夜を共にしようと考える男もいた。
二郎は空いているカウンターに向かった
「あの、すみません。冒険者になりたんですけど、手続きお願いしたいんですが…」
「はい、新規の方ですね。少しお待ち下さい。」
受付女性は後ろの棚から書類を持ってきた。
「こちらに名前を記入してください。記入後はこの水晶玉に手を当ててください。」
二郎は神からもらった翻訳の能力で自分の名前を書くと受付に置いてある水晶玉に手を置いた。
「…はい、登録が終わりました。こちらが冒険者カードです。」
二郎に渡されたカードは黒く何も書かれていなかった。
「魔力を通すと文字が浮かび上がります。」
二郎は魔力?と思いながらも文字が浮かび上がれと念じた。
するとカードには白い文字が浮かび上がった。
名前 ジロウ ヤマモト
ランク D
討伐 なし
それだけしか書かれていなかった。
「あの、これは?」
「はい、これは冒険者カードと言いまして、討伐した魔物を自動で種別ごとに記入されます。名前の下の討伐数は清算前の数で裏面は討伐合計になります。」
二郎は裏面を見るが何も書かれていなかった。
「倒せば勝手に記入されるんですか?」
「はい、魔物を討伐すると姿が消えた時にほんの少しですが瘴気を発します。その瘴気は魔物の種族ごとに違います。その量で種族と数が分かります。」
「間違えたりは無いんですか?」
「ギルド創設からこれを運用していますが、私の聞いた限りではありません。」
「そうですか。」
「それでは、冒険者のシステムを紹介します。単純な話です。魔物を倒してギルドに生きて帰ってくれば討伐した魔物に応じて報酬を払います。そして、一定数のポイントを貯めますとランクアップしていきます。」
「なるほど。」
「それと、依頼掲示板で比較的危険度の低い仕事でもポイントは貯まります。ですが、討伐ほどポイントは貰えません。」
「えっと、ランクが上がると何かあるんですか?」
「はい、高ランクになれば、高難易度の依頼や施設の優遇措置、武器防具屋で割引率があがります。パーティーを組んでいた場合はリーダーのランクが適応されます。」
「パーティーですか…」
「はい、最大8人まで登録できます。パーティー登録はギルドで行います。パーティーを組んでいると討伐数が共有になります。」
「えっと、俺が倒した数とパーティ―の誰かが倒した数が一緒に加算されるって事?」
「はい、その通りです。そのかわり討伐報酬はパーティーに払われます。それと、ランクはDからC、B、A、S、SSと上がります。それと、こちらは支給品になります。」
二郎に渡されたのは拳ほどの大きさの小さな布の袋だった。
「これは?」
「はい、マジックアイテムの収納袋です。これ1つで大型クローゼット分の収納ができます。2つ目からは有料になりますので紛失に注意してください。説明は以上です。」
「そうですか、ありがとうございます。」
二郎は受付の女性に礼を言うと袋を腰に下げ、依頼の貼ってある掲示板に向かった。
「色々あるなー。えーっと、Dで受けられるのは…」
二郎はDランクでも受けられる依頼を探すと、犬の散歩、庭の草むしり、部屋の模様替えの手伝い…
「冒険者でも無くてもいいんじゃないのかなぁ?」
「おい!お前!」
二郎は呼ばれた方向を見ると筋肉質な体を持つ若者が立っていた。
「なんですか?」
「お前、変わった格好をしているな。見たところ強そうだな。俺のパーティーに入れてやる。」
自信のある表情で若者が言った。
「すみません。御誘いは嬉しいのですが…」
二郎が軟らかく断った。
「なんだと、俺様を知らねぇのか?俺様が『怪力のアッシュ』様だ!」
「すみませんが、この城下町には今日来たので…」
二郎は頭を下げてすみませんと謝った。
「クソッ!クソッ!いいからパーティーに入るんだ!」
「止めなさい!」
アッシュの強引な勧誘に二郎が霹靂していると誰かが叫んだ。
「誰だ!…ック!テメェは!」
群衆から現われてのは青い鎧を着た金髪の女性だった。
「私が誰だか判っているなら話は早いな。無理な勧誘は止めなさい。それに、アッシュ。あなたは幾つもの依頼を失敗で終わったらしいな。」
「それは!戦力が足りなかったからだ!だから、こいつを入れて戦力を高めるんだ!」
アッシュは二郎を指さして女性に説明していた。
「そうか、それで君はアッシュのパーティーに入るのか?」
女性は二郎の方を向き訪ねた。
「いえ、入りません。」
二郎は首を横に振ってこたえた。
「てめぇ!何言ってやがる!」
「君はここから去ったほうが良さそうだな。行きなさい。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
二郎は女性に礼を言うとギルドから逃げるように出て行った。
「ふう、助かった。断っても理解しない人って初めて会った。」
二郎がギルドを出て少し進むと一息ついた。
「…そろそろお腹すいたな。」
二郎の腹が自己主張を始めようとしていた。
「はぁ、金がない…。討伐にいくか。」
二郎は町の外を目指して歩いていった。
「これで!」
二郎が町を出て街道からそれ森の中にはいると3匹の犬を見つけた。
二郎は奇襲で1匹を倒し、2匹目も浅くない傷を負わせた。
襲いかかってくる3匹目を脇腹を蹴り怯んだ隙に首を切り落とした。
残っているのは瀕死の犬が1匹だった。
二郎は掛け声と共に犬を殺した。
「さて、ギルドカードには…。ワイルドドックか。」
ギルドカードに書かれていたのは『ワイルドドックx3』だった。
「よし、次行こう。」
二郎はその後も2匹、3匹、1匹と犬を倒して行った。
そして、次の獲物を探す二郎の先には初めて見る生き物がいた。
「なんだ?あれ?」
1メートルほどの身長、緑色の皮膚、腰巻きを付け、醜い顔をしていた。
それが4人。武器も持ち石や枝で一応の武装をしていた。1人だけ古びた剣を持っていた。
「ぎゃわわ、ぐぎゃわわわ!!」
緑の小人が二郎を見つけると襲いかかってきた。
石で殴打しようとする敵を袈裟切りし、枝を持つ敵の腕を切り落とし、怯んだ隙に首を切り落とした。
残りの2匹を見ると素手だった小人はすでに逃げ出していた。遠くに後ろ姿が見えた。
最後の剣を持った敵が二郎を観察するように見ていた。
二郎は刀を構え直すと正面に向かいあった。
じりじりと円を描くように少しづつ回りながら距離を詰めてい行く。
小人が緊張に耐えられなくなり二郎に向かって剣を突いてきた。
二郎は剣を上方に弾くと隙だらけの腹を一刀両断した。
「ふう、終わったか…」
二郎がギルドカードを取り出し見るとゴブリンと書かれていた。
「ゴブリンか。犬よりは強い…のかな?」
二郎はその後も討伐を続けた。
「キャー!!」
日が傾きそろそろ帰ろうとした二郎に女性の叫び声が聞こえた。
二郎は声のした方向に走ると女性を見つけた。
その女性は鎧を着けず、ローブを着ていた。
手には杖を持ちゴブリン2匹から逃げていた。
二郎は女性を追うゴブリンを追いかけ後ろから斬り伏せた。
「はぁ、はぁ、はぁ、助かったわ。」
女性が息を切らせながら二郎に礼を言った。
「ん。怪我はない?」
「私は大丈夫だけど…彼が…」
女性は俯き暗い表情で答えた。
「…そうか」
二郎は言葉が見つからなかった。
その後、女性に案内されて彼女の仲間の遺体を弔うと2人で町に戻った。
女性とは会話がほとんどなく、町に入ったところで別れた。
二郎はアッシュに合いませんようにと祈りながらギルドに向かった。
ギルドに着いた頃はすでに辺りは暗かった。
ギルドの中には職員以外見当たらなかった。
二郎はホッとしながら受付まで向かった。
「あの、討伐報酬をお願いしたいんですけど。」
受付の中年男性に声をかけた。
「はい、それではギルドカードをよろしいですか。それと水晶玉に手を振れてください。」
職員にギルドカードを渡し水晶玉に手を置いた。
「凄い討伐数ですね。」
「そうですか?」
「はい、手続きが終わりました。水晶から手を放しても結構です。少々お待ち下さい。」
職員が奥に行くと直ぐに帰ってきた。
「こちらが報酬の3433エレです。」
出されたのは金貨3枚と銀貨4枚、銅貨3枚に小さい銅貨3枚だった。
「ありがとうございます。」
二郎は礼を言って受付から離れた。
周囲には目もくれずギルドを出ると近くの食堂に入っていった。
「いらっしゃい、御一人かな?」
威勢の良い女性が二郎を見つけた。
「はい、1人です。」
「じゃあ、空いてる席に座ってちょうだい。注文決まったら読んでおくれ。」
「じゃあ、この店で一番お勧めをお願いします。」
「あいよ、すぐにできるから待ってて。」
二郎は空いてる席に座ると5分もかからずに料理が出てきた。
「はい、クエクエ鳥のボクチャソースかけ定食ね。」
出てきたのは鳥の唐揚にトマトソースをかけた物だった。米では無くパンだったが二郎は一心不乱に料理を食べつくした。
「ふう、上手かった!」
「そうかい、それは良かった。」
周囲を見渡すと客は二郎1人だった。
「あれ?閉店でしたか。それは申し訳ないです。」
二郎が慌てて席を立った。
「ああ、気にしなくていいさ。お会計は70エレです。」
二郎は銀貨1枚を渡した。
「はい、御返しの30エレね。また来ておくれよ。」
「はい、あ、ここの近くに宿ってありますか?」
「宿かい?この先4件隣にあるさ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
二郎は頭を下げて礼を言うと宿に向かった。
4件隣の宿は直ぐにわかった。
「いらっしゃい。1人かね?」
受付には白い鬚を生やした御爺さんが座っていた。
「はい、泊まれますか?」
「ああ、大丈夫じゃ。冒険者だったら割引できるぞ。」
二郎はカードを見せた。
「うむ、ランクDじゃな。割り引いて950エレじゃ。」
二郎は銀貨1枚を渡した。
「うむ、晩飯の時間は終わっておる。朝食は6時から9時の間じゃ。遅れんように。」
御爺さんは二郎に鍵を渡した。鍵は303と書いてあった。
「303じゃ。3階の右じゃな。」
「ありがとうございます。」
二郎は鍵を持って3階に上がった。
階段の右側に303号室があり中に入ると6畳の部屋にベットと小さな机があるだけだった。
二郎は部屋に入るとベットに倒れ込んだ。
「今日は疲れた。なんだよ、異世界って。金の単位も分らないし。国も町の名前も判らない…。だれか案内してくれないかな…」
二郎は安全な宿の部屋で弱気になった。
そのまま、半泣きの二郎は寝てしまった。
翌朝
二郎は宿の食堂で朝食を食べに向かった。
「バイキングか…」
二郎はバイキング形式の朝食を薄い味付けながら満足するまで食べた。
チェックアウトを澄ますとギルドに向かった。
「うわ、凄い人だな!」
二郎が見たのはギルドに入りきれない人数の冒険者だった。
「おい、聞いたか。アムル城にドラゴンが現れたらしいぞ。」
「へぇ、そうなるとまた戦争か?」
「ああ、ドリートの王はアムルの城にご執着だからな。ドラゴンが現れれば被害も相当なものだろうよ。」
「それじゃあ、そっちの依頼もあるな。」
「ああ、ドラゴン討伐の依頼とドリート攻略の傭兵募集。お前はどっちに行く?」
「俺か?どこにいるかも知らないドラゴン退治かな?行くだけで金が貰えるんだ。楽なもんだな。」
「だな。俺もそうするか。」
二郎は誰ともしらない2人組の会話を聞き汗を流した。
アムルに現れたドラゴン。
アムルがどこか知らないがドラゴンは身に覚えがあり過ぎた。
「まぁ、…いいか。」
二郎は人で溢れるギルドを背に討伐に向かう為に門に向かった。
「あの…」
二郎は門が見えて気たところで声をかけられた。
声の方向を向くと、昨日助けた女性が立っていた。
「ん、なんでしょうか?」
「昨日はありがとうございました。助けてくれなかったら今頃は死んでいました。」
女性は二郎にお礼を言うと頭を下げた。
「願いします。私とパーティーを組んで下さい。」
「え?」
二郎は状況を理解できなかった。
「と、とりあえず、話は聞きます。どこか落ち着ける場所に行きましょう。」
「はい。」
二郎と女性は近くの軽食屋に入った。
「私の名前はイリス・パドラ。見ての通り魔法使いです。」
椅子に座ったままイリスはお辞儀をした。
「これはご丁寧に、ジロウ・ヤマモトと言います。」
二郎も頭を下げた。
「それで、どうしてパーティーを組みたがるんですか?」
二郎はイリスに真剣な表情で聞いた。
「はい、『怪力のアッシュ』ってご存知ですか?私は前からあの人に勧誘されていました。今まではイーミンがかばってくれていましたが、今回のイーミンの死で昨日からあの男が私に声を掛けてくるんです。」
「アッシュね。あれはダメだな。」
「はい、彼とパーティーを組んだ人は皆、捨て駒のように扱われて死んでいます。私にはまだやることがあるんです。死にたくありません。それで助けていただいたジロウさんが頭に浮かびましたて、こうして助けを求めたんです。」
「なるほど、ギルドは何と?」
「はい、冒険者同士の事なんで自分で何とかしろと。」
「そっか。ん――――――。どうしよう。」
二郎は腕を組んで考えた。
「あの、決して足手まといになりません。それに魔法は火、風、水を使えます。前衛のジロウさんに後衛の私。バランスがいいと思いませんか?」
「ん゛――――――――。」
二郎は考えていた。
魔法。見たい。
でも、俺の変身能力を知られたくない。
「お願します!!」
「よし、わか―――」
「へへへ、イリスこんな所にいたのか。やっと俺のパーティーに入る気になったか?お、お前は!ちょうどいい。お前も入れ!」
顔を見上げるとアッシュが嫌な笑みを浮かべて立っていた。
「あー、残念ながらイリスさんは俺とパーティーを組むことになしました。」
「なんだと!イリス!!どうゆうことだ!!」
アッシュがイリスに襲い掛かかる勢いでイリスに近づいた。
二郎はイリスの前に立ちアッシュの行く手を遮った。
「これ以上イリスに迷惑をかけるなら…、覚悟して貰おう。」
二郎は静かにだが、力強くアッシュに警告として言った。
「へへ、お前如きが俺様に勝てるかよ!」
「そうか、表に出ろ!」
二郎が静かに怒りを表して言った。
「ああ、表で決着だ。」
アッシュは店を出て表に歩いて行った。
「ど、どうするんですか?!ジロウさん!」
「落ち着けイリス。店員さん、裏口どこですか?」
二郎は店員に裏口を尋ねるとそこ、と指を刺された。
「よし、イリス!こっちだ。」
二郎はイリスの手を掴み強引に立たせると裏口に引っ張っていった。
「え?あ?えー?決闘は?」
混乱する頭でイリスが二郎に訪ねた。
「決闘?それで決着がつくなら良いけど、あのタイプは絶対に負けを認めないぞ。だったらやらずに逃げる!」
「そ、そんな…」
「なに、気にしないで。それよりもそろそろ門だ。このまま行こう。」
二郎はイリスの手を引いたまま門から出た。
暫く街道にそって進むと二郎はイリスの手を離し歩みを止めた。
「はぁ、そろそろいいかな?」
「はぁ、はぁ、はぁ、そ、そうですね。」
息を切らせながらイリスも答えた。
「それじゃあ、お互いの戦闘スタイルを確認しようか。」
「はい、私は完全後衛ですね。補助魔法と回復魔法は使えません…」
「そうか、攻撃魔法って使ってもらってもいい?ちょうどワイルドドックいるし。」
「グルルルルル!」
二郎は奇襲をかけようと静かに機を狙っていたワイルドドックを指さした。
「え、あ、はい!」
イリスは杖を持ち呪文を唱えた。
「ファイヤーアロー!!」
イリスの杖から炎の矢が飛びだしワイルドドックに当たった。
ワイルドドックはそのまま息絶えた。
「へー、凄いな。んじゃ、次は俺ね。」
後ろを振り向くとゴブリン2匹が森の中からこちらに走ってきていた。
「はい、期待してます。」
イリスが二郎を見つめて答えた。
二郎は刀を鞘にある状態から気合いをこめて引き抜いた。
その刃は真空の刃になり3メートル以上離れたゴブリン2匹は上半身と下半身に別れ絶命した。
「…凄いです。なんですか今のは?」
イリスの目が点になっていた。
「奥義、真空斬。真空の刃が敵を切り裂く。」
「…魔法、ですか?」
「いや、単なる技術だよ。…ん?なんだあれ?」
二郎はドリートの町の方向から土煙りが近づいて来たのが見えた。
「あれは…馬車ですね。端に寄りましょう。」
二郎とイリスは街道の端に寄り馬車に進路を譲った。
何十台と続く馬車。最初の方には統一された鎧、武器を持つ正規兵が乗っていた。
最後の10台は冒険者なのだろうか、鎧に統一性は無く武器も統一されていなかった。
その中にアッシュがいることに二郎は気が付いたが、アッシュは気が付いていなかった。
最後の馬車が通った後、暫く土煙りは収まらなかった。
「何ですかね?あれ?」
隣のイリスが二郎に訪ねた。
「聞いた話だと、ドリートがアムルに攻め込むとか言ってたな。」
「え?大丈夫なんですか?」
「さあ?ドラゴンがアムルに現れたとか言ってたな。疲弊したアムル軍をドリート軍で倒し奪うつもりなんだろう。だが。」
「だが?」
「多分無理だろうな。現れたと言ってたが、襲われたとは言ってない。ドラゴンが現れれば暫くの間は緊急配備で増兵もするだろうし、士気も高まる。そこに戦いに行くんだ。勝てると思う?」
「…無理ですね。」
「ああ、それを今更言ってどうなる事でもないさ。俺達は俺達が出来ることをすればいいさ。」
「そうですね。それじゃあ、張り切っていきましょう。」
イリスが気合いを込めて言った。
「行きたいところだが、一旦ギルドに戻ろうか。パーティー登録しなくちゃ。」
「あ、そうですね。忘れてました。」
あはははと笑うイリスに二郎も笑って返した。
「はい、こちらに2人のカードをかざしてください。」
ギルドの受付で男性に言われるまま2人はカードを水晶にかざした。
「はい、結構です。それではパーティー名を言ってください。」
「パーティ―名?」
「はい、パーティーを組んだら名前が無いと不便ですから。有名なパーティーですと、『荒れ狂う波』『虹の翼』『黄金の鈴』ですね。」
「うわ、やっちゃった感でてるな。」
「そうですか?なかなか良いと思いますが。」
二郎の苦笑いと澄まし顔のイリスと対象的だった。
「そうですね。『赤い嵐』なんてどうですか?」
「うーん、それは却下。まず、チーム名は格好がいいよりも馴染みの名前のほうが覚えやすいと思うんだ。」
「そうですか?やっぱり格好が良い方が…」
「ン!ひらめいた!チーム名は『ボクチャソース』にする。」
「え―――!格好悪いですよ!」
「いいんだよ。最初は笑われるかもしれない。でも俺達に関わった者はボクチャソースを見るたびに思い出すだろうさ。」
「う―――ん、そうですね。馴染みのソースですから他の人からは覚えやすいですね。」
「そうでしょ?じゃあ、これで決定で。」
二郎はギルド職員にチーム名を言うと、本当にいいんですか?と2回確認された。
「はい、これで登録は終わりました。」
二郎がカードを見ると
名前 ジロウ ヤマモト
所属 ボクチャソース
ランク D
と書かれていた。
「んじゃ、イリス。ご飯食べた後に討伐に向かおうか。」
「はい、そうですね。」
二郎とイリスはギルドを出て近くの食堂に向かった。