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此岸  作者: 満腹太
15/16

14

遺跡の探索を終えた一行はドリートで一晩過ごすと聖都へ向かう商隊護衛の依頼を受けた。


『西のそよ風』が馬に乗り集合場所に向かうと見覚えのある顔がいた。


「私がフランだ。この商隊の責任者だ、って君たちか。懐かしいな。」


6台の馬車列の前に腕を組んでいたフランは笑顔で二郎たちを迎えた。


フランは金髪の髪を靡かせながら笑顔だった。


「久しぶりです。今回もよろしく。」


オジがフランと打ち合わせをしている間に他のパーティーも到着した。


「ガハハハ、俺様は怪力のアッシュ。『アッシュと愉快な仲間たち』のリーダーだ。」


3人の見るからにチンピラ風の男を引き連れたアッシュはフランと打ち合わせに向かった。


3人の男たちは西のそよ風の女性陣を見てコソコソと何か喋っていた。


「依頼を受けたのだが、責任者はどこだ?」


声の先を見ると細身の男が立っていた。


その後ろに男女4人がいたが、彼らも細身でそれぞれが弓を装備していた。


「あ、あっちです。」


二郎がフランを指さすと男はありがとうと言ってフランの元へ進んだ。


暫くフランを中心に話し合いが行われた。


「ジロウ!来てくれ」


二郎はオジに呼ばれフランのもとに駆け寄った。


「呼んだ?」


二郎はフラン、オジ、アッシュと細身の男の会話に加わった。


「ああ、ジロウ。ギルドカードを見せてくれるか?」


二郎はオジにギルドカードを渡した。


オジの手から、フランに渡り、アッシュ、細身の男と周り二郎の元に帰ってきた。


全員が沈黙する中、フランが口を開いた。


「ジロウ、パーティーを組んでいない冒険者を募集していない。ランクAならば、1つのパーティーと同等の戦力と見れるがランクBだから、依頼を受けることはできない。」


「なるほど、依頼は受けられないのですね。…わかりました。依頼ではなく、個人的にイリスの護衛を行います。」


「私達から報酬は出せないぞ。」


「問題ありません。ご飯を貰えるならついでに商隊も守りますよ。」


「そうか。それなら、とびきりの物を用意させよう。」


「ありがとうございます。聖都までのご飯よろしくお願いします。」



商隊の先頭を『西のそよ風』が、中衛を『矢の雷雨』、後方警戒を『アッシュと愉快な仲間たち』がする事になった。


二郎は先頭馬車の右側をイリスと相乗りしながら護衛に似合わない雰囲気を出しながら進んでいた。


始めの3日間はゴブリンやワイルドドックなどの弱い魔物しか現れず、リリーとエリーナの的になっていた。



護衛3日目夜


この日の夜間警備はアッシュ達だった。


チンピラ風の3人とアッシュ。


商人たちと『矢の雷雨』はすでに就寝していて、『西のそよ風』のメンバーもほとんどが寝ていた。


起きているのはオジと二郎の2人だった。


「ジロウ、どう思う?」


「ああ、アッシュはともかく、あの3人は冒険者見習い以下だな。」


オジがチンピラ3人を見ると酒を飲んでいた。


アッシュは周辺警戒の為見回りを行っていたが、残された3人は野営場から少し離れた所で酒を飲んで騒いでいた。


「はぁ、俺が周囲を見てるからオジは寝てな。何かあったら起こすから。」


座っていた二郎は立ち上がると周囲を見回せる場所を探して歩きだした。


二郎が周囲を見回せると思ったのは木造で造られた馬車の上だった。


馬が繋がれていない馬車の周りには静かだった。


二郎が馬車の陰で変身した。



闇目鬼


室町時代に関東にいた鬼で体は黒く4つの目があることが特徴的だった。


夜でも昼間のように見ることが出来、月の光も入らない締め切った室内で女性の帯の色を当てることが出来たと言われている。


この鬼は特に悪さをする事もなく穏やかに過ごしていたが、京で起きた百目鬼の件(悪い百目鬼が400年振りに復活しようとした事で様々な禍が起き、智徳上人に説得され改心した事件)を心配した地元の権力者が闇目鬼を殺人の犯人に仕立て上げ牢に入れてしまった。


闇目鬼と仲の良かった他の鬼が怒り狂い牢に入れた権力者を惨殺してしまった。


この事を悲しんだ闇目鬼は人里を離れ何所かに行ってしまった。



二郎は黒い体、4つの目を持つ鬼に変身した。


静かに木造の馬車の上に飛び乗ると周囲を見回した。


昼間のように明るく見える周囲を見回すとチンピラの3人の酒宴は続いていた。


二郎は溜息を吐きながらも周辺の警戒を始めた。


この夜は何事もなく無事に朝を迎えることが出来た。


朝になると商人達が起き始めたので二郎はカウボーイ姿に変身し、何事もなかったかのように朝食を取り始めた。


「ジロウ、どうだった?」


二郎の隣に座ったオジは昨夜の状況を尋ねた。


「ああ、最悪だな。アッシュが1人で見回っているが、あの3人が使い物にならない所か足を引っ張ってる。アッシュの隙を突いて襲われたら全滅もありえるぞ。」


「…そんなに酷いのか。」


「ああ、アッシュ達の時は俺も警戒する。変身すればあの3人以上の働きをするさ。」


「そうか、頼んだ。」


「ああ、それにしてもこのスープ美味いな。」


「ああ、確か『矢の雷雨』が食事担当だったな。」


オジは鍋をかきまぜている細身の男を見た。


「リーダーのマーロウか…」


「知ってるのか?」


二郎はスープを飲みつつ訪ねた。


「ああ、噂だが弓の名手で彼らのパーティーはどんな敵も矢に射られて接近する前に倒されるそうだ。」


「へー、凄いんだな。」


「ああ、それじゃあ、食事も終わったことだし、出発の準備しようか。」


オジは立ち上がると荷物を持って自分の馬の所に向かった。



護衛10日目


商隊は山奥の崖沿いの道を進んでいた。


道は馬車2台が何とかすれ違う程度しかなく、この場所は山賊が良く現れる場所だった。


二郎はオジの提案でイリスと相乗りをせず、一番最後尾の馬車で待機していた。


崖沿いの道をしばらく進むと馬車が止まった。


「山賊だ!」


遠くからオジの声が聞こえた。


前方は『西のそよ風』と『矢の雷雨』の2人が、後方は『アッシュと愉快な仲間たち』と『矢の雷雨』の残りのメンバーが受け持っていた。


「後ろにも山賊だ!30人はいるぞ!!」


今度はアッシュの叫び声が聞こえた。


二郎は馬車の中のから飛び出した。


山賊は後方から弓を射るのが10人、馬に乗り接近してくるのが20人ほどいた。


「近づかれる前に撃ち落とせ!!」


接近する山賊に矢の雷雨の3人が次々に弓で倒しているが、すぐに接近されてナイフや剣で闘っていた。


「うわぁ、き、きたぁ!!」


「だ、大丈夫だ!」


「3人の力を合わせていくぞ!」


チンピラ3人組はそれぞれが片手剣を持ち3人で1人を相手に苦戦していた。


「ガハハハ!そんなヘナチョコな剣で俺様にかなうと思うなよ!」


アッシュは両手斧をそれぞれ片手に持ち力任せに振り回し多対1の戦闘をしていた。


「1人の山賊見たら30人はいると思えってか?あー、メンドクサイ!!」


二郎は拳銃を使い接近してくる山賊を倒すと後方から弓で攻撃する山賊達に向かって背負っていたライフル銃で狙いを澄ました。そして、1発ずつ確実に仕留めて行った。


山賊は後方支援が無くなった事に直ぐに気が付き後ろを振り返ると後方部隊は壊滅していた。


「ック!撤退しろ!」


アッシュと闘っていた集団にいた男が叫ぶと生き残っていた山賊達は崖を滑り下り逃げていった。


「このっ!このっ!」


矢の雷雨の3人は滑り降りる山賊に弓で追撃を掛けていた。


「イリス!」


二郎は近くにいた馬に乗り馬車列を越え先頭へと向かった。


戦闘は続いていた。


敵は山賊と魔物の群れだった。


オジ達が山賊と戦っている最中に山賊の後方から魔物の群れが襲って来たのだった。


山賊は半数以上が死に、オジ達と魔物に挟まれ撤退もできない状況だった。


「イリス!状況は?」


後方で魔法を唱えていたイリスに二郎が駆けよった。


「見ての通り最悪よ。フランさんが後ろの人を呼びに行ったわ!」


「そうか!なら俺も戦わないと、なっ!」


二郎はイリスの後ろから襲ってきたオークの眉間を打ち抜いた。


道幅が狭いおかげで囲まれずに戦っていた前衛部隊は疲れが見え始め何体かの魔物を通してしまった。


「オジ!後ろは気にするな!」


二郎はオジに向かって叫んだ。


「ガハハハ!俺様の出番だな!」


二郎の横を1頭の馬がすり抜けるとオジを通り越し、魔物の群れの中にアッシュが突っ込んで行った。


アッシュは馬から飛び降りると、2本の両手斧を振り回し魔物を薙ぎ払った。


アッシュの周りにいた魔物は斧で切り裂かれ、離れていた魔物もその風圧でひるんでいた。


「エリーナ!イリス!来てくれ!」


二郎は2人を呼ぶとポケットから火が付いていないダイナマイトを10本取り出した。


エリーナから矢を渡された二郎はダイナマイトを矢に紐で括りつけた。


「エリーナ、イリス。導火線に火を付けて直ぐに魔物の群れに向かって射るんだ。狙わなくていい、広範囲にばら撒いてくれ。」


「「わかったわ。」」


「それじゃあ、頼んだ。俺は残りを作る。」


二郎はダイナマイトを矢に紐で括りつける作業を始めた。


イリスはエリーナが矢を構えた状態で着火の魔法を唱えると導火線に火が着いた。


エリーナは矢を放った。


ゆるい曲線を描いた矢は魔物の群れの中に消えて行った。


そして、爆発した。


「…」


矢を放ったエリーナは放心していた。


「エリーナ!次行くぞ!」


二郎に言われて気が付いたエリーナは次の矢を構えた。




10発のダイナマイトと全員の奮戦の成果で魔物の群れを追い払った。


戦闘後に商人やエリーナ、『矢の雷雨』からダイナマイトの事を聞かれたが、秘密で押し通した。


冒険者たちがそれぞれ配置に着くと商隊は再び動き出した。


二郎は山賊の残した馬に乗りイリスの隣側を進んでいた。


「…ねえ、ジロウ。」


「なんだい?イリス?」


「…魔物って全部倒せると思う?」


イリスは深刻な顔で二郎に訪ねた。


「そうだな…。出来ると思う。あいつらは魔物を牧場のような場所で育てていた。どこかで生むのを専門にしている魔物がいるはず。そいつを倒せば出来ると思う。」


「…」


「イリスが魔物にどんな思いがあるか分からないが、俺はずっとイリスを支えて行くつもりだ。」


「ジ、ジロウ…」


二郎の告白でイリスの目には嬉しさの余り涙が溜まった。


「あー、お二人さん。良い雰囲気の所悪いんだけど、今日の野営地過ぎたぞ。」


オジの言葉で2人は振り返ると、馬車は後ろの空地で止まっていた。


「あー、オジ。アリガトウ。」


「…ジロウ、行きましょう。」


顔を赤くした二郎とイリスは馬を戻らせた。



護衛15日目夜


山道を越えた商隊は大雨の影響で進行速度が落ち森の中で一夜を過ごすことになった。


馬車の荷物を整理し商人と冒険者は狭い馬車の中で荷物に埋もれながら眠っていた。


この日の警戒はアッシュ達だった。もちろん、彼らだけでは心配な二郎は姿を闇目鬼に変え木の上から見張っていた。


「はぁ、あいつら進歩ないな。」


二郎が見ていたのは酔って騒いでいる3人のチンピラだった。


時間が過ぎ、日の出まであと2時間という頃に二郎の目に『呼ばれざる来客』が見えた。


「…ん?」


二郎が遠くに見たのは雨の中をこちらに進むワイルドドッグの群れだった。数は20を越えていた。


「仕方ないか…」


二郎は溜息をつきながら言うと闇に消えて行った。


二郎はワイルドドックの後方から静かに1匹ずつ仕留めて行った。


気配を殺しナイフで頭部を突き刺す。


倒れる音がでないようにそっと抱き締める。


ワイルドドック達の声なき悲鳴は雨音に消え最後の1匹でさえ二郎を認識することはなかった。


「ふぅ、雨に紛れて上手く行ったな。」


二郎は再び闇に消えて行った。



「って、おい!馬車が足りないぞ!!」


二郎は姿を戻して野営地に行くと6台の馬車が4台しかなかった。


「どうした?!敵襲か!!」


馬車から『雨の雷雨』のリーダー、マーロウが飛び出してきた。


「馬車が盗られた!中には誰がいたんだ!!」


二郎が叫ぶとマーロウは辺りを見回して確認した。


「あの2台の馬車には女性陣が乗っていた。」


マーロウの言葉で二郎は馬車が去ったであろう方向に駆けだそうとした。


「待て、ジロウ。一人で行く気か?相手がどこに行ったのかもわからんのだぞ!」


オジが二郎の肩を掴み駆けだす二郎を押えた。


「オジ!…イリスに、イリスに何かあったら…」


二郎は泣きそうな顔をしていた。


「せめて夜明けまで待つんだ。焦っても事態は好転しないぞ。」


マーロウも二郎を説得し始めた。マーロウの後ろにいた雨の雷雨のメンバーや商人たちも頷いていた。


「オジ!アルミが心配じゃないのか?!」


「心配だが、朝まで待て!待ち伏せがあるかもしれない!」


オジは朝になり待ち伏せの可能性が低くなってから助けに行くことを考えていた。


「もう、いい!俺一人で行く!」


二郎は叫ぶと体が輝いた。


輝きが納まるとそこには黒い鱗の大きなドラゴンが現れた。


「グルルルルル」


ドラゴンが低く唸ると大空に飛んでいった。


「…オジさんよ。ありゃ何だ?」


「見ての通りジロウだな。」


「俺にはおとぎ話に出てきたドラゴンに見えたんだが?」


「それは気のせいだ。何かの見間違いだろう。」


「ハハハ、そうだよな。俺の見間違いだな―――って、ドラゴン!なんやありゃ!それもジロウがドラゴンになったって!んなバカな話、信じられんわ!」


「そう、信じなければいい。もしかすると、これは夢なのかもしれないし、幻覚魔法で幻をみているかも しれない。何が真実かなんて誰にも分らないさ。」


「そう、これは夢なんや。俺は今、馬車の中で眠っているに違いない…」


マーロウは急に大人しくなると眠っていた馬車の中に入って行った。


マーロウに続いて雨の雷雨のメンバーや商人たちも夢を見ていると呟きながら馬車に入って行った。


1人残されたオジは周囲を見回すと、チンピラ3人は雨に打たれながらも酔いつぶれていた。


しかし、アッシュの姿はどこにもなかった。



雨が降る大空を二郎は飛んでいた。


街道沿いに馬車が進んだと思っていたが、その姿は見当たらず周囲を見回すと森の中を走る1頭の馬がいることに気が付いた。


その馬には大柄な男が乗っていた。アッシュである。


その先の森の中を馬車が早い速度で進んでいた。


その馬車は森の中にある1軒のログハウスで止まった。


二郎は上空から馬車の様子を確認すると手足を縛られたイリス、フラン、アルミ、エリーナ、矢の雷雨の女性メンバー2名、女商人2人の8名が男たちに担がれて建物の中に消えた。


アッシュはその様子を森の中から確認していたが、すぐに馬に跨り来た道を戻って行った。


恐らく、オジ達に伝えに行ったのだろう。と二郎は考えた。


アッシュの姿が見えなくなったことを確認した二郎は森の中に静かに下りると再び変身した。


二郎が変身したのは室町時代の末期に現れた果心居士であった。


頭は黒い手拭いで覆い、濃紺の着物と白い袴を履き、その顔には白い翁の面をした男が立っていた。



果心居士


室町末期に現れたとされる人物で信長に士官しようと幻術を見せたが登用されず、秀吉に召されるも彼の黒歴史に触れてしまい磔にされてしまう。


しかし、ネズミに姿を変えると鷲が咥えて何所かに行ってしまった。江戸時代に入ると家康の前で幻術を披露したともされる人物である。


多くの幻術を使った彼の生没は不明で本当に存在したのかも疑問視されている。



二郎は草履のまま濡れた地面を歩いてログハウスに向かった。


ログハウスの入口に立つと建物全体に幻術を掛けた。


ログハウスが炎に包まれる幻で、中にいた山賊達は慌てて外に飛び出した。


ドアから出た者は崩れた家に押しつぶされる幻で地面に倒れ、窓から飛び出した者は体の幻の炎を消そうと地面を転がっていた。


二郎は懐から短刀を取りだすと1人ずつ胸に突き刺して行った。


ほんの15分ほどで12人の山賊を殺した。


二郎が幻術を消し姿をカウボーイに変えるとログハウスの中に入った。


室内には山賊は見当たらず、部屋の隅で倒れている8人を見つけた。


「イリス、イリス、大丈夫か?」


二郎はイリスの縄を解き抱き起こした。


「うーん、もう朝なの?」


「…」


イリスはずっと寝ていたようだ。


「ジロウ、助かった。」


倒れていたフランが二郎に礼を言った。


「あ、はい。縄をほどきますんで、ちょっと待って下さい。」


二郎はポケットからナイフを取り出すとフランの縄を切った。


全員の拘束を外した二郎はそれぞれの無事を確かめると野営地に戻るべくログハウスを出た。


「おい!おまえ!よくも俺の『密林の戦士団』を壊滅させたな!」


ドアの外で体格の良い男が怒りの表情で立っていた。


「あいつらの敵打ちだ!俺と決闘しろ!!」


男は剣を二郎に付きつけた。


「良いだろう。」


二郎はログハウスから出て雨の降る地面に降り立ち止まった。


「おい!獲物は抜かなくていいのかよ!」


男は二郎に叫ぶように言った。


「気にするな。いつでも来い!」


二郎が叫んだ。


「…うおおッおひょ?」


男が叫びながら1歩進むと二郎が腰の銃を抜き男の眉間を打ち抜いた。


「ひょ?ひょ?ひょう?」


男は2歩、3歩と歩くたびに奇声をあげるが4歩目を歩く力は無くそのままうつ伏せに倒れた。


「これが俺の獲物だ。キクだろう?」


二郎は銃口から昇る硝煙を吹き消すと腰のホルスターに納めた。


その後、フランと女商人がそれぞれ馬車を操り野営地に向かった。


野営地まで半分の距離の所で前方から来るオジ達が見えた。


二郎はオジ達に合流でき安全になったと思うと眠りについた。




商隊は聖都に到着した。


「護衛の依頼御苦労だったな。報酬を渡そう。」


聖都に着くと直ぐにフランがそれぞれのリーダーに報酬を渡した。


「これが『西のそよ風』の分、これが、『矢の雷雨』の分、コレが『アッシュと愉快な仲間たち』の分。」


それぞれが渡された袋には報酬が入っていた。


「そして、ジロウ。これが私から個人的な報酬だ。」


二郎が渡されたのはパーティーの半分ほどの大きさの袋だった。


「いえ、貰えませんよ。美味しい食事が報酬だって言ったでしょ?あれで十分です。」


二郎は報酬の金貨を受け取らなかった。


「それでは私の気が済まん。なら、これが礼だ。」


フランは二郎に抱きつくと二郎の唇を奪った。


そして周囲に響くのはお互いの舌がからめ合い吸いつく音だった。


「…ッハ!ジロウ!!」


イリスが叫ぶとフランと二郎は離れた。


「ジロウ、あの時のお前は格好良かったぞ。今のが私の気持ちだ。」


フランは耳まで赤くしながら二郎を見つめて言った


「…あ、ありがとうございます。」


つい、返事をしてしまった二郎にイリスは二郎の足を何度も踏みつけた。


「う!お!あ!ゴメン、イリス。勘弁してくれ~」


周囲が笑いに包まれる中、フランは本気の恋の目をしていた。


聖都で商隊と別れた二郎達は宮殿に向かった。


アメン王に遺跡での報告をしなければならなかった。



「一同、表をあげよ。」


西のそよ風のメンバーは王の前で膝をついていた。


二郎はいつの間にか持ちこんだ椅子とテーブルを謁見の間の隅に置き紅茶を飲んでいた。


オジが報告している間、二郎は紅茶を飲みながら出されたクッキーを食べていた。


不意に、誰かが二郎の正面に座った。


「ん?アメン王でしたか。」


正面に座ったのはアメン王だった。


すでに西のそよ風は退室しており、謁見の間にいるのは数名の護衛と二郎、アメン王だけだった。


「ジロウ、一応ここは謁見の間だぞ。あまり自由にし過ぎては大臣から不評を買うぞ。」


「うーん、それは分かりますけど、何かが引っ掛かるんですよ。あの地下の遺跡で何か違和感をかんじるんです。」


「違和感?それはなんだ?」


「はい、あの巨大ゴーレム、アッシュが言うには魔法への耐性が高く、魔法使い主体のパーティーでは前衛のアッシュしか生き残りませんでした。」


「ふむ。それで?」


アメン王も紅茶を飲みながら二郎の話を聞いた。


「よくわかりませんが、何かがひっかかるんです。…何かが。」


「そうか、それでは他の遺跡に行けば何かわかるかもしれんな。」


「他の遺跡ですか?」


「ああ、実は先日、この聖都の地下にも遺跡がある事が分った。行ってくれるか?」


「もちろんです。2日ほど休んでから行きます。」


「そうか…頼むぞ、弟よ。」


「任せて下さい。兄よ。って、そういえば、西のそよ風のリーダーも我らの義兄弟に入るにふさわしい人物です。一度3人で話し合うべきかと…」


「そうか、今晩はどうだ?」


「そうですね。夜までにオジを連れていきます。」


「そうか、ならば近衛兵に聞けば我が元に来ることができるだろう。」


「わかりました。」


「ククク、それにお前に会いたいという人物もいたのでな。ちょうど良かった。」


「それって、夜の?」


「ああ、他にも2人ほど呼ぶ。安心しろ。楽しい夜は終わらんぞ。」







二郎とオジは近衛兵に連れられ幾つもの秘密の扉を抜け付いたのは薄暗い1室だった。


「よく来たな2人とも。」


すでにアメン王は下着1枚だった。


その後ろに3人の女性が立っていた。


青い髪の毛のスレンダーな少女。


茶色い髪の毛のメガネの女の子。


金髪で目つきの鋭い、20代半ばのお姉さん。


「ってフランか!」


二郎は思わず叫んでしまった。


「ジロウ、知っているのか?」


「あ、はい。今日聖都まで護衛した商人の娘です。」


「ほほう、商人の娘か。」


アメン王はフランを見るとフランは顔を俯いてしまった。


「この娘達はそれぞれが大臣の娘だ。我の子を成せばその分、親の地位も安泰だろうという策略だ。」


「…いいんですか?それって…」


ジロウはアメン王に訪ねた。


「なに、かまわんさ。我を王座から降ろせる者がいるなら譲る。それが我が子なら、なおさら良し。」


アメン王は力強く頷いた。


「それで、オジよ。腹を割って話そうか。」


「はい、アメン王。」


「ククク、夜は長いぞ。朝まで持つかな?」


そして始まる淫らな宴は朝まで続いた。


フランは二郎としか関係をもたなかった。


そしてオジはアメン王、二郎の末弟として名を連ねた。


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