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此岸  作者: 満腹太
12/16

11

決勝戦


二郎は少しダルイ体で舞台に上がった。


「…」


二郎の正面には、腕を組み目を瞑ったマークライが立っていた。


「それでは!決勝戦!マークライ対ジロウ!始め!!」


審判の掛け声と共にマークライは駆けだした。


二郎は接近するマークライに狙いを定めて銃弾を放った。


「ック!」


マークライは一時的に足を止め剣で銃弾を払った。


「…おいおい、マジかよ。銃弾を剣で弾くってどんな化け物だよ…」


驚く二郎にマークライが近づき剣で攻撃してきた。


二郎はマークライの攻撃を銃底で防いだ。


マークライの攻撃の隙を突き、至近距離から銃弾を放つが全て弾かれてしまった。


「ック!これなら!!」


二郎はポケットから着火済みのダイナマイト数本を取り出しマークライに投げるが、ダイナマイトが地面に落ちる前にマークライの攻撃で導火線は全て切られてしまった。


マークライは飛んでくるダイナマイトを処理すると二郎から離れた。


「ふん!ジロウの攻撃は研究済みだ。だが、こちらの攻撃も当たらなければ勝てんか…。ならば!」


マークライが指輪に魔力を通すと姿が変わった。


身長が2メートルを越え黒い肌、赤い目の魔人が立っていた。


「これが、俺の変身した姿だ。いくぞ!」


マークライは今までとは比べ物にならないスピードで二郎に近づくと二郎を殴り飛ばした。


何度も地面に体を打ちつけた二郎が起き上がろうとするとマークライに腹を蹴り飛ばされ上空に吹き飛ばされた。


空中でマークライによって背中を殴りつけられた二郎は地面に落下し煙を撒き散らしながら地面に大穴をあけた。


「フッ、少し本気を出し過ぎたか…」


マークライは煙漂うクレーターを見ながら言った。


「いててて」


煙の中から出てきたのは傷だらけの二郎だった。


「チクショウ、銃もダイナマイトもダメなら…。俺も変身だ!」


二郎の体が光輝くと、黒い全身甲冑の騎士が現れた。



黒騎士


聖騎士の称号を得るほどの武勇を誇っていた彼は、故郷を悪魔に襲われた。


彼は何頭もの馬を乗り換え故郷に戻ると、平穏で静かな故郷は何も変わっていなかった。


彼は村長の家を訪ね事情を聞きに行くと信じられない事がそこにあった。


親や友人、知人、村長そして婚約者が異形の悪魔を拷問し、殺していた。


彼はそこにいた全ての生物を殺した。


「ここに人間はいなかった。」


彼の婚約者からもらった白いマフラーは返り血で赤く染まり、銀色の鎧は彼の心を現すかのように黒く染まっていた。


その後、行方不明になった彼は戦場に現れては敵味方民間人関係なく虐殺した。


二郎はその伝承を元に自分のサイトに彼の姿を描いた。


黒い甲冑と赤いマフラーでは面白くないと思った二郎は、彼の手に赤く輝くビームソードを持たせた。


悪ノリした二郎はver.2、ver3と想像し中世の騎士から世界を滅ぼせる能力を持った鬼神にしてしまった。


そのうち消そうと思っていたが、翌日には忘れてしまっていた。




マークライは二郎から感じる異様な雰囲気を警戒していた。


「…いくぞ!」


マークライは剣を構えて二郎に襲いかかった。


マークライの振り下ろしは二郎の体を両断したかのように見えた。


しかし、二郎は目先の数ミリの所で回避した。


マークライは振り下ろした剣を切り上げるが二郎には触れることはなかった。


「ウインドアロー!」


マークライが剣を振り上げ切った瞬間、二郎に向かって魔法を唱えた。


しかし、二郎はその攻撃が読めていたかのように自然な動きで魔法を避けた。


「ック!ならば!」


再びマークライは二郎に接近し、剣で襲いかかった。


袈裟切りから切り上げて、横に払うがどれも二郎には届かなかった。


「…フラッシュ!」


マークライの魔法フラッシュ。


指定の場所に光源を発生させる魔法だが、目くらましにも使える便利魔法だった。


「ウインドバースト!」


マークライは光源の向こうにいるであろう二郎に向かって範囲魔法を唱えた。


「うぐぅ!」


目標が近すぎたのでマークライ自身もダメージを食らってしまった。


自らの魔法で吹き飛んだマークライが見たものは、煙立つ中から悠然と歩いてくる二郎だった。


マークライは痛む体に鞭を入れながら起き上がると、剣を拾い構えた。


「…この一撃で終わらせる!」


マークライが叫ぶと、二郎は腰にある剣を抜いた。


その剣は刀身が無く柄のみだったが、二郎が構えると赤く光る刀身が柄から伸びた。


「うおおおおおおお!!」


マークライは叫びながら二郎に向かって渾身の一撃を放った。


二郎の赤い刀身はマークライの剣を溶かすように切り落とした。


二郎はすれ違うマークライを高速斬りで無数の傷跡を付けた。


一瞬の静寂の後、マークライの体から血が吹き出し倒れた。


「勝者!ジロウ!!」


審判がマークライに駆け寄るとその傷を確認した。


「回復魔法!急げ!!」


救護班の回復魔法の使い手達が駆けよりマークライは一命を取り留めた。


その様子を見た二郎は変身を解き、カウボーイスタイルになった。


「はぁ、黒騎士は危険だな…しゃべれなくなるし、手加減が効かなくなるな。」


二郎は肩を落としながらマークライが治療されて行く様を眺めた。


「それでは、ビーワン様よりお言葉がございます。」


審判がそういうと観客席にあった一際大きな個室にいた男が立ち上がった。


「ジロウ、マークライ共に素晴らし戦いであった。マークライは実力も…」


ビーワンの演説は続くが、二郎は観客席にいた見覚えのある2人を見ていた。


ジェナとエルミナ


「…ありがとうございました。それでは本戦出場者の皆さまは領主であらせられるビーワン様のお屋敷で晩餐会を行います。」


気が付けば領主の館に移動することになった。




華やかな晩餐会の会場はでは男も女も着飾っていた。


そんな場所にカウボーイスタイルの場違いな男が1人、二郎だった。


「うしししし、凄い豪華だろうの。」


黒いミノタウロスのジュールは変身した姿のままタキシードを着ていた。


「ああ、こんな豪華な食事は久しぶりだな。」


二郎とジュールは会場の隅で立食パーティーの食事を胃袋に押し込んでいた。


「…おっと、ジュール。カミさんが探してたぞ。」


そこに現れたのはマークライだった。彼も豪華な鎧ではなく、勲章を付けた軍服を着ていた。


「うししし、そろそろダンスの時間だからの。一緒に踊らないと機嫌が悪いんの。」


そういうとジュールは食べ物を口に押し込み会場の中心に歩いて行った。


「それにしても、ジロウは強いな。まさか変身した俺が負けるとは思わなかったぞ。ジロウは何所の生まれなんだ?」


マークライは二郎の情報を聞き出し調査をしようと思っていた。


「俺ですか?…南の大陸から来ました。成り行きで武術大会に参加しましたけど、本当はこの辺りに現れる『神』と名乗る者を調査に来たんです。」


二郎は今後の事を考えて真実を話した。また、当初の目的を忘れていなかった。


「南の大陸か…。ジロウは向こうでは強い方だったのか?」


マークライは二郎が弱者だったと仮定し、南の大陸と戦争が起きたと想定すると、北の軍隊では立ちうち出来ないと考えていた。


「んー、対人戦の経験はあまりないけど、魔物基準で考えるなら十分強い部類に入るとおもいます。」


「そうか…」


マークライは二郎の言葉から南の大陸の人間も同じような強さだろうと考えた。


「あ!いた!ジロウ!!」


二郎が呼ばれて向いた先にはドレスを着た美しい女性が立っていた。


良く見ると、着飾ったジェナだった。


「ジェナ!なんでこんな所に?!」


「おや?彼女を知っているのか?」


マークライは二郎に訪ねた。


「はい、北の大陸で彼女に保護されました。いろいろありまして彼女たちとロンドまで来ました。」


「そうか。伯父さんはジロウの事を聞いたのか…。伯父さん、理由は聞かないで欲しいが、ジロウを最前線に送ってほしい。」


ジェナは真剣な表情でマークライの瞳を見つめた。


「…考えておこう。それよりも、エルミナはどうした?」


「ん、あっち。」


ジェナが指挿す方向には多くの男性が輪になっていた。


「はぁ、またか…。」


マークライは溜息をつくと輪の中心に向かって歩き出した。


ジェナは二郎のグラスにワインを注ぐと二郎はそれを一気に飲み干した。


「ジェナ、どういうこと?」


「ああ、マークライ将軍の娘であるエルミナに求婚している阿呆どもだ。伯父さんはエルミナの意思を尊重して、一切の縁談を断っているんだ。エルミナの幸せを考えたらそれが正解だろう。」


「…将軍の娘だったんだ。」


「ああ、エルミナも伯父さんに習って接近戦は強いぞ。私は母親に習ったから弓が得意だがな。」


「そうなんだ。」


「それにしても、あの変身はなんだ?ジロウは変身したら骸骨になるんじゃなかったのか?」


ジェナは二郎を睨むようにして見た。


「あれは黒騎士だ。騎士の道を踏み外した者の行きついた姿さ。」


「…ジロウは騎士だったのか?」


「え?違うよ、全然違うよ。あれはサイトに載せたやり過ぎた設定のモノの1つ。対人戦なら初期バージョンで良かったよ。ver,2やver3なら戦術兵器並の存在かもな。」


「サイト?戦術兵器?」


「あーそこから説明するのかな?…あれ?なんで考えたことが言葉になってるんだ?まさか、またか。また薬を盛られたか!」


二郎は薬を盛られた事を理解し、口をふさごうと手を当てようとした。


しかし、両手をジェナに掴まれ塞ぐごとが出来なかった。


「フフフ、やっと気がついたか?ところでジロウ。エルミナの事どう思う?」


「エルミナ?彼女は素晴らしい女性だと思うな。馬車で移動する20日間で彼女の素晴らしさがわかった。まず、教養の高さと相手を思いやる優しい心。なにより美しい瞳。」


「それで、エルミナが結婚を前提に付き合って下さいって言ったら?」


「あー、…気持ちは本当に、本当にうれしいけど断ると思う。イリスの事もあるし、何よりも俺の秘密を…」


二郎の言葉は途中でジェナに遮られた。


「イリスって誰?」


「南の大陸の相棒かな。でもキスされたし、イリスなら俺のこと受け入れてくれそうなんだよな。」


「そう、イリスとエルミナ、どっちが好き?」


「そうだなー、どちらも同じくらい好きだな。イリスにはイリスの良さがあり、エルミナにはエルミナの良さがある。比べるものではないと思うが?」


「たしかに。まあ、ジロウの気持ちもわかったからいいか。はい、これ飲んで。」


ジェナは二郎に青い液体の入ったグラスを渡した。


「これは?」


二郎はグラスの中の液体をかざしてみた。


「解毒剤よ。」


二郎はその言葉を聞いた瞬間、グラスの液体を飲み干した。


「…苦い。」


「まずいよりはマシでしょ。」


ジェナは二郎から視線を外し、エルミナのいる方向を見た。


「あー、エルミナが切れそうだな。だれか無礼でも働いたのか?」


二郎達がいる位置からでもエルミナが不機嫌なのが分った。


「私はエルミナと伯父さんの家に行くから。二郎はどうする?」


「そうだな…。まあ、適当にぶらつくさ。明日の昼に町の門の前で落ち合おう。」


「伯父さんも帰ってくるかわからないし、それが賢明な判断だな。あ、誰かがエルミナに殴られた。」


エルミナの前にいた男が奇麗に宙を舞っていた。


「はあ、それじゃあ明日な。」


ジェナはエルミナも元に歩いて行った。


その後、二郎は食事とダンスをしながら社交界の雰囲気を楽しんだ。


若い女性に夜を誘われ部屋に入ると、そこでは夜の社交界が行われていた。


二郎は有り余る精力と体力で日が昇まで楽しんだ。




翌日


昼前に二郎は門の前にいた。


周囲から二郎に武術大会の称賛の声があり、二郎は少し居心地がわるかった。


「あ、ジロウ。」


二郎が振り向くとジェナとエルミナがいた。


「凄い人だな。伯父さんが軍部に来てくれと言っていた。向おう。」


ジェナは必要なことを言うと先に歩いて行ってしまった。


二郎とエルミナの2人がジェナの後を追い掛けた。


軍部のある建物に着くとすでに顔パスの2人連れられ、豪華な扉の前まで連れられた。


「お父さん、入るね。」


エルミナはノックをして声をかけるが、返事を待たずにドアを開けた。


「ああ、よく来た。」


部屋にある大きな机で事務処理をしていたマークライが顔を上げた。


二郎達は机の前に並ぶとマークライの言葉を待った。


「…ジロウ、娘から君の事を聞いた。君の変身は最弱の骸骨というじゃないか。昨日の変身は何なのだ?」


二郎はここでその話が来るとは思っていなかった。


「…将軍と2人だけで話を…よろしいですか?」


「わかった。2人とも退席しなさい。」


「それと、何があっても呼ぶまでは部屋に入らないでいただきたい。」


ジェナとエルミナは文句を言いたそうだったが、黙って部屋を出て行った。


「それでは、いまから話す内容は誰にも言わないで頂きたい。…自分には指輪を使った変身以外にも変身する能力がある。黒騎士もその1つです。」


「ふむ、それを信じろと?」


「ですから、今からお見せします。」


そういうと、二郎は炎の魔人に変身した。


すぐにドンドンと扉を叩く音が聞こえた。


「お父さん!凄い魔力だけど大丈夫?!」


「大丈夫だ!心配要らない!」


マークライが叫ぶとエルミナの声は聞こえなくなった。


二郎はワーウルフに変身してから元のカウボーイスタイルに戻った。


「信じてもらえますか?」


「…ああ、信じるしかないだろう。」


マークライは椅子から立ち上がると水差しからコップに水を入れ震える手で水を飲み干した。


「ふう、エルミナ、ジェナ入りなさい!」


マークライが扉の外の2人を呼ぶと直ぐに2人は入ってきた。


「お父さん!大丈夫なの?!」


エルミナは父の心配で涙目だった。


「ああ、大丈夫だ。それと、今日、この場で何が起きたか、誰にも行ってはならんぞ。もちろんフランクでもだ。」


マークライはジェナとエルミナの無言の頷きを確認すると二郎に向きなおった。


「それで、ジロウ。君には私の私兵として、最前線である北西の砦に行って貰う。私兵扱いなので、私以外に命令権はない。そこで自由に調査してくれ。」


「わかりました。」


二郎はマークライに深く頭を下げた。


マークライは机の引き出しから幾つかの書類を二郎に渡した。


「これは?」


「ああ、ジロウに関する命令書だ。これを砦の司令官に見せれば食事とベットは確保できる。」


「ありがとうございます。それでは直ぐに向かいます。」


二郎はマークライに多大な恩を感じながら部屋を後にした。


「あ、ジロウまって。」


ジェナとエルミナも二郎に着いて行こうとした。


「2人とも待ちなさい。」


マークライに引き止められた。


「北西の砦周辺は軍事領域だ。冒険者の立ち入りは禁止している。」


「そんな!わたしも行く!」


エルミナはそれでも行こうとした。


「なら、軍に戻れ!今ならまだ間に合う。2人とも戻らないか?」


マークライは優秀な2人を軍に戻したかった。


「…お父さん、私は戻りません。命令を重視し怪我をしたお母さんを助けなった軍には絶対に戻りません。」


「エルミナ…。そう、私たちには私たちの戦い方がある。弱い人を守れる冒険者を続けよう。」


ジェナとエルミナは一礼すると部屋を去った。


「2人とも良い顔になったな…」


マークライは嬉しそうに微笑んだ。



「ジロウ!」


軍部のある建物から出て歩いている二郎に後ろから声が掛かった。


「2人とも、どうした?」


声はエルミナだった。その後ろをジェナが歩いてきていた。


「うん、私達はここでお別れね。砦周辺は軍関係者以外の立ち入りは禁止されてるの。」


「そうか。それは残念だな。でも、いままでありがとう。2人に会えなかったら今頃途方に暮れていたと思うよ。」


二郎はエルミナに礼を言った。エルミナは顔を赤くし答えた。


「そんな、私は当然のことをしただけで…」


「そうだろう、そうだろう。私がいなかったら今頃は何所かの街角でくたばっていたかもな。」


エルミナと二郎の少し良い雰囲気を壊したのはジェナの発言だった。


「そうだな。ジェナもありがとうな。いつか必ずお礼をしたい。」


「気にするな。私もなかなか楽しかったぞ。」


「ええ、ジェナのイタズラにも怒らなかった人は初めてね。」


「…まて、あの薬は良く飲ませているのか?」


「フフフ、さてな。」


「それじゃあ、ジロウ。またいつか会いましょう。」


ジェナとエルミナは二郎の問いに答えずに立ち去ってしまった。


「俺っておもちゃ扱いだったのか?」




二郎は武術大会の賞金で馬と干し肉などの保存食を購入すると北西の砦に向かった。


暫く道沿いに進むと検問所があった。


「止まれ!この先は立ち入り禁止だ!」


兵士が二郎に声をかけた。


二郎は馬を降り、マークライから渡された書類を見せた。


「!!失礼しました。どうぞお通りください。このまま道沿いに進めば砦に着きます。」


二郎は兵士の態度が急変したのを可笑しく思いながらも兵士から返されたマークライの書類の中身を見るが、読めない文字で書かれていた。


「これは軍のみで使われている指輪を装備していると読める文字です。」


敬礼をしている兵士が二郎に教えてくれた。


「そうですか、ありがとうございます。」


二郎はそのまま馬にまたがると検問所を抜け道沿いに進んだ。


数時間進むと平原に砦が見えた。


周囲を堀に囲まれた斬りだされた岩で造られた強固な壁は見る者を圧倒した。


「凄いな。まさに砦だな。」


二郎はそのまま堀にかかっていたつり橋を渡り門番の兵士に書類を見せた。


門番は直ぐに司令官の部屋まで案内してくれた。


「ようこそ、戦場のど真ん中へ。」


司令官は禿げあがった頭に戦えるのか疑問に思うほどの脂肪をお腹に付けていた。


「あ、はい。コレがマークライ将軍からです。」


二郎は指令官に書類を見せた。


「…おう。判った。お前には独自で動く権利があって、司令官である俺の命令は聞けないってことか。さらには仕官並の待遇しろだとよ。」


司令官は見るからに不機嫌になった。


「まあ、いい。お前には何も期待してないからな。…この書類を持って行け。」


二郎は司令官から渡された書類を見たが読めなった。


「それを兵長に見せて食事とベットの世話をしてもらえ。以上だ、下がれ。」


「はい、ありがとうございます。」


二郎は敬礼のマネをして部屋を立ち去った。


「兵長ってドコ?」


二郎は司令官が命令権のない二郎が近くにいること自体が嫌っているのがわかっていたので、砦内の誰かに聞けばいいと考えた。


暫く歩くと前方に兵士が歩いているのが見えた。


「すみません。ちょっと良いですか?」


二郎が声をかけた兵士は少年といえる年だった。


「はい、なんでしょう。」


「兵長はどこにいますか?」


「今の時間ですと、中庭で訓練している頃だと思います。案内しましょうか?」


「お願いします。」


二郎は少年兵の後ろに着いて行き中庭に向かった。



「兵長、御客様です。」


中庭で兵士の訓練を見ていた兵長は声をかけたことによって気がついた。


「ああ、それで何でしょう。」


二郎は司令官から渡された書類を兵長に渡した。


「ふん、ふん。分かりました。ジロウさん、この砦について説明します。この砦は北西からやってくる魔物の大軍に備える砦です。現状では、突発的に襲撃がありますが特に問題無く撃退しています。宿舎には彼に案内させましょう。」


兵長は二郎の隣にいる少年兵を見た。


「それで、食事は食堂に行けば朝7時から夜の9時までならいつでも食べられます。何かありますか?」


「魔物とそれを連れてくるモノはどこに行けば見れますか?」


「そうですね…、北西に行くと大平原があります。その大平原の奥に古い神殿があります。そこから魔物は現れるのできっとそこに行けば見れるでしょう。ですが、かなり危険です。」


兵長は淡々とした言葉使いで言った。


「そうですか…。近いうちに、その神殿に向かいます。」


「本当に危険です!レッドオーガやビッグスネークが周囲にいるんですよ!」


兵長の言葉が荒くなった。


「大丈夫です。これでも先日の武術大会で優勝しましたから。」


「…判りました。3日待っても帰って来なければ…」


「自分には…、自分の任務があります。あなた方はあなた方の任務を全うしてください。」


二郎は言外に3日間の不明で戦死扱いされても構わないと言っていた。


「それでは、宿舎に案内してください。3号室が開いています。」


二郎は少年兵に連れられ宿舎に向かった。



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